【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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裏切り,セクハラは駄目/絶対,協力関係

黒髭の胸が何かが生えている――それは穂先だった。 金色に輝くその穂先は胸を貫いたことで血に塗れ、血をボタボタと甲板に落としている。

 

黒髭と対峙していた立香たちは訳が分からず、一瞬頭の中が混乱に満ちた。

 

だが現実はそんな彼女たちを置いて、動き出していく。

 

「いやぁ、やっと隙を見せてくれたよな、船長――油断ぶっこいている振りをして銃を握りしめているんだからねぇ……しかもヘンリーもいるから、オジサンはもう疲れたよ」

 

黒髭の背後にいた人物――ヘクトールはヘラヘラと笑みを浮かべるのを見て、彼女たちの理解が追いつくのを待っていたかのように、世界に音が溢れ返った。

 

「ティーチ!? クソ、テメエ仲間を……!」

 

「道理で、裏が読めぬ相手、だと……しかし、この状況で裏切るとか、アホでござるか、ヘクトール氏は」

 

「いや何、オッサンもそれなりに勝算があってやっていることでね。それじゃ、船長。アンタの聖杯を頂こうか!」

 

ヘクトールが黒髭から抜いた十字槍の穂先には、金の光。ヘクトールが光を握って開くと、それは見慣れた金の六面錘を結んだ。

 

「聖杯……っそれじゃあ黒髭がここの特異点だったの!?」

 

「その通りだよ、マスターの嬢ちゃん。 ったく、馬鹿なのか狂人なのかに聖杯を預ければ時代が狂うって話なのに……航海者だけでなく、まさかあんなバケモノ二人もいるなんてまいったよ。だがまぁ、こっちの目的はもう済んだんでね――欲しけりゃついてきな!」

 

ヘクトールはそう叫んで、六華たちの頭上を呆気なく跳躍してはエウリュアレの前に着地した。

 

そして彼はエウリュアレの腹部を石突きし、息が一瞬出来なくなった彼女の腰元を掴んでは自身の肩に担ぎこんだ。

 

「ついでだ。 この嬢ちゃんは人質として頂くよ」

 

「はな、せええええええええ!!!!」

 

アステリオスさんがヘクトールめがけて突進した。

 

ヘクトールは面食らうも、エウリュアレを盾にすることもせずその場から飛びのいた。

 

「悪いが、能無しのバーサーカー程度に後れをとるほど落ちぶれちゃ――いねえよッ!」

 

ヘクトールはエウリュアレを掴んだまま、十字槍でアステリオスの下腹部を穿った。

 

穿たれた患部から臓物が見え、血がどんどん溢れるも片手で押さえながら、それでも立ったままでいる。

 

「目的は達した。悪いな、海賊諸君!」

 

そういうとヘクトールは船から飛び降りた――そしていつの間にか用意されていた小型船に乗り込んでいた。

 

「あぁくそ! 逃がしちまったっ……すぐに追うよ!」

 

「まぁまぁ落ち着けよ、BBA。 これはヘンリー氏が計算していたこと……くふふふ、あの顔がどんな感じで歪むか楽しみでしょうがないでござるww」

 

……空気が凍った。

 

背後を振り向くと、黒髭がニヤニヤした表情で自身の証明である髭を撫でながら、離れ行く小型船を見送っていた。

 

しかも、吐血で固まった真っ赤な口元と槍で貫かれた孔が開いている胸から、トクトクと流れ垂れる血はホラーとしか言いようがないので――。

 

「き、きゃああああああああああああ!」

 

「ちょww BBAの悲鳴!? 生娘みたいでマジ可愛――あびゃあああああ!?」

 

ドレイクの悲鳴と共にスカイアッパーを喰らった黒髭。

 

彼は何故か満ち足りた表情で空中で3回転半ジャンプを繰り出しては船の甲板に頭をめり込ませた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘンリー側の船は損失が激しいために、一度ドレイクの黄金の鹿号にて集まった。

 

ヘクトールの裏切りを機会に、全員の戦闘は一時中断。パロミデスとアン・メアリーコンビ、ドレイクと黒髭は一時刃を収めた。

 

しかし、先程まで戦闘した昂ぶりがそれで収まるわけもなく。サーヴァント同士――ジャンヌとマリーは除いて――互いに睨み合い臨戦態勢で構えている。

 

六華とマシュは居心地が悪そうにしており、ランスロットとヘンリーはというと――。

 

「オ、オメェ、ヒャ、ヒャリフギ……ウ、ウヒャク、ヒャベレナイ……」

 

「何を言っているのか、分からんぞ。 回復してから喋ろ……もしくはマルタに癒してもらうか?」

 

「ケ、ケッコウダ、コノヤロウ……ピクヒーヒャンニイヒャヒテモラウワ」

 

……ヘンリーの顔は悲惨なものだった。

顔全体は青あざやたんこぶ、更に腫れ上がりが出来、更に口内も切れているのか、舌足らずに喋っている――所謂満身創痍といった状態だ。

 

そんな彼はランスロットの提案は受け入れず、そのままピクシーを召喚しては回復の魔術を掛けるように促した。彼女の腰や太ももを撫でながら。

 

悲鳴を上げるピクシーに厭らしい笑みを浮かべるヘンリーとため息をつくランスロット。

 

事態が収拾付かなくなったこの状況を、ついに――。

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう! 全員、こっちに集中!」

 

 

 

 

 

 

 

カルデアのマスターこと藤丸六華が大声で叫んだ。

 

 

 

「とりあえず、お互いに武器を下げる! このままじゃお話もできないじゃない! ほらパロミデスさんもマルタさんも、抑えて抑えて!」

 

 

「あっ、はい」 「……申し訳ありません、マスター」

 

指さして叫び続ける六華(マスター)にパロミデスは唖然としながら、マルタは微笑みながら答えた。

 

普段ならば遠慮してなかなか言えない六華がこのような場面において積極的に参加し、しかもサーヴァントに向けてお願いをする形でいう彼女が強く出ていることに嬉しく思っているのだ。

 

そんなマルタの思いに気づかず、次に六華は黒髭たちに指をさす。

 

「黒髭さんとヘンリーさん、その他海賊の皆さんも! いったいどういう状況でどうなっているのか、一度整理しますからね! 武器やらなんやらは置いといてください!」

 

「おっふ、ブチ切れて叫ぶ美少女キタコレッ! もっと叫んで! それこそ息たえたえになるまでっ、肩で呼吸してハァハァする美少女を拙者めっちゃ見た――」

 

「黙れ、変態」

 

六華の叫びに黒髭は何故か勝手に興奮しだし、また教育上に悪いと判断したランスロットは黒髭を海に投げ捨てた。 そして落ちる寸前――「イケメン、まじゆるさねぇええええええ!」と叫びながら海に大きな音を立てながら入水。

 

「あぁ、惜しいやつを亡くしたなぁ……あいつの嗜好理解できるのに」

 

「ダーーリーーン?」

 

「あっ、やめてやめて! 体を捻じ曲げないでッ、綿が、綿が出ちゃう、でひゃうのおおおおおおおおおおぉおおおおおお!?」

 

……もう一人、教育上に悪いのがいたものの、それは恋人が粛清をしているので問題はなさそうであった。

 

「ほらヘンリーさんもっ! セクハラしないで事情をお願いします!」

 

六華の叫びを目を点にして、瞼を何度もぱちくりしているのはピクシーの腰を揉んでいるヘンリーだった。

 

ヘンリーにとっては六華は取るに足らない雛鳥のような存在だった。しかし、先程の戦いではサーヴァントたちと共に戦い、勝利をもぎ取ろうとする姿。そして臆することなく敵であったヘンリーに向かって強く叫ぶ、彼女に。

 

「……くくっ、はははははは! 雛鳥かと思いきや大胆な鶏じゃねぇかっ、いいぜっ、そういう強気で出る女はとっても好きだっ!」

 

ヘンリーは自らの目測がまったく異なっていることに笑い、六華の評価を変えた。

 

「いいぜ、お嬢ちゃんを気に入ったぜ!」

 

「っひゃんっ」

 

ヘンリーは六華に近づいたかと思いきや、黒いスカートの中に手を突っ込んでは尻をモニュモニュと揉んだ。それに六華は悲鳴を上げてヘンリーから逃げ出して、近くにいたランスロットとマシュの背中に隠れる。

 

そんな六華の姿を可愛い小動物のように見ていたヘンリーだが……一瞬で後悔した。

 

何故ならば……。

 

「マシュ、全力で殴打しろ。 手加減はいらんぞ、そいつは無駄に生命力が高い」

 

「はい! マシュ・キリエライトッ、全力で()ります!」

 

「…………乙女に手を出すなんて、女の敵ね――マルタは拳を解禁します」

 

ランスロットがアロンダイトとマルミアドワーズを、マシュは盾を振り上げ、マルタは指の骨を鳴らした――戦闘態勢を構えている三人を見てヘンリーは顔色を青くした。

 

「ちょっ、待て待て待て! か、海賊なりのスキンシップだってっ、なぁ!?」

 

「知らないよ、ヘンリー船長の自業自得さ」

 

「ウフフフッ、少しはセクハラを抑えてきてください」

 

アンとメアリーは助けを蹴って、顔を逸らした。

 

他の連中も助けてくれるやつはいなさそうだし、それだったらとヘンリーは召喚を試みるも。

 

 

 

――――誰も来なかった。しかもさっきまでいたピクシーまでも姿を消している。まさに孤立無援。

 

 

 

 

「出来たら、うちの船を汚さないでおくれよぉ。 死体の血しぶきとか体液とかって落ちにくいからねぇ」

 

「ドレイク、それについては安心しろ……終わったら海に沈める予定だからな」

 

「それだったら構わないさ、遠慮なくやってやんな」

 

「あっ、ああああああああああああああッ!」

 

ヘンリーの苦痛に満ちた叫びが、海域に広がった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘンリーの粛清が終わり、黒髭が自分で黄金の鹿船に戻ってきたのをきっかけに、会談を始めた。

 

黒髭が心臓を貫かれても生きていた理由――それはヘンリーが召喚して食べさせた海魔のゲソ焼きが原因だった。

 

一応はあれも生命力の向上が出来る――サーヴァント限定で――ヘンリーがあの世界で食べたことで召喚が出来るようなったもの。

 

……そもそも、ヘンリーも本来ならば黒髭に海魔を食させる予定も何もなかった。

 

「ったくヘンリー氏も酷いですぞぉ。 拙者がクラーケンたんの触手でアンメア氏をぬちょめちょ―――げぼばあぁああ!」

 

ランスロットの斬撃が飛び、斬られた黒髭は再びに海の中に入っていった。

 

そんな黒髭をだれも気に留めず。ヘンリーは話を続ける。

 

「まぁ、触手プレイとかぬかすあいつの体罰っていうことで。あの糞不味い海魔のゲソ焼きを食わせていたんだが……まさか生命力を伸ばさせるとは、思いもしなかったんだわ」

 

「つまりあの変態にゾンビレベルの生命力を持たせたのはお前が原因か……」

 

余計なことを。全員が白い目で向ける中でヘンリーはわざと咳き込みをする。

 

「ま、まぁ、いいじゃねぇかそんなことは――それにあいつはやるときはやる男だぜ? まぁ、そんなことよりもあの船を追いかけようや」

 

「なんだ、まさか共闘するのか?」

 

「……まぁ、お前らと敵対するより共闘したほうが、都合がいいしな。それにヘクトールの野郎にこのままなめられちゃ、海賊の名が廃っちまう……それに俺は六華の嬢ちゃんを気に入ったのさ」

 

ニヤリと笑うヘンリーであったが、六華は頬を赤くして臀部を両手で守るようにしてマシュの背中に隠れた。

 

「ありゃりゃ、尻を触ったぐらいでそうなるのか?」

 

「…………どうやら、まだ倒すべき敵はいるようだな。 セクハラ男をこのまま野放しにしておけん」

 

「ちょっ、俺味方よ、味方!?」

 

――――不安を抱えながら、とりあえずはヘンリーと海賊サーヴァントたちが仲間となったことを、喜ぶべきだろうか。

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