【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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イアソンの憂鬱,対決,

アルゴー船を率いる船長、イアソンは船の見張り台に立っては、全方位の警戒と環境の確認をしていた。

 

エウリュアレを誘拐してから二日が経つ……それなのに何故カルデアのマスターとドレイクとやらは来ない。

 

もしかすると逃げたか?

 

だとしたらその程度の人間だったわけだ、困難に立ち向かわず安全な道を歩む――いやそれこそが正しいのかもしれない。

 

何故ならこれは人理を掛けた戦いだ、普通の人間だったらその重圧に屈してもおかしくない。

 

「はあ……」

 

だがイアソンは正直がっかりしていた。

 

あのマスターについては性別以外何も知らない……だがサーヴァントたちと共に二つの特異点を戻したと聞いている。

 

人理修復という無理難題を押し付けられても特異点にやってきては、仲間たちと共にやり遂げている彼女――それは便利な道具をもって自滅に走りかけている人間たちと比べると、イアソンは好印象を抱いている。

 

だからこそ期待はしていたが、それは外れだったのだろうか。

 

(まぁ僕がそんな偉そうに言えるわけないけどさ)

 

苦笑して頭をかいてしまうイアソン――英霊など持ち上げられているが、その道筋は利用されては馬鹿にされ、何度も地べたを這い泥水すすり歩み、利用できるものは利用しまくった卑怯者だ。最後には家族を失い、裏切られ、船に潰された哀れな男……それがイアソンだ。

 

しかし、そんなイアソンであるも英霊として召喚されたならば、この特異点でやるべきことは見極める――あのカルデアのマスターがこれから先の旅を続けられるかどうか。

 

イアソンは海から目を離して下を覗き込む――見張り台から見ても巨人と見紛うほどの巨躯を持った、巌のような男性を。

 

「さてさて、あいつを乗り越えられなきゃ、君たちに未来はないよ? この旅はもしかしたら大英雄を超えるほどの連中も出るかもしれないんだからさ――まあそんなにホイホイ出ることはないと思うけど」

 

自分の言葉に苦笑してしまうイアソン。

実はその言葉通りに、この先の旅時にはその連中が嫌というほど出てくるのだが……それは遠い未来の話なので置いておく。

 

イアソンは再び視線を海に向けると――遠く見える何隻かの船を見て笑い、叫んだ。

 

「全員、敵船発見したよ! すぐさま戦いの準備を繰り出したまえ!」

 

らしくもない感情がイアソンの胸中に広がった――それは歓喜。期待していた連中がやってきたという彼の喜びの声が上がった。

 

イアソンは知らずのうちに頬を緩ませては見張り台から降りようとしたが……何かおかしいことに気づいた。

 

「うん?」

 

よくよく見ると、何隻かの船のうち――二つの船が異様に速かった。この時代は面舵や風によって動くはずなのに、二隻の船はそんなこと関係なく、しかも風の流れに沿ってこちらに向かってきているではないか!?

 

しかも、目をよく凝らしてみると――二隻の船を押している巨大な影が見える!

 

「な、な、なんじゃあありゃあああああああああああああああ!?」

 

イアソンは自分らしからぬ叫び声をあげた。

なにせ二隻の船を押しているのは、巨大鮫とイカ――しかもその一体は幻想種だ!

 

「ちょっ、そ、そんなのありかい!?」

 

混乱と驚愕に満ちつつ、イアソンは迎撃のために召還したサーヴァントたちと船員らに指示を与えて自らも見張り台から降りていく。

 

甲板に件の巨人の男性とヘクトールとメディアリリィ、そして船員らを全員集合させていつ戦闘態勢を整えた。

 

そして、数分もしないうちに二隻の船がイアソンたちの船へ到達して、まず目に入ったのは――。

 

 

 

海賊船長であるドレイクとカルデアのマスターである少女がサーヴァントらを引き連れ、威風堂々として現れた姿だった。

 

 

 

その姿を見てイアソンはやはり期待通りの姿だと喜びで笑った。

 

王子でありながらも国を追われ続け、結局臨んだ王にも成れず、結局その後も伝説を残せず死んだ哀れな英雄――それがイアソン。

 

だからこそ目の前にいる二人の姿に羨望する――それはかつて自分がなりたかったからだ。

 

それなのに年甲斐もないカルデアのマスターがその姿を見せている。悔しさもあるが、それよりも――見極めなければ、後の世界を託せる人物なのかを。

 

「アッハッハッハ! 遅かったじゃないか、カルデアのマスターくん! 待ちくたびれて、女神さまを犯そうと思っていたところだよ!」

 

「とかなんとか言っておりますが、ご丁寧な扱いをしましたのでご安心を……ヘクトール様」

 

「あいよ、ほら受け取りなっ!」

 

……折角かっこよく挨拶したのに台無しにしてくれたメディアリリィとヘクトールが、勝手にエウリュアレを返却した。

 

それの文句を言う前に悲しさのほうが強く落ち込むイアソン――そんな彼を慰めるように、巨人の男性が優しく肩をたたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アルゴー船だって? 最悪だ……敵には絶対に回しちゃいけない連中だよ! エウリュアレを救えたのならすぐさま撤退するんだ!』

 

「……ですが、残念ながらそうはいかないようです」

 

画面越しにいるロマンの言葉に震える声で返答するマシュ――その視線の先にいる巨人の男性を慄いていた。

 

今まで出会った敵よりも強く恐ろしい存在であると、見るだけで対立するだけで分かった。

 

「ははっ、その通りだよ! お前たちの言う通り、僕の船員たちは最強さ――特にこいつはね! 僕たちの船の中では一番強く、英雄達の誰もが憧れ、挑み、一撃で返り討ちにされ続けた頂点! 不死身の大英雄――ヘラクレスさ!」

 

「■■■■■■■■■■■———!」

 

巨人の男性――ヘラクレスが黄金の鹿号に入ると同時に、咆哮を上げて斧剣を振るう――強力無比なパワーは風圧だけでサーヴァントたちを吹き飛ばしてしまうほどに圧倒的。

 

吹き飛ばされまいと堪える一同だが、為す術なく吹き飛ばされては黄金の鹿号の甲板の床や手摺に叩きつけられてしまう。

 

「っ大丈夫か、六華?」

 

「う、うん、なんとかっ」

 

六華はランスロットが抱え込み、彼自身が壁となって風圧を守られたおかげで六華は吹き飛ぶことはなかった。

 

そんな彼女の姿をイアソンは嘲笑おうとしたとき――数本の矢を掴み取って、視線を飛んできた方向に目を向ける。

 

「ぅぉっと……ははっ鈍ったんじゃないか、アタランテ? 僕でも掴める程度なんて」

 

「ふん……運動どころか戦闘音痴のお前が掴めたのは無駄にクラスをつけられたからか?」

 

「ご名答さ。 まったく、厄介だよねクラスって……無駄に力をつけるんだから」

 

緑髪の獣耳少女――アタランテの言葉に苦笑しながら矢をへし折るイアソン。

 

「さてさて、カルデアのマスターくん? こっちにはヘラクレスがいるよ、対する君は名を馳せた英雄たちは多数入るけどそいつほどじゃない……もうやめたらどうだい?」

 

イアソンの厭らしく笑っては悪魔のような囁きで六華を誘惑する――負けて楽になればいいと。

 

しかし、そんなイアソンの言葉を思い切り首を振って叫ぶ六華。

 

「そんな簡単に諦められたら、苦労なんかしないよ! こっちはね人理を託されているの、カルデアの皆が負けていないならこっちが先に折れたら、失礼じゃない! それにそっちがヘラクレスなら、こっちはランスロットさんだよ!」

 

「……おい、その言葉だと俺が最強という立場で、あいつと同等と言っているようなもんだぞ?」

 

「え、だって事実でしょ。 下手すればヘラクレス以上かも……」

 

何を根拠に言っているのか分からないのかランスロットは苦笑して、腰に差しているアロンダイトとマルミアドワーズを引き抜いて対峙する。

 

「は、はぁ!? なんで、お前みたいのがマルミアドワーズを使っているんだよっ、ふざけるな! その剣を使っていいのは一人だけ――ヘラクレスだけだぞ!」

 

「そいつは結構な言葉だな、だが今の主は俺だ……元所有者は黙って消えろ!」

 

「■■■■■■■■■■■———!」

 

元所有者という言葉に苛立っての狂ったような叫びをするヘラクレスの斧剣とランスロットの二振りの剣が交差しあい、鬩ぎ合った瞬間に六華の指示が入った。

 

 

「ランスロットさん! そのままヘラクレスをアン女王の復讐号まで吹き飛ばして!」

 

 

荒唐無稽な言葉に思わずイアソンは「はぁ!?」と驚愕の声を上げ、同時にランスロットは笑みを浮かべて「了解っ!」と答えた。

 

 

ヘラクレスの斧剣をいったん引き離しては、彼が掴んでいる柄に二対の刃を差し入れたと同時にランスロット自らが中心となると同時に背負い投げの要領で持ち上げたと同時に投げ飛ばした。

 

「■■■■■■■■■■———!?」

 

ヘラクレスの驚愕するような叫びと同時に、その巨体は黄金の鹿号の近隣にいたアン女王の復讐号に墜落した。

 

「ランスロットさんもそのまま復讐号に乗って! ここは私たちが何とかするから!」

 

「…………そうか、それじゃあ任せるぞ」

 

六華の覚悟を決めた顔を見て、ランスロットは頷いては跳躍してアン女王の復讐号に飛び移った。

 

六華は分かっていた、ヘラクレスと対峙できるのはランスロットのみだと――正直なところ彼がこの場にいればとても心強かった。しかし、ここでヘラクレスを相手にすれば、六華の命はおろかドレイクまでもがあの剛腕に呆気なく殺されてしまうだろう。

 

だからこそ、厄介な相手で一番に強い相手はランスロットに任せようと六華は決めたのだ。

また頼るような形になってしまうが……いつかはこの場で一緒に戦っても大丈夫のように強くなりたいと決意して、彼女はイアソンに目を向ける。

 

そんな彼女に付き従うようにマシュ、マルタ、ジャンヌ、マリー、パロミデス……そしてドレイクとアタランテもだ。そして先ほど救出したエウリュアレとアステリオスも駆け寄り、対峙する。道中で仲間にしたアルテミスたちは、ランスロットたちの手助けをするべくアン女王の復讐号に向かった。

 

 

「ははっ、あいつがいなくても問題ないさ! 一応この僕もクラスをもらったサーヴァントだしねぇ、やってやるさ! メディアとヘクトール、サポートをよろしく頼むよ!」

 

「はいはい、ったく後ろから指示を出してやりゃいいのにねぇ、無茶をしちゃってまぁ」

 

「イアソン様の強がりは承知いたしました。 それでは参りましょうか」

 

 

……イアソンの部下が塩対応で思わず不憫な目を向けかけた六華であったが、敢えてせずに仲間たちに指示を出した。


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