SAOのデバッガー   作:名無しの権左衛門

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11:蒼天の歌い姫<主観的俯瞰>

11:蒼天の歌い姫<主観的俯瞰>

 

 

 ここは一層のとある場所。

どこかの上位層にある花畑よりも規模はちいさいが、区切りにより華やかさを引き立てる。

圏外だが、非アクティブモンスターが跋扈している。

その為、ここら辺で死亡するプレイヤーは存在していない。

 

 しかしこんな死を感じさせないところでも、困惑する人間はいる。

 

「『蒼穹の竪琴』?」

「うん。私、ただ歌いたいの」

「そっか。そんじゃ、それを入手するクエストへ行くかの」

 

 騎士風の男性が、吟遊詩人である女性と話している。

会話から見ると新たな音色を手に入れたいがため、名前だけが壮大な楽器を探しているというもの。

それは一層で見つかるとしても、どのように手に入れるのか全く見当がつかない。

 

「それで、ユナは何のために歌っているんかいな」

「マーベリックさん、私は皆の前で歌いたいだけなんです」

「そっか。そんじゃ、その歌声を聞きたいなあ」

「いいよ、ちゃんと聞いてね?」

「勿論だとも」

 

 優し気な騎士男性は、幼い少女の唄を聞く。

今まで聞いたことのない唄に、彼は心打たれながら聞き入る。

 

その歌声を聴くのは、彼だけではない。

ここらに居るプレイヤーも、数少ない生み出される娯楽に耳を傾ける。

そして彼はその声を聞きながら、クエストの為にこの場を去る。

 

彼が訪れるのは、唯一このクエストを知っていると思われる人物だ。

 

 場所は第一層のとあるクエストを敢行する場所だ。

目の前には大量の岩石が配置してある。

 

「よっ」

 

 マーベリックは片手を挙げて挨拶をする。

挨拶する相手は結構限られている。

そんな彼が挨拶をしたのは、情報屋アルゴである。

 

 アルゴは相手の言葉や表情を読取り、話している本人が想っている以上の情報を抜き取るのが上手である。

そんな彼女は、金になる事ならばなんだって行う。

勿論外道ではないので、ある程度の直情的勘定があるのは否めない。

 

「一万コル出す。『蒼穹の竪琴』のクエストを知りたい」

「マー坊カ。普通ならば、こんなレア装備を整えるクエストは5万は頂きたイ。

 しかしお得意様ダ。それで教えてやるヨ」

 

 マーベリックはアルゴから情報を聞き出す。

その情報は確信できるが、些か疑問が尽きない。

何故こんなところに、こんな貴重な存在を残すのかと。

 

尽きない疑問は置いといて、そのクエストの場所へ向かう。

 

 

 蒼天の湖がある場所へ来る。

そこでNPCから話を聞く。

その言葉を聞いた瞬間、湖から高レベルのモンスターが出てくる。

 

湖自体がかなり浅いので靴のまま入って大丈夫だ。

深いところは別の場所にある。

 

 それよりも問題は、大部分が砂であることだ。

足が取られて回避行動を碌にできやしない。

そこで限られた岩場へ飛び移る。

 

「どるゥあっ!」

 

 マーベリックは、片手の大剣をスキルで誘導した後すぐさま放す事で、投擲することができる。

この事をとある人物から聞いて、彼自身の世界が変化した。

投擲によって加速と運動エネルギーがついた武器が、敵の腹鰭を直撃し切り落とした。

そしてスキルを切った後、意識をもう片方へ移動させ大剣スキルを発動する。

普通に切ると大剣は投げられないが、意識を変移させることで加速を無くし速度を失墜させることなく投擲できる。

そして時間が許す限り、大剣と拳でダメージを与えられる。

 

 敵が咆えて、再度水中に入る。

その時マーベリックは体術スキルで走って、投擲した大剣を取得する。

 

すかさず、水底にある岩へ翔る。

其処に来て、周囲の音を聞き分ける。

 

 敵は周囲を高速移動しているようで、攻撃を中てられるとは思わない。

しかし彼には策略がある。

マーベリックは片手の大剣を、水中の岩にぶつける。

 

ガイィィン

 

 非常におおきな金属音が鳴り響く。

音は空中よりも水中の方が減衰が少なく、更に高速で全方位に広がるのだ。

これにより水中から逃れる様に、モンスターが空中に出てくる。

この無防備な状況を無駄にはしない。

 

 彼はもう一度大剣を握って、面になっている方を水にたたきつける。

水は波立つ。それだけではない。

このゲームは水の演算が、杜撰である。

今までのゲームの水の演算は、細かい粒子で物理演算として行われてきた。

よって水だけは、変な粘性を持ってこの場に存在している。

 

 現実だって水は粘性があって、高所から腹ダイブをすると内臓破裂して死ぬ。

 空気も粘性があって、高気圧だとそんなに加速しないで済むが、低気圧だと飛びにくい。

そこはアインクラッドにはあまり存在しない機能なので、気にしないでいい。

 

 とにかく、この粘性により大剣は刹那、鋼鉄の地面となる。

彼はこの大剣に乗り、体術スキルで踏みつけ空中へ行く。

踏みつけの時も金属音が発生し、敵を地面へ落とす事ができた。

 

「死ねやあああ!」

 

 初期ではない両手剣スキルを発動し、敵の急所部分をぶった切る。

音による混乱と衰弱、急所攻撃で二段あるHPを削り切る。

これで水と同化して、浅瀬で高速移動するやっかいな敵を撃破することに成功した。

 

 

 

 倒した瞬間、湖の全ての水が集まり、『蒼穹の竪琴』を入手した。

そして湖の水は、別に湧水が溢れるところから始まる。

そう…これがいっぱいになるまで、この竪琴は入手できない。

 

 レア度が高い理由として、透明度の高い音やエコー・ピッチ変化・ビブラートというモデュレーション・音保持のホールド…

そして複数の音の保存ができる。

この保存を使えば、指が勝手に動き音を再現してくれるのだ。

 

 他にも『轟雷の竪琴』もある。こっちは、透明度の高い音は出せないが、ドラム音や電子音・エレキギターと現代音楽

を作り出すことができる。

『神樹の鍵盤』は、人の副音声…つまりあの男女のコーラスを使えるのだ。

しかも大音響効果で、壮大なトランペット・ヴァイオリン等のクラシック楽器を使える。

 

 音の作り方は、アンプによる音拾いと棒線による音の設定でできる。

目の前にそれらの情報を含んだ画面がでてくるので、そこで作り上げる。

歌詞もそこへ記入出来て、録音で聲を入れて記録することが可能。

 

更に吟遊詩人が戦場で、歌を歌うと皆に戦闘ボーナスが加えられる。

しかし本人たちが脆弱なので、このデスゲームでは役立たずと云ったところか。

 

 

 

 マーベリックは、ユナに『蒼穹の竪琴』をもっていった。

ユナは変わらず、革の服を着用し竪琴を持って皆に癒しを与えていた。

 

「よっ」

「マーベリックさん!」

 

 ユナは彼を見て、演奏を一時中断し彼の下へ来る。

マーベリックは、目が爛々と輝くユナを見て若干引くがこれも戦闘できない詩人の性なんだろうな、と思う事にする。

 

「ユナ。『蒼穹の竪琴』を取ってきた。できれば、これからこれで歌ってほしい」

「いいよ!あ、そうだ。はい、これ、あげる」

 

 彼が『蒼穹の竪琴』の代わりに受け取るのは、『古木の竪琴』だ。

つまりただのアコースティックギター。

小型化されている為、小さな人物でも持ち運びが可能である。

 

そしてこのギターも一種類のみ、音楽の保存が可能だ。

 

「この竪琴には、何が記録されているんだい?」

「『古木の竪琴』には、私が最初に今までみんなの前で歌おうと思ってた唄が入ってるよ。

 その名は『delete』。この世界が嘘であってほしいと思って作ったの」

 

 だが結局、仮想は現実であった。

 

 受け取ったマーベリックは、レジストリにしまい込む。

そして『蒼穹の竪琴』を受け取ったユナは、そのまま装備して歌い始める。

 

「その唄は……?」

 

 今まで聞いたことのない調だ。

彼のつぶやきに、彼女はウィンクをする。

 

『smile for you』

 

 彼女なりの感謝だった。

 

蒼穹の歌姫は、この花畑で舞うように歌う。

非常にきれいで美しく、生への渇望を見出させないこの世界のようだった。

 

 

 

 世界が夕暮れに向かう時、マーベリックはユナと食事をしフレンド登録をする運びとなった。

これからも、疲れをいやしたいとき彼女のライブに、いつでも駆けつけられるように。

 

 

 

 ユナの命のリミットは、後一年ほど。

 

そんな事を知らないマーベリックは、今日も生きる為夕闇にまぎれて行く。

 

 

 

 彼らの抗いは止まらない。

一人は一人の為に、多数の人のために己の命と魂を燃やして進む。

 

 

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