12:やっちまっただ<ラスト主観>
「お、ラスト。さっきユウキが、お前を探してたぞ?行ってやらないのか?」
「ああ……うん。分かってる」
「身から出た錆だ。ほら行って来い、男だろ?」
「まさか、こんなことになろうとは……」
思いもよらなかった。
本当に想定外だ。
僕自身ユウキを引きこもりから救い出す為、あれやこれや全力でやってきたつもりだ。
だけど、ああも全力でされたらこっちも意識せざるを得ない。
いや……結局は、因果応報なんだけど。
「はい、ラスト!」
「ん?どうしたんだ、これ?」
手に持っているのは、花束。
紫のコチョウランと朱色のキク。
「スロットスキルの中に、花道があるんだ。何でこれにしたのかっていうのは、ちょっと云えないかな……
ボク……わたしの気持ち、察してくれる?」
「うん、有難う。でも……」
「でも?」
「僕も同じ気持ちだよ?」
あの時は僕は、花束を受け取り紫のコチョウランをユウキに渡した。
花言葉は友情だったり、信頼だと思ったんだよ。
だけど、そのあとアスナに聴いてみたんだ。
「キクとコチョウランを渡されたの?
好かれたわね。一体、何したの?」
「好かれた?いや、何もしてないが……」
「キクは西洋、胡蝶蘭は東洋でどちらも<I love you>愛してますっていう花言葉を持っているわ」
「Oh,Realiy?」
「Yes!」
どちらも流暢で簡単な英語で会話する。
頑張れ~と手を振るアスナ。その顔は、非常に晴れやかなものだったりする。
まあ毎日、僕とキリトの扱きを受けて居たらそうなるよな。
アスナの気持ちを少し感じながら、ユウキへの誤解を解こう……むりだよな?
嗚呼、どないせぇっちゅんじゃ!
「おーおー悩め悩め若人よ」
「だーらっしゃい、キリト」
「そんじゃ、アスナの調練に行ってくる」
「お、応……って待て、独りになるだろうが!」
「別に独りでも、愛方がいるじゃないか」
キリトが指を指す方には、頬を朱に染めるユウキがいた。
じゃ、頑張れよと『並行展開』で一気に逃げるキリト。
それを見て、行くところまで行くしかないと思うラスト。
「や、やあ、ユウキ」
「どこ行ってたの?」
「野暮用だよ」
僕はユウキに詰め寄られた。
でもそれを躱す。拒否しているわけじゃない。
だけど少し軽率というか、ただ単に助けられただけじゃないか。
どこに惚れる要素があるんだ?
「あ、そうそう。今日はどこに行くの?」
片腕を抱き寄せて、体に触れさせる。
た、ただのスキンシップだろ?そうに違いない。
「青龍騎士団というギルドだよ。ディアベルって人に、少し会いに行くんだ」
「へぇ。私も行っていい?」
「勿論、いいよ」
場所はこの村から離れ、迷宮区に限りなく近い休憩所だ。
そこにテントやらを張って、夜な夜なレベリングを行っている様だ。
既にボス部屋までマッピングしている。
後は彼の決断力とその場に行くまでの技術の向上だ。
ゲームを開始して二週間足らず。
この間に、少なくない犠牲を出している。
レスキューで、老若男女関係なく救助している。
しかし、助けてくれるという油断から、緊張感がなくなってしまっているのだろう。
御蔭で本当に戦っている人以外は、ちゃんと死んでしまっている。
運命という言葉は嫌いだが、これは本当に……死ぬために生きてきたようなものだ。
正攻法はあるが、今まで培ってきたものは全くと言っていいほど通用しない。
未知であり武道の通じない、今までにない現実。
そんな世界では、βテスターであり武道経験者であるほど死者となっている。
既にβテスターの1/5が、逝去してしまっている。
初心者も中々の犠牲を出している。
全てを救いたいとは思っていない。
僕自身の手の届く範囲でしか行うことができないからだ。
その手や腕の中に、偶然ユウキやアスナがいた。
ただそれだけだ。
奇跡的というしかない。
しかし行動により偶発・突発的な現象となるので、必然的な当然となる。
「どしたの、ラスト?」
「なんでもないよ。今日も可愛いな、って思っただけさ」
「っ もう、からかわないでよ」
「ごめんごめん」
途中で出現する敵を、スロットスキルを使用して投げ飛ばす。
他の敵を巻き込ませ、一気に殲滅する戦法を使う。
これによって、多数のコルと経験値が入ってくる。
ただし、僕じゃなくてユウキにのみ入るようだけどね。
流石にSAOはよく考えられている。
ずっと籠っていれば、一応レベルを100以上にすることができる。
しかし経験値をレベルによって貰える数値が、決まってしまうというルールが無ければの話だ。
「おっ、君はラストオーダーじゃないか。どうしてここに?」
「ああ。実を云うと、そろそろ次の層に行かなければならなくなってきたことを伝えに来た」
「……やはり、そろそろ安全レベル帯になってきて、高止まりが出てき始めたんだな」
休憩所に来た僕は、ユウキを側に置いてディアベルと話し合いをする。
彼がこの事を知っているという事は、戦術面・システム面において心配することがほとんど無くなったと言っていい。
更に僕とキリトの偵察のおかげで、コボルトロードが何を繰り出すのか、行動基盤はなんなのか……。
それら全てが解析と共に、いろんな情報が集大成として本に詰め込まれている。
さて、狩場が無くなって来たので、次に行こうという提案に彼は渋る。
理由の一つが、ラストワルツがこのレイドに加わるかの是非が分からないからだ。
だがもう…耐え切れないようになってしまっている。
しかもあまりもたついて居ると、現実世界の肉体が劣化してしまう。
これによる弊害は、多分に含まれていると言って過言ではないだろう。
「なあ、君たちが参加してくれれば、我々も安心できるのだが……」
「流石に時期が時期だ。ディアベルが、召集をかけてくれるのなら、喜んで参加しよう」
「では三日後だ。後に連絡する」
「わかった」
二人は別れる。
僕はユウキを連れて、とある狩場に来る。
既に魔物は再出現している。
黙々と作業をして殲滅したとき、ユウキが話しかけてくる。
「もういけるの?」
「ああ。というか、ラストワルツだけで、このゲームをクリアできる」
「え、じゃあなんで?」
「それじゃつまらないだろ?」
僕は不敵に笑う。
きっと醜悪な笑みを浮かべているだろう。
ユウキの顔が、ひどく怯えているものになるからだ。
たぶんユウキは僕の『狩るモノ』の雰囲気を肌で感じ取ったんだろう。
あの時から幾分か経過しているが、何度も死にかけている。
その為の条件反射だろう。
「おっと、ごめんユウキ」
僕は自然と手をユウキの頭の上に置いて撫でる。
ユウキは気持ちよさそうに瞳を閉じて、されるがままだ。
不敵な笑顔は止めて、装備の整理をしたほうがいいかもしれない。
その方が賢明と云わんばかりに、大量の敵が補充される。
ただこの量は、デバッガーにとって単なる作業にしかならない。
寧ろ非効率な行動だろう。
だけど今はまだ弱いユウキの為に、刈り取っておく。
戦闘センスは非常に良いといっていい。
それでも僕とキリトのデバッガーの能力が突出しすぎていて、非常に霞んでいるのが悲しいところだ。
更に理由がある。
それはSAOの敵モブでさえも、非常に強力な敵として出現していることだ。
この強さによって、色々と無理ゲーと化している。
きっとボスも想定外の事をしてくるに違いない。
僕は近くの敵を突き刺して、スキルを使って投げつける。
突き刺され投げ飛ばされた敵と当てられた敵は、ポリゴンとなってこの世に散った。
「ラスト!さっきのどうやってやるの!?」
「これか?『投擲』というスキルだよ。剣に刺す事で手に持つことができるアイテムを投げることができるんだ」
できないこともないフリースキルの一端として使える。
しかしダメージを与えられるか、というとそうでもない。
やはりスキルと直接攻撃が、このゲームの売りだ。
こんなプレイは据え置きのゲームで好きなだけやってほしい。
「せっ、やっ」
ユウキは僕が行った事を、スロットスキルなしで行おうと奮闘する。
刺すことはできるが、その前にHPが0になって砕け散ってしまう。
そう簡単には行かない様だ。
このまま時間が過ぎて行く。
ユウキのレベルは安全なところまで上昇した。
再出現するまで、周辺の敵を効率よく刈り取っていったからかもしれない。
メニューを開いて、自身のキャラの状態を見ないと経験値状況は不可視である。
その隠し状態のおかげで、黙々と作業を行えたのはよかった。
「あっ」
「ん?」
太陽が天空の0時を仰いでいるところ、ユウキが何かを発見したようだ。
しかしすぐに何もなかったかのように、敵を撃破する作業を行おうとする。
僕はユウキが作業に入る前に、その発見した何かを確認することができた。
それはモブと戦闘しているプレイヤーだ。
若干劣勢のようだ。
ここからだと間に合わないことはない。
足先を彼らの方向に向けて歩き出そうとしたが、誰か…まあユウキだろうけど彼女に腕を引かれる。
僕は振り返らないで、ユウキに優しく云う。
「行かないといけない。ごめん、離して」
「やだ」
思わぬ言葉に、少々焦る。
目の前でプレイヤーの二人が蹴散らされ始めたからだ。
手の届く範囲で救出しなければならないのに、この障害のおかげで助けられないかもしれない。
それはいけない。
出来なかったじゃなくて、やれるのが当然なんだ。
こんな望んでもいない、虚空の人情ごっこに付き合っていられない!
僕は振りほどこうとして、力いっぱい腕を振り戻した。
「ごめん、守るべき対象はユウキだけじゃないんだ」
「……」
振り返らないで、そのまま走り出す。
この後、そのプレイヤーらを救出出来た。
そしてプレイヤーの中の一人の女性が、感謝として抱擁してきたとき丁度ユウキがどこかへいってしまった。
僕はこの後面倒な事になりそうで、とても嫌な予感がした。
意識と価値観は、ちゃんと伝えておかないと大変な事になると身をもって知ることとなった。