SAOのデバッガー   作:名無しの権左衛門

12 / 21
13:価値感<アスナ視点>

13:価値感<アスナ視点>

 

 突然だった。

 

「アスナ!」

「へっ!?」

「うおっ!?っと、どうしたんだ?」

 

 

 太陽が黄金色に変わってきた時刻。

今までキリト君と片手直剣で、『フリースキル』という『システム外スキル』を試していた。

 

「『反射[リフレクト]』!」

「いっ!?」

 

 キリト君が盾として認識させた左手の短剣が、私の剣を反射で弾き飛ばされた。

私自身も、その短剣で初撃を加えられてキリト君の初撃勝利になってしまった。

 

「そんなのないよ!?」

「そっか、ならもっかいやるか」

 

 目にも留まらぬ速さでメニューを操作して、私の目の前に決闘の是非欄を出してくる。

勿論許諾のみ。

もう一回同じ状況にして、リフレクトをされる。

 

「せやああっ!」

 

 短剣を持つ腕がリフレクトをするために伸ばされている。

これを狙って、剣をもっていた手を逆手にして伸ばされた腕を握った。

このまま背中に乗せて地面に落とす事で、背負い投げができる。

ついに初撃を加えられると思った。

 

でも…

 

「甘い!」

 

 リフレクトの隙をみて行動しただけで、キリト君の可動範囲をよく見てなかった。

キリト君に隙だと思っていた腕に、私は近づいて腕を伸ばして握ろうと思った。

それがいけなかったようで、私の伸ばした腕がキリト君の短剣を握っていた手によって捕まえられた。

 

そのまま腕と身体ごと引っ張られて、右手に持つ剣を喉元へ当てられた。

 

 もしラストさんなら、腕を捻って苦痛の違和感で判断を鈍らせて腹を攻撃するかコークスクリューで

地面に落とされた後、関節技で締め付けられていた。

 

「さて、まだまだやるぞ」

「ま、待ってよ。ここからどうやって反撃すれば…」

「今日は対人戦で、オレンジプレイヤーの対処法を学ぶということだったよな?」

「うん」

 

 なんだろう、なんだか今日のキリト君…怖い……。

やっぱり生死をかける戦いは、こんなに一生懸命になるものなんだね。

 

「聴いているのか?」

「き、聞いてるよ!」

「聴いていないじゃないか。要は殺す気でやれってことだ。

 残念ながら、嗜虐的思考を持っていれば今後の人生で犯罪を犯す可能性がある。

 そんな己の感情を制御できないできそこないは、文明社会に不適合者として認識される。

 よって、この場で撃滅が正しい」

「つまり?」

「余っている腕で、俺の腹を刺す也対処しろってことだよ」

 

 キリト君はそう云って、私を『投擲』で投げ飛ばす。

私は空中で姿勢を直して、地面に着地する。

真正面を見据えたときに見えた白い光。私の視界は、真っ白に染まってしまう。

 

「殺す気で、容赦なくやれ」

 

「ぐっ!?」

 

 いつの間にか飛び膝蹴りで、突き飛ばされてた。

 

圧迫されたせいか、咽てしまう。

 

「うぐっ」

 

 私はスキルを使って、二回連続でスキルを発動する。

突進型で意識を両手で移譲させながら使用する。

左右の腕を使用することで、方向転換しながら行動することができる。

 

「遅い」

「あがっ!?」

 

 いつの間にか鞘で、背中を撃たれてしまっていた。

私は地面にうつぶせになる。

 

「……『四重施行[スクエアドライヴ]』」

 

 私はこれで二回目になる。

 

「やっぱりラストが使ったか」

 

 使う神経の伝播物質の速度と通過する場所を選択して、二重展開と被らせない超高等技術。

つまり左右違うスキルABをBAとして使う事ができるもの。

これによって、突撃速度が違うものでも重複して使うことができる。

おかげで、二重展開よりも反応も速度も威力さえも違う、別の何かになってしまう天才的スキル。

 

「そんなの…よけっこないよ……」

 

「何を云っている。ラストも云ったと思うが、アスナには天賦の才がある。

 絶対にあきらめるな、挫けるな。弱音は好きに吐け。

 だがそれを理由に止めるのは許さない」

 

 うつ伏せになっている私に、鞘で指し示し指摘する言動を行う。

キリト君やラストさんは、調練の時は一層厳しくなる。

私はそんな特別じゃないのに……。

 

「さて、そろそろ鐘がなる時刻だ。最後にしよう」

 

 嗚呼、またいつものだ。

またこれを防ぎ切らないといけない。

前は10秒だったっけ。

 

「では、開始だ」

 

 二刀流のキリト君が向かってくる。

少しでも立ち向かわないと、やり直しになってしまう。

そんな面倒なことは……。

 

 

「アスナ!」

「へっ!?」

 

 私は突然聞いた事がある声がして、集中力が途絶えてしまった。

代わりに見つけたのは、黄昏に焼かれ見にくいながらも泣きそうな顔をしたユウキだった。

 

「うおっ!?」

 

 ユウキがわき目も振らず、私の胸に飛び込んできた。

キリト君は全力集中の瞳を解散させて、通常の意識レベルに戻しながら剣の舞を解除する。

私に向かって着ていた剣全ては、私とユウキを攻撃しない軌道に戻って虚空へ消えた。

 

「っと、どうしたんだ?」

 

 キリト君が周辺へのクリアリングを行って、剣を背中の鞘にしまいこちらを見る。

私はユウキを抱きしめて、何があったのか聞いてみた。

 

そしたら……

 

 

「ボク……ラストの御姫様じゃなかった……」

 

 

 あ、これ、価値感の相違だわ。

 

 結構面倒なラストさんの価値感と性格の事を、どうやってユウキに言えばいいのか迷ってしまう。

やっぱりここはキリト君よね。

この人じゃないと、ラストさんは語れないから。

 

 

「とにかく、家に戻ろう。改修して全員の部屋が割り当てられるようになったんだ。

 さっそく使ってやろうじゃないか」

 

 

 さて、宿に戻って話を聞いてみることにした。

すると次第にわかってくるラストさんとユウキの拗れ。

キリト君も腕を組んで難しい顔をしている。

しかも溜息迄。どうしたのかしら。

 

「つまり、ユウキはラストの特別になりたい。ってか、むしろ文脈からみれば、ラストが告白しているよな。

 告白なのに、非常に酷薄なんだな。とにかく、アイツに関して昔話をしようか」

「どういうこと?」

「あいつの価値感の話をするだけだよ。ユウキもぜひ、聞いてくれ。

 きっと、あいつなりの自尊心と矜持を知れるはずだ」

 

 私達出会って数週間なのに、信頼してくれているのは分かるけど軽率過ぎない?

って聞いたら、少しでもうわさが流れたり何か可笑しな挙動があれば、狩ると云ってる。

実際、『超感覚』と『四重施行』されたら、勝ち目が全くないので素直にしたがっている。

 

 

 

 ある日、ラストさんとキリト君がいじめられている少年を助けたことがあって、

その時に聞いたことだという。

 

「兄ちゃんたち、すっげぇ強いんだな!勇者みたい!」

「あはは、そうさ僕らは勇者だよ」

「ねえ、どうやったら勇者になれるの?」

 

「そうだね、あきらめない事だと思うよ」

「それだけ?」

「そうさ、勇者は当たり前だけどできない事をやれる人の事を勇者っていうんだ」

「わかった!やってみるね!」

「ああ、そのいきだ。ガンバレ!」

 

「なあ、お前は勇者って何だと思う?」

「勇者?そりゃ、ラストの云うように、できるのにできない普通の人と違ってできる人のことを勇者っていうんだろ?」

「いいや。僕が思うのは、勇者というのはその人物なのか、立場という意味かだよ。

 勇者であれば、超えるべきものや達成すべきものがあり、特別な存在を助けたり、ありとあらゆるものを

 解決する能力に長けていると考えがちだと思う。

 そう、普通じゃないんだ。

 だからこそ、勇者・英雄・救世主・現人神にあこがれ、服従したり目指したくなるんだ」

 

「何が云いたいんだ?ラストが云っているのは、全部勇者の在り方になっているような気がするんだけど?」

「つまり、僕は勇者じゃない。確かに憧れはするけど、その人物にも立場にもなりたくない。

 たしかにあの子にとっては英雄的・勇者的な物事だろう。

 だけどみんな英雄・勇者像が違う。

 だれにとって英雄とか勇者とか、決めつけるべきものじゃないんだよ」

「決めつけているわけじゃないだろ?彼は確かに自分の理想を、相手に押し付けているようにも見えたが」

 

「まあ、それもあるよね。

 個々人によって、英雄は変化する。

 価値感も変化するし、在り方が違う。

 確かに彼が確信して、持ち上げてしまっている状態だ。

 でも僕はなろうと思ったことはないし、なった覚えもない」

「お前、いつも”勇者になって、全てを救ってやる”って言ってたじゃないか」

「去年の事を引っ張り出すなよ……」

 

「とにかくお前は、勇者という枠組みに捕らわれたくないんだよな?」

「そういうことだよ。つまり、特別な一つじゃなくて、多様性の中の一つを救っているだけなんだ」

「多様性ってなんだよ。大より小でなく、小より大を見てその中で必要な小を見繕って救いあげているだけ。

 わかりやすく云うと、手の届く範囲の誰でもってことだろ?」

「そういうこと。

 救命士の家族が事故に巻き込まれて怪我しても、怪我がより深い人の治療や救助を優先するみたいなものさ」

 

「つまり僕は、勇者じゃない。その時に特別に勇者という特別を背負って希望となりつつ、

 一人ひとりを大切な救うべきお姫様や王子様として救助したいんだ」

「私欲は?」

「無いね!」

「本当か?ちょっとだけ怪我したAPP18と滅茶苦茶怪我したAPP3」

「APP3だね。見殺しになるじゃないか。ダメダメ、私欲で人を殺すのはもっといけないものだよ」

 

「勇者って結構私欲じゃないか。

 それにその言い草だと、10の中の4の対魔王穏健派の意見が抹消されそうだな」

「大の聲が大きければ、其れに紛れてなんでもしていいってやつか。

 確かにそれは否定できないけど、僕はしないよ。

 僕は私欲よりも大を見て、その中で状況を何とかできる人を改修して使う」

 

「色々ひどい勇敢で愚かな人間だな、期待しているぜ?」

「期待しろよ、キリト」

 

 キリト君の話を静かに聴いていたけど、女の子して聴くとそれはちょっと…って思う。

独占欲とか支配欲とか、私は少し持っていて好きな人と密なかんけいになってお互いのみの空間を持ちたいと思ってる。

勿論心に関してもそう。

 

他の仲の良い友人・仕事中の心模様・恋愛関係の心。

この三つに分けてほしいなぁ、みたいな。

だからこそ、もしラストさんが好きになってしまえばすぐに破局してしまうと思う。

 

 一応これって、誰にでも手が早いっていう浮気的なものでもあると思うの。

本人が違っていても、私はそう思う。

好きな人の心と身体を縛りたい……ちょっと違うかもしれないけど、

誰でもないたった一人の愛している人の隣っていうのは、凄く特別なんだって。

 

つまり、私を含めた女の子は、好きな人の御姫様でありたいんだって大半の子は思ってるよ、きっと。

 

 だから、キリト君の云う手の届く誰でもいい人を助けるラストさんの姿勢は、

ユウキには理解されがたいと思う。

ユウキは実際に、ラストさんに”僕の御姫様”って言ったんだし。

 

あれ、これって告白じゃなくって、プロポーズ?

 

「そっか……ボク、ラストさんの特別に成れてなかったんだね」

「残酷に言えば、そうだとしかいいようがない。

 価値観が完全にずれているからな」

 

 あきらめた方が良いと思う。

キリト君の前はともかく、その姿勢を貫いてきたと思われるから、きっとこれから辛いよ?

 

「よっし、決めた!

 ボク、ラストの御姫様じゃなくて、お嫁さんになるよ!」

「ぶっとびすぎだろ!?」

「お姫様はただの手段でしょ?そう、近づくための。

 だったら、そのお姫様の間にその心に近づけばいいんだ!」

 

 あれ、ユウキが格好良く見える。

すっごい、ポジティブシンキングだ。

向上思考は輝いて見えるけど、ユウキはパルサー並に輝いてるよ。

 

「あのさ、キリト!」

「な、なんだよ?」

 

 ユウキがキリト君の間近まで接近して、その肩を握る。

 

「ラストが好きそうな物とかないかな?

 寧ろ、好きなタイプとか聞いてない?」

「いや、さすがにゲームの中だし、個人情報とか現実に戻っても……」

「キリト君、私からもゆすれるネタ、御願いね?」

「ア、ハイ……」

 

 というわけで、ラストさんのゆすれるネタだったりユウキの望む情報を得ることができた。

だけど朴念仁で、興味あることが高レベルの物事ばかりで、なんとも……。

 

「それって、キリト君たちの年齢でやるものなの?少なくとも、高校生に見えないんだけど?」

「基数に序数を付け加えて、新たな計算式を作り上げている。

 少なくとも俺とラストは大学生レベルだろうな」

 

 他にもネタの提供をしてもらうけど、どれもこれも完璧超人だったり現実でも女の子泣かせでびっくりする。

地震が有った時、怪我した男女を分け隔てなく救助したことで人気になったようだけど、

勇者みたいに持ち上げられた瞬間賞状を地面にたたきつけたんだって。

 

 なんでも……

 

「こんな形で印刷代がかかる紙切れを貰うために、皆を救助したわけじゃない!

 勝手に持ち上げないでほしい」

 

 って、なんとも傲慢っぷりを発揮して、三日間程無断欠席してその間にボランティア活動をしてたとか。

馬鹿というか真人間で、生真面目というか……。

ゆすれないネタばっかりじゃないの、どうなってんの。

 

「彼奴が好きなのは、植物を育てる事だな。杉を育てて、世界で一番高い杉にするとか豪語してる」

「ユウキ、現実に戻ったら、ラストさんの杉を切って。あれはダメ、絶対」

「え?あ、うん。最大限努力するよ…」

 

 消え入りそうな声だったから、私は気になった。

 

「どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもないよ!」

 

 その取り作った笑顔、何かありそうだけどいっか。

まあ、ゆすれるネタがない事に関しては、非常に残念だけど諦めることにする。

 

「後ゆすれるのは……そういや、あいつと俺の妹がメイド服を着て例の言葉をいうと、

 吃驚仰天してたな。その時は、けっこう凝視してたような……」

「「それだ!」」

「はあ!?まだ一層だぞ?あるわけが…いや、あるにはあるな」

「あるの?」

「あ、アリマス。えーとギルドの制服を決める奴であったんだよな。

 男女別だから、そこはよかったりするんだけど…えーと、副団長権限で作るっと」

 

 私達三人は、ラストさんの精神にゆさぶりをかける作戦を行う。

無駄な事って?

私にとって、非常に大切なことなんだけど?

 

 あー、たぁのしぃみだぬぁ……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。