17:追う背中<アスナ視点>
「ああもう!なんで云ってくれなかったの!?」
「ご、ごめんごめん。悪気はなかったんだって」
「私はともかく、ユウキが傷つくわよ!」
「だ、だから、今から説明するから」
「ユウキが起きてから!ったく、これだから男子の浪漫はわからない」
「計画なんだけどなぁ」
私はあの後、騒乱の元凶であるキバオウさんや演技をしいていたアリアフィナーレの皆さんと別れた。
そこらへんは今聞くに、キリト君とラストさんの計らいなんだろうけど、すんなりとラストワルツだけになった。
そして今はユウキを宿のベッドに寝させて、私とキリト君が面と向かって話している。
今回の事は、私とユウキにだけ伝えてなかったようで、凄く驚いた。
私達はそんなに頼りないの!?って思ったわ。
それにあの去り際の演出。
一回体力1/2まで、全力戦闘したいんだけど。
それくらい、私は怒りが溜まっている。
キリト君やアリアフィナーレの方々が連携したことで、ラストさんだけに恨みが行くことになった。
この事はしょうがないといえばしょうがない。
まあ、この状況を予想していて実行にうつしたのは、驚愕としか言いようがないけど。
「それで、なにか連絡はないの?」
「一応、もう少しで来る。そろそろかな」
私は窓際に移動して、そこから外の世界を見る。
一層よりも一層街が小さい。でも点在する街が多く、広さも一層位に広大らしい。
町中はアクティベートされているのにもかかわらず、情報が届き切っていないのか人影がない。
さわさわと吹き流れる風と鳥の囀りが、この空間を静かに潤す。
何十分経過したのか……。
「おい、アスナ。ユウキが起きたぞ」
「ん、ぅん……?」
私はキリト君に肩を軽く叩かれて、目が覚める。
「あぇ……私、寝てた?」
「ぐっすりとな」
太陽はいつの間にか黄昏になっていた。
そしてキリト君の云う通り、ユウキも起き上る。
「ぁれ、ここどこ?」
「ここは二層の主街区だよ」
キリト君はユウキの近くまで歩いて、同じ目線にまで腰を曲げる。
私も口元から流れ出るよだれを拭い取って、ユウキの所に歩み寄る。
ユウキは目元をこすって、何度か瞬きして視界確保をする。
そして私が自分が座る椅子とキリト君の分の椅子を持って、ユウキの近くを位置取って椅子に座る。
ユウキも何も背中にないのが辛いようで、ベッドが壁沿いにあるのをいいことに背中を壁に付ける。
「んしょ。それで、キリト。ラストはどこ行ったの?」
「あいつは4層に行ったよ」
「4層か~。凄いね。やっぱり、ラストは……ラストは……。あ、あれ、涙が出てきちゃった」
「キリト君。泣かしちゃダメでしょ」
「ごめんごめん。ほらユウキ、これ」
キリト君は何かをタップして、三回決定を行う。
その内の一つが私にも送られてきた。
それはメール。
内容はあのラストさんの去り際の言葉だった。
まさかと思うけど、この設定を本気で行う気なのかしら。
だとしたら、ユウキが可哀想でしかたないんだけど。
私は顔をひくつかせてしまう。
でもよく確認すると、このキリト君のメールの上に何かがあった。
それはラストさんのメールだった。
「キリト、これ、何?」
私はメールから眼を逸らして、ユウキの方を見る。
ユウキの手に出現するのは、オブジェクト化されたハンカチだ。
非常にきれいで、藍色の生地に白と黄色のチェック模様が其々の辺に平行になるよう入ってる。
「彼奴からの贈り物さ。
基本的にスキルでちゃちゃっとできるけど、そこはフリースキル使いさ。
現実の能力を使って仕上げたんだ」
「へぇ、ラストってすごいんだね!」
そういえば、ラストさんのスキルの熟練度ってどのくらいなのかしら。
一朝一夕ではできない事は、既に……あーでもあの人ならできるか。
それにしても、ラストさんは家で家事洗濯をしているのかな?
料理関係や裁縫、基本的な戦略や資金管理も上手。
あれ、凄い人じゃない?
ってそんなことはいいのよ。それよりも、報告よ報告!
「キリト君、話をそらさないでくれる?」
「アスナさん、目が怖いです」
「だったら、續きをやってください」
そういうと、キリト君はユウキが涙を払拭まで待って、話を再開する。
「さて、最初に俺が送ったメールの上を見てくれ」
キリト君は膝を叩いて、私達に確認を促す。
私は既に確認はすませてある。
「これ、何?」
「ラストからのメールだ」
だろうと思った。
そしたら、ユウキがものすごい速度でタップして内容をみている。
私も軽い気持ちで見てみた。
どうせこの設定を守るとかでしょ。
『アスナへ ラストワルツはもともと仮初の存在だが、もう一つの目的がある。
それは才能ある人物を育て上げ、少数精鋭で100階を目指す予定だった。
しかし意思あるところに、善悪ありでうまくいかない事が分かり、この案は破棄された。
それでも私は100階層踏破を諦められないので、アスナ・ユウキ・キリト他プレイヤーを実績と功績で見極める。
この色眼鏡に適った二人には、今まで多くの頑張ればできる『ツリースキルシステム外スキル』、
通称『フリースキル』を教えてきた。
何故教えたのか、わかっているんじゃないか?
キリトと戦闘し、己の技を磨いて行く度キリトが攻撃に移ることができなくなっただろう。
そう、つまりキリトは無意識の反射速度・アスナは意識有りの反応速度が早いというわけだ。
ついでにいうと、ユウキは二人よりも強いが指揮統制や戦術眼がない。
さて私の訓練をクリアした。キリトの独り立ちの承認も貰えるだろう。
アスナは強い。間違いなく。心が強い故、あらゆる重責に耐える事ができるだろう。
何かあればキリトをたよれ。もし彼が無理なら、私を頼れ。
重責や重圧にくじけそうになったら、またラストワルツに戻ると良い。
最後に。上記の重責重圧というように、実力主義の懐古な思想社会になるだろう。
お金で命を買えるわけではないのだから。
ここまで書いたのならば、察せられるだろう、アスナ。
君が強くなり、ボス戦に挑みその力を誇示できる程になるだろう。
そのとき誰かにその実力を見込まれて、ギルドに加盟するように言われたら断るな。
そう、君の心と力の強さを見せつけろ。
誰にも負けない、私やキリト・ユウキを超える素晴らしい人間に成長できると確信している。
また会おう、アスナ』
なんというか…長い。
けど、凄く心配してくれていることがわかるし、鼓舞してくれていることもわかった。
無骨で真顔な方を良く覚えているけど、この手紙もそんな感じになってる。
でもなんというか、旅に出る娘に送るような手紙ね。
もうちょっと信頼してくれてもいいんじゃないかな?
「アスナ、うれしそうだな」
「うん!」
そうすると、キリト君は少し悲しそうな顔をする。
まさかと思うけど、この内容はキリト君と決めあった事なのかな?
そしたら彼の表情の意味も理解できそう。
本当に、娘を送り出すって感じだわ。
不思議と嫌じゃないなぁ。なんでだろ。
――この崖にロングピックを刺して、双剣で威力を減衰させ降りてみろ。
――何、煮物に砂糖を入れないのか?!ばっかじゃねぇの!?
――『並行展開』『スクエアドライヴ』『オクターコア』。さあ、何処から逝く?
――ゾンビが怖い?たかが見た目で怖がるな。もともとは透視化された三点ポリゴンだ!
――水に入りたい?敵のポップ依然に、片栗粉のようなものに入りたいのか、物好きだな
――あと一回当たれば、飯のランクを一つ下げる。最低は派出所もびっくりな大豆一つだ。
――ポーションがない?私のがある。さあ、あと13時間だ。寝ずにやるぞ。
――疲れた?脳の出す疲労物質よりも、恐怖へのアドレナリンを出せ。
――飛行モンスターにタルワールをひっかけろ。そして、己の得物で指示を出せ。死ぬまでこき使え。
……あれ、なんだろう冷や汗と涙が出てくる。
いろんなトラウマっぽい何かが出てきて、寒気が……。
キリト君はそんな私が心配になったのか、私に聲をかけてくれる。
ユウキもラストさんとの別れが嫌なのか、聲に出さずとも嗚咽が聞こえてくる。
キリト君はそろそろ就寝時間になるのか、現時刻を以って現地解散になる。
この宿は三日先まで使用可能だから、それまで使わせてもらう事にする。
そして、この夜ユウキとそのメールの内容を交換してもらった。
共感というよりも、興味とどんな激励の言葉が書いてあるか。知りたかったからだ。
今の私達は、あの二人に必死に食いついているだけ。
ようやく、二人の背中を追うスタート地点に立てたんだ。
無謀なことはしないし、することはない。
ソロは効率は良いが、常に命の危険がある。
だからそんな無駄なことはしないで、いろんな所と交流して上層を目指そう。
「どんな内容かな?」
「大丈夫だよ、多分激励だから」
「そっか。私のも激励よ」
『ユウキへ
仮初のギルドからの卒業、おめでとう。
これで君は自由の身だ。きっと、いろんな想いを背負っているだろう。
しかし問題などない。
その対処方法は、私がしっかりと教え込んだ。
これからはそれらを活用して、しっかりと生きていくんだ。
ありないがありえなくもない、私が死んでキリトやアスナが死んでしまっても、
怒りや憎しみに体を任せるな。
常にユウキ、君自身を信じて前に進め。
後悔なんて、無限に近い有限の時の中で腐るほどできる。
私はお前を信じている。
細かい内容は後に通達する。
最後に通達するが、私の後を付いてくるのはやめておくように。
憎悪と怨嗟の悲鳴を常に浴びる事になる。
ここできっちりとした区切りをつけるべきだ。これは君の為になる。
もし区切りを付けられないのであれば、我らが『ラストワルツ』に戻って来い。
いつでも我々は待っている。
……本当に、逢えてうれしかったよ、ユウキ。
』
勝手すぎる。
でも、一人前だから、世に放たないといけない。
それがこの世界から抜け出せる第一歩になるのだから。
私はユウキをいつの間にか見つめていたようで、ユウキは私の視線に気づくと微笑んでくる。
私も微笑み返す。
なんというか、勝手で突き放すような感じだけど、愛情にあふれてるって感じ。
まだ一か月しか経っていないけど、この思い出は大切にしておきたいな。
この後ラストさんに会うのは、常にボス部屋かその対策会議の時だけになるのだった。
そしてしばらくは、ユウキとも離れて自分自身の錬磨に励む事になったのだ。
此処三日ほどはキリト君とも一緒に行動していたけど、ラストさんとの約束を果たす為どこか別の所へ行った。
「また、逢おうね!」
「ああ!」
「アスナも元気でね!」
今日も一期一会。嗚呼、良い天気だなぁ。
私はフィールドへ駆け出していった。