SAOのデバッガー   作:名無しの権左衛門

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18:相棒<キリト視点>

18:相棒<キリト視点>

 

 二層の主街区である宿で、アスナとユウキに事の説明をはぐらかしてメールを送り、

ユウキの気持ち整理を言い訳にして部屋で休む事にした。

俺は屈伸と欠伸をして、ベッドで寝着く。

 

このままログアウトを行う。

 

「……よっ、和人」

「ああ、誠璽」

 

 深夜な中、ホットココアを飲んでいるラストオーダーがいた。

彼は俺にホットココアの入っているマグカップを渡し、そのままベランダに出る。

ベランダから見える、俺の家。

 

『KEEP OUT』の文字が履いている黄色のテープの残痕が、今でも生々しくのこっている。

俺もベランダに出て、今の満月が9時方向に出ているのを風情と思って確認している。

 

「暫くは勉強できないな」

 

 ラストはココアを飲みながら、黄昏る。

ほぅっと白い息を吐き、精神的にリラックスして体を解す。

肩を抑えず、マグカップを交互の手に渡らせながら腕を回す。

俺も胸を張って、背筋を伸ばしてストレッチをする。

 

 ずっとねむっていたから、眠たくない。

この後飯を食うが、一応骨芽細胞と破骨細胞のバランスを整える為、しばらくは立っておく必要がある。

昼夜の逆転。

勉強不足。

今もSAOでは、命がけで皆が戦っている。

でもこの時間は、ほとんどの皆が眠っている。

だから俺達は起き上がることができるのだ。

 

「今日は温かいな」

 

 俺は暖かい空気を感じ、肌寒いそよ風を受けて身を震わせる。

若干空気が乾燥しているみたいだ。

 

「今日は太平洋からの高気圧の上陸だそうだ。

 でも、日本海側の低気圧とぶつかって、数日後は豪雨だそうだ」

「前線ができたのか」

「等圧線も狭い。結構荒れるかもな~」

 

 さて……本題に入ろうか。

俺は背中をベランダの手すりに掛け、左肘も手すりに置く。

 

「なあ、誠璽。これからどうするんだ?」

「オレンジプレイヤーの撃滅に移る。

 現在SAO一か月のプレイング時間となっているが、死者数は400名ちょっとだ。

 その中で死者数が、異常に上昇していっている。

 今はほとんど放置で構わないが、一層のキバオウらによるギルドが頑張らなければ、

 自力でなんとかせにゃならんだろ。和人はどうすんだ~?」

「俺はそのまますすむとするよ」

 

 まだ4階層だしな。

あの剣と鉄の世界を堪能してから、後顧の憂いを払拭しにいくさ。

それにその死者数は、一定の値まで増加しているだけだ。

きっと、元の水準に戻るさ。

何故なら、不用意な人が減るからだ。

 

 どんな世界でも、弱い者は淘汰されてしまう。

故にちゃんとレべ上げをしていない人達は、いつでも命を奪われる立場にあるんだ。

だから、あの世界に残るのは運のいい人と己を律する強い人だと思う。

 

「二人とも、お帰り」

「ただいま」

「先程、帰ってきました」

「ごはんができた。さあ、来なさい」

 

 俺は誠璽の父親に挨拶して、誠璽と夕餉を共にする。

ふー、温かい。

そういえば、直葉はどうなっているんだろうな。

彼奴とは距離を取ったままだ。今会うにはいかないけど、次会う時は無事を伝えられるようにしよう。

 

 晩飯が終わった後、俺達は再びもう一つのSAOへ入る。

ここで行うのはボス戦と共に、レアアイテムがどんな形で入手できるかだ。

そのバリエーションは無限に近い。

 

 クエストは基幹プログラム、『カーディナル・システム』が完全自動生成している。

全てを統べるこいつは、茅場のIDで命令情報を与える事ができる。

まあ面倒だからしないが。

さて、アイテムフラグと共に、今現状で出されるイベントボスとボスを倒してみよう。

 

 

 俺達は今後巻き起こされる事件よりも、稼働範囲を広げる方が有意義だと感じる事になる。

何せ俺たちは、命を懸ける戦闘の方が得意だからだ。

戦術で上回るその瞬間、多くのアドレナリンがあふれ出す。

 

 主に90~100層の敵やボスと戦闘したり、お互いのデータを賭けた誠璽との戦闘が楽しい。

こうやって何も考えず行動できるのは、凄く清々しい。

 

 

「まあ、最初は75層までクリアした方が良いな」

「フィールドボスは倒すのか?」

「モチベの為、倒さない方が良いだろう。

 まあ、一番いいのは、ボス攻略に参加することだな」

「だな。あの一層のボスが、かなり強かった。今後も異常に強化されることは間違いなしだろ?」

「ああ」

 

 俺達は戦略を練ったり、アイテム等全てを再確認して戻った。

 

 

 そこから数か月。

 

 本当に強化され、地獄を見るのは今まで何度もあった。

しかし、本当の地獄はこれからだった。

主に辛かったのは、22層と25層、30層、34層、40層、44層、50層だ。

クォーターポイントは勿論のこと、10の倍数と4層毎がきつかった。

 

22層が一番ひどいと言っていいだろう。

あそこは殆ど敵がポップしないのに伴いとても弱く、とても稼げない場所だった。

 

それなのに、あそこのボスはヤドカリ。

最後のHPになった瞬間、背中の殻から大砲の筒が8方向段違いに出現した。

そこから繰り出される弾幕は、多くのプレイヤーの命を奪い元ラストワルツ・アリアフィナーレだけになった時、

誠璽が出現し瞬く間に周囲のプレイヤーを復活させた。

 

ラストアタックだけは俺が決めた。

 

 そして軍の奴らが、23層から出しゃばり始めて状況が変化した。

最初は飽和攻撃で一気に体力を削り切った。

それでも足りなかった。

25層。ここはもともと戦国武者がいた。

そう、ただの武者だった。

 

それなのに、何故か本多忠勝という名前で出現した。

蜻蛉切りによる軍の蒸発。

俺とヒースクリフ以外は瀕死。しかも、誠璽はどこかに行っていたのか、出現するためしがなかった。

アリアフィナーレも、エギルとマーベリックがいないのでタンクが不足し全滅した。

 

あの場所に居たのは、俺・アスナ・ヒースクリフ・ユウキだ。

俺の持つフリースキルを使って、全力で攻撃してHPを減らした。

最後に手に持ったのは、妖刀『村正』と『草薙の剣』。

一族郎党全てを殺す呪いと全てを切り拓く希望の光が、瞬く間に交差。

 

対するのは、俺とタゲられたヒースクリフ。

 

異常な強さに、アスナもユウキも手が出せず、ヒースクリフも防御のみだった。

俺がダメージを与え、偶にアスナとユウキへ行ったタゲをフェイトを溜めて戻した。

体力は4段の中の4分の3。

携帯砥石で回復させていったが、もう無理となる。

武器の耐久値が限界にきて、ボスの攻撃を防げずアスナとユウキが死んだ。

 

かするだけで武器の耐久値を減らし、体力をも消し飛ばす。

此処までの絶望はなかった。

 

 そんな時、一つの剣筋が見えた。

 

それは一瞬でHPを削り切って、一段目の二分の一まで減らせた。

そいつの正体は誠璽だ。

俺にはできない、あたり判定を潜り抜けた1ドット先にある空間にたどり着き、異常を感じた自滅狙いの『フリースキル』。

 

「そう、抗いは無意味だ」

 

 あいつは一瞬でコンソールコマンドで、死亡したプレイヤーをエフェクトを輝かせて転移させ、

転移先でレスキューを行ってこの場に来た。

反応速度の俺、意識下の行動速度のアスナ、天才肌で勘が鋭いユウキ。

そして、全てを凌駕した誠璽。

アイツ曰く、剣撃に慣れているだけということ。

 それでもおかしいと思う。

あの速度は異常だ。

初めて見せるその速度を見て、俺は触発されたのかアイツの釼先が見えた。

 

 俺はあらんかぎりの力を込めて、咆哮を上げる。

 

25層の無双武将を撃破する事に成功した。

 

戦死者は0。俺は復活したアスナとユウキに、思わず抱き付いた。

良く生き残ったと。

誠璽が馬鹿な事をすることはないと思っているが、万が一があるかもしれない。

そして俺の中の緊張がほどけたこともあるのだろう。

 

「ちょ、キリト君っ。くすぐったいよ」

「あはは、ごめんねキリト。心配かけさせちゃったね」

「二人とも、良かった……本当に……」

 

 誠璽はというと、メールだけを送ってきて去った。

メールをすぐに開封し、中身を見る。

そこには、上の階層で待っているということだけ書かれていた。

この旨を二人に話、大体のメール内容を確認しあった。

 

 その時だった。

遂にヒースクリフを含めたギルド団が、俺達の方に近づいてきたのだ。

 

「ちょっといいかね、君たち」

「何かな」

 

 俺は突っぱねると云う訳ではないが、警戒を以ってあたる。

かなり前から、俺達に対して1層のボス後の出来事を訝しむ連中が、戦後にいちゃもんをつけにくることがあった。

その内容は、ひどく程度が低く、無視するだけで対処できるものだった。

 

 だが今回は違う。雰囲気がほかの私欲に塗れたギルドとは、一風違うのがよくわかる。

見た目もそうだが、所作・身に纏う覇気・表情が自身に満ち溢れているんだ。

このような英雄たる存在がいるからこそ、俺を含めたプレイヤーは気圧されず頑張ることができる。

 

「君たちはどこかギルドに入っているのかな?」

 

 厳かな雰囲気だが、やわらかい口調しかし事務的な感じで話し方で確認してきた。

俺はこの状況に関して、既に応答を決めている。

 

「いや、何処にも入っていない」

「っ、ええ、そうよ」

「……そだよー」

 

 一瞬アスナが眼を見開いて、えっという表情をした。

しかしすぐに表情を固くして、真面目に応答する。

ユウキは一瞬固まって、笑顔で応答する。 

 

 よかった。最初からずっと、ラストワルツのありように関して語ってきた甲斐があった。

そうだ。この時を待っていた。

きっと俺でなく、アスナまたはユウキだろう。

実際現実の軍隊でも、女性が指揮官だと良いところを見せようとして多くの割合を占めている男が、

通常より見栄を張ろうと頑張るのだ。

男は既に茅場が担っている。

それに、少数精鋭だ。

紅一点の方が、効率もいいし連携もよくなるだろう。

 

「そうか、それは僥倖だ。

 おっと、私はヒースクリフ。血盟騎士団、Knights of the Bloodの団長だ。

 君たちの名前を教えてくれないかな?」

「俺はキリトだ」

 

 俺は惜し気もなく云う。

ここで隠そうとすれば、変に訝しまれる。

そして疑惑が深まれば、前線での不和に陥ってしまうだろう。

 俺がさっさと答えたことに、アスナとユウキは狼狽える。

一応、動揺の最中自分の名前を云えた事は賞賛すべきだと思う。

 

「さて、単刀直入に言おう。君たち三人、我がギルドに入り給え。

 理由として、君たち三人の息の合い様は俯瞰からみても、安心感を与える。

 その実力の高さを、我がギルドに入り装備等をきちんと整えた中で示してほしい。

 その誇示こそが、アインクラッドから我々約一万人の囚人の解放への近道となる」

「そうか。俺は現状に満足している。今はやめておこう」

「分かった、何時でも待っている。さて、他の二人はどうだろう。

 そのままでは、何時か死ぬだろう。

 むざむざと死にざまを晒したくないのであれば、我がギルドに入り給え」

 

 茅場は俺の勧誘に失敗して、ソロの危険性と不安要素を盛り込んでアスナとユウキを言い包めを始める。

アスナはメールを開いたままなのか、そちらを見ながら考え結論に至ったようだ。

 

「わかった。でも、妙な事したら抜けるから。

 貴方の傘下に行くのは、早急にここから出る為ということを心得て置いて」

「そのことについては勿論だ、確約する。さて、最後の君」

 

 茅場は優秀な駒を手に入れたようで、満足しているかのようだ。

ユウキに目線を行かせると、ユウキは真剣な表情で茅場を見る。

 

「あのさ、料理スキル高い人いるの?」

「いや、食事については各々自由にしている」

「じゃ、やめとく。あ、でも、保留にしといて。

 料理スキルがMAXになったら入るよ!」

 

 凄くずうずうしい様に思える。

だけど、ユウキの気持ちも分からなくもない。

彼奴は誠璽の事を、気にしている。

愛しているのか、好きなのか気づいていないだけで、心の奥で感じているのか。

よくわからないが、俺とアスナはユウキの誠璽に対しての事について相談を受けていた。

 

 何故このような言いぐさになるのか、ちゃんとはぐらかさずに言おう。

つまり、ユウキは団体によって縛られたくないということ。

ソロだからこその危険や不安がある。

しかしそれと共に、自由がなくなってしまう。

それだとユウキは、ラストに逢いに行けなくなってしまう。

 一応ユウキとラストは、定期的に出会っているようだ。

証拠に誠璽からメールくる。

基本的に内容は、ユウキをこっちに来させないでくれというものばかり。

嫌っているんじゃなくて、オレンジ化させてしまう危険性を孕んでいるからということらしい。

あいつはオレンジを潰して、黒鉄宮にぶち込んでいくことが娯楽と化しているから、

その巻き添えにしたくないのだと。

 それでも精神的癒しになっているようで、この間も飯を食わせたとのことだ。

勿論、俺やアスナも偶に世話になっている。

例えばダンジョンで地図縛りで、村まで帰ることができなかったりとか。

料理スキルの熟練度が最大であるから、基本的に全てがおいしい。

現実の調味料は大体できているんじゃないか?

 

 

 と断ったユウキは、俺に一言言って先に上層へ走ってった。

 

「キリト、ラストに逢ってくる!」

「おう、いってらっしゃい」

 

 早急な行動に、茅場は口を開けずそのまま見送る事になる。

そして俺達の方を見る。

 

「では、アスナ君。我々と共に行こう。しばらくは会えないので、彼とあいさつをして上の階層に

来てくれ給え。そこで、色々な処理を行う」

「わかりました」

 

 数名のギルド員とヒースクリフは、俺達の前から上層へ登って消えて行った。

俺とアスナは向かい合う。

 

 

「アスナ。ラストワルツは仮初だが、それはいつでもそこにあるということだ。

 必要であればいつでもかけつけるし、共に戦闘・臨時の編成もする。

 今まで学んできたこと等全て胸に刻み、歩んでいってほしい」

「解ってる」

「というわけで、だ」

「?」

 

 俺は予備としてストレージに入っている、耐久度が半端ない攻撃力皆無の木刀を二本取り出す。

この内一本をアスナに投げ渡す。

本来ならば、用途のないオブジェクト化は無意味に耐久度を無くしてブレイクされてしまう。

しかしこいつのばあい、耐久度が高すぎるので時間制限で消える。

 

だからこそ、演出として果し状や卒業試験っぽいことができる。

死が現実であるから、木刀のぶつけ合いで木刀のみの耐久値を使う戦闘は気が楽なのだ。

 

 体力など色々あるが、攻撃力が皆無でも接触で耐久値が減少していく。

体力でなく、その武装の装甲であるため強く触れると減っていく。

よし……。

 

「アスナ。俺に降参を認めさせてみろ。制限時間は10分。行くぞ」

「ちょ、行き成り過ぎない!?」

「不意打ちには気を付けろよ?」

 

 俺はアスナに決闘を申し入れ、丸ボタンを押した瞬間から攻撃を開始する。

この戦闘は俺を負けさせること。

つまり武装を解除したり、破壊することで敗北を認めさせることだ。

 

 このボス部屋は既に俺達以外いない。

故にここを走り回ってもいいし、壁や天井を利用した攻撃をすることも可能だ。

 

 アスナはその木刀の特性を利用し、細剣のスキルを使う。

木刀は模擬刀であり、全てのスキルを使え熟練度を溜めるためだけの武器だ。

お互いを触れ合わせ、結構な多さの耐久値を無くすことで破壊できる。

一応武器であるがため、熟練度は溜まるし武器防具の耐久値を1減らしていく。

体力は減らない。

 オブジェクト化によるブレイクまでの待ち時間は5分ほど。

その間に握れば、その人物の得物になる。

 

「ハアッ!」

 

 隙の小さい『リニアー』で突いてくる。

それを目視で、指先で捌く。

 

俺は構えず、アスナの出方を待つ。

アスナは体の重心移動を簡単な脚移動だけで行う。

しかも無駄に体を動かしている。

 

 殺すか殺せないかの間合いを作っていない。

そんなぐだぐだじゃ、俺に一本入れるのは難しいだろう。

現実だと剣道全国へ出場するやつとタイマン、VRだと誠璽と頂上付近のボスとボスラッシュ。

精神的疲労・肉体的な疲労は、この世界だとあまり感じない。

だからこそ、現実とVRの経験を一つにすることが可能だった。

 

 おかげで、アスナの鋭い攻撃はともかく、ゲームに備え付けのスキルの大半は見えるようになった。

結局鋭いだけで、本人が動きまくっている。

腕の可動範囲を補うがため、この世界のメリットを使っているのは理解できる。

しかし、反動や隙が大きすぎる。

 

それだと対人戦術がなっていないとみなされ、包囲されて終わってしまうぞ?

 

 剣舞というより、ダンスかな。

コサックを踊って、火花を散らした方が美しく見える。

俺は空中で体を捻り、腕の可動範囲を広げ最後に振り切った時、背中にスキルを放つ。

木刀でなく、左拳を使う体術スキルで迎撃する。

 

アスナの身は空中にあるので、そのまま地面に向かって行った。

ただ空中制御が非常に上手なので、ダメージの分散を行われる。

 

そのまま地面に着地する。

 

「キリト君も攻撃したら?このままだと、木刀が壊れるよ?」

「ああ。俺もそろそろだと思ったんだ」

 

 『スクエアドライヴ』。

 

「っ!」

 

 俺は一気に突進系スキルで距離を縮めた。

木刀を前に突き出す態勢を取っている。

このスキルにより刀身が光り輝く木刀に、アスナは目線を行かせ集中してしまっているようだ。

俺はこの隙に、『投擲』を引き起こす。

ピック等、投擲専用武器でなくとも投擲が可能な技術を使って、そのまま木刀のみを突撃させる。

光り輝く木刀はそのまま突撃し、それのみに視線を行かせ俺の姿や認識を意識と視界から乖離させた。

 

 アスナは俺が使っていると思っている木刀を当たる刹那に、己の得物で弾き飛ばす。

しかし俺は既に、腕と腰と脚とを使い重心移動させ体術スキルを発動する。

突然の攻撃とあふれ出るエフェクトと不意打ちで、意識と視界が木刀に注がれる。

おかげで、アスナは木刀を弾き飛ばす事に成功したが、俺の殴りが鳩尾に叩き込まれる。

 当の本人は、痛覚等の神経伝達物質の制御により強烈な違和感を、腹部全体で感じていることだろう。

メリメリと腹部にめり込む拳は、そのままアスナに致命傷を与え遠方へ飛ばす事になる。

弾かれた俺の木刀は真上に飛んだ。

そしてアスナは違和感を強烈に感じながら、眩む視界をそのままに地面に寝転がる。

後方へ飛び退いていれば、体力は急激に削り取られることはなかったろう。

 

 アスナは違和感を感じながら上体を起こすが、ほぼ真上から落ちてきた木刀がアスナの木刀に突き刺さり、

彼女の得物を破壊した。

如何に耐久値があろうと、アスナの猛攻の時1ずつ減少する様に捌き、木刀の弾道下で破壊出来たのは僥倖だろう。

 

俺はアスナを嘗めるわけにもいかないので、すぐに木刀を引き抜いてアスナの首元に切っ先を向ける。

 

「どうする?」

 

 俺は自信満々だった彼女に、満面の笑みを浮かべる。

 

「……負けました」

 

 激しい呼吸を整えながら、苦笑いを浮かべそのように応えた。

”WINNER”の決闘勝利アイコンが、頭上に出現する。

 

 俺はアスナに手を差し伸べる。

しかしアスナはその手を握らず、自力で立ち上がる。

 

「私は未熟だけど、これでも一人前。

 いつまでも、助けられる生徒でいられないのよ」

「流石だ。だが、死んだときは助ける、助けられる。

 だから、自分の命を最優先に」

「わかったわ」

「最後に……」

 

 俺は卒業として、誠璽がつくった卒業証書という名のバッジを渡す。

それと割り込みをかけて造った新システムのOriginalSwordSkill[OSS]が入っている『セイクリッドキュアライズ』を渡す。

白銀の細剣で、今のレベルの能力値では到底持ち切れない。

勿論邪魔になることは当然の摂理なので、メールに情報を隠しておく。

このメールは読むじゃなくて、開封という選択肢になる。

これを開けるとこいつが出てくるのだ。

 

「じゃあな、アスナ。また会おう」

「直ぐ会えるよね?」

「ああ」

 

 俺は木刀を仕舞い、後ろへ振り返り入り口の方から出て行く。

この上の層。そこはまだ、俺が行くべき場所じゃないからだ。

此れから行くのは、22層。

誠璽と共に見繕っていたログハウスを発見するためだ。

 

歩みを進め、入り口から出ようとする。

 

「キリト君!」

 

 再びアスナの聲。

俺は足を止めてしまう。

何故だろうか。それはわからない。

ラストワルツは仮初であり、虚空でありその場にあるものだ。

いつでもどこでも、メールでもいいだろう。

この場で確認することは何もないはず…なんだけどなぁ。

 

「私は血盟騎士団として生きていくけど、後ろでもいい!一緒に戦ってくれる!?」

 

俺は後ろを見ない。

別れたんだ。今更であるし、今後も会える。

 

だがそれでも……アスナが常に俺の近くに居ることが、当たり前じゃなくなるのは悲しい。

 

アスナもそう思っているのだろうか。

一時の別れなのに、こんなにも胸に痛烈に来るんだな……初めて知ったよ。

嗚呼、俺も触発されたようだ。

 

 そう、アスナの聲が震えている。

俺も震えている。

 

これが、一区切り。

 

このクォーターポイントで、俺達が変化した瞬間。

だからこそ、俺は応えなければならない。

 

もう彼女は、教え子……生徒ではないんだ。

これからは、共に生きる相手として見なければならない。

 

嗚呼、俺の答えは決まっているじゃないか。事前の決定事項なんだから。

 

「ああ!これからも…ずっと、共に戦って行こう!肩を並べてな!」

 

 俺は最高の相棒であり得物である剣を、振り抜き頭上に掲げた。

 

「っ! ぅぐ……ありがとう、キリト君!」

 

 嗚咽が聞こえた瞬間、得物を仕舞い全力で駆け出しこの部屋を出る。

永久の別れじゃないのに、まだ出会って半年なのに……この胸の辛さ・痛さはなんなんだよ!!

 

 

 俺はアスナが常に隣にいない事に空虚をおぼえながら、想いでの場所を巡る。

なんら変哲のないところでも、俺・アスナ・ラスト・ユウキの一つ一つ一瞬の想い出が詰まっている。

 

 一か月のラストワルツ4人での和気藹々とした生活。

それからラストが抜けて、アリアフィナーレの合併と解散。

俺とアスナ・ユウキとの合同生活。偶にラストと出会って、飯を作ってもらったっけな。

 

 現実に戻って誠璽と会う。

これは普通であり当たり前だ。

しかしVR世界ではバラバラだ。

 

「はぁ……あの時に戻れたらな……」

「そうだよネーあの時が、キー坊の至福の時だよネー」

「……なんでアルゴがここにいるんだ」

 

 情報屋アルゴ。とあるクエストによる副作用で、頬に三つの猫髭が描かれて敏捷特化のパラメータをしている。

喋りや仕草は、どうみてもロールプレイしている見た目お姉さんだ。

しかし、その顔つきは幼く、実質の年齢は非常に若いだろう。

 

「あはは、なぁニ。今回のクォータボスに関しテ、情報収集中でサ」

 

 要は知り合いから、色々聞きだしているのか。

ということは、アスナとの別れも収録されているのか?

たまらんな。

 

「流石ニ、恋慕はネタにゃぁできんナ」

「一銭にもならんしな」

「ところデ、ラストは知らねぇカ?」

「知っていたところで教えるとでも?」

「うんにゃ。しっかし、ラストワルツは凄いナ」

「何がだ?」

 

 あっさりと引き下がるアルゴに、少々驚きながら移り変わる話題に集中する。

 

「ラストとキリト。あんたら、本当にβテスターカ?

 あの噂を流布・吹聴したガ、ラストをしっている奴らは訝しんでいたゾ?」

 

 βテスターといつわった初心者としてか、それともβテスターらしくないプレイヤーか。

どちらか真意が読み取れないな。

 

「さあどうだろうな。お前が思っている人物像を当てはめたらいいだろ。

 価値観や論理観、疑問点、観点等の思想思考は本人らの経験により変化する。

 一概にソレだけに指し示すことはできない」

「お前たちハ、βテスターじゃないと言っているやつがいル」

「ああ、知っている。メールから確認したが、アイツが始末した」

「仕事が早いナ」

「アルゴには負けるさ。用事はそれだけか?」

 

 俺は尚も情報を集めようと仕草や視線・目線・表情の変移を逃さぬよう目を鋭くさせている彼女に釘を刺す。

一応、これ以上は無意味という事を、言葉の中に含めた。

 

「……いや、まだダ」

 

 この鼠、存外しつこい。

アスナとのことは既に頭から外しており、いつもの攻略組として脳を働かせる。

 

「キリト、ラストをけしかけて一気に100階クリアできないのカ?」

「……」

 

 ああ、よくある叫びか。

俺は黙して聴く。

 

「できるんだろ?お前とラストだけが、あの25層のボスを削り切った。

 誰にもできない事ができるんだゾ。

 なのに、何故ギルドを作るだけで、人を集めなイ?

 あたしらは必死で、現実に戻りたいと思って頑張っている。

 なのに、お前たちは手加減して、解放しようとしなイ!

 ふざけているのカ?約一万人のプレイヤーと死んでいった者達に対して、

 早く戻れるよう努力するような事を態度や行動で示したカ?

 そんな戯れ事で、全員の命を弄ぶようなことはするナ!」

 

 俺はしばらくだんまりを決め込む。

しかしアルゴが口を閉じて、こっちを睨み付けている。

会話は終わりかな。

そんじゃ、反論すっかな。

 

 一度溜息を吐く。

 

「実に素晴らしい演説だよ、アルゴ。誰にこんな説明文を読むように云われたんだ?

 まさにチュートリアルにある説明文そのものだ。真に稚拙で、心に響いてこない。

 いくら貰った?まあ、どっちみち、どうでもいいけどさ。

 なんというか、どうでもいいな。

 音楽下手で作れない奴が評論家をしている日本現代を描いているな。

 何もできない作れない、金すら払わない、そんな奴らがクレーマーをしているようなものだ。

 現場で緊張や不安に見舞われ、命や凌ぎを削る人に対しての言葉か?

 それに全体の利益、命に関して公の意見として提案しているようだが……。

 ただの負け犬の遠吠えにしか聞こえない。

 つまり、全体といって偽善を繕い、見立てを失敗した命が惜しい現実を恐れた愚か者の呟きだ。

 そんなものを聞き入れる時間も耳もない。

 今日はありがとう、とても有意義な時間を退屈な語彙と弁舌で無駄にしてくれて。

 非常に腹立たしいから、そいつはレスキューしない様に伝えておくよ。

 他人の為といいつつ、個人主義独りよがりなニートは滅ぶに限るよ。

 じゃあな、アルゴ」

 

「ああすまなかったナ」

 

 はぁ、無駄になった。

そういえば、あの時からほとぼりは全く冷めていない。

むしろ、レスキューの御蔭で、助けを求める人間が増えた。

俺達は特別じゃない。

事前にそういう事になるから、そのように行動しただけだ。

 

 もし、警察等にとどけでても権威レベルの茅場に、言葉など届かないだろう。

更にただの推測レベル。

ただのゲームのスタッフが、プロデューサーにゲーム仕様以外で口出すことは御法度だ。

だから、このVRゲームの販売は止められなかったと言っておこう。

 

 結局、それに対応するために、今でもカーディナルに消される可能性がある中、レスキューやバグを使って、

このゲームに挑んでいる。

そう、カーディナルはバグや不要なものを感じると、ブレイクするようになっているんだ。

フレーム問題に変化した瞬間、その原因と要因をつきつめて削除したり整合性をとることで、元に戻している。

 

 それなのに、強烈なスキルであるレスキューは、今でも存在しているか。

理由の一つは、使用時の強烈なデバフにあるらしい。

本人がいうには、転んでも、石ころでも、何かに触ってフラグがtrueになった瞬間全てがアウト。

HPが0になるという。

 

それでも0にならないのは、並行展開で敵の攻撃に当たらない様にスキル使用期間中に撃破するからだ。

基本的に今までのボスは、さっさと転移または移動しているのはそのためだ。

戦闘後はデバフのみ残って、硬直は終了する。

故に、回復作業をせず、自爆しない様に逃げ去っているんだ。

 

 それで快復させて行った現状が、この救助と恵みを求める強欲な人達の聲だ。

醜い。

かつての根性と精神論で語られていた日本の惨状だ。

頭が逝っている年長者から、発達異常の幼児まで。

差別から平等、黒人から白人、強者から弱者……。

俺達が求めていた……傲慢か、でもこんな筈じゃなかった。

 

 今のラストは黒鉄宮にぶち込むのは、何もオレンジだけじゃない。

体力を回復して戻ってきたプレイヤーや投身自殺を図ろうとして助かったプレイヤー等、

色んな人を助けた結果暴力を振るわれることがある。

そんな気の触れた彼等を、豚箱にぶちこんでいるんだ。

 

ラスト曰く、人間の心理や価値感は命の危機に近ければ近いほど、醜く愚かになりやすい。

そうでないのは、非難批評する人間より外部の戦場で死にやすい。

逆に非難批評しかしない内向者は、内部の剣呑で凶悪な感情と治安維持の武力により死にやすいという。

 

 本当に生き残るのは、抗う三猿達磨だとさ。

雰囲気や状況に流されず今に抗い、見ざる聞かざる言わざるで七転八倒な泥臭い人間。

 

 

 ……そうか。俺はアスナに精神面で依存してたのか。

だからか……空虚でやるきが起きない訳なんだな……。

 

 嗚呼、アスナ……逢いたいよ……。

 

 

 俺は宿で一週間引きこもった。

ボスは楽勝だった。

 

 

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