SAOのデバッガー   作:名無しの権左衛門

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20:憧れ<アスナ視点>

20:憧れ<アスナ視点>

 

 第25層フロアボス部屋。

 

 私はあこがれていた。

ううん、今も憧れている。

 

もう48層に来ちゃった。

 

 今までいろいろあって、本当に大変で苦労した。

有名ギルドの副団長っていうのも、やっぱりつらいなぁ。

 

 でも、今日はオフの日!

ヒースクリフ団長直々の辞令がでて、私は三日間休む事が許された。

何をしようかなって思ったら、やっぱりキリト君だよね!

 

 今までたくさんお世話になっちゃった。

だけどその中で、いろんな大切な事を教えてもらった。

特に私は25層のこの場所で、『当たり前』がそばからいなくなっちゃうと凄く寂しくなるというのが身に染みてわかった。

『当たり前』。

それはキリト君が常に、私の憧れで目標で……一緒に戦う戦友だってこと。

 

 あの日から、私の隣には誰も居なくて……。居たには居たけど、任せられなかった。

それで私はフィールドボス・フロアボスで、戦果を勝ち取っていった。

戦果を勝ち取るほど、私の隣は空席で逆に真後ろにたくさんいた。

 

 顔を前以外に動かしてはならない。少しでも揺るがすと、皆の勇気や指標を崩しかねないから。

皆戦友だけど、戦友じゃない。

常に隣で戦っているわけじゃないし、私が他者から指示や御願いをされることもない。

……変わらない現状に、凄く寂しくなった。

 

「アスナ様!」

「副団長殿!」

「閃光さま!」

 

 男性の色に染まる瞳と態度。

 

「血盟騎士団副団長様!」

「閃光のアスナさま!!」

 

 女性の物として見る蔑みの眼と裏腹の態度。

 

 嫌だ。

でも解放できるプレイヤーとして、恐怖に打ち勝てる人間として負けられない。

私はこの圧力に勝ち、責務を全うして見せる! なんて、息まいていた。

なんとか正気を保って、ラストワルツ・アリアフィナーレ以外のプレイヤーを導いてこれた。

でも、もう…限界が近いかな…。

 

 

 最近は私を除いたラストワルツ・アリアフィナーレのマーベリック・団長だけがフロアボスで生き残ってる。

だから攻略組の人数は、先細りしていってしまっている。

だって、安全マージンを取得していても、一瞬で蹴散らされてしまうんだもの。

ラストアタックすら参加できないのだから、命を懸けて参加する意味がないわ。

 

 あの時に戻りたい。

私がキリト君とラストさんの背中を追いかけていた頃に……。

 

 

あの時、私の前にはキリト君とラストさんがいた。

そして隣にはユウキがいた。でもユウキは走り去って、ラストさんの隣に行っちゃった。

一瞬で独りになってしまったと思った。

でもユウキが振り返って私の手を取って、離れゆく私を引っ張ってくれた。

しかもキリト君が常に私の隣について、ラストワルツの仲を取り持ってくれた。

 

 

 過去は過ぎる程、甘美なものになる。

そういうように、私の過去への想いは美しく懐かしいと思える物になってしまっていた。

 

 確かに非常に辛い事もあった。それでも、おいしい食事や皆と笑い合える事が度々あった。

団体行動がだめというわけじゃないけれど、その自由さこそが懐かしくまた味わいたいと思うものだったりする。

私はまた共に戦いたいと思ってる。

だって皆、私の表しか見てくれないから。

 

 キリト君・ラストさん・ユウキ。

皆私の内面を見て、存在を感じ取ってくれる。

そして私の今に足りない、教えられるということを平時の感情で行ってくれる唯一のギルド。

 

「今日、フロアボスを倒します」

 

 フロアボス攻略会議だと、皆が私を見ている。

期待しないで。私はそれほど、凄い人間じゃないの。

心を強く持って、この0と1に支配されている世界に負けたくないとおもっているだけなの。

まだ現実でやり残したことがある。

その為に、帰りたいだけ。

 

 皆それを想い願い、行動を起こしている。

だから皆はその行動や意思を統一できる人を探している。

その適任者は私。

 

嗚呼、今日も重責に押しつぶされてそのままやられそう。

 

「よっ」

 

 いつの間にか私の隣に、キリト君がいた。

今日も全身真っ黒で、闇夜に抱かれる中レベリングをしているみたい。

私もキリト君に教授を受けているとき、所作を昼に行って応用を夜に行ってた。

昼は非アクティブモンスターや比較的弱いモンスターが多い。

夜はアクティブで強いモンスターが出現し、周辺を徘徊する。

この昼夜の差で、私はキリト君やラストさんにいろんなことを教わった。

 

 懐かしいな。

 

「どうしたんだ、アスナ?こんなところでしょげくれて。まあいい、俺と付き合ってくれ」

 

 私はキリト君から差し出される右手を、黙って握る。

その瞬間、私はキリト君に手を握られて体諸共引っ張られる。

『並行展開』で私の身体を武器として認知させて、一気に長距離を移動した。

 

 瞬きを一回しただけ。

その隙に来たのは、35層にあるとあるクエストの場所。

このクエストは、『第一回』と明記されている段階にわけられているクエスト。

なんでもこのクエストは、ある程度親しい人同士でないとできないって……。

 

え?

 

「キリト君、ここ……!」

「アルゴから聞いているだろ?ここには、まだ誰も見たことのない報酬がある。

 俺とアスナなら絶対に行ける」

 

 私はいまだに握られている右手に、少しばかり力を入れられる。

痛くない。寧ろ温かくて、離したくない。

更にキリト君の絶対の確信に、私の身体と心は熱くなる。

 

「うん。当然よね」

「……ああ。アスナ、行くぞ」

 

 キリト君が既に受注してあるクエストを、私の方にもコピペして受注済みにしてくれた。

私は萎え萎んだ闘志の炎を、細剣を抜くと同時に燃え上がらせる。

細剣は左手で握る。右手はクエスト内容の一つである、『肉体の一部制限』で封印されていた。

ここはキリト君が調べてくれていたようで、受注前に肉体の制限をしているとその制限が引き継がれるという。

おかげで戦いやすい。

 

「NPCのおっさんが云うには、この状態で来たる敵を一掃することだそうだ」

「まかせて、こんなの余裕よ!」

「よし、行くぞ!」

 

 キリト君は私の一部空元気の入った気合に、少し苦笑いしてから大声で一喝の合図を出す。

入っていくのは山奥の炭鉱のようなところ。

人工の明かりが、洞窟内を照らしている。

この明かりは途中から無くなっていて、私達が照明を点けて行かなければならない。

明かりは鍵となっていて、この電源の場所に敵が陣取っている。

 

 私はキリト君と長い間共同生活の中で培われてきた勘で、周辺の敵の撃滅に移る。

キリト君も私の可動範囲を見極め、撃破に勤しむ。

 

これを繰り返していった暁には、目の前に大きな扉。

この扉を開けると、そこは最奥部。

最奥部には祭壇があり、そこに宝箱があった。

この宝箱を開けると、中から粒子状のものが出てきて私達のストレージに入る。

 

 クリアしてストレージ内にアイテムが入ったら転移して、ダンジョンの出入り口に戻る。

私がストレージの物を確認していると、キリト君が真っ先にクエストクリアを宣告してきたみたい。

 

「っし!これで、次の58層への挑戦権が得られたぞ」

「よかったね、キリト君」

「ああ!っと、それよりもアスナ、機嫌は直ったか?」

「え?」

 

 私は嬉しそうに笑いはしゃぐ彼を見て、ほほえましく見ていた。

でもそのあとすぐに、キリト君が私の調子を聞いてくる。

『機嫌』と聞いてきている。

これを聞いて、キリト君の洞察力に感嘆する。

 

「ど、どうしてわかったの?私が気落ちしてるって……」

「…」

 

 キリト君は武器を仕舞って、私の所に来る。

そしてキリト君は、至近距離にまで顔を近づけてきた。

私は足が動かず、そのまま体を後ろにそらせる。

彼の行動に衝撃を持っているので、今動けない。

 

キリト君が目の前に来たとき、私の右手に彼の左手が触れる。

 

「ぇ、えと…?」

「やはり、な」

「どうしたの?」

 

 私はつい聞いてしまう。

彼の行動に驚愕を持って迎え入れてしまっている為、体が首から上しか動かない。

怖い訳じゃないのに、目の前から動くことができない。

 

「瞳が揺れている。確信の自信と信頼が、アスナの眼からじゃ見えてこなかった」

 

 キリト君は私の眼をじっと見て、真摯に伝えてくる。

私はその直線的な視線に耐えられず、視線をずらしてしまう。

ずらしちゃいけないはずなのに。

 

「アスナ。君はよくやっている。このゲーム性が失われた中、希望の光となって皆を導いている。

 だけど、アスナ。君は女の子なんだ、一人の人間なんだ。

 吐きだせというわけじゃない。

 だけど、何時かその内側に溜めたものを出さないと、君自身を壊してしまう」

 

 私はキリト君の心配の一言を聞いて、彼の視線と私の視線を重ねる。

誰からというわけじゃない。

でも確かな不調が、周囲に漏れていたという事になる。

 

……こんなに心配されたのは、いつ以来かしら。

 

 私はのけぞっていたからだを、今度は逆にキリト君の方にしだれかかる。

彼は私を優しく受け入れてくれる。

あたたかな心と身体。

今までの緊張と不安を解してくれるかの様。

 

 私は自然と指を動かして、右手を彼の左手と同方向に向け手をつなぐ『恋人握り』をする。

彼は全く抵抗しない。

 

 

嗚呼、安心する。

このまま眠ってしまいそう。

 

 

 でも、私にはやるべきことがある。

現実に戻らなきゃいけない用事ができてしまった。

死ねない。死んでたまるものか。

 

私は決意と覚悟を新たに固める。

 

深呼吸をして、しだれかかるように体重移動をした体を、元の自分の足で大地に立てるよう動かす。

 

「もういいのか?」

 

 私はまどろみの解けた眼を開けて、彼の純真な瞳を見る。

同情じゃない心配や配慮をしてくれて、足手まといもいいところな私をこんなに受け入れてくれた彼。

こんな人に会ったことがない。

 

私の周囲には、姑息な者ばかり。

 

だからこそ、キリト君……君に逢えてよかった。

でも、そろそろ……本当に巣立たないといけない。

 

 私は血盟騎士団副団長アスナ。

≪閃光≫の名に恥じない、立派な成すべき事をこの世界でやり遂げて見せる。

ラストワルツとは、完全に私事として区別する。

 

「うん、もう大丈夫!キリト君のおかげで、今日も明日もこれからも頑張れるよ」

「そっか。じゃあ、どこか適当な場所で休もうか。もう、黄昏だしね」

「ええ、そうしましょ」

「そうだ、アスナ。明日は22層に行こう」

「いいわよ、行きましょう」

「よし、決定だな」

 

 明日の事を決めて、早速行動する。

私はいまだに離さない、この右手を握る彼を信頼して行動する。

 

 

離れたくても、心では離れたくない。

 

これを抽象的でなく、具体的に表現するとどうなるか。

 

『好意』。

若しくは、『愛情』。

 

 大きな背中・大きな手。

私の目標の君。

 

……君はどれだけわたしの心に入ってくるの?

憧れ・喜怒哀楽・好意等、いろんな場面で君が記憶からあふれてくるよ。

 

 世界を暁に染め上げる紅の日光が、彼を照らす。

勿論私も照らされている。

 

もう、はぐらかさない。

気持ちに、私自身に嘘をつけない。

 

「……好きだよ、キリト君」

 

 私は呟く。

キリト君は、この言葉が聞こえたのか振り返る。

 

「何か云ったか、アスナ?」

 

 私はため息をつく。でも、それでもいいかな。

 

「んーん、なんでもない。あ、そうだ!この先に、おいしいお店があるのよ。

 そこでご飯を食べましょ!」

「ラストより、おいしいのか?」

「あそこまでおいしくないけど、NPCの中ではダントツよ?」

「よし、じゃあ、行くか」

「ええ」

 

 私はキリト君の横に並んで、この道を歩んでいく。

 

 あ、お店の食べ物は普通においしかったよ。

 

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