SAOのデバッガー   作:名無しの権左衛門

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21:救出<茅場的主観>

21:救出<茅場的主観>

 

 私は茅場昌彦。

今はヒースクリフとして、ギルドの『血盟騎士団』団長をロールプレイしている。

 

この世に意識ができてから、この鉄と剣の浮遊城を脳裏に思い描いていた。

そしてそれを現実にするため、全てを犠牲にしてこの世に具現化させた。

 

非常に満足している。

これ以上は何もない。

 

後は95層まで、彼らの希望として歩んで行ってやろうと思っている。

彼等が私をラスボスと知った時、どんな顔をするのだろうか。

それが楽しみでたまらない。

 

 しかし、このゲームの敵の強さはなんだ?

私が用意した中で非常に強力な『神聖剣』を無効化し、貫通ダメージを与えてくるようなものじゃなかったはずだ。

一層に用意した『フレイジーボア』。

今までのゲームでいう、スライム相当の敵がメラゾーマを使えるキラーパンサーのようになってしまっている。

 

こんな無茶苦茶な設定にした覚えはない。

プランナー・プロデューサーとして、発売元『アーガス』社長と裏合わせを行い慎重に会議を行った。

ログアウトや電子レンジの懲罰の事は話していないが、これらはシステムを知っている者であればだれでも作れる。

 

 ログアウトボタンは、それの表示とあたり判定を含む文字列や配列からデリートすればいい。

電子レンジはナーヴギアにあるフラグを1[ture]にすればいいだけだ。

 

 私はちゃんと開発者に頼んだ。

なのに、これはなんだというのだ?

そして『レスキュー』という存在と、キリト君・ラスト君という異常に強いプレイヤー。

私ですらヒット判定を与えられない敵を、比較的容易に攻撃可能な彼等。

 

……あいつか……。

あのシステム周りをいじったのは、あいつなのか。

 

「どうしました、団長?」

「いや、なんでもない。つづけてくれ」

「はい」

 

 今目の前にいるアスナ君も、彼等と共にあった者だな。

ギルドに入っていないと言われている彼等だが、本当にそうなのだろうか。

ありえない。あの強力な協力戦法は、どのギルドでも見たことがない。

 

 基本的に書かれたシステム通りにしか動かせないが、感情をしろうとするプログラムのおかげで

歪に影響されてしまっているのだろうか。

私自身が、他者の感情など知らぬ存ぜぬを貫いてきた結果、このような不定形の物体を知りたいという知識欲で

この世界そのものを変化させてしまったようだ。

 

おかげで強い喜怒哀楽等の感情により、システム関連の処理が数フレーム遅れる事になってしまっている。

フレーム処理として行わなければ、量子の速度に人間がおいつけない。

そして、このフレーム処理の途中で入れた感情の解析。

 

結果として、全てのプログラムソースに割り込んでしまい、処理が遅れてしまっている様だ。

 

「ヒースクリフ。聴いているのか」

「いや、聞いているよ」

「ちゃんと聞かねぇと、ラストのラーメン、食わせてやんねぇぞ?」

「ちゃんと聞いているよ」

 

 しょうがない。今は目の前の事に集中しよう。

相談を受けたのは、結構あったりするわけだ。

鍛冶屋の詐欺・レベル帯確認・役割特化状況等、多岐にわたる情報を彼等と共有している。

そうしなければ、私でさえも死んでしまうかもしれないからだ。

 

何せ、不死属性を無視して、このアインクラッドの建物や地形を破壊するモンスターが跋扈し始めたからだ。

 

故に、今回の『圏内事件』に関して、アスナ君・キリト君・ラスト君・ユウキ君と対話している。

層は22層の湖畔。よくも、こんな高い別荘を構えたものだな。

 

「一層が本体だから、別荘だな。はい、お待ち」

 

 私の心を読まないでくれ、ラスト君。

とにかく、この嗅いだことのある豚骨ラーメンの匂いにつられ、ここまで足を運んだことは若干後悔の念がある。

私とて人間だ。娯楽に飢えているのだ、そこは勘弁してもらいたい。

 

といいつつ、私は箸とレンゲを持ってラーメンをすする。

 

「む、うまいな……よく再現できたものだ」

 

 私は聲を若干上ずらせる。

わざとこの世界の調味料全てを、中途半端にしたのだ。

数万種類もある調味料から、よくこれを発見したものだ。

 

「レベリングよりも優先したんだ、当然の帰結だ」

 

 クリアではなく、精神面の心配をしたのだろうか。

とすると、優秀な部類となる。

上司となり配下を導く為には、やはり一定の魅力や上に成るための力が必要だ。

だがそれ以上に必要なのは、精神面の調整だろう。

人各々には、正確や価値感が備わっている。

これによる諍い等を、言葉や仕草で機嫌を直してもらわないといけない。

 

 まあ、私には有能な助手がいる。

そこらの対話は全て彼女に任せている。

 

私は中々融通も常識も通じないらしい。

故に他者から、距離をとられている。

しかしそれでも、ゲームクリエーターの悲願であるらしいVRMMORPGの為に、デスマーチを乗り切った猛者たちだ。

私の意味不明さに、一々感情を表せておくのは勿体ないだろう。

御蔭で予定より幾分か早く、この世界が出来上がった。

 

「それで、ヒースクリフ。nをしってるか?」

「知ってるも何も、SAOのアイテム当たりの管理者だろう」

 

あ。

 

「いやぁ、意識を誘導する信号を送って、言葉を口にするクラッキングが叶って非常に万歳だよ」

 

 私は彼等の別荘で、ラーメンを啜って居た筈。

なのに今私は、ラスト君と現実世界の見知らぬ場所で向き合っているのだ?

 

椅子に座らされ、頭に被るナーヴギアに首と肩が痛くなる中、後ろ手を拘束されている。

いや、全身を拘束されている。

猿轡をかまされ、この殺風景な納屋に放置されていたようだ。

 

 私は非常に冷静に、今の私の状況を観察する。

肉体に歪・脳にダメージは行っていない。

目の前の彼は、只の映像である。

其れなのに、今ここにいるような錯覚を受ける。

 

「茅場昌彦。今あなたは、現実の状況をVR世界の意識に転写している。

 今あなたが拉致されている事。その事実は受け止めておいてほしい。

 見てわかると思うが、今回のSAOの敵の強さ・ルール崩壊。

 テロだという事を気に留めておいてほしい」

 

 訳が分からない。

私は私が望む世界を作っただけである。

どのようにしてカーディナルが支配する世界に、外側から入り込めたのだ。

しかもサーバ接続がしにくい田舎の中で。

いや、出来ないこともない。

 

 ナーヴギアは麻酔治療の応用や転用の為、

一時的なサーバ接続・物理的接触によるデータ飛び等の傷害に対する耐久性が高い。

更にコンセントから電気を取得すると共に、マイクロ波による充填や出力強化が可能だ。

 

 結果、自社の圏内から県外へ連れてこられ、他者から離れたセーフティポイントまで連れてこられたわけだ。

 

 しかし、何故私を拉致しようとしたのだろうか。

いやそれ以前に、何故ラスト君がその事を知っているのだろうか。

まさかと思うが、ログアウトできるのだろうか。

 

ありえない。

しかし、ありえなくもない。

彼がどのように、私を知ったのかは捨て置こう。

私が心動かすのは、こんな矮小な存在の為ではない。

もっと有意義な事の為だ。

 

私がこの世界で、私であるがために。

 

「今回の拉致は、貴方自身の脳です。

 この場で高出力波を流し込み、貴方の全てをコピーしようとしています。

 これにより、このテロを起こした張本人と拉致者が共同して、世界にVRの確変を起こそうとしているのです」

「私のものは私の物だ」

「しかし、物には所有者がある。故に、貴方という自己を確立させなければ、

 貴方という所有者はいなくなる。

 あなたはそれでいいんですか?」

「良い訳ではないだろう」

 

 

――では、ここで一つ、契約を致しましょう。

 

 

 目の前に居ない筈だが、確かに存在している彼がニヤリと口角を上げる。

その者が発する言葉は、異常と共に非常に興味が惹かれるものであった。

私はこの瞬間から、製作者ではなくプレイヤーとして心踊らされた。

 

何せ、私が『ラスボス』であるフラグは、もうすでにないのだからな。

 

 

 瞬きすると私の視界は、あの別荘に戻る。

周囲にはラスト君を含めた、あの『ラストワルツ』がいる。

彼等はこれからも、非常に愉快なひと時を送るだろう。

 

「ヒースクリフ、次の質問だ。

 次の階層攻略、何時始めるんだ?」

「明日にしよう」

「わかった。アスナ・ユウキ・ラスト、準備はできてるよな?」

「ええ」

「うん!」

「勿論さ」

 

 

 この後お開きとなった。

この料理のレシピをアスナ君が貰う事で、本部でもラーメンを作ってもらえることになった。

非常にありがたい。

数少ない娯楽である食事は、皆のモチベーションに関わるからだ。

さて、後何層クリアすればよいのだろうな。

 

 

「ヒースクリフ、今日はありがとうな。

 目が覚めたよ」

「私が何か言ったかね?」

「全てはシステム通りである、そこに理解できないものなどない。

 見たものがすべてであるってさ」

「なるほどな」

「お前が云った事だろ?」

「ははは」

 

 キリト君の言葉に私は誤魔化す為の高笑いをする。

彼は何が可笑しかったのかわからないという表情だが、私は非常に愉快なのだ。

私がラスト君と話していた間、私と彼は意識のみ別の場所で私と彼のアバターのみが彼等と共にいたのだ。

ということは、ラスト君かはたまた彼を支援するだれか……。

そう、彼等により、私の作った世界やカーディナルを騙すことができるシステムを作り上げたということだ。

 

 あの世界はまさに現実のようで、しかし私はログアウト等していない。

そんな中あの粗さ等存在しない美麗な世界を、私はこの目で見、感じ、教わった。

私の作り上げたこのSAO。

 

世界はアインクラッドだけにあらず。

 

私は納屋にある少々朽ち落ちた木製の押戸から差し込む光から、

その先の景色を見た。

其処には現実世界ですら霞む、非常に美しい世界とその青空の最果てに浮かぶ城と島がみえた。

 

 私は納屋で暮らす、夢見る子だったのかもしれない。

そしてあの城に……空と海と大陸の果てにある、あの鉄の城へと行ってみたいのだ。

 

 いや、あの世界はアインクラッドが浮かび上がった後の退廃した粕である。興味などない。

しかしあの世界を巡り廻ってこそ、あの城へ行きたいという欲求に駆られるのではないか。

 

人は皆、冒険心を持つ。好奇心や怖れ、渇望や切望……全てを満たすのは、この世界の有限であり無限の可能性なのだ。

ああ、カーディナル。私はこの世界に生きたいぞ。

この世界の人間として。

 

 

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