4:束の間の自由<主観的俯瞰>
13時。
世界は始まり、終わりを告げる。
プレイヤーはいざ知らず、この世界に感動を覚え楽しみ狂喜した。
しかし歓喜と共にそのリアルさに恐怖し、悪い意味のリアルに絶望する。
そんな事を知らない約9000人の初心者は、見たことのない全てを『圏内』といわれる安全地帯で情報収集に明け暮れる。
既に好戦的な初心者やβテスターが、犠牲になっていることも知らず…。
ゲームでのHP0は、どんなデメリットであっても軽んじられてきた。
しかし、本当の意味で死となれば、人はこの世を恨まずにはいられないだろう。
そう、既に知ってしまった者もいるのだ。そして、この地獄の釜から、逃げ果せる事等できないと。
「やっぱりな」
自分たちしか知らない秘密を、誰にも示す事なく世界を享受する。
卑劣だろうか、せこいだろうか。
見たことも知ることもない赤の他人に、そこまで献身的になれるだろうか。
聖人君子でもない、ただの学生に…ましてや引きこもりに引っ込み思案に近い剣道少年に、こんなことはできないだろう。
既に石碑に死者の名前が刻みこまれている。
一定の時刻となり、世界に鐘の音が鳴り響く。
この瞬間までに、数百人が死去していた。
二人のデバッガーは、悲惨な結末を想定して居ながらも苦虫を噛み潰したような表情をせざるをえなかった。
それほどまでに、知っているβテスターや初心者が死に過ぎた。
唯一の救いは…既知の友人が、その墓石に名前を連ねていなかったことだろう。
幸い重畳僥倖である。
しかし彼等も、いずれは此処に名前を連ねている事だろう。
そんな悲観的な未来を想像してしまう。希望的観測等、既に効力は発揮していない。
理由はあれど、統計を見て7000人だ。
最低でも3000人が、命を落とす事になっている。
自殺・他殺等、狂気に陥った人間をどうこうするのは、普通の人間では難しい。
そうであっても、唯一と言っていい二人は歩みを止めるわけにはいかなかった。
今後出現するであろう情報屋や参加しているであろうαテスターも知るわけがない物事を、
この石碑を見て黄昏ている二人は知っている。
だが希望はある。
デバッガーである二人と最先端技術を導入した部屋の通信機やナーヴギア・とある息子の父親……。
彼等が織りなす情報で、攻略を優先する人物を援護する事が可能なのだ。
更に、スキル・経験・クエスト・敵・AI情報の他に、光量子回線による敵のAIが決める未来行動を見る事できる。
量子よりも速い処理なので、量子PCが計算を終えるときには彼らは動けてしまっている。
1024fpsも、それの5倍以上あるfpsにかなうはずがない。
更に云えば、茅場の反応も此処にあるのだ。
ならば、技術革新が止まっているこの時こそ、技術的優位を覆す時なのだ。
20年の前進を、現実で何食わぬ顔で開発している皆が努力し、100年の前進となる様にする。
これがこの世界の人間を救う鍵となるのだ。
革新が確信と核心により、覆されるのだ。滑稽で笑えるだろう。
こんな時刻。
鐘が鳴りやんだ時、彼等は分かれて行動する。
理由は初心者レクチャーと支援道具と資金の譲渡だ。
βテスターは無視し、初心者にいるであろうリーダー能力に優れていると思われる人物を引き抜き、
率先してこの一層にいる敵の特徴や生き残る術を与える。
ネカマなんぞ気にしている暇はない。
しかし、効率が悪いとみて、ある時刻の一時間前は初心者の一部に一層のボスの事を伝えた。
それは最後のHPになると、武装更新を行いタルワールでなく野太刀に変更すると伝えた。
この広報は、後の『軍』『聖龍連合』『血盟騎士団』の幹部クラスにも届いた。
時間が無駄に余った和人…キリトは、クラインという長髪赤髪の大人な男性を徹底的に扱いた。
理由は聴かされないで、この仕打ちに何かあると思わせる事に成功した。
更にフレンド登録をして、一部提携を結ぶことに成功。
更に時間がとてつもないほど余っている彼…ラストオーダーは、’マーベリック’という男性をつれて
この『はじまりの街』の中央区画で、決闘による講習で『スイッチ』という『システム外スキル』を教える。
更に周囲の取り巻きに、この町のポーションを10個購入できる程の資金を渡した。
「この講習を聞いた人、絶対に死ぬな!生き残れ!死ぬことはデメリットしかない!」
この話をしても、彼らは笑うだけだ。
このSAOでは、HP0 になると黒鉄宮に戻され、『コル』という世界共通の通貨と幾何かのアイテムを消失することになっている。
必死の形相に、爆笑と共に笑わず真摯に聴く者もいる。
ただ、デバッガーはとあることは教えなかった。
それは武器破壊や能力の優位性・ステータスが、如実に本領発揮することはありえないということだ。
流石にヤバイという事で、情報は封印と共に制限を行った。
何せ覚醒と呼ばれるものや怒りに任せて猛り憤り奮い立っても、ステータス以上にならない。
常時能力は、ステータスの最大にも満たないもの。
ステータスによる数値の顕れは、戦闘等による死への恐怖等本能的なものによる能力の発現にのみ行われる。
色々思案したとき、それは起きる。
世界が黄昏に染まった時、SAO―浮遊城アインクラッド―に散らばるプレイヤー全てが、『はじまりの街』の大広間に集まる。
ここには数百人のプレイヤーがいただけだ。
そこに全てのプレイヤーが、ここに集まった。
そう、全ての始まりの鐘が鳴ったのだ。