ああ、無情。   作:みあ

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第一話:勇者の旅立ち

 幼い頃に両親が死んで、近所の武器屋の下働きをしながらその日暮らしの生活をしていた俺は、ある日、城に呼ばれた。 

 一般庶民が城に入ることなどまずないから、さすがの俺も緊張していた。 

 通されたのは、玉座の間のようだ。初老の男が立派な椅子に座っている。 

 冠をかぶってるから、あれが王様なんだろう。

 

「おお、良く来た勇者ロトの末裔よ」  

 

 は? 今、なんつった。 

 

「実は、我が娘が竜王にさらわれてしまったのだ」 

 

 だから、何の話だ。 

 

「ここに50ゴールドある。これで旅の準備をしてくれ」 

 

 待て、俺に助けに行けってか? つーか、50ゴールドで何をしろと。 

 

「では、勇者よ。旅立つのだ」 

 

 さすがに、話についていけなくなった俺は手を上げた。  

 

「質問があるんですが」 

 

「……なんだね」 

 

 発言許可が下りたようだ。 

 

「勇者の末裔ってのは、初耳なんですけど……」 

 

「でも、君が勇者なのは間違いない」 

 

「根拠は?」 

 

「勇者にのみ伝わる特殊能力があるのだ。そして、君はそれを持っている」 

 

 そんなもんがあんのか? 俺に。 

 

「ちなみに、どんな能力なんです?」 

 

「それはおいおいわかるだろう」 

 

 待てやコラ。何故に顔を背ける。 

 

「まあ、それはそれとして」 

 

 我ながら、寛大だな、俺。 

 

「正直、50ゴールドでは5日分の路銀にしかなりませんが」 

 

 これは事実だ。 

 宿屋に一泊、8ゴールドの時代に何を考えているんだ、このオッサンは。 

 

「……これは、私のポケットマネーなんだ」 

 

 安っ! 

 

「王女とはいえ、娘を助けるために、国の金を使うわけにはいかないのだよ」 

 

 世知辛い世の中だねえ。 

 憂鬱な気分で城から送り出された俺が、街に足を踏み入れようとしたその時。 

 

「危ない!」 

 

 あん? 

 ゆっくりと背後に振り向くと、馬車が猛烈な勢いで突っ込んでくる。 

 ああ、これは死んだな。 

  

 馬車に撥ねられた俺は、空中へと放り出され、石畳へと叩きつけられた。 

 

 痛え……これが死ぬって事か。 

 勇者、ここに死す。はは、笑えねえ。 

 俺の意識はだんだんと暗くなり、そして、俺は死んだ。 

 

 

 そう、俺は死んだはずだった。 

 なんで、王様の前にいるんだ? 

 

「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!」 

 

 死んだのは間違いないらしい。 

 

「……して、勇者よ。何があったのだ?」 

 

「街に入ったら、馬車に撥ねられました」 

 

「……本当に情けないのう」 

 

 ウルセー。 

 

「ところで、何故俺、いや私はここに?」 

 

 なんか妙な予感がするんだが。 

 

「うむ。それこそが勇者の特殊能力。死んだら、王の前で生き返るのだ」 

 

 マジかよ……。 

 

「さらに言いにくいことに……」 

 

 所持金を見ろ? 

 げっ、25ゴールドになってやがる。 

 

「それが、代償と言うわけだ」 

 

 地獄の沙汰も金次第ってか? 

 さらに笑えねえよ。 

 

  

 そんなこんなで、仕事場でもある武器屋に辿りついた俺は装備を整えることにした。 

 

「おお、勇者。 良く来たな」 

 

 何故に知ってる。 

 

「親父、これで揃えれるだけの装備をくれ」 

 

 有り金全部の入った袋をカウンターへ置く。 

 といっても、25ゴールドしかないんだが。 

 

 親父は、袋を覗き込むと憐れみの表情を俺に向けた。 

 やめろ、そんな目で俺を見るな。 

 俺が悪いんじゃねーんだ。 

 この国が、王様がいけないんだ。 

 

「これだと、この程度だな」 

 

 そして、カウンターに置かれたのは何と! 

  

 ひのきの棒――たいまつの柄じゃねーのか? 

 布の服――今着てる服と何が違うんだ? 

 なべのふた――これをどうしろと? 

 

 この3つだった。 

 

「それは、最低限文化的な装備だ。 それでもかなりオマケしてやったんだぞ」 

 

 そして、俺は旅立った。 

 最低限文化的な装備を身にまとって。 

 

  

 スライムがあらわれた。 

 

 勇者の攻撃、ダメージを与えられない。 

 

 スライムの攻撃、3のダメージ。 

 

 勇者の攻撃、ダメージを与えられない。 

 

 スライムの攻撃、痛恨の一撃! 9のダメージ。 

 

 勇者は死んでしまった。 

 

 

「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!」 

 

 三度、王様の顔を見ながら、俺は神に祈っていた。 

 誰か俺を助けてくれと。


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