ああ、無情。   作:みあ

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第十三話:太陽の石

 夢を見た。 

 夢の中の俺はどこかの飼い犬だった。 

 子どもと遊んだり、ご飯を3食もらえたり、眠くなったら寝てみたり。 

 食う寝る遊ぶの三拍子そろった生活だった。 

 目が覚めた時、何故か涙が出た。 

 

 

 いかづちの杖の暴発に巻き込まれた(事にした)俺は、いまだ城にいた。 

 オッサンが、渡したい物があるというのだ。 

 はっ! まさか、宿の主人が密告したんじゃ……? 

 引導を渡すってオチじゃないよな。 

 そうなる前にいっそ殺るか? 

 ちょうど、ここにはいかづちの杖がある。 

 まさか、これを防ぐって事はあるまい。 

 

「それで、渡したい物ってのは何なんだ?」 

 

 杖を握り直しながら尋ねる。 

 何か動きがあったら撃とう、そう心に決めて。 

 

「ふむ、これじゃ」 

 

 そう言って、オッサンが取り出したのは握りこぶし大の石だった。 

 何だそりゃ?  

  

「これは、太陽の石というものじゃ」 

 

 太陽の石? 

 どっかそこら辺に落ちてる石と交換してもわからなそうだな。 

  

「雨と太陽が合わさる時、虹の橋が出来る。この言葉と共に、代々伝えられてきた物じゃ。きっと、竜王を倒すのに、役立つことだろう。お主が竜王を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらすことをわしは信じておる。さあ、勇者よ、旅立つのだ!」  

 

「しっつもん!」 

 

 俺は声をあげた。  

 

「何じゃ、良い所であったのに」 

 

 オッサンは残念そうだ。 

 だが、これだけは確認しなければならない。 

 

「あのさあ、俺、竜王を倒せって言われた覚えないけど?」 

 

 そう、俺は姫を助けて来いと言われたが、竜王を倒して来いとは言われていない。 

 あの時点で、お役御免だったはずだ。 

  

「今、言ったではないか」 

 

「待て待て待て待て! 今って、今この場でってことか?」 

 

「そうじゃ。では、問題ないな」 

 

「あるに決まってんだろ!」 

 

 だが、俺の意見は封殺された。 

 

「衛兵、勇者殿をお見送りせよ」 

 

 何処からともなく現れた衛兵に羽交い絞めにされ、玉座の間から連れ出される。 

 

「では、勇者よ、旅立つのだ! 朗報を期待しておるぞ」 

 

 うっわ、めちゃくちゃムカつく。 

 

「竜王倒したら、今度はテメーの番だ!! 覚えてやがれ!!」 

 

 俺は勇者らしからぬ捨て台詞を残し、城から放り出されてしまった。 

 

「ちょっと待て、俺は勇者だぞ! 何でこんな仕打ちを受けるんだ?!」 

 

 衛兵に叫ぶ。 

 

「この間貸した20ゴールドを返すなら、勇者と認めよう」 

 

 くぉっ、こないだのおっさんか?! 

 ポケットを探る。 

 ……しまった。朝、宿屋に置いて来たんだった。 

 しかも、さっき死んだので、5ゴールドしか残ってない。 

 

「悪い、今持ち合わせが無い」 

 

「では、出直してくるが良い。文無し冒険者よ」 

 

 も、もんなし?!  

 目の前で扉が閉まる。 

 

「ちょっと待て! 誰が文無しだ!」 

 

 叩けど喚けど返事は無い。 

 諦めて戻ろうとした時、 

 

「姫様が憎い。僕も、勇者様の胸に抱かれたい……」 

 

 物騒なセリフが背後から聞こえた。 

 振り向くと、そこにいるのは例の門番。 

 なんだ、このイベントの数々は? 

 そんなに俺を貶めたいか?! 

  

「何が悲しゅうて、男を抱かにゃあならんのだ!」 

 

「そんな、ひどい……」 

 

 泣き崩れる兵士。 

 何処からとも無く、ひそひそ声が聞こえてくる。 

 

「ほら、アレ見て。可哀想、あんなに想ってるのに……」 

 

「きっと、姫様との結婚に邪魔になったから捨てるのよ」 

 

「サイテー、私、ちょっとあこがれてたのに……」 

 

 明らかに聞こえるように言ってるだろ、お前ら。 

 

「うわーん!! 覚えてやがれ、こんちくしょーー!!」 

 

 俺は泣きながら街へ走った。 

 マジ泣きだった。 

 

 

「おや、兄さん。こんな所で何泣いてんだい?」 

 

 顔を上げると、いつぞやの酒場の店主。 

 いつの間にか、表通りを突っ切って、酒場の前まで来ていたらしい。 

 理由を話すと店の中に入れてくれた。 

 まだ準備中なのだろう、静かな店内は落ち着いたたたずまいを見せている。  

 

「あの時は悪かったねえ。急ぎの依頼だったから、ろくすっぽ確認もしないでさ。しかし、男好きってわけでも無いのに良く完遂できたもんだね。さすが、勇者って所かな」 

 

 俺の話をあっさり信じてくれた。 

 この人は、良い人だ! 

 守備範囲外だけど、良い人だ! 

 俺は、あの時のシアちゃんとの出会いを話すことにした。 

 

「へえー、魔物と心を通わすか、そんな事も出来るんだね。……ちょっと待って。今、アリシアって言ったよね」 

 

「ああ、そうだけど……」 

 

 なんだ? 討伐依頼が出てるって言うんじゃないだろうな。 

 

「アリシア、アリシア、あっ、思い出した! 確か、ここら辺に……、あった」 

 

「なんだ? 妙な依頼じゃないだろうな」 

 

 俺の質問に、店主は首を振った。 

 

「違う違う、ただの情報さ」 

 

「情報?」 

 

「そ。南の方にずいぶん前に魔物に滅ぼされた街があるんだ」 

 

 その話はどこかで聞いたことがあるな。 

 

「そこにね、最近、魔物が住み着いたらしいんだよ」 

 

「それが、シアちゃんと何の関係が?」 

 

「まあ、話は最後まで聞きなよ」 

 

 店主によると、その魔物は人を襲うことは無いらしい。 

 ただ、女が相手だったとき、必ずこう訊ねるらしい。 

 「お前は、アリシアか?」と。 

 

「なんでも、家ほどの大きさの黒い鎧を着た魔物らしいよ」 

 

 俺は、店主に別れを告げると、シアちゃんの元へと急いだ。 

 

 

 シアちゃんは、姫と一緒にあの場所で待っていた。 

 

「遅い! 何をやっておったのじゃ!」 

 

 シアちゃんに走り寄ると、カウンターで殴られた。 

 姫がすかさずホイミをかけてくれる。 

  

「そんな事より!」 

 

「そんな事?! わらわを待たすのは、そんな事なのか?!」 

 

「まあまあ、アリシアさま」 

 

 姫が間をとりなしてくれる。 

 姫に礼を言うと、オッサンに渡された物を見せる。 

 

「これは、太陽の石か?!」 

 

「アレ? 何で知ってんの、シアちゃん?」 

 

 じっと見つめると、顔を背けた。 

 そして「知っておるから、そう言っただけじゃ!」と吐き捨てるように言った。 

 あちゃー、完全に怒らせちゃったみたいだ。 

 

「確か、雨が太陽になる……だったっけ?」 

 

「雨と太陽が合わさる時、虹の橋ができる。古くからの言い伝えですわ」 

 

 姫が補足してくれる。 

 

「そう、ソレ!」 

 

 それに、それだけじゃない。 

 俺は、店主の話を皆に話した。 

 

「悪魔の騎士……」 

 

 最後まで話し終えた時、シアちゃんがそう呟いた。 

 けれども、結局それ以上の事は、何も教えてくれなかった。 

 

 

 そして、翌朝、シアちゃんがいなくなった。 

 ただ「すまぬ」と一言だけ書いた手紙を残して。 

 


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