ああ、無情。   作:みあ

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第十六話:ゆきうさぎ

 こんな俺にも、色々と悩みがある。 

 魔物にまで知られている、男好きという噂。 

 噂の元となった門番の始末をどうするか。 

 パトリシア強奪事件。 

 そして、その犯人が姫である事。 

 だが、一番の悩みは先日の戦利品をどうするかだった。 

 

 

 俺は、悪魔の騎士コレクションをベッドの上に並べた。 

  

「何をやっておるのじゃ?」 

  

 シアちゃんと姫が部屋に入ってくる。 

 さすがに街中なので、うさみみは断固拒否されてしまった。 

 非常に残念にならない。 

 

「それは、先日の……」 

 

「まだ持っておったのか」 

 

 悩むのは止めた。 

 俺は俺らしく生きる事にしよう。 

 

「2人に頼みがあるんだ」 

 

「……なんじゃ?」 

 

「まあ、なんでしょう?」 

 

 意を決して、口にした。 

 

「これを着て見せてくれないか?」 

 

 

「……おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」 

 

 気付いた時には、オッサンの前にいた。 

 まだ立ち直ってないのか、覇気がない。 

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。 

 おそらく、いや、間違いなく、シアちゃんの仕業だろう。 

 どうやって殺されたのかはわからない。 

 だが、それよりも気になる事があった。 

 ……燃やしてないだろうな? シアちゃん。 

 

 城を出る時、門番に会った。 

 

「ああ、コレ、返しとくわ」 

 

 俺は、山彦の帽子を手渡した。 

 シアちゃんいわく、諸刃の剣なのだそうだ。 

 再発動を予測できないのが欠点らしい。 

 

「えっ?! お役に立てませんでしたか?」 

 

 いや、充分役に立ったんじゃないかな。 

 俺以外の魔法使いなら。 

 

「いや、何か相性が悪いらしくてな」 

 

 連続ルーラはもう勘弁して欲しい。 

 

「……そうでしたか。申し訳ありません」 

 

 あまり落ち込まれると罪悪感がわいてくる。 

 

「まあ、ソレのおかげで悪魔の騎士っていうゴツイ魔物が倒せたんだ。それについては礼を言うよ」

 

 

「勇者さま……、いえ、お役に立てて光栄です」 

 

 無くても倒せたけどな。 

 というか、無い方が格好がついた。 

  

「じゃあ、俺は急ぐから」 

 

「お気をつけて!」 

 

 何にだ? 

 シアちゃんにか? 

 それとも、姫にか? 

 心に問いかけながら、俺は宿へと急いだ。 

 

 

 部屋に辿りつくと、シアちゃんが縛られていた。 

 手は背中側で、足は束ねるように。 

 そして、口には猿ぐつわがはめられていた。 

 

「何だ? 何があったんだ?」 

 

 俺は、シアちゃんの口を解放した。 

 次に、手の縄を解きにかかる。 

  

「なんだ、コレ? メチャクチャきつく結んである」 

 

「王女の仕業じゃ! アレを処分しようとしたら……」 

 

 アレ? ベッドの上を見る。 

 良かった、全部無事だ。 

 姫が機転を利かせて、守ってくれたらしい。 

  

「まあ、勇者さま。お戻りになられていたんですか」 

 

 続き部屋の扉を開けて、姫が入ってくる。 

  

「姫、いくら何でもやりすぎでは?」 

  

「そんな、ひどい……。私、勇者さまのために、必死でお守りいたしましたのに……」 

 

 瞳に涙を浮かべて、じっと見つめてくる。 

 か、可愛い……、じゃなくて、俺をそんな目で見つめないでーーー! 

 ううう、降参です。 

 

「ありがとうございます。姫のおかげで助かりました」 

 

「裏切り者ーーー!」 

 

「仕方ないだろう? 悪いのは、シアちゃんなんだし。アレを燃やそうとしたのが悪い!」 

 

「ということですわ。諦めてくださいませ、アリシアさま」 

 

 部屋の中に、シアちゃんのすすり泣きが静かに響いていた。 

 

 

「ところで、勇者さま? どれを着て欲しいんですか?」 

 

 姫の問いかけに、俺は悩んだ。 

 全部と言いたい所だが、さすがにシアちゃんが可哀想だから一着だけにしようと2人で決めたばかりだ。 

 ……踊り子の服にしよう。 

 お姫様とのギャップが一番大きい。 

 

「どうですか? 似合いますか?」 

 

「うん、最高」 

 

 16才という、俺に言わせれば、最も女性が美しく輝いている年代。 

 しかも、普段は隠している、他人に見せた事の無い肢体がこの眼前に。 

 恥ずかしそうに、胸を隠す仕草が初々しくてたまらない。 

 しかも、ふとももが何とも言えない魅力を醸し出している。 

 触りたい。 

 無意識の内に、ふらふらと手が伸びる。 

 

「おさわり禁止ですわ、勇者さま」 

 

 手を叩かれて、正気に戻る。 

 危ないところだった。 

 シアちゃんが睨んでいる。 

 ここで事に及んでいたら、申し開きもできないところだった。 

 胸を撫で下ろす。 

 

「もうよろしいですか?」 

 

 さすがに姫も恥ずかしそうにしている。 

 いつもの服に着替えてもらうことにした。 

 

「ふう、眼福、眼福」 

 

 シアちゃんの視線を感じる。 

 だがそちらを向くと、ふいと顔を背ける。 

 んー? これはひょっとして? 

 

「シアちゃんも着てみる?」 

 

「な、何を言っておるか!」 

 

「アリシアさまも着られるんですか?」 

 

 いつの間に出て来たんですか、この人は? 

 姫の方に振り向く。 

 

「な、何て格好してるんですか?!」 

 

 真っ白の下着姿で微笑む姫の姿。 

 さっきの踊り子の服よりも面積が広いところを見ると……じゃなくて! 

 目の毒どころではない。 

 

「いいではありませんか。私達は夫婦なんですから」 

 

 そう言いながら、俺に寄り添ってくる。 

 

「ななな、何をするつもりでありやがりますか?!」  

 

「何って、夫婦の営みですわ。ちょうど、邪魔もありませんし」 

 

 そう言って、シアちゃんの方を見やる。 

 そして、俺の頭を固定して、顔を近づけてきた。 

 

「こら、離れんか、お主等!!」 

 

 いや、そうしたいのはやまやまなんだけど、がっちりホールドされて逃げられないんだ、これが。 

 腕に当たる柔らかな感触がさらに俺の抵抗力を奪っていく。

 

「アリシアさまが、私の選んだ衣装を着て下さるなら、止めてさしあげますわ」 

 

「な!?」 

 

 言葉を失うシアちゃんを横目に、姫の唇が迫ってくる。 

 あと3センチ、2センチ、1センチ……、付くか付かないかの所でシアちゃんが声を上げた。 

 

「わかった! 着る! 着るから、止めよ!」 

 

「素直でよろしいですわ」 

 

 姫が離れていく。 

 俺としては、もったいないような気がする。 

 が、シアちゃんが怖いのでこれ以上はやめておこう。 

 

 

 シアちゃんの縄を解き、姫と共に続き部屋に入ってから15分。 

 俺は、じっと待っていた。 

 

「勇者さま、準備ができました」 

 

 姫が扉から顔を出して、そう告げる。 

 待ってました! 

 

「……やはり、わらわにこのような衣装は似合うまい」 

 

 扉の向こうから、声が聞こえる。 

 いつになく、気弱そうだ。 

 

「とても似合っておりますわ。自信を持ってくださいませ」 

 

 そして、扉が開いた。 

 そこに居たのは、女神さまだった。 

 

「うおーーーー!! 女神さまが、女神さまが降臨なされたーーー!!」 

 

「さ、騒ぐでないわ!」 

 

「あらあら、勇者さまったら」 

 

 まだまだ発展途上の身体を包む、必要最低限の布。 

 幼い魅力を振りまく美しい肢体。 

 あぶないみずぎを身に着けたシアちゃんは、正に世界に降臨した女神さまだった。 

 

「このような服装をするのは、もっとスタイルのいい女ではないのか?」 

 

「否! 胸の無い少女がビキニを着るのと同じように、これはこれで、味わい深いものがある! いや、むしろこの方がイイ!!」 

 

「まあ、色々と危ない発言ですわ」 

 

 そんなこんなで、ファッションショーは幕を閉じた……はずだった。 

 

「次は、私のリクエストに答えていただきますわ」 

 

 それは、姫のこんな言葉から始まった。 

 

「何を言っておる? 先程、着たではないか」 

 

「それは、アリシアさまの意思ですわ。わたしは、約束を果たしていただけておりません」 

 

「……あー、そういえば、あの時確か、私の選んだ衣装って言ってたっけ」 

 

「なんじゃと!! 騙しおったのか?!」 

 

 シアちゃんが怒る。 

 まあ、当然なんだけど。 

 ていうか、俺も言われるまで気が付かなかったし。 

 

「私としましては、約束を破ってもらわれてもいっこうに構いませんが……」 

 

 この辺の交渉技術はさすがだなー。 

 案の定、シアちゃんは歯ぎしりしながら、姫を睨んでいる。 

 さっき、シアちゃんはほとんど抵抗できずに、姫に拘束されたみたいだし、接近戦じゃ姫の方に分があるのか。 

 

「……わかった。仕方あるまい」 

 

「ありがとうございます。せっかくの衣装が無駄になる所でしたわ」 

 

 あれ? 姫が衣装を準備したのか? 

 

「では、しばらくお待ちくださいませ」 

 

 姫の後をシアちゃんがしぶしぶついていく。 

 やがて、2人の姿は扉の向こうに消えた。 

 

 十数分後、再び姿を現したシアちゃんは、ゆきうさぎになっていた。 

 

「アレは、冗談ではなかったのか?」 

 

「私、冗談なんて言いませんわ。ただ、サイズは目分量になってしまいましたけれども」 

 

 先日のバニースーツ発言を現実の物としたらしい。 

 白いうさみみにあわせて、白いレオタードに白いタイツ、おしりにはフワフワうさしっぽまで。 

  

「シアちゃん、頼みがあるんだ」 

 

「なんじゃ? また、妙な事を言い出すんじゃなかろうな」 

 

「抱っこしてもいい?」 

 

 俺は、答えを待たずにシアちゃんを抱きしめた。 

  

「な、何をする?! あ、こら、変な所を触るな!」 

 

 俺は、頬ずりをしながら、撫で回す。 

 うさしっぽがいい。 

 何とも言えないこの肌触り。 

 もう、可愛くて可愛くて仕方が無い。 

 

「王女! 見てないで助けぬか!」 

 

 シアちゃんが姫に助けを求める。 

 

「勇者さま!」 

 

 ふと、手を止めて姫を見る。 

 シアちゃんがその隙に手足をばたばたさせて逃げようとする。 

 

「勇者さまばっかり、ずるいですわ。私にも抱っこさせてください」 

 

 そう言って、抱きついてくる姫。 

 

「王女まで、なにをするか?!」 

 

「アリシアさまがいけないんです。こんな格好で私を誘うんですから……」 

 

「誘ってなぞおらぬわーーー!!」 

 

 

 朝が来た。 

 俺達は、旅立ちの準備をして宿を出た。 

 

「勇者さま、昨夜はお楽しみでしたね」 

 

 姫がそう声を掛けてくる。 

 姫は、後はおふたりで、とか言って早々に退散してしまった。 

 もちろん、存分に楽しませてもらいました。 

 

「えーと、聞こえてた?」 

 

「ええ、とっても。今度は、私にもお願いしますね」 

 

 姫はそう言い残して、離れていく。 

 シアちゃんはというと、俺の背中におぶさって、まだ眠ったままだ。 

  

「あるじ……、あ、愛しておるぞ」 

 

 寝言のつもりだろうか? 

 シアちゃんが耳元で呟いた。 

 

「俺もだよ。シアちゃん」 

 

 そう返すと、俺は先に行った姫に追いつこうと走り出した。 

 次に目指すは、雨雲の杖。 

 今日は、絶好の旅日和だった。 

 


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