『MUGEN』大の世界を 作:HI☆GE
「よっ、久し振りだなオルコット」
「そうですわね……ざっくり数えて二年と八ヶ月振り、と言ったところですわ。お久し振りです、龍仁さん」
俺が箒の次に話している如何にもなお嬢様は、ご存知セシリア・オルコット。
フィナにISの代表候補生訓練としてのイタリアへの留学中、イギリス遠征に付き合った時に図らず出逢い知り合った。
しかも何の偶然か、俺は知り合って三日も経たない内にオルコット家が辿る運命までもを図らず変えてしまった。
まずだが、原作で彼女は両親を亡くしている。
その原因と言うのが所謂列車事故だったのだが、訳あって偶々オルコットに出会った俺は本当に、感覚的にその列車に乗るのは不味いと直感し、オルコット家の三人を引き止め、何とか誤魔化し言いくるめた後適当に時間を潰したのだ。
流石に次の列車には乗らないといけないと言う事でホームに戻ったのだが、そこには『事故による遅延』の文字。
原作を知っていただけに、あの時引き止めていなかったらと思ったら……と考えただけで冷や汗が止まらなかったのを良く覚えている。
次の日の新聞にも大きく『死傷者多数の大事故』と記載されていたのを鮮明に記憶している。
まあオルコットの両親を救えたのは棚から牡丹餅レベルの出来事だったが、取り敢えず『偶然助けただけの恩人』にはなったが『ヒーロー』にならずに済んだのは良かった。
もし間一髪で助けた――何て事になっていたら一夏とのフラグは作る以前の問題になってしまっていたところだった。
だがオルコットの両親を救えた事、これは一夏のフラグを円滑に進められると言う事以外にもやはり、人の命を助けられたと言う他ならない事実、それにこの上無い幸福を抱いていた。
俺は前世で苦しみながら、生きている心地さえ無いままに生きてきた。
だからなのか、自由に生きていられる今にとても感謝している。
そして、だからこそ『生死』に敏感になり、状況にもよるが助けても自然の摂理に反しない様な命であるなら人、その他動物や虫、植物を問わず助けては治療を施している……と言うよりかは出来るのだ。
ところでなんで動植物、ましてや虫すらも出来るかは……実のところ分からない。
こればかりは先天性の能力としか言えないだろう。
閑話休題、話を戻そう。
まあ、その一件のお陰かオルコット一家は家族で色々と話す事が多くなり、セシリアが抱いていた『情けない父親』と言う誤解も解けある程度男に対して柔らかい態度になったとか。
っと、それは兎も角一夏を紹介せねばな。
「おい一夏、ちょっと来い。知り合いを紹介する」
「おう分かった……そこにいる美人がそうか?」
「そう言うこった、感謝しろよ」
「セシリア・オルコットです、宜しくお願いしますわ」
「織斑一夏だ、龍仁と同じく名前で呼んでくれて良いぜ」
「分かりましたわ、一夏さん」
それにしても一夏も成長したと、染々実感する。
自然と美人に美人と言えるまでに褒め上手になったのならば、オルコットも完全に落ちるまで既にこの時点で秒読み段階に入っていると思っても過言ではない。
「それじゃあ席に戻るぞ一夏、もう千冬さんのチョップを食らうのは御免だろう?」
「それもそうだな。そんじゃまた昼にでもな、セシリア」
「あら、誘って下さるんですの? フフ、嬉しいですわね」
「まあ折角だしな、俺の幼馴染も紹介したいし良い機会だろ?」
「……そうですわね、それではまた」
「おう!」
しかしコイツは何とも詰めが甘い、いや落としに言ってる自覚は無いのだし詰めがどうのは微妙な話だが、どうにも元の癖が抜けきっていないのかたまに女の子の前で他の女の子の話をしてしまう。
全く、これが無かったら天然色男になれたものを……まあこれが一夏らしいと言ったらどうしようも無いがな。
「み、皆さん席に着いてますか? ……あ、着いてますね、それではまた織斑先生が開始から十分程度不在になりますので、私が進行しますが……だ、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫ですよ、少なくとも俺と一夏とフィナは聞いてますので」
「まあ分かんない事の方が多いしな」
「フフフ~、当たり前じゃなぁい」
「わたくしも聞いていますわ。確かこの時間は基礎の勉強、ですわよね?」
「無論、私もだ。だから安心して下さい」
基礎の基礎、そんな簡単な勉強な為か些か話を聞いていなかったクラス中も、俺みたいなイケメンや一夏の様な爽やかボーイ、エリート達が発言した事により自分達の甘さを知ったのか、私語は無くなり全員授業する気満々になっていた。
「あ、ありがとうございます……ええ、この時間は基礎の勉強になります。当たり前の事ばかりかも知れませんが、正しく覚えないと行けない事なのでしっかり勉強、しましょう?」
弱気ながらも生徒想いで、ちゃんとした指導を頑張っている山田先生が可愛すぎて困る。
その主張の激しい双山も魅力的だからか、フィナと付き合っていなかったらそのまま勢いで惚れていたところだった。
全く、可愛いは正義と人は良く言うが本物の可愛さはそんなチャチなものではない、本物の可愛さは罪なのだ。
可愛いが故に惑わされる、可愛いが故に人は己を失う、可愛いが故に人の、果てには自分の人生すら大きく動かしてしまう可能性すらある。
この俺ですら危うく惑わされてしまうところだった辺り、山田先生はその域にあるのだろう……やれやれ、フィナと言うフィアンセがいながらとんだ失態だ。
「あらぁ~? 龍仁、あれほど他の人にうつつを抜かさないでって言ったわよねえ?」
「フッ、バカを言え。俺の一番にして唯一のフィアンセは何より君だけだとさっきも言ったじゃないか」
「……ま、まあ良いわ……後で覚えときなさいよこんの色ボケ男ぉ……!!」
涼しい顔をしてそう返すが、何やら後で嫌な事が起きそうである……まあ無視しよう、フィナの嫉妬は可愛いもんだ。
因みにだが授業に支障が出ない様小声でやり取りしていた事を追記しておこう、こっちとしても山田先生の授業は聞いていたい訳だからな。
「えーと、それじゃあここまでで分からないところとかある人はいますか? 遠慮なく言ってください」
授業は中盤まで進行し、一旦黒板に書くのを止めた山田先生が振り返り付いてこれているか確認をとっていた。
まあいるだろうなと斜め右前に視線を向ける、約一名が手を挙げた。
「三割くらい分からないとこがあります!」
「さ、三割ですか……微妙に多いですね……」
「今まで全く興味が無かったので……一夜漬けだとどうしても分からない説明や理論、単語があるんすよ」
「ひ、一晩で覚えて来たの? 凄いですね!」
「あ、でもこの教科書全体で見ても分からないとこは三割だけなんで! 取り敢えず千冬姉に殺されたくない一心で昨日頑張りました!」
山田先生は気付いていないだろうが、一夏は墓穴を掘っている。
つまりは昨日まで全く勉強していなかった事と自白している様なものだ、全くここに千冬さんがいなくて良かったと思えよ。
しかしそれはそれとして、一晩で教科書全体の七割を覚えて来たのは地味に天才肌と言う事だろう、これに関しては良くも悪くも全ての事で大体80点から85点の俺にしてみれば、少し羨ましくも感じてしまう。
「あ、あはは……今のは織斑先生には内緒にしておきますね?」
「……あっ、すんません」
ま、根本はこんな奴だから羨ましいと感じる事なんて滅多に無いんだがな。
ただ、女子からの受けは存外良かったらしい、周りからチラホラと声が聞こえる。
『ねえ、織斑くんってさ……』
『何でもそれなり以上にこなせるって思ってたけど』
『思った以上に親しみやすいかも?』
『と言うかちょっと抜けてるとことか可愛くない?』
『分かるわー、超分かるわー』
俺としては、もっと俺に注目してもらいたいんだがな……それだけ一夏は見た目も中身も魅力的だと言う事だろう、まあ何れコイツには原作キャラによるハーレムを築いてもらうのだからここでモテ過ぎようとも関係ないんだがな。
と言うかだ、一夏を頭良く仕立てあげたのはこの俺なのだ。
朴念仁になるに当たって、頭の良し悪しはやはり関係してくる訳であり、その為に日夜スパルタ教育でしごいて来たのだからモテても当たり前である。
因みに肉体的な改造も俺が施していたりするが、その話はまた後でだ。
さあ、次はいよいよクラス代表立候補……つまりはセシリアのフラグ進行だ。