とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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導入

 

 

 

東京の西部を開拓して作られた学園都市、総人口は230万人にも上るがその8割は学生が占めている。

 

学生とは、幼稚園や小学校はもちろん、中学校に高等学校、そして大半の人の最終学歴となる大学校で学ぶ人間のことだ。

 

つまり、この学園都市は学生の街。

 

その学園都市の時間帯も今は夜、昼間はあれだけ学生達でにぎわう街も今は静まり返っている。

 

そんな静まり返った闇に溶け込む街の中から一人の人間がバイクに乗ってとある場所にやってきた。

 

 

 

 

「時間通り、か」

 

 

 

 

フルフェイスのヘルメットに上から下まで真っ黒な衣服に身を包んだ男の名前は七惟理無(なないりむ)、学園都市に住む学生の一人である。

 

彼本来の容姿は身長は170cm程度で、黒髪黒目のよくそこらへんに居そうな日本人の顔立ちだ、今は仕事中のためこのような服装に身を包んでいる。

 

彼は最近こうやって特定の時間帯に仕事のためここら辺に現れる。

 

指定された場所に辿りつくと、やはりいつもと同じように近場の電柱の裏側にメモリースティックが入った袋が置いてあった。

 

こうも不用心に置かれているあたり、このスティックは間違いなく誰かの手に渡っても構わないものだ。

 

当然これが意味するのは入っているものはウィルスか何かであって、取られることには何ら問題がない、むしろ勝手に取っていってくれて感染してくれれば大歓迎といったところなのだろう。

 

まあ、毎回このように置かれている用途不明のメモリーを七惟は持ち出し、それを闇の市場で売りさばいているというわけだ。

 

依頼主からのメッセージは、売ることによって得られる金銭は全てこちらが報酬として受け取っていいということだった。

 

最初はこんなモノなどせいぜい売れて500円程度だと考えていたのだが、実際市場のオークションにかけてみるとこれがその10倍以上の値段で売られていく。

 

中身が何かは知らないが、ウィルスの類なのは間違いない。

 

しかもそれに麻薬のような中毒性を含めた性質の悪いものだ、しかし七惟としてはこれの中身何だろうと関係なかった。

 

ただ淡々とやるべきことはやるだけだ。

 

スティックをタンクバックに詰め込み闇オークションが行われる会場へいよいよ向かおうとしたその時。

 

 

 

「ン……てめェ、どうしてこんなとこにいやがンだァ?」

 

「は……ベクトル野郎かよ」

 

 

 

路地裏の闇から現れたのは白と黒のTシャツを纏い、片手に真っ赤に染まりあがった棒を握りしめていた一方通行。

 

 

 

「ケッ……会ってそうそうてめェはムカつく野郎だ」

 

「うるせえな、長点のエリートは見んだけでむしゃくしゃすんだ、失せろ。それにお前の近くに居ると殺人罪に問われるだろが」

 

 

 

アクセラレータは見るからに今誰かを殺してきました、と言わんばかりに返り血を浴びまくったであろう棒をぐるぐると振り回す。

 

自身の能力の御蔭で自分自身は全く汚れてはいないのがまた不気味だ。

 

それにこの血なまぐさい臭い、殺したのはついさっきであって、まだ近場に死体があるはずだ。

 

こんなところでアンチスキルやらジャッジメントとかいう自己満足組織に捕まってられるか。

 

さっさとこんな疫病神は追い払ってあの場所に行かなければならない。

 

 

 

「ンだとォ?」

 

 

 

面倒くさい、今日はやけにつっかかってくる。

 

実験の最中に胸糞悪いことでもあったか。

 

 

 

「俺は今から野暮用が入ってんだよ、付き合ってる暇はねえんだ」

 

「ケッ……ンじゃあ、てめェの」

 

 

 

アクセラレータの言葉など聞く耳持たない、という心境の七惟は愛車のバイクにまたがりアクセルを回す。

 

 

 

「逃げンのかよォ!?」

 

「るさい!」

 

 

 

バイクが瞬時に加速し始め数秒で100km近いスピードに達するも、アクセラレータはお得意のベクトル操作で自身の脚力で100km超のスピードで走りだす。

 

相変わらずコイツの能力はわけがわからない、傍から見れば自分も同じなのだろうが。

 

 

 

「俺から逃げられると思ってンのかァ!」

 

 

 

本当にしつこい、いったい実験でどれだけ嫌なことがあればこんな不機嫌になるのやら。

 

七惟は食い下がるアクセラレータに業を煮やし、傍から見れば得体の知れない自身の能力を発動させる。

 

 

 

「ッチ……!」

 

 

 

すると一方通行の移動スピードが急激に落ち、みるみる内に七惟のバイクとの距離は離されついには目視出来なくなってしまった。

 

 

 

「逃げやがったかあのやろォ」

 

 

 

一人幹線道路に取り残されたアクセラレータは、気だるそうに歩きながら今来た道を引き返して行った。

 

幹線道路を渡り切る前に何度も轢き殺されそうになったのだが、それは彼の能力故に全て相手を病院送りにしてしまったのだった。

 

 

 

 

 


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