とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Ⅱ章 2万体の人柱
目に見えた死-1


 

 

 

 

あの火事騒動から何日が過ぎただろうか。

 

事件現場となった寮では、何事も無かったかのように元の日常が戻ってきた。

 

しかし七惟だけは例外だった、相変わらず彼の中のもやもやは消え去らない。

 

「アイツ……マジで何処に行きやがった」

 

隣人で監視対象にある上条当麻が未だに家に戻ってこないのだ。

 

学園都市中を探し続けているというのに、情報らしい情報も入って

こなかった。

 

いくらなんでもこれだけ戻ってこないとなると、やはり何か事件に巻き込まれたと考えるのが妥当だ。

 

上条が消えたあの日、七惟が見たのは血まみれのシスターに背丈の高い炎を操る男、そして焔の巨人。

 

これら3つに何かの関連性を見いだせと言われても、七惟は全く分からなかった。

 

だからと言って何もしないわけにはいかない、望み薄にパソコンを立ち上げてネットを徘徊していると。

 

ガタッという音が隣から聞こえてきた。

 

まさか……!?

 

七惟は瞬間的に家から飛び出し、すぐさま隣室の部屋のチャイムを鳴らす。

 

「はいはーい、今出ますよっと」

 

ドア超しに声が聞こえる、これは間違いなく上条の声だ。

 

あれだけのことがあったというのに、上条は自分に何の一言もなくぬけぬけと帰宅しやがったわけか。

 

次第に七惟の怒りのボルテージは上がっていった。

 

「はい、上条です」

 

「おい上条てめえ!何処に行ってやがったんだ!」

 

「……」

 

七惟は自分でも驚くような剣幕でどなり散らした。

 

「ええっと……」

 

上条は驚いたように目を丸くする。

 

「そ、そのスマン!色々あってだな」

 

「何が色々だ!携帯に何回電話したと思ってやがる!俺がてめえをどれだけ探し回ったのか知ってんのか!」

 

「わ、悪かったって!」

 

「おい、あの血まみれのシスターと赤髪の男はどうなったんだ」

 

「赤髪の……男?」

 

「奴はいったい何者なんだ?炎を纏った巨人を操る奴なんざ学園都市にはいねえんだよ」

 

「炎の巨人……」

 

「……上条?」

 

さっきから上条の様子がおかしい、まるでそんなことは全く知りませんといった感じだ。

 

はぐらかしているのかと思ったが、これを意識的にやっているのならば学園都市を退学して今すぐ劇団に入ったほうが彼の才能のためになる。

 

「えっとだな、とりあえずシスターは無事だ。そして、あの男はどうなったか俺にもわかんねえんだ」

 

目を泳がせている上条からして、何かがおかしい。

 

コイツは嘘をつくのが超がつく程下手なのは承知している、半年近く監視しているのだからそれくらいは分かる。

 

「あのシスターは何処に行った?」

 

「ああ、シスターなら……」

 

「此処にいるんだよ!」

 

突如として会話に入ってきたのは、あの時見た血まみれのシスターであった。

 

「当麻から聞いてるんだよ、貴方が当麻と一緒に私を助けてくれたんだね?」

 

「……さあな。俺は我が身かわいさにやっただけだ」

 

「それでもありがとうっ!」

 

シスターは子供のように無邪気な笑みをこちらに向けてくる。

 

それを見た七惟はふとこの言葉を口にする。

 

 

 

「上条……お前ぺド野郎だったんだな」

 

「な、何のことですか!?」

 

「とにかくだ、お前……あれから何があったんだよ」

 

「それはだね、当麻は――――」

 

「止めろインデックス!」

 

シスターが口を開いた瞬間、上条がその口を手で押さえる。

 

インデックス、それがこの女の名前か?思い切り偽名だが、まあいいだろう。

 

「当麻?」

 

「ま、まあ大変だったんだ。でも何とかなったし、もう大丈夫さ」

 

「……」

 

「……ええっと」

 

沈黙がその場を支配する、要するにコイツは何も言いたくないというわけか。

 

七惟は上条当麻とインデックスと呼ばれる少女を交互に見やる。

 

特別二人があの事件後変わったというところはない、少女が元気になったというのを除けば。

 

しかし上条の様子が変だというのは容易に分かる、何だか自信なさそうに話す上条は怪しいの一言に尽きる。

 

「話したくねえのか」

 

「……悪い」

 

「……はン。お前が戻って来たなら今はとりあえずそれでいい。じゃあな」

 

これ以上の詮索は無意味だと悟った七惟は身体を翻し、自室へと戻っていった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

七惟は上条と別れた後、例の公園までバイクを走らせていた。

 

何かがおかしい、はっきりとは分からないが上条は絶対に何かを隠している。

 

それのあのインデックスという少女、見るからに外部のモノだがどうやって学園都市に侵入した?

 

赤髪も、巨人も同じだ。

 

どう考えてもあれ程の男が死んだとは思えない、まだ学園都市内に居るはずだ。

 

「チッ……胸糞わりい」

 

公園に着くといつも通り自動販売機に寄りジュースを『お金を使わずに』購入する。

 

そして毎度のことながら木陰に座り込んだ。

 

この公園に来るのも久しぶりである、少なくとも御坂と勝負をしてからは一度も来ていない。

 

此処にくるとアイツと出会ってしまう可能性も高くなるし、七惟自身こんなところによる暇がなかったのも確かだ。

 

勝負の後、裏組織のほうから血眼になってでも上条を探して来いとの伝達を受けて、寝る暇も無く学園都市中を探し回ったのだ。

 

それだけに今日あんな形で上条が帰ってきたのは呆気なかったし、納得がいかなかった。

 

「ったく……あのサボテンが」

 

七惟はため息をつきコーヒーの口を開けて飲み干し、むしゃくしゃしながら空き缶を放り投げた。

 

「こんな所でポイ捨てをするのはマナー違反になるのではないか、とミサカは忠告します」

 

聞きなれた声が横から入ってきた、反射的に振り返ってみるとそこには。

 

「……御坂?」

 

そこに立っていたのは先日七惟を打ち負かした御坂美琴という少女だったが……。

 

「何故貴方はミサカのことを知っているのですか、とミサカは疑問を呈します」

 

「お前頭打ったのか?」

 

「ミサカは至って健康的な状態ですとミサカは自信ありげに答えてみせます」

 

「……」

 

何だか会話がかみ合っていない。

 

七惟の目の前に立っているのは間違いなくあの御坂美琴のはずだが、纏う空気も言葉使いも彼女とはかけ離れている。

 

それにその大きなゴーグルはこの間勝負した時にはつけていなかったし、目の焦点も会っていないような感じだ。

 

「お前、何で今日はゴーグルなんざつけてんだ」

 

「ミサカは常日頃からゴーグルを装着していますが」

 

「はあ?今まで付けてなかっただろが」

 

少なくとも自分が見てきた彼女はそんな奇抜なファッションセンスの持ち主ではなかったはずだ。

 

「もしかして、美琴お姉様のことを言っているのではないかとミサカは機転を利かせてみます」

 

「お姉さま?」

 

「はい、美琴お姉さまのことです。ミサカは美琴お姉さまの妹なのですとミサカは自己紹介をします」

 

アイツに、姉妹なんざいたのか。

 

しかし見た目がそっくりなところを見る限り、一卵性双生児か?

 

「待てよ……お前名前は?」

 

「ミサカはミサカです」

 

「は……?」

 

「ミサカはミサカなのです、とミサカは再度応えます」

 

要するに……御坂ミサカ?

 

なんだそりゃ……意味がわからん。

 

「貴方はお姉さまの友人ですか?とミサカは質問を投げかけてみます」

 

「友人……ねえ。腐れ縁みたいなもんだアイツとはな」

 

「そうなのですか?」

 

「まあ、お前が好きに考えろ」

 

美琴と自分の関係、それは七惟自身よくわからないものなのだから伝えようがない。

 

今後アイツと会うことがあるのかないのか、それすらも七惟には分からない。

 

勝負して負けたのである程度は悔しいといった感情もあるが再戦しようとも思わないのだ。

 

所詮『表』の世界での勝負など七惟にとってその程度の価値しかないのである。

 

「お姉さまの友人にお願いがあります、とミサカは礼儀正しく言葉を述べます」

 

「お願いだあ?」

 

「公園の駐輪場に停めてあるバイク、貴方の物だと御坂は仮定を立ててみます」

 

「ああ……そうだったらなんだ?」

 

幾らで買ったかは忘れたが、あのバイクは七惟にとっては自身の命の次に大事なものだ、一カ月に一回は必ず洗車しておりかなりの溺愛っぷりである。

 

「アレに乗ってみたい、とミサカは好奇心旺盛な自分自身に驚きます」

 

バイクに……?

 

七惟の印象からすれば、女子生徒は2輪車は怖くて乗りたがらないといった印象が強い。

 

ハーレーやアメリカン、ビックスクーターならばシートも車体も安定しており、乗りたいと言う子もいるかもしれない。

 

しかし七惟のバイクは250CCのネイキッド、当然シートは狭いしホイールも細いうえに、マフラーをかちあげているため後部座席に乗る人間はかなり不安定だ。

 

「お前、アレは結構揺れるし危ねえぞ」

 

「問題ありません、とミサカは応えます」

 

「そんなに乗りたいのか?」

 

「乗ったことがないモノに興味を引かれるのは、そこまでおかしなことでしょうか?」

 

「……わあったよ」

 

これが見も知らぬ奴ならば当然七惟は突っぱねていたが、この少女は少なくとも七惟に関係はしている。

 

アイツの妹か――――まるで違うな。

 

「お前ヘルメットあんのか?」

 

「ありません、とミサカはしまったという表情と共にはっとします」

 

 

 

しまった、と言った表情……か。まるで変化がないがな。

 

 

 

七惟は心の声を押し殺して立ち上がった。

 

「行くぞ。ヘルメットなんざ無くても落ちねえから問題ねえさ」

 

「そういうものなのですか?とミサカは首を捻ってみせます」

 

だから捻ってねえって……。

 

どうもコイツといると調子が狂う、全く姉といい妹といい厄介な奴らだ。

 

 

 

まあ……嫌な感じはしない……か。

 

 

 

 

 


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