とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Live a lie - ⅴ

 

 

 

 

 

暗部組織グループの構成員である一方通行、土御門、海原、結標は第10学区の少年院へと向かっていた。

 

彼らの目的は暗部組織ブロックの少年院襲撃を防ぐことだ。

 

メンバーはこの抗争が始まってから追っている組織がブロック、彼らは当初学園都市への攻撃を企て第23学区の衛星アンテナを操作し衛生による地上攻撃を目論んでいるのかと考えられていた。

 

ブロックの謀略を防ぐべく衛星用のアンテナを破壊した一方通行だったが、実はその監視衛星のクラックはデコイ、本命は警備が手薄になった少年院を攻撃することだ。

 

少年院には数ヶ月前結標が残骸を運ぶ際に協力した少年少女達が収監されており、ブロックは彼らを使って結標との交渉テーブルにつこうと思っている。

 

そんな外道な真似を結標が許すわけも無く、第11学区から第10学区まで何時も通りキャンピングカーで移動していた。

 

少年院の構造は外部に公開している情報だけでは理解しがたい作りになっており、その詳細は関係者のみに明かされている。

 

土御門は端末を使って少年院の情報を調べているようだが、メンバーが一番気になっているのは少年院の『対能力者用防御装置』の全容だ。

 

 

 

「対能力者用の設備はどうなってンだ?」

 

「AIMジャマー……まぁ、有名所で距離操作能力者や転移能力者を攪乱するハイパージャマーなんかも含めてざっと25前後の対能力者トラップか」

 

 

 

一方通行の問いに、見取り図を見ながら土御門が応える。

 

やはり凶悪犯罪を起こした能力者を収監するためだけあって警備システムは厳重だ、AIMジャマーはもちろん、収監する能力者に合わせての対能力者トラップもあるとなれば外から内部構造を探ることも難しい。

 

 

 

「能力は建物内では使えねェのか」

 

「まぁ、あそこに収監されるレベルの能力者となればそれを無視して無理やり能力を使うことは出来るな。おかげさまであそこの少年院は保険会社泣かせワースト3に入るらしい。どれだけ厳重な警備網を敷いても、無効化は無理だ。だが……」

 

「……含みのあるいい方ね」

 

 

 

結標が、腕を組みながら左手の小指をひっきりなしに動かしている、これは彼女が苛立っている時の癖で今も相当ご立腹のように見える。

 

何に変えてでも守ると決めた者が誰かの手に落ちようとしているのだ、そんなことを許せるわけがないだろう。

 

 

 

「お前や一方通行みたいな能力者が無理に能力を行使すれば、どうなるか分かったもんじゃない。最悪能力が暴走して自爆も有り得るな。下手な自殺をしたくなければ気を付けるこった」

 

そう言って土御門が見取り図を畳もうと図の右端に手を持っていこうとした。

 

しかし、右端を掴もうとした右腕は空を切り何も掴まない。

 

何かがおかしい、と思い身体を緊張させた土御門だったが、その異変に気付いた時にはもう既に事態は急変していた。

 

グループを運んでいたキャンピングカーが、彼らが言葉を発する前に横殴りの衝撃で、凄まじい速度で吹き飛んだ。

 

 

 

「ッ!?」

 

「ンだァ!?」

 

「ブロック!?」

 

「スクールかもしれない、気を緩めないでください!」

 

 

 

吹き飛ばされたキャンピングカーは幹線道路からはじき出され、脇にあった生い茂る森の中へと突っ込んだ。

 

ほとんどの者が経験したことが無いような真横への垂直移動からの大きな衝撃、こんな攻撃を仕掛けてくるとは。

 

新手かもしれない、すぐに敵を見つけなければ。

 

グループ全員はキャンピングカーが止まると一斉に車から飛び出し、襲撃者を探す。

 

日も暮れ始めており、奇襲にはもってこいの時間帯で探すのにも一苦労かと思われたその時だった。

 

 

 

「ハッ……」

 

 

 

幹線道路のど真ん中からこちらを見ているのは、学園都市第8位にて距離操作能力の頂点に立つ男。

 

全身真っ黒に染め上げた衣装でこちらをまるで射抜くような視線で睨み付けてくるその男の正体は。

 

 

 

「よぉ……ゴミクズ野郎」

 

 

 

学園都市最高位の距離操作能力者である全距離操作。

 

姿を確認し、グループは間髪入れずに茂みから幹線道路へと飛び出し敵の真正面へと立つ。

 

この道路は少年院、原子力開発機関など大型車が通るため非常に広くその道幅は40Mにもなるがそのど真ん中で佇む男は不気味な笑みを浮かべてこちらを憎々しげに見つめていた。

 

それはもう暗部社会を経験していない者が直視したら震え上がる程の憎悪の瞳だ。

 

 

 

「オールレンジ、これはいったいどういうことかしら?貴方も『ブロック』の仲間?」

 

 

結標が冷ややかな声で七惟を糾弾するが、七惟はそんな結標に視線を向けることすらしない。

 

 

「待て結標」

 

 

 

食ってかかろうとした結標を土御門が制止する、何だか様子がおかしい。

 

彼は全距離操作のクラスメートだから良く分かる、あそこまではっきりとした怒気を表している全距離操作はこの半年一度も見たことが無かった。

 

神裂を使って能力者実験紛いのことをした時でさえ此処まで明確な怒りを感じたことはない、元来七惟はどちらかと言えば冷静で自身が不利益を被ることとなれば必ず手を引く。

 

そういう用心深さの塊のような男が自分はともかく結標と一方通行を同時に相手にしようだなんて考える訳がない、何かあるはずだ。

 

 

 

「あぁ、土御門の言う通りにしとけ。俺はてめぇや土御門に興味はねぇ、さっさと少年院へ行きやがれ」

 

「……どういうこと?」

 

「それは」

 

 

 

七惟の言葉を合図にして、彼の周辺で異変が起こる。

 

幹線道路のコンクリートが剥がれ持ちあがる。

 

それと同時に土御門の隣で一方通行が首元の電極に手を伸ばしたのを見た、そしてそのコンクリートは何のためらいもなくまるで弾丸のように一方通行へと放たれた。

 

 

 

「俺に用があるってことだよなァ……?」

 

 

 

激突したコンクリートは一方通行を潰すことはなく、逆にばらばらに粉砕されて石のつぶてとなって周辺へと降り注いだ。

 

 

 

「一方通行、お前全距離操作に何をしたんだ」

 

 

 

二人の間にいざこざがあったと感じた土御門はすぐに言い寄るが、第1位はくだらなそうに笑い飛ばす。

 

 

 

「はン、契約を交わした女をぶち殺しただけだ。それであの糞野郎が切れてンじゃねェのか」

 

 

 

なるほど、原因はそれか。

 

スパイの女を殺したことの報告なんて聞いていなかったが、おそらく何かのはずみであの女は死んだのだろう。

 

唯の無意味な殺しをするような奴じゃないが、そんなことは全距離操作からすれば関係ない、復讐しにきた……というところか。

 

 

 

「ようするにお前が自分でまいた種ってことでいいんだな」

 

「あァ、そうだ」

 

「何満足げに笑ってるのよ貴方」

 

 

 

ここ最近の七惟の変化は滝壺の話や天草式との行動を見ていれば粗方検討はつく。

 

普通の人間として生きていくには必要な術を全距離操作は少しずつ取得していったと考えられるが、今回のケースではそれが仇となってしまったようだ。

 

昔の全距離操作ならば無視して流せる事も……唯の高校生七惟理無からすれば、怒りと憎しみの対象となる訳だ。

 

一方通行は現代的なデザインの杖を投げ捨て、戦闘態勢に入る。

 

彼ならば全距離操作を殺すことなく痛めつけ戦意を失わせることが出来る、此処はいったん任せようか。

 

 

 

「せっかく見逃してやったってンのに……ノコノコと殺されに来るとは、とんだ自殺願望者だ」

 

「一方通行、遊んでいる暇はありませんよ。程程にしてすぐに少年院に来てください」

 

「はン、1分もありゃァ十分だ」

 

 

 

その言葉を聞いて土御門達残りの3人は、少年院へと向けて走り出した。

 

キャンピングカーが破壊されているため少し時間はかかるだろうが、もう目的地は目と鼻の先なのだ。

 

こんなところまで来て邪魔されるとなると、苛立ちが募るは自然なことで、それは当然一方通行も同じ。

 

 

 

「はン……ったァく、てめェは余程俺に殺されてェみてェだな」

 

 

 

一方通行は何故七惟がスパイの女を殺されて激怒しているのか理解し難い。

 

メンバーからすればあの女は仲間を敵に売った害虫のような存在、そんな女の死にこれ程まで執着するとは。

 

まぁどんな理由があろうとも一方通行のやることは決まっている。

 

全距離操作が抱く感情など一方通行からすればその辺りに転がっている石ころくらいどうでもいいことだ。

 

彼が目指すのは自分が守るモノをどんな手を使ってでも守りきること、唯それだけだ。

その他のことなどどうでもいい、そう……例え目の前に佇む男が最強の距離操作能力者であろうとも、邪魔をするならば排除の道以外なし。

 

幹線道路に佇む二人、片や学園都市最強のレベル5で序列1位、片や学園都市最強の距離操作能力者で序列は8位。

 

二人が激突するのはこれで四度目、一度目は昨年の夏に第19学区の研究所で、二度目は第七学区の操車場で、そして三度目はつい先ほど第23学区の駅、そして四度目は……今から第10学区の幹線道路で行われる。

 

四度目の正直とは言わないが、此処で二人の関係が大きく変わるかもしれない。

それこそ、もう二度と二人が肩を並べて対峙することがなくなるほどの、大きな変化が。

 

 

 

「ハッ……聞けゴミクズ野郎。俺はな、どっかの誰かさんみてぇに善人じゃねぇし殺しもする、そのうえ人の気持ちも汲まない屑野郎だ」

 

 

 

七惟理無は一方通行のことを『ゴミクズ』という。

 

対する一方通行は、七惟理無のことを『糞野郎』と言い放つ。

 

 

 

「あァ……?懺悔でも始めるつもりか?」

 

「でもな、人の気持ちを踏みにじるような下衆は」

 

「……」

 

「人の気持ちも汲めない屑より価値がねぇ」

 

 

 

自らを卑下し、最低の人間だと言う七惟であったが、それよりも許せない、最低の人間が居るのだという。

 

そしてそれは、おそらく七惟と対峙している一方通行自分自身のことだ。

 

 

 

「てめェ、何が言いてェんだ」

 

 

 

そこまで分かっていて、敢えて一方通行は七惟の本心を問うた。

 

奴の気持ちは分かった、だが此処でこの男をぶち殺したならば第3位のクローンの一人が悲しむ。

 

だからと言って此処でやることには変わりない、しかし生かしておけるのならばなるだけ戦いは避けたほうがいい、彼女らのことを考えればそちらのほうがいいだろう。

 

しかしこの男の風貌、親の仇を見るかのような怒りの瞳、身体全体から発せられる問答無用の殺気を見ればそれは不可能のようにも思えた。

 

そこまで覚悟しているというのならば、もうそれ以上は何も言う必要もないし、無駄な言葉を重ねるだけだ。

 

第3位のクローンが涙してでも、自分を殺したいという気持ちのほうが強いのならば、遠慮など要らない。

 

 

 

「説明が必要か?」

 

 

 

七惟の言葉に、一方通行は全ての逡巡と決別し一人の悪党として、自身の目的を完璧に遂行するべく頭を切り替えた。

 

 

 

「笑わせやがる、てめェのあせェ思考なんざ筒抜けだぜェ!」

 

「話しが早くていいもんだ、ゴミクズがあああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

自身の犯した罪を償うため一人の少女を守り、もう新たな犠牲を生み出さないと決めた男と、人の気持ちを理解出来なかった、しかしこれ以上死んだ者の気持ちの冒涜を許せない男。

 

目的は二人とも同じ、自分の決めたことを完遂すること。

 

 

 

失うくらいならば、他の全てを犠牲にしてでも守りきる。

 

 

 

失ってしまったから、その罪を自分だけではなく全てに償わせる。

 

 

 

そのために、二人は血で血を洗う争いへと身を投じた。

 

一方通行と全距離操作が再び、学園都市を舞台として死闘を始める。

 

限りなく溢れ出す七惟の激情と、一方通行の何物にも変えられない鋼の意思。

 

その二つが激突した。

 

 

 


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