とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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復活の言葉-ⅴ

 

 

 

 

 

垣根の攻撃により外の世界へと放り出された七惟はホテルの周辺を囲うように茂っていた草木に引っかかったおかげで地面に直接落ちることはなく、何とか一命を取り留めていた。

 

だが右肩に付けていた医療装置は垣根の攻撃によって無残にも破壊されて粉々になり、今では全くその役割を全うしない状態。

 

気を失っていたようだが痛みが全身に広がるのを感じ意識が覚醒する。

 

一命を取り留めたとはいえ一方通行と垣根から受けたダメージは尋常ではなく、よくもまぁまだ意識を保っていられると自分のタフさに感心する。

 

今迄の暗部生活と上条達と繰り広げた魔術者との戦いの賜物かもしれない、今回ばかりはそんな自分の悪運に感謝しつつも激痛でしばらく身動きは取れそうにもないが……。

 

しかしそんな痛みにかまけている時間はないのが現実だ。

 

 

 

「滝壺と浜面は……!」

 

 

 

携帯で時間を確認するともう彼らと別れてざっと15分近く時間が経過している。

 

気を失っていたうえ、体の痛みで呻いていたその間にどんなことがあったか分からないが今すぐにサロンに戻った方がいい。

 

麦野と絹旗があの後どうなったのかも気になる、あの対峙した時の垣根の様子からすれば二人ともまるで子供が蟻を踏みつぶすかのように何の障害にもならず蹴散らされてしまったのが容易に想像できる。

 

自分も彼女たちと同様垣根のお情けで手加減され生き残ったに過ぎない、手加減も何も施されず奴と戦った二人はいったいどうなってしまったのか。

 

物言わぬ屍となってしまったか、はたまた自分と同じように気まぐれで見逃して貰えたのか……。

 

兎にも角にも確認しなければならないことが多すぎる。

 

力量に差がありすぎて障害にならないと判断されるであろう絹旗はもしかしたら生かされているかもしれないし、滝壺と浜面の二人に関してはどうなっているのか見当もつかなかった。

 

七惟は携帯を取り出して、順番に通話をかけていくが繋がったのは浜面だけだった。

 

 

 

「浜面」

 

「七惟!?無事なのか!?」

 

「あぁ、あの野郎手加減しやがった。今は素直に自分の運の良さに感動してるとこだ、それでも五体満足じゃいられねぇが」

 

「怪我のほうは」

 

「右腕が完全に死んだな、あとは出血が酷いが……まだどうにかなる。お前ら今何処だ」

 

「第2位からは何とか逃げ切ったが」

 

 

 

逃げ切った。

 

電話に出られるということはそうなのだろうと予感はしていたが、まさかあの男が二度も慈悲を掛けるものなのか?

 

心理定規のお情けを掛けて貰えた自分や絹旗のようにもう使い物にならないならともかく、あの男の邪魔になるであろう麦野や滝壺は間違いなくあの世送りにされる可能性が高いと考えていたのに。

 

 

 

「そんなことより滝壺の奴が危ないんだ!『タイショウ』っていう薬を使いすぎて、このままだと崩壊が始まっちまう!」

 

「崩壊……?タイショウ……?」

 

 

 

何の事だか分からなかいが、その言葉が意味することが滝壺にとってプラスに働くものではないということくらい七惟にも判断は出来る。

 

 

 

「俺は今、病院に向かうための足を探してる!お前は!?」

 

 

 

浜面の上ずった声からしてかなり切羽詰まった事態のはずだ、それこそ滝壺の命に直接関わってくるものだと思っていいだろう。

 

ただもう少し情報を得なければ七惟は右にも左にも動けない、浜面から更に話を聴きだそうとするが。

 

 

 

「まだサロンの入り口付近だ、もう垣根を始めとしたスクールの連中はいねぇ。これから……」

 

「ッ、誰か来た!切るぞ七惟!」

 

「お、おい!」

 

 

 

浜面は七惟に全容を話す前に電話を切ってしまった。

 

誰か来たと言うことはスクールが心変わりしてやはり仕留めにきたのか?

 

いや、垣根があんな無防備な敵を放置してやっぱり止めを刺しにきました、なんて下手な真似をするとは到底考えられない。

 

滝壺の『崩壊』とやらがおそらくは原因で、滝壺が撃破するに足らない存在だと判断したからだろう。

 

ならばいったい誰なんだ、と七惟は考えるが一向に答えは出てこないし浜面から情報を貰わなければ動くことすら出来ない。

 

とりあえず木から下りて態勢を整えたほうがいいだろうと判断し、猿のようにするりと木から降り立つ。

 

周囲を見渡すと野次馬共で埋め尽くされているかと思ったが、それらしい影は全く見えずむしろ静まり返っている。

 

おそらく学園都市暗部の隠蔽舞台が展開して人を近寄らせていないのか、はたまたそれ以上にデカイ事件が何処かで起こっているのか。

 

両方だろうと結論を下し自分の取るべき行動を考えるが。

 

 

 

「な、七惟!?」

 

 

 

自分の名前を呼ぶ声がした。

 

聞き覚えのあるトーンで、少女らしいその声はすぐさまアイテムの一員である者が発したモノだと分かる。

 

声がしたほうに身体を向けるとサロン建物の入り口付近に、先ほどから一向に姿を現さなかった少女が、目を丸くしてこちらを見つめていた。

 

恐怖に彩られた青白い顔と共に。

 

 

 

「フレンダ?」

 

「い、生きてたわけね。こうして此処で私を待っていたってことは、結局私を粛清にしにきた?」

 

「あぁ……?」

 

 

 

七惟の前にまるで嵐のように突如やってきたのは、アイテムの構成員であるはずのフレンダ・セイヴェルン。

 

しかしどうしたことか、今目の前にいる彼女は七惟が知るあのおちゃらけて『訳訳』言ってこちらを小馬鹿にしたような態度の彼女から有りえないくらいにかけ離れている。

 

こちらを見た瞬間まるでこの世の終わりのような顔をしたかと思ったら、今度は何時もの目とは違い濁った揺れる目でこちらを見つめてくる、気味の悪い笑みを浮かべながら。

 

 

 

「でも残念ながら私はそう簡単にはくたばらない。アンタを消して私は生き残る!」

 

 

 

語尾に口癖を付ける余裕すらないような切羽詰まった表情、そんな自分を隠すかのように薄気味悪く口端を釣り上げるフレンダ。

 

こんな顔の彼女はコンテナで圧死させようとしたあの時くらいしか見たことないが、あの時の敵対心と恐怖心を自分に抱くには環境が大きく変わっており有りえないはずだ。

 

しかしそんな暢気なことを考えている七惟とは対照的にフレンダは顔を強張らせるばかりで、遂には懐から携帯の爆弾を取りだす。

 

その行動と言動が理解出来ない七惟は状況の変化についていけない。

 

アイテム間ではもう死んだことになっていたフレンダが生きていたことは驚くと共に嬉しいとは思うが、何故彼女は爆弾を取り出し今にもそれを自分に投擲しようとしているのだ。

 

 

 

「おい待て、訳が分からねぇぞ。俺は別にてめぇを探してたわけでもねぇし、お前は麦野のメールを見てからこのサロンに来たんじゃないのか?なんでそんなモン手に取ってんだ」

 

 

 

此処にいるということはそういうことだろう、だが集まった時には既にスクールによってめちゃくちゃにされてしまった後だったという点以外では。

 

しかしフレンダの様子を見るにとても仲間の元に合流したような時に浮かべる表情をしていないし、それに先ほど彼女が口走った粛清とはいったいどういうことなんだ。

 

 

 

「な、何今更そんなこと言っちゃってるの。そんな子供騙しに私がはいそうですかって言うと思ってる訳?私を油断させてそのスキにコンクリに転移でもさせる算段なんでしょ!?そんな浅はかな考えはお見通しな訳!甘いわね七惟、やっぱりアンタは甘すぎる!」

 

 

 

フレンダは七惟の問いかけにまともに答えようとはせず攻撃の意思を強めるばかりだ、焦っているのか錯乱しているのかは後者に間違いないが、彼女の額から流れる汗や座っている目から感じられる感情はまともなものではない。

 

 

 

「俺がアマちゃんだろうが、んなことはどうでもいい。今はもうスクールはいねぇからその手に持ってる爆弾仕舞え」

 

「スクールがいない……?もしかして七惟、アンタ根本から勘違いしてる訳?」

 

「んだと?」

 

 

 

根本から勘違いしている?

 

語気を強めるフレンダ、先ほどから感じる並々ならぬ狂気にも近い言動。

 

七惟の額にも嫌な汗が流れるのが分かる、汗と額の傷から溢れていた血が混ざり合い視界を閉ざそうと流れ落ちた。

 

その気後れしている七惟の弱腰を感じ取ったのか、勝ち誇ったかのような、それでも追い詰められたような乾いた笑みを浮かべてフレンダがじわりじわりと近寄ってくる。

 

 

 

「てっきり馬鹿な麦野みたいにキれるだけじゃなくて『頭』が切れるアンタなら早々に気付いてるものだと思ってたけど……結局も七惟も麦野の言動を全部信じちゃう思考回路が停止しちゃった馬鹿だった訳?」

 

気持ち悪い、気持ち悪い、吐きそうだ。

 

フレンダに色仕掛けをされた時も気持ち悪いと思ったが、その時とは違う本能的なところで今自分は彼女の言動を全力で拒否しようとている。

 

何故だろうか?

 

 

 

「私は……別にスクールなんて怖くない訳よ」

 

「……」

 

 

 

それはきっとそこから先放たれるであろう言葉は絶対に良いものではないと直感で分かっているからだ。

 

あの時の自分の手から零れ落ちて消えていった少女が放った言葉のように何かをバラバラに砕くには十分過ぎる一言が今、聞きなれた少女の口から意味を成す音声となって七惟に襲いかかった。

 

 

 

「だって……もう私はスクールの一員になった訳よ!」

 

 

 

その一言は、七惟理無とフレンダ・セイヴェルンの関係を破壊する言葉。

 

そしてこれから先の二人の運命を決定づける一言だった。

 

 

 

「……!」

 

「もうアイテムなんて知らない、結局アンタ達は私がスクールに入るために売られた哀れな敗者って訳!」

 

 

 

 

 

 








大変お待たせしました、更新が滞ってしまい申し訳ありません。

3月中にあと1回更新できるよう頑張ります!


 

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