とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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御伽噺のような終末を-ⅰ

 

 

 

 

 

「ハッ……そういうことかよ」

 

「そう言う訳よ。アンタ達は私のために死んでいくって訳!」

 

「……今日はよく裏切りに遭う日だ」

 

 

 

つまり、こういうことなのだろう。

 

フレンダとスクールは、七惟やアイテムが知らない場所で何らかの取引を行っており、自分がスクールに入るために七惟及びアイテムの情報をスクールに売ったと。

 

いや、フレンダの性質を考えると入るためというよりも保身に走って自分が助かるために情報を売ったと考えたほうが妥当か。

 

裏切った詳しい理由や動機をその口から一字一句残さず説明して貰いたいところだが、あの少女と違いフレンダの裏切った理由は深く考えずとも七惟は簡単に導き出すことが出来る。

 

 

 

「てめぇの身可愛さに仲間を売るとは、まぁ暗部じゃしょっちゅう行われる恒例行事だしな」

 

「まぁね。この世界じゃ全ては自分を中心に動いている、全ては自分のためにあるものでしょ?」

 

「てめぇがそう言うんだったらそうなんだろ」

 

「結局七惟も、滝壺も絹旗もそれが分からなかったらこんなことになった訳よ。最初からアイテムがスクールに勝てる要素なんて無かった、アンタが入ったとしても普通じゃない第2位に勝てる訳ないじゃない?」

 

「その点では賛同だな」

 

「なのに皆麦野の言うことに首を縦に振るばかり、自分で考えるのを止めたのか忘れちゃったのか、まぁどっちでもいいけど。結局それが自分の首を絞めてる訳よ、アンタ同様あの二人も甘い訳」

 

 

 

まぁそうだろう。

 

暗部にどっぷりと浸かった人間からしてみれば今の七惟や滝壺、そして絹旗が最後に取った行動は浅はかで愚かである。

 

誰か他人を気遣うくらいならば、自分の身を案じることのほうが先だろうとフレンダは言っているし、彼女の言い分がこのアンダーグラウンドな世界では正しい。

 

 

 

「私は素粒子研究所で戦った時に第2位の実力を知って、アンタと麦野の戦闘能力を足し合わせたモノと天秤にかけた訳よ。結果は見ての通り、麦野じゃどう足掻いたって勝てないし、麦野が勝てない相手に第8位のアンタが勝てる訳ない」

 

「そして俺達の知らないところで垣根に媚売って取り入ったってことか」

 

「媚とか言って欲しくない訳よ。媚じゃなくて、取引よ。賢い選択だと言って欲しい訳、アンタ達が麦野のつまらないプライドの犠牲になってる間に、私はこんな面白いモノもあの男から貰った訳だしね!」

 

 

 

フレンダが懐からスピーカーのような形をしたアンテナらしきモノを取りだす。

 

先端は円状に広がっており、底はお椀のようにくぼみ中心には何らかの音波かレーザーを照射するらしき発射口があった。

 

 

 

「へぇ……それが賢い選択で得たモノかよ」

 

 

 

作りはよく分からないが、無能力者であるフレンダが能力者である七惟に向けているあたり、あれは対能力者用のAIMジャマーを撒き散らす装置か、もしくは対距離操作能力者用に作りだしたハイパージャマーか。

 

対距離操作能力者用のハイパージャマーは五感の一つである視覚を狂わし、視力に頼る能力者を木偶の棒にして捉えるというアンチスキルの特別部隊が使う装置だ。

 

ただそのアンチスキルが使うハイパージャマーと明らかに違うのは高周波及びレーザーを撒き散らすための発射口の大きさだ、もはや大口径と言っても過言ではない。

 

 

 

「コイツは対能力者用のジャマーだけじゃなくて、アンタ達が私を粛清すると思って、それに備えてカスタマイズした特注品!対距離操作能力者用のハイパージャマーはもちろん、絹旗と麦野用の異物質レーザーを装着してる訳よ!」

 

「それはごたいそうな装備だな、垣根の糞ったれから貰ったのか」

 

「麦野のことだから、私が裏切ったと知ったら目を血走らせて粛清しに来るに決まってる訳よ。そこで絹旗の窒素装甲を貫くため、麦野メルトビームですら受け付けないあの男の能力が詰まった未元物質レーザーって訳」

 

「そこまで詳しく麦野のこと知ってるのに、よく簡単に裏切れたな」

 

「よく知ってるから先手が打てると言って欲しい訳。この武装ならアンタだって即死よ」

 

「……おいフレンダ」

 

 

 

こちらに銃口を構えるフレンダの表情は勝ち誇ったような、それでも焦燥に駆られているよう、何かに怯えているような表情だった。

 

勝ち誇った表情は、未元物質の能力を応用したこの武器ならば七惟理無でも撃破出来ると思っているからか。

 

焦燥に駆られているのは、それでも絶対はないため不安に駆られているのか。

 

怯えているのは、アイテムからの復讐・粛清で麦野から狙われるからか、それとも……この武器ですら七惟に勝てず、自分は死ぬのではないかという生物では絶対に逃げ切れない死の恐怖からか。

 

 

 

「てめぇ、欲しかったモノはそんな粗大ゴミみてぇなガラクタでいいのか?」

 

「が、ガラクタって何よ七惟。アンタは今からそのガラクタに殺される訳」

 

「そのガラクタは、てめぇがアイテムで積み上げてきたモノと同じくらい価値があるか?」

 

「今更そんな揺さぶり?この世界じゃ言葉は意味を成さない訳、結局力が全てよ」

 

「まぁ、俺はぶち殺したところで何も思いやしねぇだろ、元はと言えば殺し合った仲だしな。だがその武器で、滝壺や絹旗、麦野を殺してお前はのうのうと生きていけんのかって訊いてんだが?」

 

 

 

自分にはそんなことは出来ない。

 

アイテムに入る時、滝壺を犠牲にして自分だけはのうのうと生きて行くという選択肢を一瞬思い浮かべた自分が居たが、あの頃の自分ですらそんな選択肢は即座に切り捨てたのだ。

 

 

 

「……そ、それとこれとは話が別な訳よ」

 

「別じゃねぇ。俺達を裏切ってその武器を手に入れて、俺達の命を奪ってその代わりに自分の命を守るんだろ?」

 

「結局はそうなる訳だけど……」

 

「ならそういうことだろ?それでいいんだったら好きにしろ」

 

「い、言われなくてもそうする訳よ!」

 

 

 

まぁ彼女の性格を考えればそう言うだろうとは思った、だが七惟はドコぞのサボテンのように善人ではない。

 

言葉を使って説教垂れて相手の目を覚まさせるなんて出来るとは思えない、ならば実力でボコボコにして気づかせてやる。

 

「その代わり俺は本気で、てめぇを殺しに行くぞ?」

 

「うっ……」

 

「そんくらいの覚悟は出来てんだろ?」

 

「あ、当たり前な訳よ!」

 

「なら俺と殺し合えばいいだろ。まぁてめぇが万が一勝ったとして、アイテムを全員殺して、てめぇに何か残るのかって話だがな」

 

 

 

名無しの少女を失い一方通行と戦った自分ならば分かる、何かを失って手にした勝利などおそらく空虚で空しいだけ、その手には何も残らない。

 

だが七惟にはまだあの少女以外にも、自分の声を聴いてくれる人が居た、自分を助けに来てくれる人がいた。

 

フレンダには、もうアイテムを取ったら何も残らない。

 

妹が居る、と言ったが今までの私生活の半分以上を占めていたアイテムが彼女にとっては、妹とも代えがたい存在であるということくらい七惟にも分かる。

 

そもそも仲間を裏切ってどの面を下げて妹に会おうと言うのだ、仲間を売って殺して笑って妹に会える人間がいるとすれば、そいつの精神はもはや神の域だ。

 

 

 

「確かに命も大事だろ、それは当たり前だ」

 

 

 

命は大切なモノだ。

 

あの少女は、命と同じくらい自由というものが大切なモノだった、憧れるものだった。

だがそれと同時に、自分の中で培ってきた感情も同じくらい大切だったのだ。

 

結果少女は大切なモノの二つの内一つを失った、それはもう取り返しがつかないし七惟がどれだけ悔もうが一方通行を怨んでも変わらない。

 

しかし少女は抗ったのだ、その結果で失ってしまっても、全てを出しつくしたからあの微笑みを浮かべられたはずだ。

 

それに比べて今のフレンダは少しでも抗ったか?

 

楽な方楽な方、保身に走って結局少しも抵抗せずに垣根の軍門に下ったのだろう。

 

麦野の誤射でダメージを受けていたがこんな元気な姿を今見せているなんて本当はあの傷だってお得意の工作でケチャップでも塗りたくったんじゃないかと疑ってしまうくらいだ。

 

そんな奴がこれから先アイテムを抹殺した後笑って生きていけるとは思えない、失ったモノに対していつまでも執着しては思いだし、未来を生きる気力なんざ湧く筈がない。

 

結果夏休みまでの自分が、『生ける屍』と呼ばれていた自分のようなからっぽの人間になってしまう。

 

 

 

「命と同じくらい大事なモノもあるぞ。ソレと命、どっちかを選べって言った時……てめぇみたいにすぐ逃げて楽な方に逃げる奴は」

 

「な、何……説教垂れてる訳よ!これは私の生き方で結局アンタにとやかく言われる筋合いはない訳!」

 

コイツはこんなにも性根が腐っていて、すぐ保身に走って自分勝手で最強の自己中で、殺し合って面を合わせればすぐ怒鳴り散らかすような関係だったが。

 

そんな奴とでも、まだ一緒に居たいと願う奴がいる。

 

滝壺や絹旗は、七惟が彼女達と一緒に居たいと願ったのと同じように、フレンダとまだ一緒に居たいと少なからず思っているはずだ。

 

それに自分にとっても此奴はお調子者で『訳訳』うるさい馬鹿な奴だが……。

 

きっと、居なくなったら居なくなったで自分の中にきっとぽっかりと穴が開いてしまう、そしてそれは埋めることが出来ない穴だ、それだけは分かる。

 

だから。

 

 

 

「そのくっだらねぇ考えを修正してやる、お前の思考回路は苦労するっていう抵抗が全く無いみたいだからな!」

 

「こ、この……!煩い煩い!煩い訳!言わせておけば!私は私がやりたいようにするって訳よ!アンタだって今までそうしてきた訳でしょ!?暗部のルールな訳よそれが!死にたくないって思って悪い訳ない!」

 

 

 

七惟が発した攻撃色を感じ取ったフレンダは垣根から貰った武器を構え攻撃を行おうとするが……。

 

瞬間、フレンダには先ほどまでそこに佇んでおり何の変化の兆しも無かった七惟の身体が超加速したかのように見えた。

 

だが実際はその逆で、自分の中を流れる『時間』が遅くなったのだ。

 

 

 

「こ、これは結局いったいどういう訳よッ!?」

 

 

 

フレンダはレーザー砲の照準を七惟に合わせようと身体を動かし、同時にAIMジャマーを周辺に撒き散らそうとするが。

 

時間距離を操られたフレンダの行動は、全てが遅すぎだ。

 

全身を一方通行、垣根に痛めつけられとても俊敏な動きが出来そうにない身体で七惟が接近してくる。

 

重体とは思えないそのスピードは、実際大したことは無かったが時間距離を操られて周囲のスピードが通常の何倍にも感じてしまうフレンダにとっては脅威以外の何者でもなかった。

 

AIMジャマーが起動する前に、七惟は動きが止まったフレンダの持つ武器を虚空の彼方へ転移させ文字通り武装解除させる。

 

呆気に取られた表情のフレンダに対して七惟はそのままスピードを殺すこと無く、真正面から突っ込んでいく。

 

まだ時間距離操作の影響下にあるフレンダは、突進してくる七惟を交わすことも、防御に回ることも出来ない。

 

容赦の無い七惟の鉄拳が、フレンダの腹部へと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 





 


たぶん主人公物語上ではじめて拳を使いました。


 

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