とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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それでも、私は生きたい-1

 

 

 

 

 

ミサカ10031号を追い払った翌日、またミサカはやってきた。

 

「今度は、第何番だよ……」

 

「ミサカのシリアルナンバーは19090です、とミサカは自己紹介をします」

 

「えらく飛んだな」

 

「他のミサカは研修が追い込みに入ってきているのです、とミサカは補足説明をします」

 

研修。

 

つまりツリーダイアグラムが示したパターン通りの実験を行うための予行演習のようなものだろう。

 

それだけでむしゃくしゃしてくる。

 

「実験には参加してくれますか?今回の報酬はこちらとなっています、とミサカは書類を提示します」

 

「……」

 

今度は昨日の報酬にさらに無条件で学園都市と外部を出入り出来るパスまで着いていた。

 

「……お前はさ、死ぬのが怖くねえのか?」

 

「いきなり関連性のない話をする意味がわかりません、とミサカは話題の修正を」

 

「いいから聞けクソ餓鬼。どうなんだ?」

 

「……ミサカはこの実験のために作られた実験動物です、ボタン一つで量産が可能でその単価は18万円。テスタメントをインストールされているためそのような余分な感情は持ち得ていませんとミサカは不満をもらしながらも応えます」

 

嘘、だな。

 

七惟は昨日ミサカが帰ったあと、死ぬほど色々と考えた。

 

今まで七惟は誰かのために何かしたことなどないし、生きることさえもただ漫然と時間を浪費しているだけだった。

 

一つの分からない答えを知るためにただ生きていた七惟が、自分以外の他者のために何かをするなんて考えたこともない。

 

10010号の時だってそうだろう、自分が彼女の死ぬところを見たくなかったから助けようとしたのかもしれない。

 

しかし……それで、いいのではないか?

 

誰だって、誰かが死ぬところなんて見たくない……それが例え自分を実験動物だと言い張る奴でも。

 

死んだら全てが終わってしまう……此奴らが死んで喜ぶ奴らなんて、頭の狂った研究者くらいだ。

 

誰だって死が怖い、怖くて怖くて堪らない。

 

コイツらが本当にモルモットだというのならば、10010号や昨日の10031号が見せたあの表情が出来るはずがない。

 

「こっちから条件を出すぞ……そうだな、お前が俺を倒せたら俺はその実験に協力してやるよ」

 

だから七惟は彼女達の本心を引きずりだす。

 

「それはどういう意味ですか?とミサカは確認を取ります」

 

「お前が御坂美琴のように俺に一発でも電撃を浴びせたら協力してやるが」

 

「他にも何かあるのですか?」

 

一呼吸置いて、七惟は威圧の籠った低い声で語りかける。

 

「俺はお前を『殺す』つもりで攻撃すんぞ」

 

「……!」

 

ミサカたちはおそらく一方通行に殺されることには何ら恐怖はないはずだ、それが自分の使命だしおそらく逆らえない命令でもあるのだろう。

 

しかし自分を殺す対象が『テスタメント』に入っていない相手だったらどうだ?

 

「……そんな提案をする意図が分かりません、とミサカはこの案を撤回するように求めます」

 

「どうしてだ、お前らは死んでも全然構わねえんだろう?なら捨て身で行けばいいじゃねえか、お前が1万回捨て身で攻撃すれば俺に一撃くらい当てられるかもな」

 

「それは……」

 

先ほどからミサカの様子が少しおかしい、いくらなんでも此処までミサカが動揺するとは七惟は考えていなかった。

 

つけ込むならば今がチャンス、一気にたたみかけることにした。

 

「お前が死んだってな、代わりはいくらでもいるんだろう?お前が死んだあとそいつらと実験はやればいいしな」

 

カマをかけているのだが、七惟の普段の不躾な態度も伴って凄味は増すばかり。

 

ミサカの表情は目に見えて変わるということはないのだが、返答が遅くなっているあたり予想外の事態に戸惑っているはずだ。

 

「イレギュラーな事態に対応するためのコードを出力します……『実験成功のために最善を尽くせ』との命令が発信されています」

 

なるほど、マニュアルに載っていないような状況でも『実験』のために全力を尽くせとのコトか。

 

まあそちらのほうがこっちにとって都合が良い。

 

「そうかい、それじゃあ早速やりに行くか?」

 

ミサカはゆっくりと頷いた。

 

「いいでしょう、とミサカは貴方の提案に賛同します」

 

「決まりだな……行くぞミサカ」

 

七惟は部屋からフルフェイスのヘルメットを取りだし、ミサカに渡す。

 

「これは……?」

 

「ああ、場所までバイクで行くんだよ。お前ら好きだろ、バイク」

 

「乗ってみたいとは思いますが好きかどうかはわかりかねますとミサカは」

 

「はン……そういうことにしといてやる」

 

七惟とミサカは階段を下り駐車場まで歩く。

 

もうこの時点で七惟は確信があった、もしミサカが完全なるモルモットで自律思考する力がないのならばイレギュラーな事態に対応出来るわけがない。

 

自分の意思でミサカは決めたのだ、実験のためには闘うしかないと。

 

……やっぱり、分かってるじゃねえか。

 

二人は七惟が嘗て御坂美琴と対戦したあの19学区へとバイクを走らせた。

 

 

 

 

 


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