とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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摂理-ⅰ

 

 

 

「り、りりっりりむ!も、もう私限界かも!?」

 

「インデックス振り落とされねぇようにしろ!」

 

「ひぇ!?」

 

「地面に叩きつけられたくなかったら大人しくしとけ!」

 

 

 

結局あの後七惟は五和の提案に乗り、二人で運転技術を競い合うこととなった。

 

ちなみに絹旗には事情を話して500円、ワンコインを差し出したら恨めしそうな眼をこちらに向けて『超貧乏な七惟から施しは受けません』やら『次回は倍返しで超お願いします』と文句を言われまくり流石の七惟も今回ばかりは反論出来ず『わりぃ……』と絞り出すのが精いっぱい。

 

その後絹旗は怒っているような残念そうな複雑怪奇な表情を浮かべて帰っていった。

 

この時七惟は恐らく今まで最大の謝意を絹旗に対して向けたと思う。

 

そして七惟と五和は運転技術を競い合うことになったのだが、そのやり方は現在進行形で進んでいる通り七惟と五和がバイクレースを繰り広げる、というもので可哀そうなことに巻き込まれた人間が二人。

 

その二人とは言わずもがな上条とインデックスだが、七惟の後部座席には七惟がインデックス、五和はおそらく念願叶ったりの上条を乗せることとなったが今の五和もおそらくそんなことを気にしている余裕はないだろう。

 

二人が乗るバイクの型は250ccだが、このクラスにしては希少と言われる四気筒4サイクル、エンジンの回転数は1万八千回転と同型クラスに比べれば段違いの馬力を生み出す。

 

最高持続はアナログのタコメーターでは180kmだが、リミッターを切れば200kmも突破するが現在は既に市場にほとんど出回ってはいない、廃機種にするには非常に惜しい性能を持つ。

 

そんな高性能バイクを七惟は普段から人一倍可愛がり、毎日バイクには乗り、メンテナンスも怠らない、タイヤの溝、バースト、チェーンの弛み、日頃出来ることは欠かさない。

 

当然操縦スキルも愛車に合わせたモノにしている、だから同じ型のバイクに負けるつもりはなかったのだが……

 

どうしたことか、五和のバイクは七惟の横にぴたりとつけ、互角の勝負を繰り広げている。

 

只今持続は150kmを超えて来ている、要するにフルスロットルである。

 

盲点だったのは五和の操縦スキルだ、はっきり言って彼女は家事などの細かい作業は七惟が全くと言って言いほど敵わないが、戦闘やちょっとどんくさいところを考えれば絶対に勝てると思っていたのに……過少評価だった。

 

そして天草式の所持していたバイクもタイヤの状態から何もかもが七惟の愛車に勝るとも劣らない状態で五和に手渡されていたものだから、こうなってしまってはスキルで勝ちきるしかない。

 

しかし五和は大型を取っているということもあり、既にこのバイクの癖や特徴はばっちりと掴んでいる。

 

圧勝は出来なくても、ある程度の余裕を持って勝つことは出来るだろうと思っていた七惟からすれば開いた口が塞がらない。

 

 

 

「い、五和ああぁぁ!?こ、これアンチスキルに捕まるって!?」

 

「動かないでください!危ないですよ!」

 

「うぐおおあぁ!?」

 

 

 

後部座席に乗っている上条が何かを叫んでいるが、すぐに虫の息となる。

 

まぁこれだけ公道で飛ばせば当然か、今は交通量は少ないがそれでも死ぬんじゃないかと思うことは多々あった。

 

普段ならば能力を使って車を亜空間の彼方に吹き飛ばすのだが、今回は真剣勝負ともあってそんな裏技は自ら禁じている。

 

 

 

「あ、あとどれくらいで着くの!?」

 

 

 

インデックスが一秒でも早くこのバイクから降りたいと言わんばかりの声を張り上げる。

 

ちらりと時計を見て、標識を確認する。

 

どうやら目的地まではあと1km、つまり数十秒で到着だ。

 

地下市街地の駐車場へはもう今から直線しかない、要するにコーナリングの技術などではなく、マシンの馬力に全てが委ねられてることとなる。

 

 

 

「ッ!インデックス、身を屈めろ!」

 

「わ、分かったんだよ!」

 

 

 

少しでも空気抵抗を下げて、速度を上げるために七惟とインデックスは前傾姿勢を取る。

 

それを見た五和と上条も同じ姿勢を取る、こうなったら後は運を天に任せるのみ。

 

 

 

「五和にだけは……!」

 

 

 

五和にだけは負ける訳にはいかなかった。

 

理由は至って単純だった、五和に負ければ口論になった場合必ずバイクのことを引き合いに出してこっちをおちょくってくるに違いない。

 

 

 

『七惟さん、あの時負けたんですから此処は譲ってくれてもいいんじゃないですか』

 

 

 

こういうことを言うだろう、というか言うに決まっている。

 

そう考えただけでも腹が立ちまくる、それだけは回避しなければならない。

 

だから此処でその手を取らせないように潰す、少なくともバイクに関しては自分のほうが優位を保っておきたい。

 

他のことはどうでもいいが、バイクだけは七惟からすれば譲れないのだ。

 

目的地が目前に迫る、七惟と真横に五和が並ぶ。

 

判定は見たモノを一瞬で記憶するインデックスの力で行う、駐車場の『停止線』を先に超えたほうの勝ちだ。

 

あと何秒だ、そう考えた時には視界に映る色は変わっている。

 

過ぎ去る景色が止まったように感じた時、二台のバイクはまるで疾風のように駐車場を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

頭にタオルを乗せて、七惟は露天風呂に浸かる。

 

4人がやってきたのはお風呂ランキング3位の人気湯で、こんな時間だが大勢の人間がでごった返していた。

 

人ゴミが好きではない彼は顔を顰めながら服を脱ぎ、身体を洗い、今に至る。

 

当然混浴ではなく男女別々に別れているので、七惟は上条と、五和はインデックスと共に湯船に浸かっている。

 

 

 

「七惟……改めて言うが、帰りはあんなことしないでくれよ」

 

 

 

げっそりとした表情で上条が七惟の隣にやってきた。

 

 

 

「あぁ、しねぇから安心しろ」

 

 

 

『あんなこと』というのは、この風呂場に来るまでのレーシングのことを言っているのだろう。

 

上条とインデックスは七惟と五和のとばっちりを受け、望んでいないのに極上の絶叫マシーンを体験してしまったのだ。

 

七惟と五和は運転に関しては互いにアマチュアだが、コーナリングの際に車体を傾ける角度が半端でなく、後部座席に乗っている人間からすれば恐怖以外の何者も感じえなかっただろう。

 

おまけに速度は常に150km近く出ていたため、少しでも気を緩めて車体から転げ落ちてしまえば、それこそヴェント戦で受けた傷以上のダメージを負ってしまっていたに違いない。

 

あんな状況では五和も上条と密着している、などと言った余興に耽る余裕もなかったはずだ、帰りにそれはお預けだ。

 

 

 

「頼むぞマジで……インデックスの不機嫌オーラがあの後大変だったんだぞ、お前らは二人で仲良く喋ってたから知らないだろうけどさ」

 

「あぁ……?そうなのか、でもあのシスターの怒りを鎮めるのがお前の仕事だろ」

 

「いやいや上条さんはいったい今日だけで何回この身体に歯形を付けられれば……」

 

 

 

そう言って上条は腕回りや首のあたりをさすった。

 

インデックスの綺麗な歯型が見事に並べられており、彼の疲労の度合いを物語っている。

 

 

 

「今のうちに療養しとけ」

 

「はぁ……お前はご機嫌みたいだからいいけどなぁ……」

 

 

 

そう言って上条はぶくぶくと沈んでいく、他の客に迷惑になるからやめろと言いたかったが、流石に若干迷惑をかけてしまった感は否めないので、好きなようにさせておくことにした。

 

上条が沈んだのを見届けてから、七惟は時計へと視線を移す。

 

露天風呂だがドアの近くに時刻が分かるようにしっかりと時計が打ちつけられていて、その針はそろそろ上がれと言うには十分な時間を示していた。

 

神の右席のことを考えるとあまり遅くまで出歩いているのは不味い、人が少なくなればそれだけ敵から襲われる可能性も高くなる。

 

先ほどまで心が躍るような時間を過ごしていたが、あくまで今本来の目的を見失ってはいけない。

 

上条当麻は神の右席から狙われていて、自分と五和はその護衛として行動を共にしているのだ。

 

後方のなんたらが襲うと言ったら必ず襲う、神の右席とやらはそういう組織だ。

 

学園都市は科学の街で街灯は常に爛々と灯っているが、それでも人に勝る障壁はない。

 

あの短い針が11時を指すまでには、此処を出た方がいい。

 

七惟は露天風呂の岩へと寄りかかり、息を吐き出す。

 

落ち着かない、こんな状況では碌に今夜眠れないだろう。

 

五和と交代で見張りにたったほうがいい、夜中は一番襲われやすい時間帯だ、気を抜いてはならない。

 

天草式の連中も周囲に居るそうだが全くアテにならないし、備えるに越したことは無いのだ。

 

まぁ、備えることによって後方のなんたらを退けられるとはとても考えられなかったが……。

 

神の右席、残りは二人。

 

内の一人、聖人で右席の特殊能力も兼ね揃える最高クラスの実力を誇るのだろう。

ルムよりも強い人間が同じ組織に居るとは思えないが、今回もやはりあの『力』が必要となってくるのだろう。

 

1回目は記憶がまるごとない、2回目は最初能力を制御出来ていたが途中で自我が崩壊した、3回目は『界』を引き寄せることが出来なかった。

 

『聖人』ならば、神裂戦同様あの力を引き出すのは早々難しいことではない。

 

だが……通じるのだろうか。

 

少なくとも今度襲ってくる後方は聖人神裂火織よりかは実力は上のはずだ。

 

考えても始まらない。

 

戦わないで逃げて、学園都市側が動くのを待った方がいい。

 

ルムやヴェントの時のように、あの堕天使が何とかしてくれるかもしれない。

 

投げやりな考え方だが、他にも問題は山積みだ。

 

明日以降は病院から外泊の許可を取っていないため、まずはあの蛙顔の医者をどうやって丸め込んで外に出るかの問題。

 

神の右席と相対した時、上条を如何にして逃がして自分も助かるか。

 

どうやって時間を稼いで都市側の救援を求めるのか……。

 

まだ少しでも暗部に通じている絹旗に声を掛けてみるか?

 

いや声を掛けたところで暗部の部隊が後方とまともに戦えるのかが疑問だ、スクールが消滅してしまった今暗部組織の勢力図は目まぐるしく変化していっているものの、正直彼らを超える組織は一つしかないというのが現実だろう。

 

その組織は七惟の仇敵となっているグループ……一方通行が組みしている組織だ。

 

正直なところ一方通行に協力を仰ぐというのは七惟の感情が許しはしないが、そうも言っていられない火急の問題が目前にまで迫っている今、七惟の個人的な感情は無視して事に当たったほうが絶対にいい……。

 

 

 

「……それとこれとは話が違うだろ」

 

 

 

いいのだが、やはり感情的な部分で自分で考えた案の癖にどうしても納得することが出来ない。

 

だがそうも言っていられない、この申し出をしないことによって失われるものを考えれば……。

 

時計の針は七惟が切り上げなければならないと考えていた時間を既に示している、風呂場からもだいぶ人が減ってきており、取り敢えずこの問題に解答を得られない七惟は頭を切りかえる。

 

まずは今夜、だ。

 

襲ってくる可能性はおそらく少ないだろうが、用心に越したことはない。

 

 

 

 

 

 


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