とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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闇夜に光る魁星-ⅳ

 

 

 

 

 

目の前に佇む青の巨人。

 

絶対的な壁として七惟の前に立ちふさがるアックアの弱点はいったい何なのだ、全く見えてこない。

 

宗教に疎い科学側の人間なのでよく分からないが、インデックスの話では聖人は一人一人が扱うエネルギーが元々決まっていて、そのエネルギーを制御するために大半の力を使用してしまう。

 

結果神様とかに与えられた力の一端の、そのまた一端を扱うのが精一杯というのが基本だ。

 

神裂もそうだった、唯閃の時以外の『この世の理から外れた力』は差ほど大したことは無く、はっきり言って唯閃を使われるまでその力が使われていることに気付かなかったのだ。

 

だがアックアは大きく違う、今こうして何か特別な力を使わずとも、異世界の力を強く感じるし、そのおかげでこの世の力に非ざる痕跡が大きく残っており七惟は半天使化が可能となっている。

 

しかしそれは、常時神裂の唯閃に近い状態でアックアが戦っているということだ。

 

神裂を倒した時は、記憶が曖昧ではあるものの神裂が切り札として使用する唯閃賭けていたからまだ勝機があった。

 

そこだけに集中し、その力を逆手にとって攻撃すれば良かった。

 

対してアックアは常に全力、常に唯閃を使っていような感じだ。

 

そこに一切の妥協も、加減もされていない。

 

聖人としての全力はほとんど出せないはずなのに、全力を出すどころかそれを常時開放してしまっているのだ。

 

インデックスの話ならば、何処かで絶対無理が出て自爆するはずなのにこの男はその素振りさえ見せない。

 

こうなってくるとやはりインデックスが教えてくれた線が非常に濃厚となってくる。

 

 

 

「どうした、動きが少し鈍ったようであるな」

 

「脳筋野郎が、てめぇと違ってスタミナがねぇから大事に使わねぇといけねぇんだよ」

 

 

 

常時全力、常時唯閃状態。

 

七惟は聖人としての神裂とは互角以上の闘いをすることが出来たが、唯閃使用時の神裂にはぎりぎりのところで勝利したに過ぎない。

 

要するに七惟の実力はほとんど神裂と変わらないどころか、作戦が下手を打てば負けていた可能性だってある。

 

だからどうしても二人の間に差が出てしまう、聖人がいったいどういう原理であのような桁外れの力を引き出しているのか見当もつかないが、生憎自分の出力をこれ以上上げることは出来ない。

 

聖人の場合、出力を上げてしまえば何処かで必ず無理が出て、逆に失速してしまうという。

 

自分の場合は出力を上げたらどうなってしまうか検討もつかないし、上げ方すらわからない。

 

七惟の翼が垂直に伸び、アックアに向かって身体を押しだす。

 

噴射する光はオレンジ色で、疾風のように駆けまわる七惟だったがそれを簡単にアックアは追尾する。

 

後ろに回り込もうと自身の筋力を限界まで使ってみるが、それでもアックアは自分の動きに難なくついてくる。

 

 

 

「運動をするつもりはないと言ったはずであるが」

 

 

 

右手で掴みかかろうとした七惟に向けて、5Mものメイスが振り下ろされる。

 

急に進路は変えられない、態勢を変えて凌ごうとするも、第一波のあとは第二派、そして第三派とたて続けに攻撃が繰り出された。

 

メイスの横薙ぎ、水流の四方からの鉄砲水、やっとこのことで逃げ切ったかと思ったらそこにはまたメイスの一撃。

 

だんだんとこちらの動きよりもあちらが早くなっている……いや、こちらが遅くなっているのが分かる。

 

まるでアックアは無尽蔵のスタミナを持っているかのようだ、このままではいずれ神裂のように攻撃を防ぎ切れなくなりやられてしまう、そうなってしまう前に何かしらの手を打たなければ。

 

 

 

「このッ……!」

 

 

 

七惟は振り下ろされたメイスの一撃を紙一重で避ける、地面に直撃したメイスの衝撃で空間が揺れ、地面は叩き割られまるで地割れの如く巨大な亀裂が出来あがる。

 

反動で足元が揺らいだ、七惟は転がりながらも爆心地から遠ざかり、一気にアックアへと飛びかかる。

 

翼から光を撒き散らしてアックアを肉迫するも、そうはさせないと行く手を大量の水が遮ってきた。

 

龍の形を模した濁流が凄まじい勢いでこちらに向かってくる。

 

だが所詮はこの世の理の中で形成された物質、不可視の壁で防ぎ切れるはずだ。

 

七惟は正面切って龍の顎へと突っ込んだが、それは単純に考えて罠だった。

 

 

 

「聖母の慈悲は厳罰を和らげる」

 

 

 

アックアのメイスが、濁流の中へと突き刺されたのだ。

 

アックアの攻撃には『異世界の力』が強く含まれている、それは物理攻撃においても例外ではない。

 

濁流を抜けた先に待ち構えていたメイスの一突きが七惟の身体目掛けて放たれる。

全距離操作の状態では成すすべなく敗れてしまったが、それは今の状態になっても違わない。

 

ある程度の力は何とか壁で打ち消すことが出来たが、全ての力を0にすることなど到底不可能、容赦なく5Mもの巨大なメイスが七惟に向かって叩き込まれた。

 

 

 

「がああぁぁ!?」

 

 

 

まるで隕石が衝突したかのような衝撃に、一瞬全ての感覚が麻痺し痛覚が遮断される。

 

その直後に轟音が鳴り響き、ようやく自分に与えられたダメージを認識した。

 

隣の区と22学区を別つ隔壁まで吹き飛ばされ、全身の感覚が一気に悲鳴を上げ、身体の中からも痛みを訴えてくる。

 

どうやらメイスの直撃を受けたのは義手となった右腕のようだ、もしこれが左半身の何処かに打ち込まれて居たら、唯でさえ五体満足ではないのに、3体満足くらいになってしまうところだった。

 

 

 

「野郎……」

 

 

 

朦朧とした意識の中で七惟は立ち上がる、足は震え頭から血を流し、口の中はもう何の味がするのかどうか分からない。

 

右手の義手はボロボロだ、しかしあれだけの攻撃を受け切ったというのは流石学園都市製だと自虐する余裕すらない。

 

まだ2発くらっただけ、たった2発だというのにこのダメージ。

 

自分は先ほどまで少なくとも3、4発はヒットさせたというのにアックアは全くダメージを受け付けていない。

 

 

 

「アックアァ……」

 

 

 

やはりおかしい。

 

いくら何でもたった一撃でこんなダメージを受けるはずがない、聞こえは悪いが七惟だって既に今の状態の自分が人外の域に達しているのはよく分かっている。

 

だからこそ、分かるのだ。

 

あれだけの力を、自分と同じ人間はもちろん神裂のような並みの聖人が出せる訳がない。

 

内部に誇る力があったとしても、それを打ち出す出力端子を持てるとは思えない。

 

七惟だってあれだけ馬鹿のような力を出せば、身体の何処かに絶対無理が出る。

 

その無理を、アックアは貫き通す。

 

 

 

「もう終わりかね、井の中の蛙よ」

 

「蛙、蛙うるせぇ奴だ……」

 

 

 

人間の制御できる力も、聖人が制御出来る力をも軽く超えてしまっている。

 

それだけの力を吐きだすためには、絶対何処かにからくりがあるはずだ。

 

可能性があるとすれば『神の右席』、ルムの扱う力はそれこそ規格外であったがそれと同じ程の規格外があると考えなければならない。

 

もうひとつ、インデックスの言う通り『二重聖人』の可能性。

 

 

 

「やはりルムが敗れたのは『界』の圧迫によるものか。その程度の堕ちた天使にあの出鱈目な女が負けるはずがないのでな」

 

「ッ……」

 

 

 

違う。

 

覚えていないが、おそらくルムを倒した時の出力はこんなもんじゃない。

 

この程度では、おそらくアックア並みに規格外のあの女を倒せるはずがない。

 

あの時引き寄せた『界』は聖人ではなく、学園都市に現れた天使そのものだった。

 

天使そのものの『界』を引き寄せたから、ルムを倒せたはずなのだ。

 

並みの聖人の『界』では神裂と同等レベルが精一杯、アックアすらも一目置く神の右席台座のルムに勝つことなど不可能。

 

ならば、どうすればいいのか。

 

 

 

「はン、まだ俺はくたばっちゃいねぇぞ。てめぇもその程度だからルムに劣るんじゃねぇのか」

 

「挑発であるか?」

 

「はッ……事実を言ったまでだ。あの女は俺から一発も攻撃を食らってねぇし、俺はまともに闘うことも出来ないままくたばりそうになったからな」

 

「要らぬ言葉を重ねるのには達しているようだな、今この場において私とルムの実力関係など、どうでも良いことであろう?」

 

「関係あるな……。ルムより劣るてめぇが、ルムを倒した俺に勝てる訳がねぇのさ」

 

「言いたいことはそれだけか?現実を知って貰うのである」

 

「きやがれ、デカイだけのウドの大木が!」

 

 

 

満身創痍の状態の七惟、対してアックアは全くダメージを受けていない。

 

この二人が正面から激突すれば結果は明らかだ、唯でさえ実力差があるというのにそこに体力の有無が加わればどうなるかくらい誰にでも分かる。

 

が、敢えて七惟はその選択を選ぶ。

 

これだけ言えば、如何に冷静なアックアと言えど多少は出力を高めに出すはずだ。

 

その高めに出した出力を、『界』として捉えて引き寄せる。

 

アックアが何故こんな論外の力を出せるのかはもう重要ではない、出せているものは出せているのだから、今更あーだこーだ言った時点で意味がない。

 

しかし言えることは、その出力が100%『この世の理から外れた力』で形成されていること。

 

ならば、幾何学的距離操作で必ず自分のものにすることが出来る、そう確信している。

 

 

 

「天使化を解除するとは、自暴自棄か?」

 

「まさかな」

 

「……もう語る必要もなかろう、貴様には失望した」

 

 

 

アックアがメイスを構える、これは一種の賭けだ。

 

もしこれで先ほどと同じ状態にしかなれなかったら、もう自分はこのままアックアのメイスの直撃で死ぬしかない。

 

 

 

「聖母の慈悲は厳罰を和らげる」

 

 

 

人間や聖人では避けられない速度、人間や聖人では防げない力を持ってして今必殺の一撃が放たれる。

 

 

 

「時に神に直訴するこの力。慈悲に包まれ大地を貫け!」

 

 

 

アックアのメイスが自分の右手と同じ淡い光で包まれて行き、莫大な速度でこちらに向かってくるアックアを見て一瞬怯む。

 

今回は既に不可視の壁もとっぱらった、異世界の力も解除している、自分を守るものはなにもない。

 

直撃すれば当然死あるのみ、直撃しなくても死あるのみ、賭けが凶と出るかそれとも吉と出るか。

 

だがどちらにしろやらなければならない、どう転んだって自分がコイツに勝てないのは分かっている。

 

 

 

「神だ神だと、うるせぇ奴だ……」

 

 

 

でもきっと、五和が居る天草式ならば。

 

天草式と、神裂が再び手を組めば。

 

何も策がないのにただの魔術師集団である天草式がアックアに突っ込んで行くはずがない、そう考えれば何処かに必ずアックアを打ち破る手があったはずだ。

 

その策を神裂と一緒に使えば……おそらく聖人に関して他のどの魔術団体よりも、その力を知っている彼らならば。

 

対抗策を考えているはずだ。

 

だから彼女が、彼らが再びこの場に戻ってくるのを信じて、自分はただ闘うのみ。

 

 

 

「神より重いモノがあるってことをてめぇに教えてやらぁ!」

 

 

 

アックアの力と、七惟の全てを賭けた意識が交錯する。

 

 

 

 

 

 


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