とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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闇夜に光る魁星-ⅴ

 

 

 

 

 

第5下層に全てを白に覆い尽くす光が放たれる。

 

痛覚を麻痺させる轟音、視界を塗りつぶす光、五感の大半を消し去ってしまいそうな力。

 

それこそがアックアの一撃、神の右席後方の男。

 

破壊の後の静けさとはこうも恐ろしい程音がしない世界なのだろうか、こんな無音に支配された空間では自分が生きているのか死んでいるのかも分からない。

 

だが、自分の右手から伝わる感覚が自身の存在をしっかりと認識させる。

 

右手の感覚が、死んでいない。

 

何かを握っている。

 

それは。

 

 

 

「……貴様、それが正体という訳か」

 

「……言っただろ、学園都市の能力者舐めんじゃねぇ」

 

 

 

瞬間、七惟の両肩から一気に一対の翼が天に向かって開かれる。

 

右手から放たれる光は前よりも白く、より白くなり見るモノ全てに無をイメージさせる。

 

 

 

「アックアアアァァ!」

 

 

 

メイスを握っていた右手を大きく振り上げると、アックアの巨体が巨大なメイスごと空中に持ちあがる。

 

 

 

「なに!?」

 

「おおおあああぁぁぁ!」

 

 

 

七惟は力任せにメイスを振りまわすと、勢いそのままアックアをメイスごと大地へと叩きつける。

 

 

 

「おおおぉぉぉ!?」

 

 

 

アックアの雄たけび、これまで完全に戦場を支配していた男の叫び声。

 

今までアックアと対峙した者がいれば、アックアがこんな声を上げることなど想像もつかなかっただろう。

 

それだけの所業を、今の七惟はやってのけた。

 

瓦礫の中からアックアが立ち上がる、その顔は決して見せなかった苦痛の色に染まり、頭から血を流し、青を貴重とした服を汚した。

 

 

 

「なるほど、それだけの莫大な力……その力の前では、ルムの『渦』など無いも同然」

 

「はッ、……それでもダメージ無しか」

 

「あの女を破ったのはその力か。しかし今まで何故その力を出さなかったのかが分からぬな。出し惜しみしていたというわけでもなかろう」

 

「お前みたいな脳筋野郎には考えつかない程の苦労があんだよ」

 

「ふっ……無駄な詮索は止めよう。貴様を叩き伏せれば問題ないのだからな!」

 

 

 

アックアがメイスを構え、まるでランスの突進かのように腕を突き出し、爆発的な加速を見せてメイスを突きつける。

 

七惟がつい先ほどまで立っていた場所を中心としてメイスが突き刺さり、耐えきれなくなった地面が崩壊、第5下層が崩れ落ち第6下層が大きな口を開けた。

 

だがその崩壊点にもう二人はいない、七惟は曲芸のごとく崩れ落ちる瓦礫の上を移動し、アックアは水流に乗り一気に地盤が固い部分へと駆け昇る。

 

 

 

「ふん、確かにその力は素晴らしい。だが私の本気を甘く見て貰っては困るのである!」

 

「そいつぁ同感だ、俺はずっと本気だがな!」

 

 

 

アックアのメイスが唸る、先ほどまでの自分は手を抜いていたと言いたいかのように、その破壊力は見るモノのを震えさせる。

 

 

 

「むん!」

 

 

 

唸るメイスを交わす七惟の退路を防ぐように、アックアの魔術がフロアを蹂躙する。

 

濁流の如く流れ来る大量の水はもはや狂気すら感じられた。

 

 

 

「うらああぁぁ!」

 

 

 

七惟はその四方から迫りくる水を右手一振りで掻き消した、触れた瞬間霧散した魔術に目を見張るアックア。

 

 

 

「なるほど!その力、既に『テレズマ』無しの力では効果無しといったところか!堕天した力の分際で小賢しいのである!」

 

「好きなだけ言ってな!だがな、『この世の理に則った力』はもう一切通用しねぇぞ!」

 

「しかし分からぬな、情報やルムの話では貴様は此処まで他人のために命を張るような人間ではなかったであろう!」

 

「これだけ短期間に死にかけりゃあ人間の中身なんざ簡単に変わる!口だけ回してると足元が御留守だぞウドの大木がああぁぁ!」

 

 

 

多くを語らぬアックアが戦場に於いてこれだけ喋っているのには訳があるのかもしれないが、七惟はそんなことを気に留める余裕などない。

 

アックアの音速とも言える真正面からの突きを右足で蹴りあげると、先ほど同様その太い芯を掴もうとする。

 

 

 

「甘いな全距離操作、先ほどまでの私と今の私は全く違うのである!」

 

「ぐッ!?」

 

 

 

が、アックアごと持ち上げようとした七惟の身体が今度は逆に持ちあげられる。

 

 

 

「神の右席の力、舐めてくれるな」

 

「このッ……!?」

 

 

 

アックアの全身に力がみなぎり、七惟が掴んでいたメイスに莫大な負荷がかかる。

 

離すべきなのか!?……手を離して、再度叩きつけられたら……!

 

両面から膨大なダメージを受けるよりは、片面からのダメージを優先させることにした七惟の覚悟と共に、アックアのメイスが七惟ごと隔壁に叩きつけられた。

 

痛みを言葉にする暇などない、七惟はすぐさま立ちあがり迎撃態勢を取るも遅い、目の前には敵が既に迫っている。

 

 

 

「問うたはずだ、貴様が何故そこまで闘うのかを。その覚悟を見せてみろ、貴様の身を以てして!」

 

 

 

七惟の優れた逆算能力のせいでよく分かる、今のアックアの身体に溢れている『この世の理から外れた力』はまだまだ留まることを知らずに上昇していく。

 

 

 

「行くぞ全距離操作、貴様の覚悟を己の全てで語れ!その覚悟が私の認めるものであるかどうか見極めてやろう!」

 

 

 

離脱しようとした七惟に容赦の無いアックアの一撃が飛んで来る。

 

突きだ、『薙ぐ』や『叩きつける』よりも遥かにスピードが乗る、おそらく攻撃の中では最速に値する音速の一撃。

 

 

 

「アックアアアアアァァ!」

 

 

 

避けることは不可能だと悟った七惟が右手を突き出して、その切っ先を防ごうと身構えるが。

 

 

 

「三度目はないのである!」

 

 

 

1回目も2回目も七惟のつま先でけり上げられたメイスだったが、今回は莫大な量のテレズマにより強化されていたのだ。

 

事前にそれを見切っていた七惟だったが、アックアは突きの動作の直後、自らの身体に大量の水を後方から噴射し自身を推進させる。

 

 

 

「ガッ!?」

 

 

 

一段階目の突きは防いだ、防いだが二段階目の推進攻撃は受け止めきれない。

 

先ほどぶつかった隔壁とは真反対方向へと二人の影が飛んでいく、右腕はまだぎりぎりメイスを抑えてはいるが、メキメキと嫌な音を立てて更に七惟を焦燥へと駆り立てて行く。

 

そして遂に限界が来た、押さえていたメイスの切っ先が手のひらを弾いた。

 

 

 

「ッ!?」

 

「受けてみろ」

 

 

 

腹部を容赦なく射抜いた、隕石が衝突したかのような衝撃が起こったかと思うと次の瞬間には七惟の身体は意識を置いて吹き飛ばされる。

 

七惟の身体が隔壁に衝突した、破壊活動の対象とされることを想定されていない地下都市の隔壁は糸も容易くその使命を投げ捨て、地下都市同士を別つ鋼鉄の隔壁が陥没した。

 

そのまま地面へと叩きつけられると、身体の至るところがもはやまともに機能しなくなっているのが分かる。

 

内臓はまだ元の位置にあるのか、骨はどうだ、血液は何割削り取られたか……。

 

朦朧とした意識の中で七惟は思う、これでもまだ足りないのかと。

 

神の右席、後方のアックアにはこれでも並ぶことが出来ないのかと……。

 

 

 

「やはりその程度か。極東の聖人よりはマシであるが、戦闘ごっこの域を出なかったな」

 

 

 

アックアの存在を五感が捉える、だが七惟はこの圧倒的実力差の前でもやはり諦めない。

 

この諦めの悪さは、ミサカを助ける時から始まり神裂火織戦でも、一方通行戦でも、垣根帝督戦でも衰えたことはない。

 

まだ、足りない……足りないのであれば……!

 

 

 

「ぬるい、甘いぞ全距離操作。貴様の覚悟とはその程度か?吾輩には貴様の動きを見ていても一切その体に纏い見えてくるべき覚悟が一切分からない。そのような軟弱な意思は語る必要すらない覚悟である。散れ」

 

「……覚悟、覚悟うるせぇ奴だ」

 

 

 

足りないのであれば、また再び上昇した奴の身体から力を引き寄せればいいだけだ。

 

 

 

「てめぇの言う覚悟なんざ……あるわけねぇだろ」

 

「なんだと?」

 

「覚悟とか、そんな大層なものじゃねぇ。今の俺がこうやって、てめぇと戦ってんのは。てめぇが大好きな覚悟とか綺麗な言葉使って誤魔化そうなんざ微塵も思わねぇんだよ……」

 

「……」

 

「俺はな、アイツらと一緒に居たい。美咲香とくだらねぇ話をして、浜面と馬鹿やって、暴食シスターと戯れて、五和と喋って、絹旗と飯を食う、そういう毎日が欲しい。考えれば考える程馬鹿らしい普通のはずの日常の欲望を叶えるために闘ってる、身勝手な小さい奴だ」

 

 

 

そう、今の自分が望むのはこれだけだ。

 

 

 

「普通の一般人からすれば当たり前の日常を、何処にでも転がってるような日常をアイツらと一緒に過ごしたいだけだ。当たり前の日常って奴を手に入れたい。結局そういうことだってもう知ってんだよ。それをてめぇがめちゃくちゃにぶち壊してんだろうが!俺達にとって普通になるはずの日常をてめぇがぶっ潰してんだろうが!」

 

「冷静な貴様が感情的に喚くなどらしくはないな。もうそこまで追い詰められていると、奥の手はないと判断してもよいのであるな」

 

「真実だろうが」

 

「……貴様達数十人が不幸になり、死ぬだけで世界の何十億の人間が救われる、奪うことによって救われる人間もいることを知れ」

 

「知ったことか!てめぇらが掲げる大義名分とか最大多数の最大幸福とか、俺達にとっちゃどうでもいいんだ!んな綺麗ごと並べるんだったら地球のため人類全員が死ぬべきだって言ってんだろ!」

 

「そうであるな。だが、だからどうした?此処は戦場である、貴様の言うことは最もであるが戦場においては勝者の言葉のみが力を持つ。歴史を作るのは勝者、真実を作るのも勝者である。此処で敗者の貴様がどれだけ言葉を積み上げても無意味ということだ。正に今の貴様が並べたような綺麗ごとを声高々に主張したところで、その声を聴く者など何処にもいないのであるからな」

 

「決めつけてんじゃねぇ」

 

 

 

まだまだ七惟がこの男に言いたいことなんて腐るほどある、ぶちまけたいことは腹の中で燻っている。

 

だが、これだけはコイツに言っておかなければならない。

 

 

ひたすら闘いに意味を求めるこの糞ったれだけには、闘う意味を語ってやる。

 

 

 

「俺が闘う理由をな、教えてやる」

 

「覚悟が無い癖に語るか小僧」

 

「はッ……俺とてめぇじゃまず覚悟の意味がちげぇんだよ……俺はな」

 

 

 

七惟は立ちあがり再び半天使化を解除すると、アックアが眉を顰めた。

 

何をしかけてくるか、おそらく気づいているだろうが気にする必要もない。

 

 

 

「自分を知りたい」

 

「なに……?」

 

「どうしてあいつらと一緒に居たいのか、その理由を知りたい」

 

 

 

どうして彼らと一緒に居ると、こうも心が安らぐのだろうか?

 

 

 

 

初めて一緒に居て不快じゃなかったのはミサカ19090号、美咲香である。

 

一緒にいることで、例えガラス瓶越しだったとしても会話をするだけで心は穏やかだった。

 

最初は分からなかったが、きっとこれが友達なんだと、後からは家族であり、妹のような存在なのだと勝手に思い込んだ。

 

次に一緒に居て気が楽だと思ったのは、五和だった。

 

呆れる程にヒーローに熱を上げていて周りが見えていない奴だし、命のやり取りを2回以上しているのに自ら進んで仲間だと言ってくれた。

 

言われた時の心情は靄がかかったように燻っていたが今ならその気持ちがクリアに分かる。

 

単純に、シンプルに嬉しかった。

 

生まれて初めて真正面から前向きな言葉を人から貰った気がした。

 

下らない会話をして、上条のために動く彼女を見て、会話を重ねて彼女を知っていく内に一方通行ではないストレートな感情をぶつけ合う会話がとても楽しい。

 

そして、この気持ちを明確に自覚したのは暗部抗争の日。

 

あの日、少女を殺されて、失って初めて気づいた。

 

身体の内から溢れてくる衝動、一緒に居たいと、願うこの気持ち。

 

でも、あれだけ垣根帝督と殺し合っても、一方通行に呪いの言葉を吐いても、フレンダに裏切られても、麦野に殺されかけても、滝壺や絹旗が助けてくれて、浜面と他愛ない会話をしても……どうして、どうして自分が彼らと一緒に居たいと思っているのかは最後まで分からなかった。

 

だから。

 

 

 

「天涯孤独な俺がどうしてこんなに他の奴のことを考えて、怒って、安堵して……もっとアイツらのことを知りたい、アイツらと一緒に生きていきたいと思うのか」

 

 

 

そう、これしかない。

 

あの眩暈がするほど照りつける太陽が輝いた夏のあの日から全てが始まった気がする。

 

それまでは目が眩むような景色から、目を背けたくなるような現実もあった。

 

それを意思の無い目で見て何処か他人事だと全てに諦め、色の無い毎日を唯々過ごす日々だった。

 

意味の無い日々を唯流れるように過ごし、B4の紙切れに収まりそうな1年を繰り返し、自身の居場所が無い、足元すら覚束ない。

 

親しい奴なんてもちろんいないし、親の顔すら分からない、人との関わりが煩わしくて嫌になる。

 

しかし今はささくれ立っていた自分の感情が嘘のように思える。

 

全てはあの日、始まりはあの研究施設で美咲香と対峙した時。

 

何がしたいか分からない、明日のことも分からない、明日を迎えるのが億劫だった日々が、それからは間違いなく変わった。

 

不快じゃないとか、気が楽だとか、そんなつまらない単語じゃ説明出来ない程一日が、会話が、出来事が、自分を変えていた。

 

明日が来るのが楽しみにしている自分が居る、この瞬間、今を必死に生き抜こうとする自分が間違いなく此処にいる。

 

生きた屍なんて言われていたのが嘘みたいに。

 

その力の源は?分からない、だから答えを探す!

 

そのために此処から!アイツらと一緒に生きて帰る!

 

 

 

 

「そう思うアイツらと生きて一緒に帰る覚悟、それだけだ!」

 

「ッ!」

 

 

 

瞬間、七惟はアックアの持つ疑似AIM拡散力場から大量のテレズマを引き寄せる。

 

1段階目、右肩から羽が生えた。

 

雷光のような白の翼が右肩から天に向かって伸び、右手の掌が淡く白く光り始めた。

 

2段階目、右肩から生えた羽が背丈分から更に巨大化し、自身の2倍近い大きさになりオレンジ色の粒子を移動しなくとも周囲に撒き散らす。

 

だが、足りないのだ、これだけでは……!

 

 

 

「諦めの悪い、それでは私は倒せないとまだ分からぬか!」

 

 

 

アックアの言う通りだ、これじゃまだ力不足だ。

 

力不足ならば、アックアが持つ、さらにその奥から力を引っ張り出して対等以上の力を得るまで!

 

 

 

「アックアアアアアアアァァァァ!!」

 

 

 

七惟の目から火花が散った、右目から膨大な量の光の粒子があふれ出る。

 

白い光が瞳に宿り、燃え盛る炎のように常にきらめきを放つそれを持ち、七惟はアックアに向けて飛び立った。

 

 

 

「まだ奥の手があったのであるか!」

 

「足りない、これじゃまだ足りねえええぇぇぇ!」

 

 

 

七惟の瞳に宿る炎の色が青白く変化した、それと同時に七惟の光の翼からオレンジ色の粒が撒き散らされ、一気にアックアの鼻っ面に割り込む。

 

 

 

「ぐぅ!?」

 

「うおおおあああぁぁぁ!」

 

 

 

七惟の鬼気迫る気迫に一瞬だがアックアがたじろいた、その一瞬を逃がすものかと死にもの狂いで七惟は鈍ったアックアのメイスを右手で弾き飛ばす。

 

そのまま勢い殺すことなくアックアの胸元に潜り込むと、光る右手で胸元を掴むと同時に、絹旗が巻いてくれた義手を覆う包帯が全て解き放たれる。

 

 

 

「なんだと!?」

 

「出力最大だあああぁぁぁ!」

 

「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!?」

 

 

 

メカむき出しの右腕がアックアの顔面を容赦なく握り潰す。

 

超加速でアックアの身体をぐっと一端引き寄せてから、引き離し、スピードを殺さないで地面にたたきつける。

 

だが叩きつけるだけでは終わらない、七惟はアックアの身体を地面に叩きつけた直後に隔壁に向けてそのため込んだ力を思い切り放出した。

 

アックアの身体はボーリングの玉のように転がり隔壁に激突、先ほど七惟が衝突した時よりも大きな轟音が鳴り響き、聴覚が麻痺していく。

 

人間の力ではどうすることも出来ないはずの隔壁が陥没するだけではなく、四方に亀裂が入って崩れ落ちて行った。

 

だが、まだアックアは死んではいない。

 

七惟にだってそれくらいは分かる。

 

やがて舞い上がる鋼鉄の粉塵の中からメイスを持った一人の男が現れる。

 

身体は血だらけ、右目は潰されており満足にモノを見ることすら困難な様子だ。

 

メイスは無事だが身体のダメージは相当なものだろう、これで自分と五分といったところか。

 

 

 

「生きて帰る覚悟、か……なるほど。唯の有象無象の兵が言うには戯言ではあるが、貴様は今その覚悟は語るに十分、であるな……!」

 

「はッ……満身創痍、か?」

 

「何を下らぬことを。今此処に私はようやく見つけたのだからな、命をかけるに値する覚悟を持つ男を!」

 

「……俺は絶対に答えを見つける。そのために今この一瞬はお前に譲れねぇ、俺が勝ち取る!」

 

「ふ……よかろう、行くぞ学園都市の戦士よ!」

 

 

 

二人が第6下層で再度激突する。

 

おそらく次の衝突で、何かが終わる。

 

それは二人の命なのか、この闘いなのかは分からなかったが、そんなことは今の二人にとってはどうでも良いことだった。

 

七惟は帰りたい場所がある。

 

アックアは闘うべき理由を持った。

 

ならば答えは簡単だ、譲れぬものがあるのならば二人は闘うしかない。

 

 

 

「聖母の慈悲は厳罰を和らげる」

 

 

 

七惟の右腕は再び淡く、青く白く光り燃え上がると、右目の青白い炎もゆらゆらと揺れる。

 

アックアがメイスを構えた、突きの態勢だ。

 

おそらく今まで一番の最高速度で放つ一撃、砲弾よりも音速よりも早く、おそらく知覚では音の速さだろう。

 

交わすのは不可能、ならば正面から叩き伏せるのみ。

 

 

 

「時に、神に直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!」

 

 

 

もう後戻りは出来ない、一直線に、この世の物理法則を完全に無視したスピードと力で向かってくる。

 

七惟の背中の翼が大きく開き、光を撒き散らしながらアックア同様一直線に向かっていく。

 

アックアの通った後からは青白い光が、七惟が通った後からはまるで残像のような粒子が生まれては消えていき、二人が激突した――――――。

 

 

 

 

 


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