とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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ここで……ここでエターナルする訳にはいかないんだ……!







更新が3か月滞ってしまい申し訳ありません。

今後ともよろしくお願い致します。
 
 


君と一緒に歩く未来-ⅰ

 

 

 

七惟と神裂は互いに理解している、二人のどちらかが欠けたらもう道はないと。

 

七惟が加わったことによってやはり魔術や白兵戦をメインにこなしてきたアックアにとって一種のトリッキーな距離操作の攻撃はかなり有効だ、事実ダメージも与えている。

 

チャンスなのは間違いない、だがどうすれば動きを止められる?

 

半天使化した七惟の一撃をくらい全身打撲に裂傷骨折、神裂に右腕を深々と切り付けられ可視距離移動砲での貫通弾、これだけのダメージを受けてもあの男はその顔から闘志の色は全く褪せることもなく、ふらつくことさえしない。

 

あの男自体がもちろん聖人であったり神の右席の力を得ていることから並外れた治癒力を持っているのは想像できるが、やはりそれを支えているのは化け物じみた精神力だろう。

 

あれだけの激痛を受けても尚意識を失わないというのは、本当に恐れ入る。

 

まぁ、それでも勝つのは……自分達だ。

 

あの男の動きを封じる策。

 

その策を七惟は見出した、しかし……。

 

問題はこの作戦、神裂の助けが必要不可欠だということだ。

 

七惟一人では到底成し得ることが出来ないものなのである。

 

しかも成功率は決して高いとは言えない、更にリスクも高いときた。

 

要するにハイリスクハイリターンの作戦なのだ、そんな危険な策に、ついこないだ腸を貫ぬいてきた張本人を信用して神裂が首を縦に振るのだろうか?

 

 

 

「神裂。あの鉄線、俺が射出した鉄線にあの炎を纏う魔術は使えんのか」

 

「……どういうことですか?」

 

 

 

ダメもとでも言うしかない、即時に却下を食らうか聴く耳なんて持たないと思っていたが意外にも神裂はこちらに体を向け耳を傾けた。

 

 

 

「鉄線を数本よこせ、アックアを中心とした円形に放射状の鉄線を射出して動きを止める、唯の鉄線じゃアックアが容易に破壊すんのは目に見えてるからお前の魔術を上乗せして強度を上げんだよ」

 

「なるほど、逃げ場をなくすと」

 

「そこでお前には背後から攻撃して貰う、周りは煉獄の鉄線、背後に聖人とくればアイツだって流石にうごきを止めてお前の攻撃を受け切る。そのスキを狙って……五和をぶつける」

 

「簡単そうに言いますが成功確率はどれくらいなんですか?」

 

「100%と言いたいところだが、術者である俺に先に攻撃を仕掛けてきたりお前を跳ね除けられたりする要素を考えると半々ってとこか」

 

「鉄線も無限ではありません、放射状に長大な距離で射出するとなると恐らく用意するのは5本が限界。それで弾切れとなります、その先は……聡明な貴方なら分かるでしょう」

 

「……厳しいか」

 

 

 

神裂の言いたいことは七惟だって理解している、今の拮抗した状態で賭けを行い失敗すればどうなるのか。

 

おそらく彼女はこう考えているのだろう、これを失敗したらもう後がないと。

 

要するにしくじったら五和を弾丸にして聖人崩しを撃ちこむ最後の希望が潰えるということだ、その後のことなんて考えたくもないが七惟や神裂はもちろん天草式も上条も止めを刺される。

 

正真正銘、最後の賭けなのだ。

 

神裂が鉄線を失ったら遠距離攻撃の術を大きく失う、一気に戦力ダウンに繋がることを考えると渋るのも当然だ、万一作戦をミスした場合同胞を逃がす術も同時に無くなってしまう。

 

それでも七惟はこれ以上アックアとの消耗戦が得策とはとてもじゃないが考えられない……しかし神裂の同意を得るのは難しい。

 

まぁ唯でさえ互いに相手に対して良い感情なんて微塵も持っていないのだから、命が左右されるこの土壇場において信頼しろというほうが無理なもの。

 

ならば他の策を練り直すしかない、七惟がこの策は止めようと切り出したその時、神裂が七惟に初めて見せる曇りのないような表情を向け、口を開いた。

 

 

 

「ですが……いいでしょう」

 

「……は?」

 

「全く……なんて顔をしているのですか?提案者は貴方でしょう」

 

 

 

青天の霹靂とはまさにこのこと、まさか神裂から、命を削りあった敵からこのような言葉と顔を向けられるとは。

 

 

 

「正直なところこれ以上続けてもアックアを止める術は見つけられそうにありません。貴方が天使化出来れば話は別ですが、無理なのでしょう?」

 

「わりぃが……無理だ」

 

「貴方が私に謝るなんて、明日は槍でも空から降るんですか?……あの子は大したものですね」

 

「あの子……?」

 

「五和ですよ、ハリネズミみたいだった敵意丸出しの貴方を此処まで変えたんですから。あの子は凄いものです」

 

「はッ……だろうよ」

 

「今日此処までの貴方の行動を見ていました。口で言うのではなく行動で貴方は示してきた、五和を助け、どういう手口を使ったか分かりませんが天草式の皆を奮い立たせた。貴方と彼らは犬猿の仲だと思っていたのですが、先ほどから不思議と静か……これだけ条件が揃えば、この状況で背中を預けるのは当然の事です」

 

「一日で信じられねぇくらい掌帰して驚愕だな」

 

「これ以上無駄なお喋りはあの男が許してくれそうにありません」

 

 

 

神裂は懐から厚さ1cmの鉄線の束を懐から取り出し、それを七惟に差し出した。

 

彼女の瞳はこちらを真っ直ぐ捉えている、こちらを信頼している、故にこれを差し出すのだと言葉は無くてもその眼で感じ取る。

 

 

 

「貴方のことも、私は見誤っていたようです。七惟理無、貴方なら……私達ならきっと成せる」

 

「神裂」

 

 

 

まさか殺し合いをしたもう一人ともこうやって背中を預け共闘出来る日が来るとは。

 

今日は人生で一番最悪な厄日だが、仲間が一人増えたと思えば一転して最高の日だな。

 

 

 

「さぁ……参ります!」

 

「あぁ!」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

『上条当麻……ねぇ、アレがどうかしたのか』

 

『か、彼に連絡を取ってください!天草式十字凄教の五和と言ってくれれば分かるはずです!』

 

 

 

これがあの人との最初の会話だったと思う―――。

 

 

 

 

 

七惟理無って、嫌な人。

 

初めて日本で会ったときの第一印象は間違いなくコレ。

 

何が?きっとそれは挙げていけばきりがないくらい。

 

まず第一に、態度が嫌。

 

どうしてそこまで横暴な態度が取れるのだろう?

 

敵意丸出しの視線を遠慮なく投げつけてきてはこちらに多大なストレスを与える、一緒に居るだけで物凄く疲れる。

 

次に言葉遣い。

 

こちらを怒らせるつもり100%の遠慮ない暴言で人の尊厳を思い切りこき下ろしてくる。

 

敬語も全く使えない……いや敢えて使わないのか、こちらと友好関係を築こうだなんて一切思ってないと言える。

 

まだある、嫌に強い。

 

どうしても手が届かない強さで、私のような凡人が束になろうとも全く歯が立たない。

 

おまけにその強さを見せびらかすかのように何時もギリギリのところで手を緩めるのが腹立たしい。

 

もっとある、嫌な気遣いをしてくる。

 

人とのコミュニケーションなんて普段全然考えていない癖して、可笑しなタイミングで首を突っ込んできてはこちらを茶化す。

 

そういう時に限って仲間だなんだって言ってくるのだから余計性質が悪い。

 

本当はきっと、もっと、たっくさんある。

 

でも、ふとこれまで歩んできた道のりを振り返ってみると気付いたことがある。

 

もちろん数は少ない、嫌なところと比べてみると絶対少数で民主主義なら多数決で余裕で負けるくらい少ない。

 

でも確かに、数は少ないけれども私が今この状況で振り返れば体の中心を暖かくしてくれる、身体の先から力が湧いてくるくらい不思議と良いとこだってある。

 

だから今私はこうやって立ち上がったんだ。

 

 

 

「嫌な人っていうか……不思議な人?」

 

 

 

最初は絶対に負の感情から始まった。

 

だって殺されかけたのだから。

 

彼との最初の出会いは日本国神奈川県の外れの都市にある教会だった。

 

法の書の後始末をしようとしていたらいきなり攻撃してきて……上条当麻のおかげで生き延びれたけど。

 

その後はもう一度命の危機に瀕した、今度はイタリア。

 

2度目の戦いの時はもう本当に七惟理無と友好関係を築くなんて不可能だと思ったし、いっそ痛めつけてこちらに刃向わないようにしてやろうと何度思ったことか……結局実力がその思いに追いついていなくて、ダメだったけれど……。

 

でも彼に対するイメージの変化があった、きっとそれは敵部隊から身を守って貰った時じゃない。

 

その時は、上条当麻へのお土産を一緒に買った時だった。

 

初めて嫌な人……というイメージから、不思議な人だと思った。

 

 

 

「でも……きっとそれも違う」

 

 

 

言葉とは裏腹に一人ぼっちを寂しがっていたり、友達0人の金字塔を打ち立てたとか可笑しなジョークも言ったりする、確かに不思議だし変な人だ。

 

あの時から視点が変わった、ふと違う形で見てみると彼はとても不思議だ。

 

確かにとても態度が悪いのは間違いない、でも最近は敵意むき出しじゃない、こちらに合わせてその佇まいを変えている。

 

言われてみれば彼の言葉には腹が立つことが多いけど、それ以上に笑って楽しくなることが多かった。

 

一応敬語もオルソラに遣っていたし……。

 

嫌に強いけど、その力を見せびらかしたりなんて一度もしたことがない。

 

空気を読まないで最悪のタイミングで可笑しな気遣いをして場を乱すこともあったけど、自分を応援してくれた。

 

今……身を挺して強大な敵から守ってくれた。

 

バラバラになって空中分解してしまった天草式をもう一度一つにしてくれた。

 

絶対に勝てないと分かっていながらも恐れを捨てて、戦ってくれた。

 

 

 

「七惟さんは……凄い人だね」

 

 

 

もう駄目だと諦めて蹲る自分に手を差し伸べてくれた、再起のチャンスを、生き残る可能性、皆が助かる希望をくれた。

 

そして何よりも、目の前に立ち塞がる強大な壁の現実を拒む言葉じゃなくて、その現実を乗り越える力を見せてくれたあの人に。

 

恐怖の殻に閉じこもる私の心にノックして、この暗闇の世界の先を見せてやると差し出したその手を目に焼き付けて。

 

私を信じてくれた。

 

力を与えてくれて、信じて送り出してくれた。

 

だから私は戦える。

 

彼と一緒に歩いていく未来を作りたいから。

 

呼吸が整う、視界がクリアになっていく、見定めるべき敵の姿もはっきりと見える。

 

アックアに勝った世界を、自分を見てみたい。

 

きっとその世界には、今までどれだけ手を伸ばしても届かなかったものが掴みとれるような気がするから。

 

響き渡る轟音、軋む大地に崩れる天井。

 

そんな終末のような世界だというのに、力が湧いてくるんだ。

 

 

 

 

 

 






GW中にいっぱい更新するんだ私!




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