とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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ⅩⅡ章 美咲香の冒険
御坂美琴のそっくりさん-ⅰ


 

 

 

 

 

美咲香とは、2万人居る妹達の中の一人である。

 

元々彼女は識別番号のみが与えられており、『ミサカ19090』というナンバーが彼女の識別コードだった。

 

しかし妹達の中でも特別自我の意識が強い個体である彼女は暗部の任務から学園都市最強の距離操作能力者である七惟理無と戦い、ひょんなことから七惟と一緒に住むこととなり、思いもよらない展開ではあるが公立中学校に入学することになった。

 

ミサカネットワークで学んだ知識の中で描いた学校生活というのは、それは世間知らずの彼女からすれば魅力たっぷりなものであって、一際他の個体と比べ感度が高い美咲香は大喜びである、顔には上手く出せていないものの。

 

そして美咲香同様喜んでいたのが彼の保護者兼兄のような存在である七惟である。

 

識別コードだけでは学校に入学することもままならない、ということで彼の苗字を貰い、更に名前も貰って今は『七惟美咲香』と名乗っているのだ。

 

見た目は学園都市第3位の超電磁砲で14歳、ただし実年齢は0歳数か月、精神が肉体においついていないを地で行く彼女、性格は到って変人で友達0人の七惟ですら心配するレベルである彼女。

 

だが周りの心配とは裏腹に彼女自身は非常にポジティブだ、恐ろしいほどに……。

 

そんなもうどこからどう見ても来歴がおかしすぎて土曜サスペンスであれば真っ先に疑われ、怪しさグランプリの章を総なめ出来そうな美咲香だったが、今日から普通の中学生として柵川中学校に通学する。

 

今日は通学一日目、初日だ。

 

要するに美咲香の記念すべき学校生活初体験の日である。

 

そして彼女が初めて七惟理無や超電磁砲、上条当麻と言った狭いコミュニティから足を一歩踏み出す日。

 

言ってみれば生まれて初めて外界に飛び立つ雛鳥と同じようなシチュエーションだ。

 

今彼女は保護者兼兄である七惟理無と一緒に住んでいるため通学はしばらくこの第七学区のおんぼろアパートからだ。

 

彼女の保護者兼兄である七惟はもちろんそんな美咲香を心配している、ちゃんとあいさつは出来るのかコミュニケーションはとれるのか……等、普段より落ち着いていない様子。

 

自分のことは棚に上げておくあたり流石コミュ障の金字塔を打ち立てた男である。

 

 

 

「美咲香、忘れ物はねぇな?」

 

「はい、大丈夫ですと美咲香は胸を張って答えます」

 

「今日の予定は分かってるな?」

 

「はい、大丈夫ですと美咲香は力強く首を縦に振り自信ありげに答えます」

 

「自己紹介は大丈夫だな?」

 

「はい、もういい加減出発してもいいでしょうかと美咲香は気だるそうにジト目を向けて答えます」

 

「……」

 

「それに自己紹介を兄に教えて貰っても効果は期待出来そうにありませんと美咲香は正論を伝えてみます」

 

「……最後に一つ、あんまり語尾に『ミサカミサカ』つけるなよ。特殊な口癖で誤魔化せるレベル軽く超えてんぞ」

 

「わかりました、と美咲香は黙って頷きます」

 

「言ってる上に黙ってねぇぞ……はぁ」

 

「それでは行ってきます、兄も通学は道中お気をつけて」

 

 

 

そう行って美咲香は勢いよくおんぼろアパートのドアを開け、初めての外界デビューに胸を躍らせながら走り出した。

 

揺れる美咲香の黒と白の学生服、スカートに七惟理無はため息一つ。

 

 

 

「最後は言いつけ守るあたり大丈夫……なのか?」

 

 

 

こうして七惟美咲香の新しい冒険が始まったのだった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「今日は先日から話してた転入生がやってきます!皆席について!それじゃあ、こっちに。七惟美咲香さんです」

 

「七惟美咲香です、よろしくお願いしますと深々と頭を下げて御挨拶します」

 

「ちょっと挨拶の仕方が独特だと思うけど、皆これから仲良くしてあげてねー」

 

 

 

男性陣からは野太い興奮した歓声、女性陣からはきゃーと興奮した黄色い歓声がそれぞれ上がり教室の高揚度はぐんぐん上がっていく。

 

そんな一風変わったようにも思える教室の持ち主は普通の区立中学校『柵川中学校』一年のとあるクラス。

 

残暑も過ぎ去り秋が顔を見せ始めたこの時期に転入生がやってくるなんて相当珍しいことだ、クラスの生徒から歓声が上がるのも理解できる。

 

男子も女子もそれぞれ好機の目で少女を見やる、一人はさっきの歓声と同じで目がハートマークに染まりそうな者から、そんな男子を見てむすっとした表情で鋭い眼光を向ける女子まで様々だ。

 

しかしそんな中でも一際可笑しな視線を向ける生徒がいるとしたら、彼女達で間違いないだろう。

 

 

 

「ね、ねぇ初春。あの子ってさ……?」

 

「は、はい……そ、そうですね。やっぱり佐天さんもそう思います?」

 

「う、うん。なんかもうそのまんまって言うか……御坂さんにそっくりだよね?」

 

「そうですね、もう何処からどう見てもそのまんまなんですが……」

 

「で、でも雰囲気とか全然違うよ。どっちかと言うと大人しそうだし」

 

 

 

クラスの中でも断トツに訝しげな視線を向けているこの二人、名前は佐天涙子と初春飾利。

 

彼女たちが先ほどからヒソヒソガールズトークを行っているのにはちゃんとした理由がある。

 

なんせ転入生が彼女たち共通の友人である常盤台の『超電磁砲』こと御坂美琴にそっくりそのまま、もうまるで生き写しのような程同じなのである、容姿が。

 

この二人、実は普通の区立中学の中学生でありながら学園都市の裏側であったり、普通の生活をしていたら絶対に経験しないようなことを既に経験してしまっている生徒なのだ。

 

普通の感性であれば知り合いに凄い似ている、仲良くなれるかな、等まっとうな考えしか浮かんでこないのだが彼女たち故に考えてしまう、この転入生……もしかしたら何かあるのではないか、と。

 

 

 

「それじゃあ席は取り敢えず一番後ろの……急造だけど、初春さんの横ね。初春さん、色々面倒見てあげてね」

 

「あ、ひゃい!わかりました!」

 

 

 

まさかまさかの席がお隣展開に初春は狼狽を隠しきれず言動がかみかみになってしまう。

 

そんな彼女たちの気持ちなど露知らずと言ったところか、学園都市が誇る電撃姫超電磁砲こと御坂命琴のそっくりさんは、男性陣が急ピッチで準備した机に無言で収まり初春と佐天の二人を覗き込みながら一言。

 

 

 

「よろしくお願いします、と頭を垂れます」

 

「あ、はい!よろしくお願いします……」

 

「よろしくねー、私は佐天涙子!えーっと、七惟さんも分からないことがあったら私達にどんどん聞いちゃって!」

 

「はい」

 

「わ、私は初春飾利です。隣同士仲良くしましょう」

 

「わかりました」

 

 

 

佐天涙子、先ほどまでは初春同様若干しどろもどろしていたというのにそこは対人スキルの高さを発揮し一気に転入生との壁を壊しにかかる。

 

だがしかし、この転入生やはり自分たちの友人であるレベル5同様癖があるらしい。

 

癖の方向性は全くもって別物なのだが、かなりの癖持ち……満面の笑みを向ける佐天涙子に足して全力の無表情を遠慮なしにぶつけてくるのだ。

 

しかしそこはコミュニケーション能力が限界まで引き上げられている佐天だ、全く動じず右手を差し出している。

 

 

 

「これからよろしくね!」

 

「……?」

 

 

 

それに対して微動だにしない転入生であったが、佐天が数秒凍りついたところでようやく合点がいったらしくその手を握り返した。

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

流石にこれはかの佐天と言えど一瞬心が折れかけたに違いないだろう。

 

ここまでの敬意を見て唯の大人しい子なのかな?という印象から世間知らずの箱入りお嬢様なのだろうか?と初春は感じたが、まぁまだ新しい学校に来て初日であるし緊張しているのだから仕方がない、今後少しずつ打ち解けていけばいい。

 

御坂命琴のそっくりさんなのはやはりどうしても気になるが、いきなり転入生を疑ってかかるのはよろしくない。

 

これからクラスの一員として毎日過ごしていくことになるのだから、仲良くやっていったほうがいいのは間違いないのだから。

 

 

 

「七惟さん、今日は体育の授業が四限にある以外は特に変わったことはないですし、特別教室の授業もありません。前の学校の授業スピードと私達のクラスの授業スピードが違っていると思いますから、授業の内容で分からないところがあれば遠慮なく言ってください」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

返事は一言だが、最初の挨拶に比べれば若干表情が柔らかくなった……ような気もしなくもない、自分の勘違いか……?

 

なんだろうこの違和感……慣れるまで時間がかかりそう。

 

色々変わった点が多すぎる転入生だが、少し接してみて悪い人ではないということは分かる。

 

性格とか趣味とか、前の学校のこととか聞きたいことは山ほどあるけれどこれから仲良くなって聞いていこう。

 

せっかく席が近いのだし、これから互いを知っていって友好を深めていく時間はたくさんある。

 

これからは何時もとちょっと違った楽しい学校生活が始まる、そんな気がした初春だった。

 

 

 

 

 

 


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