とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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御坂美琴のそっくりさん-ⅱ

 

 

 

 

 

転入生がやってきた日の休み時間。

 

それはもうお約束なのだが、たくさんの生徒が転入生に群がりあれやこれやと聞いてくる。

 

例えばそれが可愛い女の子であれば女性陣だけではなく、男性陣が声をかけてくるのは必然だ。

 

今回転入してきた女の子はかの超電磁砲にそっくりということだけあって、容姿は非常に優れておりたちまち男子は少しでも仲良くなろうと会話に入るスキを伺っている。

 

 

 

「七惟さん、前の学校はどの学区にあってどんなことだったの?」

 

「ねぇねぇ、七惟さん、趣味とか好きな食べ物はー?」

 

「な、七惟さん!ずばりタイプの男子は!」

 

 

 

等々、よくあるパターンにはまっている転入生だったが受け答えに困っているようでしどろもどろしている。

 

そんな彼女を見て佐天涙子は立ち上がる、毎度休み時間にこんな攻撃を受けてしまっては彼女も疲れてしまうだろう、此処は助け船を出してあげなければ。

 

 

 

「ねぇ七惟さん、4限は体育だけど体操服は持ってる?なかったら先生のところ行って先貰ってこよう!」

 

「あ、そうですね。私も調度職員室に用事があったので一緒に行きませんか七惟さん」

 

 

 

佐天の提案に隣に居た初春も立ち上がる、二人はアイコンタクトを取り半ば無理やりのような形で転入生の手を取る。

 

 

 

「あ、ずるいぞ涙子ー!」

 

「佐天さんと七惟さんのコラボとか眼福ですわぁ……」

 

 

 

ぶーぶーと言われる不満や一部のおかしな言動を彼女たちは華麗に無視し、転入生を教室の外へと連れ出した。

 

彼女は若干困惑したような表情を浮かべてはいるものの、あれだけの質問攻めから解放されて少しほっとしたかのような表情も浮かべている……ような気がする、そうであって欲しい。

 

 

 

「七惟さんもあれだけ質問攻めされたら疲れちゃうよねー?皆転入生なんて初めてだから興奮してるんだよきっと」

 

 

 

佐天自身も転入生と言われてもちろんテンションがハイになるのは否めないが、まぁ初日からあれだけ初対面の人とたくさん喋るのは疲れてしまうだろう。

 

 

 

「はい、このようなことは初めての体験でしたので……少し驚いています。あと体操着?というのでしょうか、そういったものは学校のほうで準備していると聞いていますと私が持っている情報をお伝えします」

 

「あはは……。そうですよね、取り敢えず佐天さんの言った通り4限は体育で体操服が必要なので、先生に言って用意してもらいましょう」

 

 

 

見た感じと同じで転入生の少女はやはり大人しい性格の持ち主だ。

 

中学生らしからぬ落ち着いた雰囲気と言うか、少し浮世離れしたような雰囲気も持ち合わせているがまぁ人の数だけ個性があるのだからおかしくはない。

 

 

 

「今日の放課後空いてる?もし良かったら私たちが学校の施設のこと軽く案内するけどさ?」

 

「案内……ですか?」

 

「そうそう、七惟さん今日学校に初めて来たばっかりだと思うし、今後の学校生活を快適におくるためにもどうかな?」

 

「分かりました、お願い出来るでしょうかと確認を取ります」

 

「うんうん、そんな畏まらなくていいから!よーし、そんじゃまずは案内がてら職員室にエスコートしますか!」

 

 

 

持ち前の明るさを武器に転入生へコミュニケーションを図ってみたが、結果は上々の模様。

 

ちょっと不思議な点が多い子ではあるものの、話していて嫌な感じはしないし本当に素直な子だなということを感じる。

 

やっぱり自分も他の子と同じで、今回の転入生を心から歓迎しているし、いったいどんな子でどんなふうに自分たちのクラスを変えていくのだろうかと楽しみにして、興奮しているようだ。

 

そんな上機嫌の佐天を見ながら彼女のストッパー役のような存在でもあり、一番の友人でもある初春の頬も自然と綻ぶのであった。

 

しかしこの二人はまだ想像すらしていなかった。

 

この七惟美咲香という少女が4限目に本領を発揮し、2週間後に控えるテストで恐ろしいほどのギャップを作り……そして、自分達がまだ会ったことも見たこともない新たなる超能力者に会うきっかけとなるということを……。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「えー、今日は男子は野球、女子はサッカー……だったか?んで後半は男子がサッカーで女子がソフトテニス、んじゃ適当に班分けしてやってくれー」

 

「あの先生いっつも適当だよなぁ……」

 

「適当というかさぼってるよね」

 

「ん?質問か?」

 

「い、いえ何でもないです」

 

「よし、じゃあ始め」

 

 

 

柵川中学は区が運営している公立の中学校であるがため、その教育内容は区の方針によって定められるのであるがこのように区の教育委員会が望まない事態が多発している。

 

その理由はいたって簡単、この学校にやってくる教師の大半は好待遇の私立学校の採用試験から落ちてきた者が大半であって、モチベーションが皆無な者ばかりなのだ。

 

公立の中学校教師の評価は大方担当しているクラスのレベル合計で算出されるのだが、柵川中学に所属する生徒は高校生に比べまだ能力者として成熟していない者が大半、レベルがついている生徒がいればいい方でほとんどは無能力者なのだから給与は非常に低い水準に設定されてしまう。

 

唯でさえモチベーションが低いというのに、そこに低賃金という味付けが加わると働く社会人はどうなるのか。

 

答えは簡単である、このようにやる気も何も感じられない教育者の誕生だ。

 

この酷すぎる体たらく、もちろん生徒達はそういった大人の事情なんて全く知らないので特定の教師に対して悪いイメージしかないのもしょうがないものである。

 

今日も時間を無駄に消費していくであろう教師たち、そのことを彼ら自身理解しながらもため息をつきぼーっと生徒たちが汗水を垂らし運動する姿を見ていたはずだったのだが…。

 

佐天涙子たちのクラスを受け持っていた体育教師が驚愕の眼差しを向けることになるとはこの時誰も思っていなかっただろう。

 

 

 

「す、凄い七惟さん!サッカー選手だったの!?」

 

「何あのボレーシュート、本当に……いやいや何処から見ても女の子だけど、どうなってんの!?」

 

「サッカー部入って俺らにサッカー教えてくれ!」

 

 

 

その出来事は僅か数分後に起こる。

 

どうやら生徒たちの馬鹿デカい声を聴くに凄くサッカーが上手い生徒が居るらしい。

 

どれどれ、とそのお手並みを拝見しようとした教師だったが……。

 

 

 

「な……!?」

 

 

 

そこに居たのは周囲の生徒たちとは明らかに動きが違う、特徴的な髪飾りをした茶髪の女子生徒だった。

 

ボールを持てば華麗にドリブルでごぼう抜き、ボールを追いかければ短距離走の選手のような目を見張るスピード、ディフェンスをすればまるで剃刀のような切れ味のスライディングタックル、シュートを撃てばまるで地を這う弾丸のようなシュート。

 

 

 

な、なんだなんだこの子は……!?

 

 

 

もうファーストインプレッションがそれだった、明らかに女子生徒が出来るような動きではないし学園都市の男子サッカー中学選抜の奴らでも彼女に対抗出来るような気がしない。

 

その余りの凄まじさに野球をしていた男子も女子のサッカーを観戦する始末。

 

 

 

「せ、先生……あんな子いましたっけ?」

 

 

 

男子のほうの教鞭を取っていた同僚が狼狽した表情で声を掛ける、確かに昨日の体育ではあんな飛び抜けすぎた動きをする子なんていなかった、もしや……。

 

 

 

「そういえば今朝このクラスに転入生が入ってきたとか何だとか聞いた気が……」

 

「て、転入生……?あんな凄い子が何の変哲もなくて平凡極まりない子供が集まってくるこの凡個性な公立中学校に?」

 

「経緯は分からんが……名前は……七惟美咲香?」

 

「まるで動きが忍者みたいだ……」

 

 

 

そう、この同僚が言うように彼女の動きは恐ろしく機敏で無駄がない、その昔暗殺を請け負っていた忍者のように。

 

特にあの剃刀スライディングは一緒にプレイしている女子が怪我をしないのか心配な程の威力である。

 

こうやって二人がざわついている間にまたもや件の転入生がボレーシュート、キーパーをやっている子は微動だにせずボールがまるで渦に呑まれるが如くゴールへ吸い込まれていく。

 

女子のキーパーにあんな恐ろしいシュートを容赦なく放てるあたり、余程当てない自信があるのだろう。

 

 

 

「レベルは……3!?」

 

「は!?レベル3の能力者だって!?転入生で!?」

 

 

 

七惟美咲香のプロフィールを見て絶句する、転入前の学校は何処にでもありそうな普通の公立中学校だったが、そんな平凡な中学から何でうち何かにレベル3の凄い子が……。

 

レベル3であれば有名私立はもちろん、学園都市の女学校のトップとして双璧を成すあの常盤台や霧ヶ丘に入学できるレベルだ。

 

この社会での常識を考えればそんな凄い子がこんなところに入ってくるなんて到底考えられない。

 

唖然とした表情で彼女を見る教師たちだったが、腹の底では彼女の担任が何故自分で無かったのだと地団駄を踏んでいた。

 

もちろん脅威の転入生七惟美咲香はその次のテニスでも大活躍であった。

 

サーブをすれば中学生とは思えない正確なサービスエース、リターンエースも同じくえげつないところに打ってくる。

 

ラリーも同じで全く他の生徒は歯が立たない、転入生に挑戦者として自分の競技そっちのけでやってきた男子テニス部の男子を体力で打ち負かしてしまう。

 

スポーツ関連ではおそらくこの学校の所属する誰よりも素晴らしい成績を残せるはずだ、下手をこけばそれこそ中学選抜に圧倒的な力で入れてしまいそうな……。

 

周囲を圧倒する転入生七惟美咲香、しかしその表情はおそろしく無表情で、彼女に駆け寄ってくる女子生徒たちのほうがよっぽど大興奮していたのだった。

 

 

 

 

 








前話に書き忘れていたのですが、


この章では一部シビアな展開も含まれていますので閲覧にはご注意ください。

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