とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
月4更新なんて何時以来だろう……!と思ったら、
去年の11月にやっていたとは……!
「いやー、それにしても凄かったよ七惟さん!」
「本当です!クラブに所属してスポーツの練習されてたんですか?」
「ホントホント!むしろあれだけ上手いのに強豪校からスカウトが無いのがおかしいくらいだよ~!」
「ありがとうございます。ですが別段特殊な訓練等はしていないのですが……」
「えぇ!?元からの身体能力だけってこと?」
「だ、だとしたらもっと凄いですけど……」
「……」
時刻は16時前、一日の授業日程を全て終えた彼女たち3人は転入生である七惟美咲香に学校を案内している。
今彼女たちが話題にしているのは今日の七惟美咲香が披露した大活躍のことだ、各種スポーツに勉学、そして能力者としての力……全てにおいてこの学校トップクラスの実力を持つことを公衆の面前で如何なく発揮した。
特に驚くべきはスポーツだ、いったい何処で学べばあれだけの動きが出来るのやら見当もつかない。
「勉強も私達の学校と前居た学校でどれだけ差があるのか気になっていたんですけど、全然問題なさそうですね」
「むしろ私達が教えて貰いたいぐらい!これだけ頭がいい人から教えられたら中間テストも余裕よ!」
「佐天さん、人の力を借りる前にまずは自分で勉強すること。これが大前提です!」
「う、初春手厳しいなぁ」
10月も半ばに差し掛かってきたこともあり、日が暮れるのも大分早くなってきた。
夕日が差し込む校舎の中、外では部活動に励む生徒たちの声が大きく響き校舎内にいても聞こえてくる。
普段よりサッカー部の声が大きく聞こえるのは今日転入生にぼっこぼこにされたことが影響しているような気がするのは気のせいではないだろう。
「今日はそんな時間が無いから普段の学校生活で使うところを紹介していくね」
「ここが体育館です、今日の体育の時間運動場を使ったから見て分かったと思うけど、すぐ隣にプールもあるんですよ」
「プール、ですか」
「そうそう、もう夏は終わっちゃったから使うとなると来年になっちゃうんだけどさ。公立中学のプールにしては珍しく此処のプールは50Mあるんだ」
「きっと七惟さんなら水泳も大得意なんでしょうね」
「どうでしょうか……泳いだことがないので」
「うそ!?」
「前の学校ではどうしていたんですか……?」
「そもそもプールという項目がありませんでした」
「い、いまどきそんな学校あるんだなぁ」
「あはは……折角ですし体育館の中に入りますか」
今風な回転式の扉を潜り3人は体育館の中に入る。
中では一心不乱に部活動の練習に打ち込む生徒たち、バレーにバスケット、卓球……様々なスポーツ部が此処で練習に励んでいる。
彼らの様子を興味津々に見つめる美咲香、普通の部活動の練習がそんなに物珍しいのだろうか。
「美咲香さんはどんなスポーツが好きなんですか?」
「バスケットとか上手そう。あ、でも今日の感じ見てるとテニスの流れで卓球も凄い上手だったりしそう」
「特にこれと言って好きなスポーツはありません」
「あ、あれ?そうなの?」
「唯……」
「はい?」
「彼らがとても楽しそうにしている、そのことに興味があるんですと心情を吐露します」
そう言った美咲香の視線が向かったのはシュートのフォーム練習をしているバスケット部の男子達だった。
タブレットで録画した自分のフォームを見ながら仲間たちからアドバイスを受けている、顔つきは真剣そのものだ。
そんな彼らを美咲香はじっと……無表情ながらも、興味深そうな視線をずっと投げ続けていた。
「……」
「…………興味があるなら、七惟さんも部活動入ってみる?」
「部活動、ですか……?」
「そう、部活動!私達学生の仕事といったらそりゃもう勉強なんだけどさ、運動もその一つ!此処で練習してる人達みたいに部活に入って大会に出場して優勝を目指すの!」
「……」
「地区大会、都市大会、そしてその次は全国!七惟さんの運動神経だったらどの部活動に入っても大活躍間違いなし!」
「ちょ、ちょっと佐天さん。一人で盛り上がりすぎですよ!」
「何言ってるの初春!これだけの才能を埋もれ……って、電話鳴ってる」
「誰からですか?」
「えーっと……あ、御坂さんだ。もしもし……」
部活動を行い生徒たちの掛け声がうるさいのか、佐天は携帯を持って体育館から出て行った。
「も―……佐天さんはホントに調子いいんですから。でも七惟さん、もし部活動が気になるんだったら体験入部なんて如何ですか?」
「体験入部とは?」
「えーっとですね、気になる部活に1日だけ参加して、もしこの部活をやっていきたい!って思ったら本格的に入部してもらう制度みたいなものですよ」
「なるほど、要約すると……お試しということで間違いないでしょうか」
「そうそう!お試しです!佐天さんが言った通り七惟さんすっごく運動得意ですし、その特技を腐らせちゃうのはもったいないですよ」
初春も運動に関しては全くダメだが、素人目で見ても美咲香が並外れた運動神経を持っているというのは良くわかる。
そして佐天は運動に関しては学年でトップクラスの力を持っているのは有名な話で、実際彼女たちが色々なトラブルに巻き込まれた際には思いもよらない動きから自分達を窮地から救ってくれたことが多々あった。
そんな彼女が凄いと思ったのだから間違いない、初春としても学校生活を満喫するには学業以外の活動が大事になってくると思うし非常に良いと思う。
まぁ彼女ならばどんなスポーツでも都市大会クラスなのは目に見えているが、どうもチームプレイは苦手そうに感じるのでテニスや剣道とか、そういった個人技が良いだろう。
「はい、今日のところは……すみません、また今度ですね」
そうこう喋っているうちに佐天が体育館に戻ってきた、どうやら話は終わったようだ。
察するに彼女ら共通の友人、常盤台の超電磁砲からの電話だったみたいだが……。
「電話は御坂さんからですか?」
「そうそう、今から一緒に出掛けない?って言われたんだけど、今日は七惟さんとの先約があるからパスしといたよー」
「それもそうですね、御坂さんには悪いですけど…………」
「どうかした?」
「いえ」
そう言った初春は視線を現在進行形で部活動生を凝視する美咲香を見つめた。
見れば見る程、外見は自分達が知っている常盤台の御坂にそっくりである。
外見で違うところと言えば服装と髪飾りくらいで、その他はもう寸分の狂いもないくらい超電磁砲にそっくりだ、そっくりにも程があるくらいのレベルで。
しかし内面や言動は大きく違う、自分たちの友人である御坂は活発で明るく元気そのもの、どちらかと言うとお喋りで自分から物事を進めていくタイプ。
対して七惟美咲香は非常に大人しくて口数は少なく表情の変化も乏しいし目つきがだいぶ御坂とは違う。
自分から意見をいう事はあまりなくて、どちらかと言えば周りに合わせるようなタイプだと思う。
そんな外見は同じで中身は正反対な二人なのだが、本当に……本当に二人は全く何も関係ない赤の他人なのだろうか。
「うーいーはーるぅ!」
「ひゃうあ!?」
そんな物思いにふけっている初春のスカートは完全無防備な訳で、何時ものあいさつをされてしまった。
「へぇ、今日は白の水玉模様かー!」
「な、んあななああな、なにをやってるんですか佐天さん!こんな男子生徒だら、だらけのところでスカートをめくう、めくったら!」
「あはは、大丈夫大丈夫。初春の後ろは壁だよ、誰も見えないって!それに初春が気になってることなんて吹き飛んだでしょ?」
「……それは、そうですけど」
「きっと御坂さんと七惟さんのことでしょ?」
「はぁ」
「でも今のところ特に変なところだって何もないし、先生たちだってそんなこと一言も言ってない。気にし過ぎだよ初春は」
「んー……それならいんですけど」
「そうそう。さ、気にしないでもう今日の所は帰ろう!七惟さん、家まで送るね」
「ありがとうございます」
「うーん……」
「初春!行くよー!」
「あ、はい!……って佐天さん!男子の皆が凄いこっち見てます!どうしてくれるんですかあー!」
あはは、と笑いながら踵を返して去っていく佐天に初春はぷくぅと顔を膨らますことしか出来ない。
佐天が言うように自分の考え過ぎなのだろうか、唯の考え過ぎではないくらいに彼女たちはそっくりなのだが……。
まぁ、取り乱してもしょうがない。
近いうちにジャッジメントのパソコンで調べてみよう。
あれやこれやと考え、後ろ髪引かれる思いはあるものの初春は自分を納得させその場を走り去るのだった。
*
「まさか病院に住んでるなんて……」
「いえ、ここに住んでいる訳ではありません。現在身内が大怪我を負い通院していますので、今日はその付添です」
「へー……」
「私の親類が此処に努めていることも関係しています、と事細かに説明します」
「お、お医者さん!?」
三人がやってきたのは第七学区にある病院だ。
病院と言ってもそこらへんの開業医がやっているような小さな病院ではなく、総合病院のような巨大なものだ。
最初はこんなところに住んでるなんていったいどんなボンボンなんだろうと柵川中コンビは思案したものだが、どうやらそうでもないらしい。
同居している兄が現在通院しており、今日は偶々定期健診の日であり時間が重なったため一緒に帰ることにしているとのことだった。
しかし親類に医者がおり且つ彼女の発言からしてその恩恵にあやかっているとなると、親類ではなく彼女の親が医者なのではないかだろうかと勘繰らずにはいられない。
我慢できずそのことを聴いてみるも、全く違うと一刀両断。
学園都市の外側で仕送りを貰って生活しているという回答であった。
しかし彼女のこれまで発言やその能力を見るにおそらくいいところのお嬢様系であることを想像するのは容易であり、結局のところお金もちなのだろうという決断に至った訳だが、彼女たちは共通の友人である御坂のほうが遥かにボンボンなことを知る由もなかった。
この第七学区の病院には凄腕の医者が居ると有名だ。
噂好きの佐天は此処に『死者を生き返らせることが出来る医者がいる』という情報をついこないだ仕入れたばかりで、冒険心が疼かずにはいられない。
まぁ今日は七惟を見送りに来ただけであって、流石に噂の医者を探し回ることなんて出来ないのだが。
3人はエントランスに入り周囲を見渡す。
どうやら中は普通の区立病院と変わらないようだが、非常に設備が充実しているのがよく分かった。
来客用の休憩スペースや待合所はもちろんのこと、レストランやコンビニ、雑貨屋などちょっとした商業施設ようなつくりだ。
エントランスだけで自分たちの教室の何倍もの広さだし、受付用のデスクも大きく入口から正面に見える液晶ディスプレイには学園都市のニュースが流れている。
こんなところに努めている美咲香の親類とはいったいどんな人なのだろうかと考えていると、誰か見つけたのか美咲香は雑貨屋のほうに走っていく。
「あ、ちょっと七惟さん!」
「まってくださいー」
雑貨屋は日用品から本、食品まで幅広く扱っており横のコンビニと合わせてしまえば日常生活には不便しないような品揃え。
設備の充実も去ることながらテナントでもこの病院が如何に力を持っているのかが分かる。
美咲香は文房具売り場の所で止まると、そこでシャーペンを選んでいる青年に声を掛ける。
「兄、もう診察は終わったのですかと美咲香は確認を取ります」
「あ……?あぁ、なんだ美咲香か。お帰り、右手以外は健常者なんだからもうほとんど健康そのもの、だそうだぞ」
「まだ足の湿布やお腹の包帯が取れていませんと美咲香は隅々までチェックをします」
「分かった分かった……」
美咲香が声を掛けた青年は右腕を全部包帯で覆っていて、それに加え両足のくるぶしには酷い捻挫をしたのか大きな湿布が貼り付けてある。
見たところ年上で高校生くらいにも思える。
「七惟さん、こちらの方は……?」
若干置いてけぼりになっていた佐天が美咲香に尋ねる。
「すみません、紹介がまだでした。この人は私の兄です」
「あ、どうも初めまして。佐天涙子です、妹さんと同じクラスで今日は一緒に下校してるところです」
「お、同じく初春飾利です。今日が転入初日だったんですが仲良くなったので今日は一緒に帰っています」
「そいつはどうも。……しかしよくもまぁ、初日に二人も友人が出来たもんだな美咲香」
「何ですかその言いぐさは、とあからさまに不機嫌な視線を投げかけてみます」
「あはは……」
「俺は七惟理無、第七学区に住んでる高校生だ」
「今日はもうアパートに戻るんですか?」
「あぁ、痛み止め貰ったらな……お前友達が居る前でひっついてくんなうっとおしい」
「蛇のような眼光で睨み付けているだけですと訂正します」
美咲香は七惟理無と名乗った青年の手を掴みながらその顔に不満を表す。
そしてそれをいなす青年、なんだろうか……二人のやり取りを見ていると犬と飼い主のような、さっきまでのクールで無表情だった七惟美咲香など何処かへ行ってしまったようだ。
「二人とも……こんな大変な奴と仲良くしてくれてありがとう。色々変わった奴だけど知らないことばかりだからこれからも面倒見てやってくれないか」
「もちろんです、逆に美咲香さん凄い頭いいから近いうちにある中間考査ではこっちがお世話になっちゃうくらいです!」
「あぁ、そうかい。そいつぁ良かった。佐天さん、初春さん」
そう言って頭を下げる美咲香の兄。
口数は美咲香同様非常に少ないが落ち着いていて、最初の印象ではぶっきらぼうな人とも思ったがそうでもないらしい。
「それでは私達は病室に戻ります。お二人とも、ありがとうございました」
「またね、七惟さん!」
「また明日よろしくお願いしますね」
こうしてドタバタながらも確かに学園生活を満喫した美咲香の中学校生活一日目が幕を下ろしたのだった。
この章からオリジナルストーリーとなるため、時間の流れが原作に即していない
場面が多々ありますが、よろしくお願いします。