とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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学園都市最強の男-2

 

 

 

 

 

一方通行の絶対能力進化計画を阻止してから2日、七惟は搬送先の病院のベットの上にいた。

 

身体の節々が痛むこの感覚、骨が何本か逝ってしまったのは間違いないが、よくもまあアレと戦ってこの程度で済んだモノだと七惟は呆れるような溜息を吐いた。

 

幸運なのか悪運なのか分からないが、今回も死ぬことは免れたらしい。

 

「七惟?入るぞ」

 

「ケッ、上条か」

 

ノックして病室に入ってきたのは上条当麻とこの事件と深く関わっているであろう御坂美琴だった。

 

「大丈夫か七惟?えらく派手にやられてたみたいだったから心配してたんだ」

 

「俺からすりゃあ、てめぇの傷の浅さのほうが心配だよ。ホントに人間かてめぇは」

 

見た感じ上条の傷は七惟の負ったものとは傷の程度が全然軽く、もう歩いている。

 

此処の医者がどれ程の名医なのかそれとも上条の身体が鋼鉄のように頑丈なのか、どちらにせよ一方通行に打ち勝つことが出来たこの男はもはや人外だ。

 

「それだけ強気な言葉が出せれば、もう大丈夫みたいね」

 

「お前に心配されたくはねえなオリジナル」

 

御坂はミサカ達―――シスターズ―――と七惟と上条を病院に運んでくれた。

 

七惟は上条を飛ばしたあたりからもう意識が飛びかけていたためよく覚えていないが、あのミサカも死ななかったようで胸をなでおろす。

 

「まさか、アンタまでこの実験を止めようとするなんて思ってもなかったわ」

 

「別に俺はサボテンと違ってお前のために止めようとしたわけじゃねえよ」

 

「でも、19090号を動かしたのはアンタでしょう?私じゃあの子たちを止めることは出来なかったから……」

 

そう言えばミサカ達はネットワークでつながっており、すぐさま情報は共有されていると聞く。

 

つまりあの時ミサカ19090号が感じた『感覚』はネットワークを通じて他のミサカにも伝わり、そしてその感情がミサカ達の生きようとする意思を呼び起こしたわけか。

 

でなければ一方通行と実験を行っていたミサカは自分が辿りつく前にとっくに殺されていたかもしれない。

 

しかし七惟はそんなことを考えていても口には出さない、今まで自分のタメだけに動いて来た自分が突如誰かのために命を削ってでも助けようとしたのはまだ分からない。

 

でも分からないままで良いと思っているのは確かだ、自分のために動いた……動機や内容、結果はどうあれ今はそれでいいんだ。

 

「知るか、俺は俺で勝手にやったまでだ。それにどういう背景があってあのミサカ達が生みだされたのかは知らねえんだよ俺は」

 

「だったら……」

 

「お前に責任があるとか知ったこっちゃねぇけどな、お前は何か出来ないかって走り回ったんだろ」

 

美琴の意思でミサカ達が生まれたわけではないのだろう、しかし彼女はそれから目を逸らさなかった。

 

「ならそれで十分だろが、そんな暗い顔すんじゃねえ辛気くせえ」

 

美琴は少なくとも実験をとめるために何かをしていたはずだ、だから七惟はもうこれ以上は何も言わない。

 

「……アンタ、ただ口が悪くて横暴なだけじゃないのね。意外だったわ」

 

これが自分の自然体だ、と七惟は鼻を鳴らす。

 

視線を外そうと寝がえりを打とうとするとその衝撃で身体の至る所が悲鳴を上げ断念、七惟は顔をひきつらせる。

 

「お前のそういう所が俺はいいと思うぜ?」

 

「人格者のお前に何言われようが嫌みにしか聞こえねえがな」

 

「はは、そうか?」

 

上条は美琴を見やると彼女も「そうね」と細く笑んでいた。

 

彼らが生みだすその柔らかな空気がどうも気に食わない七惟はさっさとこの害悪共を追いだすことにした。

 

「お前らそういう甘ったるいシチュエーションは病室ですんじゃねえ。何処の馬鹿ップルだコラ」

 

その言葉を軽く笑って上条は往なしていたが、中学2年生で思春期真っただ中の美琴はそうもいかなかった。

 

耳まで真っ赤にした彼女は猛然と突っかかってくる。

 

「な、何言ってんのよ!何で私がこんな奴と夫婦なのよ!」

 

おいおい、何だこの反応・・面白いにも程があんぞ。

 

しかも夫婦って言ってないんだが、カップルって言ったつもりだ。

 

調子に乗った七惟は出来ごころからかもう少し美琴をおちょくってみることにした。

 

「お前のコトだ。顔真っ赤にしやがって、そんなにこのノータリンが好きか」

 

「違うって言ってんでしょ!だいたいコイツとは――――」

 

本気になって反論してくるあたり、どうやら七惟の勘は当たっているようだ。

 

だいたい上条当麻はいったいどれだけの女と関係を持つつもりだ、クラスの女子だけじゃ飽き足らずこんな電気女にも手を出すとは。

 

「お前らさっきから何やってんだ?病院だぞここ」

 

「アンタのせいでしょ!」

 

そして当の本人はそんな美琴の剣幕などどこ吹く風、と言ったところか。

 

本人に自覚が無い場合性質が悪いとはよく言われるものだが、どうやらコイツはコレを素で何回もやってるから余計だ。

 

「わあった、もういいからお前ら帰って上条の補修でもやってろ。俺はてめぇ等と違ってそんなに頑丈じゃねえ」

 

「お前も早く退院してくれよ、宿題が終わらないからな」

 

「まずその他力本願な腐った根性をどうにかしやがれ」

 

「失礼な!上条さんは勉学『以外』は自力で何とか出来ますよ!」

 

「以外を強調すんな以外を!」

 

 

 

なんやかんやで騒がしくなってきたので無理やり彼らを追い出して七惟は一息つくも、再びドアからノックの音が響いた。

 

 

 

「だからさっさと帰って補修でもしやがれって……!」

 

出戻りしたのかと思って七惟は怒鳴るがそこに立っていたのはあの二人ではなかった。

 

 

 

「ミサカに補修はありません、今の言葉の訂正をミサカは求めます」

 

 

 

「……お前か」

 

美琴のクローンであるミサカが病室に入ってくる、腰にポーチをつけているあたり19090号だろうか。

 

正直七惟はミサカ達一体一体を区別することなど不可能……というよりもオリジナルである彼女ですらミサカ一体一体を見分けることは出来ないだろう。

 

「19090号です、とミサカは自身のシリアルナンバーを提示します」

 

19090号ということはあの時の……。

ミサカはポーチから名刺のような紙切れを七惟に手渡した。

 

「んで?何の用だミサカ。もうお前らは晴れて自由なんだろ?」

 

「自由、確かにそうですとミサカは頷きます」

 

ミサカはポーチに手を突っ込むと鍵を取りだす、その鍵は七惟がよく知っているキーホルダーをつけていた。

 

「それ……俺のバイクの鍵か?」

 

「はい」

 

「……届けてくれたのか」

 

「この程度、ミサカが貴方から受け取ったモノと比べれば極小さなものです」

 

七惟はミサカと防災センターで戦った後、すぐに実験場へと向かったためバイクは19学区の駐輪場に放置したままだった。

 

目を覚ました時に自分のポケットに鍵が入っていないことに気付いたため、おそらく一方通行との対戦中に落としたはずだ。

 

「操車場で探したのか?」

 

「ミサカの能力でしたら鍵を見つけるのは簡単でしたとミサカは胸を張ります」

 

「しかしよく俺が鍵無くしたってわかったな」

 

「貴方がバイクを放置しているのには何か理由があるはずだとミサカは考えたのです」

 

バイクを置いてきたのは時間がなかったためだが、自分を殺そうとした奴のためにここまでやる必要などないはずだ。

 

「お前……自分を殺そうとした奴のタメになんでここまですんだ?」

 

極々普通に疑問に思ったことを口にする。

 

「貴方は、あの時ミサカを殺そうとはしていなかったとミサカは確信しています」

 

「確信だと?」

 

「貴方が本気を出せば、ミサカを殺すコトは蟻を踏み殺すかのように容易かったコトだとミサカは後に気付きました。でも殺さなかった、それどころか『生きる』衝動というものをミサカに教えてくれました」

 

生きる衝動。

 

例え生きる理由が無かったとしても、殺される理由だって無いはずだ。

 

殺されるのが当然だと思っていても、知らないこと、分からないこと、やってみたいことが溢れてくる、その溢れる気持ちが生きる衝動なのかもしれない。

 

このミサカに限っては七惟が与え続けた恐怖によりそのことに気付いたようだった。

 

「ミサカは今日、貴方に恩返しにきたのですとミサカは説明します」

 

「恩返し……?」

 

「ミサカ達へ内から湧き起こる生きる衝動を教えてくれた貴方にお礼がしたいとの声が、ネットワークの至るところで上がっていますと補足説明します」

 

「礼なんざいらねえよ」

 

「何故ですか?」

 

「別に礼が欲しくてやったわけじゃねえんだよ」

 

「そうなのですか?」

 

「ただてめぇに死んで欲しくなかった、それだけだ」

 

もしこの場に美琴が居れば間違いなく赤面するであろう台詞をさらっと吐く七惟。

 

彼は元来相手のコトを考えずに思ったコトをそのまま口にするタイプだったため、普段はマイナスにしか働かないこの癖も……

 

「その言葉をミサカは初めて聴きました」

 

このようにたまにはプラスに働くこともあったりする。

 

「お礼は必要ない、とのことでした。そこでミサカのお願いを聴いてくれますかとミサカは提案します」

 

「お願いだぁ?」

 

「はい」

 

「……一つくらいならな」

 

前のミサカのようにバイクに乗りたい、といった類のお願いだろう。

 

まあその程度ならば問題ないと判断した七惟は後に自分の浅はかな考えを後悔することになる。

 

「貴方の家に住まわせて欲しいのです、とミサカは単刀直入に言ってみます」

 

「……んだとお!?」

 

七惟は予想だにしないミサカのお願いに素っ頓狂な声を上げる。

 

「ミサカは住む場所がありません、今回の一連の騒動でミサカの居た研究所はアンチスキルに差し押さえられて立ち入ることが出来ない状態ですとミサカは憂います」

 

「その件なら世界各国の研究所にお前らの住む場所の手配は終わってたんじゃないのかよ?」

 

「はい、ですが私の研究所は受け入れまでまだ時間が必要のようで、その間私は家無し少女なのですとミサカは涙目になって語ります」

 

つまり研究所の準備が整うまでは俺の家に住まわせてくれってコトか……。

 

七惟はまだ入院生活を余儀なくされているため家に帰るのは当分先のことだが、もしミサカの滞在期間が長引けば一緒に生活をすることになる。

 

 

そうなると今まで他者と一つ屋根の下で暮らしたことなどない七惟にとって未知の体験だ、しかし彼女の願いを無碍に出来ないのは何故か頭では分かっていた。

 

「わあったよ。俺ん家でいいなら好きにしろ」

 

躊躇いつつも断りきれない七惟はしぶしぶ了承した。

 

「本当ですか?とミサカは確認を取ります」

 

「ああ、その代わり俺だって男なんだからな。部屋ん中漁ってヘンな本とかあっても文句言うんじゃねえぞ」

 

「ヘンな本……?」

 

「―――――ッ!いいからその机の上にある鍵とって俺ん家で休みやがれ!」

 

自ら墓穴を掘った七惟はたまらず赤面するもミサカは首をかしげたままきょとんとしている。

 

この空気に耐えられない、早く打開しなければ。

 

「俺はまだ入院してなきゃいけねえんだ、出発する時はまたこの病室に来いよ」

 

「わかりました、ありがとうございますとミサカはお礼を述べます。ところでヘンな本とは具体的にどのようなものなのでしょうか、とミサカは好奇心旺盛に訊いてみます」

 

「知るか!そんなに知りたいんだったらお前で探せ!」

 

数分後ようやく『ヘンな本』について諦めたミサカは病室から出て行ったが、七惟は心底疲れ切った表情であおむけになっていた。

 

 

 

 

 

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