とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
どうやらアニメでフレンダがとうとうむぎのんに分解されてしまったらしい!
超電磁砲ではあんなに仲良くしていたのに……!
因みに今作ではフレンダは分解されていません。
つまり……
七惟美咲香。
彼女は上条当麻と同じアパートに住んでおり、隣の部屋の住人の一人だ。
隣の部屋にはもう一人、彼女の兄の七惟理無が一緒に住んでいる。
勿論兄というのは形上……いや戸籍上もそうではあるのだが、実際のところ二人には血の繋がりはない。
彼女は学園都市第3位の超電磁砲、御坂命琴のクローンであり、『妹達』と呼ばれている。
そのうちの一人である彼女は、妹達の中でも特別に感情の動きが大きい個体であり、実際に他の妹達と一緒に居ればその違いは一目瞭然である、頭を斜めに下げる変な癖もある。
正直なところ上条にとって彼女ら一人一人を区別して呼ぶのは余りに難しいが、この七惟美咲香と呼ばれる子だけははっきりと彼女という人格を認識している。
上条はそんな彼女と深い付き合いは無い、強いて言えば同じクラスである七惟の同居人というイメージだ。
そもそもこの七惟美咲香が七惟の家にやってきたのもまだ数週間前だし、ほとんど接点は無いに等しい。
ただアックア襲来の際、七惟を助ける為に地下都市に飛び込んできてくれて、その後負傷した上条にもお見舞いに来てくれたことだけはしっかりと覚えている。
そして彼女は最近学園都市の公立中学校に通っているということも知っている。
情報源は七惟からではなく、上条と一緒に同居している暴飲暴食のシスターからだ。
どうもアックアとの戦闘後、上条と七惟の間には不協和音のような、ぎくしゃくした空気が二人の間に流れてしまっている。
インデックスから話を聴いたその後、七惟美咲香が学生鞄を背負って登校している姿を上条自身も見つけ尋ねたらその通りだった訳である。
そして今目の前に居る訳だが……此処は高等学校、中学に通っている彼女が此処にくる理由となれば……。
「兄を待っているんです、今日は此処で待ち合わせをしていますから」
「あぁ……七惟の奴を待ってるんだな」
「はい、かれこれ30分近く待っています。妹を待たせる兄等許せません」
やはり七惟のことを待っているようだ。
しかしクラスの中でも不気味な存在として恐れられている七惟ではあるが、この妹の前では形無しのように思える。
クラスメイトで話しかける奴なんて上条を含めて土御門に青髪ピアスくらいだが、この子に接する七惟の態度を見れば皆驚くことであろう。
「七惟の奴、子萌先生に捕まってたから時間かかんだろうなあ……。ほら、アイツ反抗的だから」
「そうですね、確かに兄は態度が大きいため年上の方とはコミュニケーションを取るのが非常に苦手だと皆言っています」
「皆か、そりゃ違いない」
「はい、絹旗さんは特にそう言っていましたと重ねて申し上げます」
「絹旗さん、か」
絹旗。
知らない名前だ。
上条は七惟のことは多くを知らない、記憶を失う前の自分であったらその名前にも憶えがあったりするのだろうか?
七惟が普段学校以外の世界で何をしているのか、どういう交友関係を築いているのか、上条はほとんど知らないと言っていい。
「その絹旗ってのはどういう人なんだ?」
「はい……?絹旗さんですか。そうですね、とにかく家に押しかけてくるとても声が大きい人だというイメージが非常に強いです。アパートに居て我が家がうるさくなってきたら、だいたい絹旗さんがやってきたと思って頂いて構いません」
「あぁっ、てことは女の子か」
「はい、年齢は私と同じくらいのはずですと疑問符を付けつつも答えます」
最近七惟の家は賑やかである。
ひっきり無しに誰かがやってきているのは間違いない、その中には覚えのあるスキルアウトの男も居たし、七惟とその男が非常に仲が良いこともうかがい知れた。
この数か月で一気に七惟は変わった、そしてその中心に居るのはおそらくこの七惟美咲香だ、なんせ一緒に生活をしており仮初めではあるが兄妹になっているのだから。
彼女と七惟が関わったのは、自分が妹達や一方通行……御坂と操車場で大きな戦闘を繰り広げたあの夏の日前後のはずだ。
もしかしたら、彼女の話を聴けば最近の七惟のことや、彼の交友関係並びに普段何をしているのか分かるのではないだろうか。
そうすれば、今のぎくしゃくした関係を改善する一歩を踏み出せるかもしれない。
それに上条自身、この七惟美咲香という子が非常に気になる。
いったい全体どうやってあの七惟理無がこの子を妹としたのか?
上条の知る七惟……まぁ記憶を失ってからの七惟しか彼は知らない訳だが、失った直後の彼はとにかくこちらに対して敵対的であったし、眼光は鋭い割にとにかく気だるげで今と纏う雰囲気が全く違う。
しかし操車場からの戦いを経て、イタリア、アックア戦後とその全てが変わっていった。
きっとそれにはこの子が関わっているに違いない。
「なぁ、最近の七惟は家だとどんな感じなんだ?」
「家……ですか?」
「あぁ、学校だと相変わらず昔からそんなに変わってないからな。皆七惟のこと怖がってるしさ」
「兄を怖がる方が居るんですね、兄を嫌う方はたくさんいると思うんですが……と疑問に思い首を傾げます」
「そんなこと言えるのきっと妹の君だけだって……」
「そうですね、家の兄はとにかく綺麗好きです。私が少しでもコップを始めとする食器等を使用後だしっぱなしにしていると、すぐに片づけろと言ってきます。後で片づけるつもりですとこちらが主張しても全く受け入れてくれません。少しは寛容になって欲しいものです。片づけるのを忘れてしまいそのまま寝てしまったことを未だに根に持っているのは理解し難いことです」
「へぇー、確かにそれはそうだな」
「はい、4回目から言われ始めました」
「それは仕方ないんじゃ……」
「兄は妹という存在に対してとても優しく、何でも言うことを聴いてくれるものであるとミサカネットワークから得た情報はそう言っています」
「そんな兄貴はいないと思うぜ流石に……」
「他には……」
七惟美咲香が喋る内容はどの家庭にもありふれているようなものばかりの、とてもほのぼのとしたものであった。
喋っている七惟美咲香は他の妹達と変わらずほとんど無表情に近いが、時々眉間に皺を寄せたり七惟の面白い話の時などは表情がほんの少しだけ柔らかくなる等、やはり他の妹達とはその感性が違うのだろう。
七惟美咲香の知っている七惟は、上条が知っている七惟とは大きく違っていた。
なんだかそのギャップに驚くものの、話を聴いているうちに前よりも七惟のことが身近に感じられ、自分が勝手に彼に対して壁を作っていたのかもしれないと思う。
自分からもう少し積極的に話に行けば、イタリアの時のような友情関係に戻れるのかもしれない。
そしてこの七惟美咲香とも、もっと接点を持ってインデックスが言うようにお隣さんとの関係を深めたほうがいいのだろう。
「あ、携帯鳴ってるぞー」
「御指摘ありがとうございますと首を垂れます。兄から連絡です、どうやらお説教が終わったようで今から校門に向かうということです」
「あぁ、そりゃ良かったよ。それじゃあ俺は帰るよ、インデックスの奴が腹を空かしてるだろうしさ」
「あのシスターを育成するのも大変だと思う故に心中をお察しします」
「い、育成って……!」
思わず噴き出した。
この独特の彼女の言い回し、癖になりそうである。
「まぁでも、独りで食べる夕飯より誰かと一緒の夕飯のほうが断然旨いしさ、やっぱり居てくれて嬉しいことも多いな」
「そうなんですか?」
「あぁ、今は一緒に七惟の奴と飯食べてんだろ?」
「そうですが」
「もし七惟の奴がいなかったら、一緒に食べて相槌をうったり話しかける人がいないってことだ。想像してみたら結構しんどくないか?」
「………………」
「どうだ?」
「…………そうですね、確かにそれは……こういう時寂しい?と言うのでしょうか。何だかそわそわしてしまう美咲香がいるのも間違いありません」
「だろ?」
「はい、やっぱり私の兄は凄い人です」
「はは、それは間違いないって。だってこの学校でただ一人のレベル5だしな」
「レベルはお姉さまもレベル5ですので。ですがきっとお姉さまでは、食卓の寂しさは紛らわせないと思いますと伝えます」
「……」
凄い人、か。
七惟美咲香は、口では結構辛辣なことを先ほどは言っていたものの七惟のことが大好きなのだろう。
彼女との会話の節々から、二人の関係が唯の作られた戸籍上の兄妹という訳ではなく、本当の意味での家族だり兄妹であるというのが伝わってくる。
そして彼女はその感情を上手く表せていないかもしれないが、とても七惟に対して感謝しているのが同時に理解出来た。
「かみやーん。ようやく説教タイムおわったにゃー。七惟の奴のせいで余計に長くなってしまって大変だったぜい……」
上条に声をかけて来たのはクラスメイトである土御門であった。
その顔色から疲れが見える、確か七惟と一緒にトラブルを起こして子萌先生に呼び出されていたはずだ。
恐らく七惟がまた余計なひと言で火に油を注いでしまい、余計説教が長くなってしまったのだろう。
「って、隣の子は……」
「あ、土御門か。帰ろうぜ。この子も七惟待ってたみたいだし」
「ま、まさかかみやん俺を待っててくれたのかにゃ……!?」
「あのな、この子と偶々喋ってたらお前が来たんだよ。ほら帰ろうぜ」
「……そうだな」
「ああ、それじゃあ。俺達はこれで」
「はい、道中お気をつけて」
小さく手を振る七惟美咲香を背に、上条と土御門は帰路に着くのであった。