とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
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結標との用事を済ませた七惟一向はとりあえずテーブルの上に残っているスイーツを美咲香が一方的に片づけ、七惟は先程の結標との会話を整理しつつ改めて店内を観察する。
此処は最近出来たばかりの喫茶店らしい、カップル共が好きそうなオシャレな飾りだけでなく女子も引き寄せるため可愛らしいぬいぐるみが置いてあったりする。
こうやってじっくり見れば食器もそれなりに高価なものを使っているように見える、流石お嬢様御用達常盤台中学の近隣に進出してくるだけあるなと感心する。
コーヒーの味もチェーン店に比べればかなりおいしいモノだったし、こういうところをしっかりと押さえているのは見た目に気にしていなさそうな結標も女子なんだなぁと感慨深くなるばかりだ。
まぁ、妹達を狙っている奴らの塒も近いとなれば彼女にとってはいいことだらけということか。
それにしても、垣根復権を狙っている奴らがまだいたとは。
もう垣根が消えてから一か月以上経っているはずだ。
あの暗部抗争の日、七惟は麦野に半殺しにされたその一方で垣根は一方通行に戦いを挑み、そして負けた。
七惟と違うのは垣根の消息が一切分からないという点だ、もし自分のように運が良ければ助かっていただろうがこうも情報の音沙汰がないとなればやはり一方通行の奴に消されたと考えるのが妥当だろう。
幾ら学園都市第2位だったとしても第1位には敵わないということなのか。
ミサカネットワークに依存しなければ満足に能力を使うことすら出来ないどころか歩くことすら出来ないのが今の一方通行だが、そんな手負いの相手でも学園都市の2位と8位が死に物狂いで挑んでこの有様。
奴が如何に規格外か分かる、普通の能力者が束になったところでとても倒せる奴じゃない。
だがそんな奴に喧嘩を売る連中が未だに残っているとは驚きだ。
前述したように手負いとはいえ学園都市で名実共に2番目に強い能力を葬った男なのだ、とても唯の暗部組織が潰せるような奴じゃない。
ましてやキーとなる妹達は学園都市第3位のレールガンの庇護下にあるようなもの、いったいどんな命知らずの連中なのやら。
そして生きているかどうか分からない垣根の復権を願っているだなんて、幾らなんでも学園都市の体制に不満がある不穏分子が多いとはいえ行動に移すとは思えない。
そういうこともあって結標は今回の件を自分に話したのだろう。
ハナから彼女はこの噂を信じてはいないが、そんなことに一方通行が振り回されるのは組織として御免こうむりたい。
だから一方通行の次に妹達と深いつながりがある七惟に声をかけ防備を張り巡らせておく。
その程度で十分だろう、と彼女は判断したのだ。
美咲香はトイレに行くため席をたった、その間に自分の考えにある程度の決着がついた七惟はコーヒーカップを片付けようと腰を上げるが。
立ち上がったその時、自身の感情を突っつくような声が聞こえたのを彼の優秀な聴覚は逃さなかった。
「おぉー!此処が御坂さんが言っていた新しく出来た喫茶店なんですね!」
「そうそう、ほら見て。ぬいぐるみも結構おいてあるでしょ」
「あはは……そ、そうですね」
二番目に発した声の主、間違いなく件の事案に関わってくるであろう人物だ。
短髪にどう見てもセンスが可笑しい髪飾り、有名お嬢様中学の制服……何より特徴的なスカートの下から見えてしまっている短パン。
そして二人の視線は遂に交錯してしまう。
「げ、七惟……どうしてアンタが此処にいるのよ」
開口一番にこの暴言、やはりコイツは自分に素直過ぎる。
「いつぞやと全く同じ言葉をご苦労さん、オリジナル」
「その言い方ホントどうにかならない?私には御坂美琴って名前があんの、それよりこんな喫茶店に来る趣味アンタにあったの?」
「俺に別にそんな趣味はねぇよ」
やってきたのは学園都市第3位常盤台中学校が誇る電撃姫、御坂とその友人たちだった。
連れている二人にふと目をやってみると……何処かで見た覚えがある顔だ、そして何だか片方がこの世が終わったような凄い顔をしている。
「えーっと、確か二人は……」
「七惟さんの御兄さんじゃないですか、お久しぶりです、佐天です」
「あぁ、そうだ佐天さんか。何時もアイツがお世話になってます」
「いえいえ、そんなことないですよー!ういはる?」
そう、美咲香と同じ中学校に通っているクラスメイトの佐天涙子と初春飾利。
この間病院で会った以来だが、二人は確か勉強会で七惟宅にやってくることも聞いている。
「あ、お、お兄さん。お久しぶりです」
だがその片割れである初春の様子が何だかおかしい、こんなに挙動不審になる子だっただろうか?
「なに、二人はこの失礼って言葉を体現したかのような奴と知り合い?」
「佐天さん、この口より先に手が出るタイプの二足歩行電気鼠と知り合いなのか」
「アンタに言われたくないわ!」
「ま、まぁまぁ」
険悪になりつつある二人の気配を察知したのか佐天が割って入る。
七惟からすればこんなのはまだ序の口、皆大好きサボテンの話をすればいよいよ本番ということころだったがまぁいい。
彼女たちの交友関係が気になっているのは事実だが、はて……。
美咲香は果たしてこのオリジナルこと御坂に現在柵川中学に通っているということを伝えているのだろうか?
もしかするとこれは結構とんでもないような事態になるのではないか……と七惟の頭にふと考えが浮かんだ瞬間だった。
「あ、お姉さま。どうしてこちらに?」
「な……ちょ、ちょっとアンタ!その言葉そっくりそのまま返すから!」
考えていたよろしくない事態が起こってしまったようである。
そう、美咲香が席に戻ってきて美咲香とオリジナルが互いの存在に気付いてしまったのだ。
そして外野から「あぁぁ」と悲鳴のような深いため息のような声が聞こえた、そちらを振り向くと初春が『恐れていたことがあ』とか何とか顔を覆いながら漏らしている。
「あ、佐天さんではありませんか。本日はお誘いをお断りしてしまい申し訳ありませんでしたと首を垂れます」
「いいよいいよ、お兄さんとの約束だったんだね。仲が良いんですねお二人は。それにしても凄い偶然ですよこれは、一緒にどうですか?」
太陽のように明るい笑顔で言葉を返す佐天、対照的に日陰で湿ったパンのように顔色が悪くなる初春。
なるほど、彼女が落ち着かなかったのはこういうことか……。
「七惟、アンタが此処に連れてきたの?」
「まぁな、俺の友人の誘いで」
「アンタに友人が居るなんて微塵も思えないけど取り敢えずその件は置いておくわ」
「お前それ自然体でやってるとしたら気付かない内に人を傷つけてるから気を付けとけよ」
「うっさいわね!」
「お前ホントいい性格してんな」
「とにかく、えーっと……佐天さん達はこの子と知り合いなの?」
事態の収拾を図ろうとオリジナルこと美琴が切り出す、幾分か焦りもあるのか声は上ずっている。
「え、えぇ……」
「私と初春と同じクラスなんですよ、柵川中学の」
戸惑いながら答える初春を横目に、佐天が元気よく切り出した。
「クラスメイト?」
「そうです、最近転校してきて……そして偶然彼女と一緒に下校している時に、お兄さんともお会いしたんですけど」
「……」
「……もしかして御坂さんとも知り合いだったりします?七惟さん」
「え」
「いやだってもう二人が……」
「さ、佐天さん!」
「もごっ……」
次の言葉を佐天が言いかけたその瞬間、飛びつくように初春がその口を押える。
「あはは、な、何でもないですよ佐天さん、そうですよね?」
「むー」
とても何もなさそうな顔はしていない、自分の不満を表情で最大限表す彼女は演者への道を志すといいんじゃないだろうか。
美咲香は皆の騒動なぞどこ吹く風といったところか、こちらに対して大きな関心を向けずに先ほど食べたワッフルのカタログをがん見している。
対して美琴はというと、何処からどう見ても焦燥している。
美咲香の存在……いや、正体を恐らく佐天達は知らない、それは佐天達の態度を見れば明らかで恐らく美琴が彼女たちに隠しておきたかったことだろう、それを察しのいい初春が感じ取って佐天を黙らせたというところか。
余程美咲香の存在を知られたくないようだ……此処は助け船を出してあげほうがいいだろう。
非常に癪ではあるが。
「初春さん取り敢えず佐天さんを離して。苦しそうだぞ」
「え、あ、はい!」
「もがっ……もう、初春加減を知らないんだから……」
「ご、ごめんなさい」
「あ……」
解放された佐天がとんでもないことを口走るのではないかと焦った美琴が言葉を漏らすが残念ながら口を挟む相手を間違えてしまったようだ。
「気になることがあれば何でもいってください、佐天さん」
……そこでそんな言葉をぶちまけるか。
ここまでこちらの話にほとんど介入してこなかった美咲香がまさかの一言を言い放った。
それを聞くと忽ち佐天は水を得た魚のように口を動かし始める、反対に美琴は俎板の上の魚状態である。
「お二人が実は姉妹で七惟さんのところに養子に行ったとかってそういうことですか?」
「…………」
仮に美咲香が美琴の妹だったとして何故七惟家に養子に出す必要があるのかはこの際大事ではない、彼女が上手い事きり出してくれたのだから逆にこれに乗れないかと七惟は思案する。
「えぇ、っと……そういうのでは……」
このタイミングでそこを否定するのか。
此処に来て美琴がまさかの弱腰で浮足立っている、いつもの威勢のよさは何処に行ってしまったのだ。
「そんなんじゃねぇよ、偶々顔がそっくりなだけで、コイツも同じ電撃使いだからレールガンを慕ってお姉さまやら何やら言ってるだけだ。昔からこうと決めたら頑なだからな、目標に出来る人材に尊敬の意味を込めて美咲香の場合はお姉さま、って言ってる。世界には自分とそっくりな人が3人いるって言われてんだから、その一人が偶然学園都市に居たってことで、俺と知り合いだっただけだ。出回ってる遺伝子の多様性は限られてて、人口も爆発的に増加してる昨今じゃドッペルゲンガー的なものに出くわすのもそう珍しいことじゃない」
自分で言っててだいぶ無理があるかもしれないが取り敢えずそれらしい難しい言葉で誤魔化しておく。
「えぇそうです、美琴お姉さまは私の憧れでもあり、誇りでもあります」
「見ろこの崇拝し切ってる顔」
「はい、お姉さまは素晴らしい人材です。無二の存在なのです。美咲香が此処で証言して差し上げます」
「いやそれはやめてくれ」
「残念です」
「はいはい、てことだ」
「はい、そういうことですよねお姉さま?」
「……え、えぇそうそう!そういうことなの!ちょっと顔見知りな七惟と一緒に居ることがよくある子だなぁーって思ってたら、まさか私と同じ電撃使いだなんて思わなかったなぁ。それから色々教えてあげてるうちにこういう関係になっちゃって。ちょ、ちょっと変わってる子だけどね!」
何と誤魔化すのがド下手くそなレベル5なのだろうかと天を仰ぐ七惟。
唯でさえ七惟の無理やり理論なのだ、そこでそんなに美琴が動揺してどもってしまっては彼女たちが納得してくれるとはとても思えない。
ナイスフォローだった美咲香の合いの手もこれでは霞んでしまう、元々は美咲香が爆弾発言したせいでこんな事態に陥ってしまったのだが。
こんな三文芝居をやってしまった自分が逆に恥ずかしくなってきた。
「へぇー、そうだったんですね。それなら分かります、友達である私達も御坂さんは凄い人だ、って思えますもん!」
「そ、そうですよね佐天さん。私もそうです、白井さんとの関係とか見ててもレベル4の彼女があれだけ心酔してしまってるんですから、同じ電撃使いなら余計にそう思っちゃいますよね!」
「そ、そうそう!黒子もあんな感じでこの子も結構思い込みが激しい子だから大変なんだ。あ、あはは!」
「初めてあった時はどんな感じだったんですか御坂さん。やっぱり私や初春みたいに同い年の白井さん絡みですか!?」
何だろうこの違和感。
佐天以外の全員(美咲香除く)が全力でこの話題を終わらせようとしているというのにそこに全力で遠慮なしで突撃してくる佐天涙子。
もはや清々しいまでの遠慮のなさ、いやむしろ此処で空気を詠めというほうが明らかに可笑しいのだ、可笑しいのはドッペルゲンガーに出会って盛り上がるべき会話を一秒でも早く終わらせたいと感じている七惟達なのである。
「そ、それは……」
此処まで焦った超電磁砲を七惟は見たことがない、今まででおそらく一番追い詰められている。
もう美琴は戦力にならないと判断した七惟は先ほど同様即席の三文芝居で打開を図る。
「初めは能力試験の時だ。コイツがレベル5になった時にやった第5位の心理掌握に干渉するテストで、偶々その日同じ能力検査やってる俺と待合室が同じだった。心理掌握に関しては言わずもがな常盤台のレベル5だ、有名だろ?」
「はい、メンタルアウトって呼ばれてるんですよね?」
「そう、ソイツの能力に抵抗できる……まぁ抵抗値って奴だな、それの測定だ。その帰りを美咲香が俺を研究施設の前で待ってた時に会ったんだよ」
「そうなんですか!?だとしたら結構前からのお付き合いなんですね!そうなるとお兄さんも高位の能力者なんですか?!」
「まぁ何処にでもいる距離操作能力者だ」
チャンスだ!
上手く佐天の意識を七惟本人に移すことが出来た、あとは此処から適当に話を濁していくだけだ……が。
「はい、あの時の感動を今でもよく覚えていますと強調します」
「え、そうなの七惟さん。その時の様子、どんな感じだったのか知りたいなぁ~」
「…………」
絶妙なのか楽しんでるのか分からない美咲香の合いの手が佐天以外の全員に突き刺さる、状況は尚悪くそんな環境の中、最大の難敵に立ち向かう七惟であった。
ぶっちゃげこんなことになっているのは美咲香の言動のせいなので若干の青筋を立てる七惟であった。