とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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は、半年ぶりの投稿です……!

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学生の本分を全うせよ!-ⅰ

 

 

 

 

 

「あ、美咲香さんのお兄さん!お邪魔してます」

 

「なんでお前が堂々と我が家に居座って俺をお迎えしてんだよ……」

 

 

 

五和との調子を崩されまくる会話を何とか切り上げてきた七惟は、美咲香の待つ自宅へと戻ってきた。

 

しかし、七惟の記憶にない来客があったようだ。

 

 

 

「喜伊さんは私家に通しました、と兄に現状を細かに説明します」

 

「……あのな、こんな夜にコイツを家に上げて……何かあったら」

 

「……はい?何か起こるんですか?」

 

「……忘れろ、俺が馬鹿野郎だった」

 

 

 

七惟の自宅にやってきてのは美咲香が入院中に同室だった喜伊源太郎という男だ、年齢は七惟の二つ程下だったはずだが色々な理由があって現在は美咲香と同じ柵川中学の1年生として学生生活を送っている。

 

既に15歳で中学1年生というのも意味不明だがそれ以上に変わっているのはコイツは海外育ちな上、オマケに原石ということだ。

 

要するに普通の中学生ではないのだ、どうして七惟の周りにはこうも珍妙な連中が集まってくるのか理解出来ない。

 

類は友を呼ぶ、ということを考えると七惟自身が彼らを引き寄せているということもあるのだが彼はそれに一切気付かないのである。

 

美咲香と喜伊は二人でポーカーをしているようだ、たった二人でやるポーカーなど何が楽しいのやら。

 

 

 

「もう19時過ぎだぞ、紀伊。あんま遅くなるとスキルアウトやら不良連中に絡まれるから早く帰れ」

 

「何を言っているんですが兄。見て下さいこの美咲香の攻勢を、此処で彼を返すなんて有りえません。来週の荷物持ちがかかっているんです、喜伊さん帰るのはこの美咲香に完膚なきまでにやられてからにしてくださいと美咲香は凄みます」

 

「安心してよ美咲香さん、帰らないから!でも至って情勢は五分五分だよ、チップは美咲香さんのほうが勝ってるみたいだけど今回の手札は僕が断然有利だね!」

 

「……良いでしょう、そこまで言うのならば。負けたら明日は体育があるので無駄な着替えを大量に詰め込んだ増量バックを喜伊さんにプレゼントしますと意気込みます」

 

「…………」

 

 

 

七惟そっちのけで勝負を続ける美咲香と喜伊。

 

というかポーカーというのは感情を表に出さず表情を変えないことが常の美咲香が圧倒的に有利だと思うのだが、何故こんな張り合った展開になっているのか。

 

 

 

「フルハウス!」

 

「……!や、やられましたと美咲香は狼狽してみせます……」

 

 

 

美咲香美咲香言う癖が戻っている……。

 

どうやら美咲香は勝負ごとに関しては表情の有無は別らしい。

 

自信がある無しが先ほどから二人のやり取りを見ているとなんとなくわかる、というか目力がだいぶ変わる。

 

表情はそのままでも強気の時は目が見開く、逆に弱気の時は視線が下を向く。

 

これは普段から美咲香を見ている七惟だから分かる変化だが、この喜伊という男も対美咲香に関しての知識は七惟に匹敵するものがある。

 

というよりも傍から見ても明らかだが間違いなく喜伊源太郎という少年は美咲香に惚れている、もう行動が色々と上条を追いかけている軍団に被るのだ。

 

アタックを受けている美咲香がその好意に気付いていないのは上条軍団と同じなのだが、当の美咲香が喜伊に対してかなり前向きな感情を抱いている点が大きく違う。

 

佐天や初春の前ではここまで表情をころころと変えないだろう、時に彼女は七惟にすら見せない表情すら紀伊に見せることがあるのだから。

 

そのことに美咲香本人は気付いていないだろうが。

 

佐天達クラスメイトの前では至って通常運転のクールビューティー、オリジナルの美琴に対しては当たり障りなく、七惟や紀伊に対しては毒舌なだけでなく驚いた顔も喜んだ顔もするようになった。

 

まぁ、それも美咲香の通常の顔から微妙にしか変化しないため気付きにくいが七惟と喜伊は何となく彼女の表情の変化が分かるのだ。

 

表情の変化は入院の途中までは七惟にしか気付けなかったが、退院が近づき喜伊と同室になり更に二人が同じ学校に通うようになってから紀伊自身も分かるようになってきた。

 

……妹を取られる、というのはこういうことなのだろうか。

 

もちろん美咲香は喜伊に対して好意やら恋愛感情等一切なさそうだが、彼の好意を自然体でしっかりと受け止めている。

 

娘を嫁に出す父親のような気分だ、というのをこの年で自分が愚痴るようになるなんて考えたことなど無かったのに。

 

 

 

「美咲香さん、顔に出てる出てる」

 

「そんなことはありません。美咲香のポーカーフェイスは完璧です、友人の佐天さんや初春さんも見抜けません」

 

「瞳孔開きすぎ」

 

 

 

これは喜伊に帰れ、というのも野暮なものだ。

 

紀伊自身原石ということで得体の知れないサイコキネシス……まぁ、どっかの根性野郎と似たようなことが出来るため自衛能力は高い。

 

帰り道をそこまで心配することはない、か。

 

そう結論つけて七惟は風呂場に向かおうと踵を返したが、ふと五和から言われたあの言葉を思い出した。

 

退院お祝いなどお願いはしていないが、あちらから提案してくれたことでもあるし、何より美咲香が喜ぶだろう。

 

今の彼女は、新しいことをどんどん経験し、吸収し、成長しているように見える。

 

彼女は外出することが好きだし、ついこないだまでは入院していたというのが嘘のように今は元気だ。

 

そして五和の気持ちを無碍にする、というのも失礼であることくらい今の七惟にはわかるのだ。

 

 

 

「おい美咲香」

 

 

 

今ついでに美咲香の確認も取っておこう。

 

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

 

美咲香は振り返り応える。

 

 

 

「五和って覚えてるか?」

 

「五和………?」

 

「あの地下都市でのドンパチの時、居ただろ?そのあとの病院にも」

 

「あ、思い出しました。五和さん、兄と仲良くしてくださる女の人ですねと確認を取ります」

 

「そうだ、あいつからお前連れて何処かに行かねぇかって言われてな、退院お祝いだとよ。一緒に来るか?」

 

「もしそれで問題が無ければ行きますと力強く首を縦に振ります」

 

「やっぱりそうか。あいつにそう返答しておく」

 

「皆で外出、食事、遊ぶ、という体験はしたことがほとんどないのでどのようなものなのか気になります。兄、無断キャンセルはなしでお願いします」

 

「あぁそうかよ。心配しなくても学校帰りかなんかでちゃんと調整しといてやるから」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

やはり美咲香はイエスと即答だった。

 

本当にここ最近の美咲香は会ってから今までで一番活力に溢れている。

 

他人から見たら相変わらず表情の変化は乏しく言葉に力があるのかと言うとそうでもないが、それでも身近に接してきた七惟からすると大きな変化を毎日感じる日々である。

 

この二人でやっているポーカーも、本来であれば週末にやってくる友人を迎えるための掃除や準備が先だろうと止めてしまうのは簡単だが、今回はよしとしよう。

 

二人が楽しんでいる内に七惟が家事を片付けておけば、次美咲香に何か頼むときにやりやすいし、美咲香も断り辛くなるから目を瞑ってやろうか。

 

……思えばこの部屋にも昔に比べれば様々な人間がやってくるようになった。

 

前は新聞勧誘と宗教勧誘くらいしか訪問が無く孤独の金字塔を立てていた七惟のマイルームだったが、今では美咲香がいるし、絹旗に浜面、そして腹が立つが喜伊の奴もよくやってくる。

 

昔に比べるとまるでその違いは月とすっぽん一目瞭然。

 

家族に近い存在、友人と呼べるような存在が現れるとは想像出来なかった。

 

少し前までは暗部の世界で生きぬいていた自分が嘘のようだ、1年前とは全く違った、大きく変わった自分と環境。

 

それもこれも、始まりはきっと全てこの美咲香からだ。

 

あの時彼女に対して一歩を踏み出したからこそ、今があるのだろう。

 

 

 

「ちーす、七惟。仕事終わったから絹旗拾って遊びにきたぞ」

 

「七惟、七惟!見て下さいこの美味しそうな中津からあげを!これは九州のとある県では相当有名なB級グルメですよ!どうしても浜面が食べたいというので仕方なしに連れてきました!」

 

「誰も言ってねぇ!」

 

「お前らやりとりが本当漫才みたいになってきたな……」

 

 

 

物思いにふけっているのもつかの間、件の二人がやってきた。

 

 

 

「あ、今日は美咲香さんに加えて何時もの褐色少年も来ているんですね」

 

「絹旗ちゃんこんばんは、言っとくけど俺のほうが年上だからね!」

 

「んなっ、こんなちんちくりんの褐色ボーイの癖に超生意気を言ってくれますねぇ……!」

 

「事実だから諦めろちんちくりん小学生」

 

「誰が小学生ですか!中学生です!」

 

 

 

今宵も七惟宅は騒がしくなりそうだ。

 

もちろんお隣の上条家が騒音被害を受けているのは言うまでもない、ただしこの絹旗が持ってきたから揚げの香りにつられてインデックスが召喚されるため結局全員で上条を苦しめるのである。

 

明日は昼から佐天達と初春が勉強会に来るのだが、この部屋の惨状はいったいどうするのであろうか。

 

もちろんそんなことはこの場にいる誰も考えていなかった、七惟でさえも。

 

 

 

 

 

 


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