とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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因みにもう三十路ですがこのシリーズを書き始めたときは

学生でした。

今アニメで超電磁砲の新シリーズをやっているのを考えると、

本当に息の長い作品ですね。


 


学生の本分を全うせよ!-Ⅱ

 

 

 

 

「ん……?」

 

 

 

深夜1時過ぎ、七惟は自宅でふと目が覚めた。

 

夜も深まり冬の近づきを知らせる冷たい夜風が部屋に吹き込む。

 

静まり返った夜の世界に音を立てて吹き込む風は、窓を全開にしているせいで部屋の端から端まで素通りだ、1Kの部屋には所狭しと七惟の家で好き放題した4人がその風に眠りながら身震いしている。

 

明日は土曜日、中学校はもちろん高校、浜面の現場の仕事もお休みである。

 

結局紀伊、絹旗、浜面の3人は美咲香たちに交じりトランプ遊びに興じ、最後は大富豪で七惟も巻き込んだ。

 

七惟は頑なに参加を拒んだが最後は最下位が部屋の片づけをすることを条件に参加し、見事絹旗が大貧民となりゲームは終了、片付けは明日すると豪語しここに泊まると言い出した。

 

仕方なしに七惟はそれを了承、喜伊も深夜に一人で帰らせるわけにもいかず浜面と一緒に泊めさせた。

 

そして美咲香はと言うとポーカーで負けたことが余程ショックなのか寝床を準備している間もトランプとにらめっこしていたのだ。

 

相変わらず面白い連中である、寒そうにしているし風を引かれたら寝覚めが悪いと浜面を除く全員に適当に毛布を掛ける。

 

だが七惟は肌身寒さに目を覚ました訳ではなかった、彼が目を覚ました理由は他にある。

 

 

 

「外に人の気配……」

 

 

 

そう、彼が目を覚ました理由は部屋の外から感じる人の気配だ。

 

集合住宅なのだから人の気配など感じて当たり前だが、彼とて一般人の気配ならばこうも目を覚まして周囲を探ったりはしない。

 

 

 

「明確な敵意を持った連中だろうな、こんな夜中にコソコソと」

 

 

 

そう、こんな太陽も出ていない時間に外から感じる気配なんてものは明らかに敵意、もとい殺意のようなものを含んでいるに決まっており、おちおち寝られてはいられない。

 

こういう外圧に対しては敏感な絹旗ですらすやすやと眠っているのだから気配はほとんど感じられない、しかし距離操作能力者は五感が常人より優れていることもあり七惟ならばある程度の予想もつく。

 

 

 

「窓のほうか……公園に潜んでいる……?」

 

 

 

壁に張り付き顔だけをそっと出し窓の外を見る。

 

真下には隣接する公園が広がっておりぶっそうな連中が夜を明かしたり身を隠すにはうってつけの場所だが……。

 

そこから唸るような閃光の光が一瞬上がると、男の悲鳴のような声が聞こえてきた。

 

 

 

「……こんな夜中に馬鹿みたいにドンパチやる奴は一人しかいねぇな」

 

 

 

真夜中というのにこんなド派手に光の花火を打ち上げる奴を七惟は一人しか知らないし、昼間からの一件に関わってきそうな奴と言えば該当者はおおよそ七惟が予測した人物で間違っていないだろう。

 

あのバカは手加減と言うものをよくわかっていないので事が大きく成る前に現地に出向いて片づけた方が大事にならずに済むだろう。

 

外は流石に肌寒いと上着を羽織り玄関へと向かい靴を履いていると、不意に後ろから声を掛けられる。

 

 

 

「超七惟、何処へ行くんですか?」

 

「……絹旗か」

 

「何だかぞわぞわ……まぁ、気配というかこんな夜中には似つかない騒音が超聞こえたので。事件ですか?」

 

 

 

流石未だに暗部に身を置く絹旗だ、異常を感知する能力は群を抜いて高い。

絹旗は昼間の一件を知らないし、何故今七惟宅の近くであんなことが起こっているのかも把握出来ていないだろう。

 

……結標から言われた妹達を狙っている一派の案件、絹旗なら何か知っているかもしれない。

 

ここで話して協力を仰ぐか……巻き込まないように平静を装い大人しく寝付かせるか。

 

しかし後者に関しては勘のいい絹旗がイエスという未来が想像出来なかった。

 

こないだの地下都市の時のように敵機に向かって走り抜けていくことを躊躇しない少女が絹旗だ、自分が今身構えており戦闘態勢なことなど見抜いているだろうし、そんな自分を放っておくような彼女ではない。

 

味方にすれば間違いなく大きな戦力、力強い味方になってくれる。

 

 

 

「事件だ、取り敢えず外が騒がしくなる前に片づける。詳しい話はその後でいいか」

 

「超了解です。おそらくあの光は電気系統の能力者です、心当たりありますか?」

 

「有り過ぎて困るくらいだ」

 

「流石超七惟、迷惑毎に関わる人物はほとんど七惟の知人ですね」

 

「関心してるのか呆れてるのかどっちだよ」

 

「そんなこと前者に超決まってます。相変わらずの人脈ですよ、昔の友達ゼロの金字塔を打ち立てた七惟じゃないみたいです!」

 

「余計なお世話だ!」

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

七惟と絹旗は上着を着込み闇夜で埋め尽くされた公園の中に入る。

 

先ほど発生した轟音の後は音らしい音は聞こえてこない、悲鳴が聞こえたことを考えるとおそらくこちらを見張っていた連中はやられて気絶しているのだろう。

 

そして轟音を発生させた主は起きるのを待っている……と考えるのが妥当だ。

 

敵は気絶している、気絶させた奴は待機中、七惟の考えが正しければ下手に音を立てずに気配を消すのは悪手だ。

 

 

 

「七惟、いいんですかこんな超不用心に近づいて」

 

「大丈夫だ、それに俺の知り合いが攻撃した張本人なら気配を消すなんて意味がねぇよ。むしろ怪しまれて逆効果だ、どうどうと進めばアイツは何もしてこない」

 

「七惟の知り合いだったらそりゃあいいですけど、違った場合はちゃんと責任を超とって私を守ってくださいよ?」

 

「分かった分かった」

 

 

 

茂みを抜けて広間に出る、公園自体は中規模なもので昼間は中学生達がこの広間でよくサッカーや野球をしているが今は夜、昼間の喧騒などまるで無かったことかのように静まり返っており街燈の光のみがぼんやり周囲を照らしている。

 

こんな場所で花火を打ち上げれば一発で居場所を突き止められることはあのバカは考えていなかったのだろうか。

 

まぁ、奴のことだから突き止められる前に見敵必殺で仕留めるつもりなのだろうが……。

 

広場の周りを沿うように生い茂っている草木の間を覗き込み異変を探す、万が一のことも考えられるので一応七惟と絹旗は一緒に行動だ。

 

 

 

「んー、どうやらあっちが超臭うようです」

 

「確かに焦げ臭いな」

 

「……どうします?声をかけますか」

 

 

 

絹旗がそう言って木々が所狭しと並ぶ茂みの奥を指さす。

 

暗くて暗闇の中がどうなっているかは全く分からないが、何かを焦がしたような臭いと二人のこれまでの暗部活動での勘がこの先に何かある、と警鐘を鳴らす。

 

 

 

「まぁ危険はないだろうからな」

 

「そうですか」

 

「……自棄に素直だな、何時ものお前なら超超言いながら文句の一つでもつけてきそうなもんだが」

 

「むぅ、私から見て七惟はいったいどう思われるのか超気になる発言ですねそれは。まぁいいですけど……」

 

「うん?」

 

「七惟に私をイエスと言わせる力があった、それだけですよ」

 

「……」

 

「何ですか?と今度は私が超聞き返しますけど」

 

「いや、お前のそういうところはホント感心するってだけだ」

 

「ふふ、私を超見直しました?意外に洞察力は優れている方ですから」

 

「そういうことにしとく……」

 

 

 

暗部抗争以来、絹旗のこういう言葉が多くなったように感じる。

 

具体的にどういう言葉、というふうに例を挙げることは出来ないがこちらを信頼している、信用している、そういった言葉だ。

 

そして言葉だけではなく、行動にもそれを最近感じられる。

 

自分をちゃかしたりおちょくったりして言葉のドッチボールばかりの会話が絹旗とのやり取りばかりと思っていたがここ最近はどうも調子が違って何だかやきもきしてしまう。

 

まぁ、そのやきもきも不快なものではないのでそのままにしているのだが。

 

 

 

「さて、そこに居るんだろ?」

 

「……」

 

「超電磁砲ことオリジナル」

 

 

 

超電磁砲、という言葉に反応したのか隣の絹旗が一瞬ぶるっと身震いをした。

 

幾ら彼女が暗部で死線を潜り抜けてきた戦闘のエキスパートとはいえ、やはりレベル5相手にはそれ相応の緊張を伴うらしい。

 

 

 

「アイツの家が近いからもしかしたらと思ったけどアンタだったのね七惟」

 

 

 

七惟が声を発してから数秒後、暗闇の中からすっと姿を現したのは七惟の予想通り学園都市第3位で超電磁法の異名を持つ御坂美琴その人。

 

そして彼女の足元には気を失っているであろう見た感じ七惟と同い年程度の男一人、美琴の電撃をまともに食らったのだろうか完全に伸びてしまっている。

七惟と美琴の視線が重なると、そのまま美琴の視線は絹旗のほうへ流れる。

 

 

 

 

「上条じゃなくて悪かったな…それにしても相変わらず口の聴き方がなってねぇなてめぇは。俺はお前より2歳以上年上だ、少しは敬え。隣のちびっこ中学生でもそれくらいの分別はつけて俺に敬語で話してくるぞ」

 

「ちびっこが超余計です……」

 

「今日は一人じゃないのね、珍しい。こういうのに首突っ込む時アンタはだいたい一人だと思ったから」

 

「俺の忠告ガン無視かよ」

 

「私達は別にそういう仲じゃないでしょ」

 

「はいはい……つうかこういう危険事に一人で突撃するのはお前の専売特許で俺はそんなことしねぇよ。それで、そこで伸びてる奴は誰だ?見た感じ昼間の馬鹿連中だ」

 

「その通り、コイツらなんか怪しいと思ってて……帰り際私とあの子の後をつけてきた。それを先読みしたからアンタは私をあの子の護衛として家まで送り届けさせたんでしょ?」

 

「まぁな。家まで辿りつけば最悪隣には上条がいるしな。あの正義感満載の男が隣室で悲鳴を上げて飛び出さない訳がない、そしてお前は隣にアイツが居なかったらおそらく俺が帰ってくるまでは待機していた、そうだろ」

 

「全部は否定しないけど……そんなとこ。流石に家までついてくるのは何かあるんじゃないかって私も思って見張ってた。あの子たちに関することだから尚更よ。そしたら明らかに怪しい行動……ていうかストーカー?染みたことをしてるから問いただした」

 

「お前の問いただしは暴力伴い過ぎだろ」

 

「あのね、私だって抵抗されなかったらこんな手段を取ってない。私が最初からそんな攻撃的に見える!?」

 

「見える」

 

「超見えます」

 

 

 

美琴の問いかけに息をぴったり合わせて答える二人。

 

そのやり取りをジト目で見た美琴が声を上げる。

 

 

 

「ていうかさっきから隣にいるその子誰?小学生?」

 

「しょ、小学生……?超失礼な奴ですねこの戦闘狂は。私は中学生です!」

 

 

 

 

相変わらず小学生言われたら導火線に火が付く癖はどうにかならないのか絹旗よ。

 

 

 

「せ、戦闘狂?」

 

「貴方の事ですよこんな夜中に花火みたいな光を上げて土砂崩れみたいな馬鹿デカい騒音を立てるなんてそれ以外の言葉が見つかりません」

 

「こ、この……言わせておけばこのちんちくりんのちびっ子め!事情を知らない子は引っ込んで!」

 

「ち、ちんちくりん……?超七惟、この常盤台の超戦闘狂は喧嘩を売ってるんですかね?」

 

 

 

この二人はどうもウマが合うようには思えない、美琴はああいう性格故に七惟の周りにいる人間に対しては結構無意識の内に攻撃的な発言をしてしまうし、絹旗は絹旗で自分を小馬鹿にした態度を取る人間には全力で挑発しにかかってしまう。

 

おそらく昼間普通に外で会っていれば美琴はこんな攻撃色を出さなかっただろう、如何せん彼女は七惟の友人に対してはかなり否定的な態度で入る癖がある。

 

この癖は七惟が残骸を運んでいた時結標と交友関係、厳密には雇主と労働者の関係があったことに起因しているように思えた。

 

要するに七惟が行動している際はバックで暗部が動いているのではないかとくってかかるのだがこの超電磁砲は。

 

 

 

「やめとけ絹旗。どう頑張ってもお前が負ける。俺が保障する」

 

「何ですかその超絶嬉しくない変な保証は……」

 

「一応そいつはレベル5だからな。それに不要な言い争いなんざ体力の無駄だ」

 

「……ホントに七惟変わり過ぎです。昔の七惟なら超煽ってきそうなのに」

 

「そうか?」

 

「もういいです、そんな変わった七惟に免じてこの超失礼な常盤台のレベル5のことは水に流しましょう」

 

「だそうだ、もういいだろオリジナル」

 

「……一方的に言いがかりつけてきたのその子だと思うんだけど。それにオリジナルって名前いい加減やめてくれない?私には御坂美琴って名前が」

 

「じゃあなんだ?上条みたいにビリビリ中学生って呼べばいいのか?」

 

「はぁ…なんでそうなるのよ、もう。まぁいいわ」

 

 

 

七惟と絹旗のまるで息の合ったかのような会話についていけない美琴は話が掴めず無意識にため息をつく。

 

傍から見れば険悪そうな雰囲気になりそうな二人の会話なのだが、どんな時でも最後の最後でのこのように平和な着地点を見出し落ち着くのだ。

 

それは七惟と絹旗が度重なる危険を二人の力で乗り切ってきたことが深く関係しているのだが、絹旗と初対面な美琴がそのことに気付く訳もない。

 

三人が微妙なかみ合わない凸凹な会話をしている内に、美琴が電撃で気絶させた男がもぞもぞと動き出す。

 

 

 

「んあ……?」

 

「どうやら超お目覚めみたいですよ」

 

「だな」

 

「コイツには聴きたいことがたーくさんあるからね」

 

 

 

そして男が目を覚ます、寝ぼけた表情でを見よよじると動けない、はっとしたかのように周囲を見渡すと自分を覗き込む六つの目。

 

自由の効かない身体、周囲を取り囲むように立つ3人、そして気を失うまで何をしていたかを思い出して状況を一気に呑みこむと男は顔面蒼白となった。

 

 

 

「ひいぃ……」

 

「おいおい、いきなり拷問染みたことなんざしねぇぞ」

 

「昔の七惟なら拷問なんて超朝飯前だったと思うんですけど」

 

「いつの話だ」

 

「えー……と、去年ですかね?」

 

「去年はもうちょっとマシだっただろ……」

 

「アンタ達二人に任せると何も聞き出せそうにないから私が言う。ねぇアンタ、あの子の周りを探って……いったい何してた?」

 

「そ、それは……」

 

 

 

怯える青年を前にして、美琴の尋問がいよいよ始まるのであった。

 

 

 

 

 


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