とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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学生の本分を全うせよ!-ⅲ

 

 

 

美琴に問いただされて顔をひきつらせどもる男、もとい少年は年齢は七惟と同じくらいで高校生に思える。

 

黒髪黒目の痩せた男で顔や体には戦闘行為で生まれたであろう生々しい傷跡が幾つも残っている、おそらく暗部の人間だ。

 

暗部の人間故に今目の前に居るのが超電磁砲と全距離操作ということを認識してしまったのだろう、特に後者は暗部では名を馳せた極悪人の一人である。

 

七惟からすれば好ましい名前の広まり方ではないのだが。

 

 

 

「アンタみたいな怪しい人間があの子の周りをうろちょろするってことは絶対何かある。昼間の路地裏で一般人なら屋根の上から襲ってなんてこないんだから。……また実験やら研究やら、そういう類でしょ」

 

「……」

 

「アンタの親玉は誰?霧が丘のムーヴポイント?まさか何時ぞやの原子崩しが絡んでるんじゃないでしょうね」

 

「いやーそれは超ないと思うので安心してください」

 

「アンタには聴いてない」

 

 

 

むしろ絹旗以上にその人物に対して詳しい人間は本人含め既にこの世の中にいないのでは……。

 

軽くあしらわれた絹旗は「あーあ」とでも言いたげだが標的を定めている超電磁砲にそんなことを言うのはやぶさかである。

 

 

 

「あの子に……私達にまた何か用でもあるの?」

 

「う…………」

 

「また……あんな馬鹿みたいな実験をしようとしてるっていうの?」

 

 

 

全く口を割る気配はない、この暗部の男はこのような拷問の場においてどうすればその場を乗り切られるかある程度分かっているようだ。

 

相手にもよるが手を加えることを、人間を傷つけることを恐れている相手の場合は一切口を割らず余計な情報を与えない、これが鉄則だ。

 

人間を傷つけるなんて一般人では早々出来やしない、それが女ならばなおさらだ。

それを考えてこの男は沈黙を貫いているのだろうが目測を見誤り過ぎだ。

 

今彼が目の前にしているのは妹達の為に研究所に殴り込みをかけ機材を全て破壊し研究者たちにも稲妻の鉄槌を食らわせ、同年代の女性にも同じように100万ボルトの電撃を浴びせようとする無慈悲な戦闘狂である。

 

 

 

「おいお前、さっさと吐いたほうがいいぞ。幾ら短パン中学生でもコイツは人の痛めつけ方については熟知して……」

 

 

 

七惟がそう言いかけたその時、美琴の手に小さな光が迸りそれが一気に男の首筋を駆け抜け括り付けてある真後ろの気に直撃、凄まじい音と共に焼け焦げたような臭いが周囲に一気に充満していく。

 

 

 

「そこの短髪が言う通り、この件に関してはそんなに我慢強くはないつもりよ」

 

 

 

流石にこの光景を見て男もすぐさま考えを変えたのだろう、唇を震わせながら喋り始める。

 

 

 

「ちょう、超電磁砲にそっくりな奴……妹達を付けてたのは事実だけど、アンタらが思ってるようなことをしようとした訳じゃない!」

 

「へぇ、自分の性癖を認めるんですか?つまり超ストーカー気質だと」

 

「ち、違う!唯、その……か、監禁して……一電波が届かないところに……そうすれば一方通行は歩くことすらままならなくなるんだ」

 

「一方通行……アイツが何か関係してるの?」

 

「あ、アンタなら分かるだろオールレンジ!」

 

「あぁ……?」

 

「アンタだって、アイツにめちゃくちゃにされただろう、自分の人生を!俺達も……俺達も垣根さんをやられた、それから俺達の人生はめちゃくちゃだ!アンタもあの子をアイツにぶっ殺されて!俺らの気持ちが分かるだろ!」

 

「……は」

 

「妹達の補助演算が出来なくなればアイツは唯の木偶の棒だ!そこを叩きのめせば、きっとどこかで生きてる垣根さんが復権してまた前みたいに」

 

「前みたいに?」

 

「あのくそったれの統括理事会に喧嘩を売れるんだ!」

 

「……とのことですがどうしますか」

 

 

 

最初は美琴の氷のような目にびびっていたと思ったら、自分の言葉に酔ったのだろうか語気を強めてくってかかる青年。

 

 

 

「分かるだろ、アンタなら分かるはずだオールレンジ!」

 

 

 

要するに此奴は……此奴らは一方通行の奴に自分たちが所属する暗部組織を破壊されて、全てを失ってしまった未亡人の集まりなのだ。

 

あの暗部抗争の日、学園都市第2位の垣根帝督は一方通行に決闘を挑み結果敗戦、その後は生死さえもわかっていない。

 

そして垣根を失ったスクールは自然消滅、その下に腰巾着みたいについていた暗部組織も一緒に壊滅、おそらくグループを始めとした学園都市側の組織が掃討作戦でも実施して根こそぎ息の根を止めていったのだろう。

 

此奴らはその生き残りで自分たちをこんなところにまで追いやった原因である一方通行が憎くて堪らない、だから復讐してやるというところか。

 

そして垣根さえ戻ってくればきっとこの状況は打開できる、そう信じてやまないようだ。

 

 

 

「たった一日で全部失った俺達……たった数時間で自分の所属する組織も、友人もアイツに消されたアンタなら俺らの気持ちが分かるはずだ、じゃないとおかしい!」

 

 

 

七惟もあの日、一方通行によって大きく運命を変えられた人間の一人であることに間違いはない。

 

但し、自分の組織を壊滅させたのは垣根率いるスクールだしそのことに関しては怒り等別段湧いてこない、逆に今は感謝したいくらいの気持ちなのだが。

 

 

 

「別に俺はお前らと違って一方通行孫まで憎しで生きてる訳じゃねぇよ。それを言うなら隣の超電磁砲のほうが恨みつらみは深そうだぞ」

 

「……何よ、昔のことほじくり返して」

 

「そういうつもりじゃねぇよ。唯こいつみたいに一方通行に自分の半身みたいな妹達を1万人殺されても……それを乗り越えて生きている、そんな奴だっているんだ」

 

「それは、超電磁砲は自分の生活まで奪われていないじゃないか!俺らは」

 

「垣根の庇護が無くなってドブ鼠みたいに這い蹲って生きてんだろ、あれから。そんくらい分かるぞ」

 

「アンタだって似たような立場だったろ、昔は一方通行に負けてよく分からない高校に強制的に入学させられて挙句降格までさせられて」

 

「あのなぁ…降格とか今更そんなことをいちいち気にしてたらこの学園都市で生きていけねぇーよ」

 

 

 

もちろん七惟だって昔を思い出せば一方通行が自分にやった行いが許せる訳はない、特に暗部の日にあの少女を殺したことは未だに昨日のことのように鮮明に頭に残っているし、今でも奴のことはなるべく考えないようにしているくらいだ。

 

しかしその他のことなんて今の彼からすれば取るに足らないことだ。

 

 

 

「長点上機に行けなかったことなんざもうどうでもいいことだし、降格させられたことも全部アイツが原因じゃねぇよ。そりゃ思い出せば腹は立つがな。一方通行の奴にめちゃくちゃにされた人生を修正したい、その気持ちは分かるが妹達を拉致監禁する免罪符にはならねぇだろ。妹達は別に一方通行をボコボコにすることに賛同してるならまだ分かるが、、あの司令塔のクソチビがいる限り絶対有りえない。そういう奴らを撒きこむことを見逃せる訳ねぇ」

 

「うぐ……」

 

「そうよ、それに……アンタは別にあの子たちをどうこうするつもりが無いにしても、その垣根って奴は?そいつは学園都市でも指折りのやばい奴なんでしょ、無関係の私の友達を半殺しにしそうになった奴。そんな奴があの子たちを唯監禁してるだけなんて思えない、絶対に……手を出すに決まってる!」

 

「……流石にそれは超否定できませんね」

 

 

 

身を持って垣根の危険さを体験している絹旗からすれば、暗部組織の中でもピラミッドの頂点付近にいた垣根が獲物を目の前にして拉致監禁で済ませるとは到底思えないようだ。

 

美琴も絹旗も垣根の危険度については共通の認識がある、ずれているのは七惟だけか。

 

ずれているのは心理定規のせいだろうと勝手に自身を納得させる。

 

 

 

「そんなこと……あの子たちが居なくなるようなことがまたあるなんて二度とごめんよ!だから絶対にそんなことはさせない」

 

 

 

美琴が拳を強く握りしめ、鬼のような形相で男を睨み付ける。

 

だが男は最初のように挙動不審になることなく怒りの表情でその形相を見上げて吐き捨てた。

 

 

 

「お前みたいなお嬢様に俺らのことが分かってたまるか!垣根さんは無関係の奴を半殺しなんて絶対しない!」

 

「現にされてるの!」

 

「それはそいつが垣根さんに喧嘩を売ったからに決まってる!あの人はそんな一方通行みたいに無差別殺人なんてやらないんだ!」

 

「アンタの妄想よ、それは!私が見てきた暗部組織の連中はどいつもこいつもいかれてる奴ばっかり!」

 

 

 

まぁ暗部組織の連中のことを美琴が理解することは一生不可能だろう、境遇が違えば……美琴と彼らが持つ常識だって180度以上違うのだ。

 

そんな相手に理解を求めるほうがおかしい、よってこの会話に納得が得られる結末なんて有りえないだろう。

 

にらみ合う青年と美琴、そろそろ割って入ったほうがいいだろうか。

 

 

 

「オリジナル、隣に暗部組織上がりのレベル5がいるから言葉にはもうちょっと節度持ってくれよ」

 

「な、何よ!七惟、アンタだってその垣根って奴がどらくらいやばい奴か知ってんでしょ!」

 

「まぁ…アイツはそこら辺のレベル5とは色んな意味で次元が違う。だけどな、お前達が言ってる垣根ってのは……本当に生きてんのか?生きてる前提で話をしてるみたいだが、姿を確認したのか」

 

「そ、それは……まだ、だ」

 

「そうだろ。普通に考えてお前達残党派の言ってることは妄言だ。一方通行の奴が垣根を仕留め損ねるなんざほぼ有りえない。垣根が余程の隠し玉を持ってりゃ別だがそれを使って五分五分の戦いだったんだろ?なら最後はどうなったか分かりきってる」

 

 

 

暗部組織の中では垣根は身を潜めて復権を狙っている……という噂が絶えないと絹旗は言っていたが、そんなことは妄想だ。

 

あの一方通行がそんな甘い奴だとは思えない。

 

此奴らは垣根の生きていた頃の影だ、垣根の力によって恩恵を得られていた奴ら。

 

影の主が居なくなって何とかそれに縋り付こうと言う気持ちは分からなくはない、誰だってピースが無くなったら何か変わりのものをそこに埋め込まなければ生きていけない。

 

但しその代替が見つからなくて、結局はまた垣根の残像を追っている……そんなところだろうか。

 

 

 

「死んでんだよアイツは。俺と絹旗もアイツにぶちのめされたからよく分かる、垣根はやばい奴だ。そんな一般的に考えて危険な奴を敵対している一方通行の奴が生かしておく訳がねぇ」

 

「い、言ったんだ、あの人が!生きてるって!」

 

「はぁ……?」

 

 

 

此処まで垣根生存を否定しているというのに食い下がる青年。

 

もういい加減諦めろ、と七惟は言葉を舌に載せるもそこで隣の少女が声を上げる。

 

 

 

「まさか……ドレスの女?」

 

「心理定規が!まだ生きてるって!今は身を隠しているだけだって、じゃないと俺達だって動かない!」

 

「何か知ってるのか絹旗?」

 

 

 

 

まさか絹旗、実際に垣根に会ったのか……?

 

 

 

「こないだ会った時に……アイツが私に対してぽろっと言ったんです」

 

「どういうことだ?」

 

「『垣根帝督が生きているとしたら、それは素敵なことだと思わない?』って超意味ありげに」

 

「…………」

 

 

 

アイツ、さては今回の事件の黒幕か……?

 

だが心理定規がそこまで垣根に入れ込む理由が分からない、彼女と垣根に大きな共通の利害関係は無かったはずだ。

 

そんな奴が垣根の消息を探し回って下部組織の連中に対し指示を出す、理由が分からない。

 

もしそこに理由があるとすれば、垣根にハイエナのように集る連中に対して希望を与えているだけなのか、それとも……本当は……。

 

 

 

「どっちにしろ心理定規の言ったことなんざ信憑性に欠けるし信用するに値しねぇよ、アイツは蝙蝠みたいな奴だしな」

 

「七惟、アンタは本当に暗部の人間に関して詳しいのね」

 

「あのなぁ、俺だって好きでこうなった訳じゃない」

 

「……七惟のいう事には一理あります。あのドレスの言葉ははっきり言って何時も超曖昧です。信用するには無理が有り過ぎます、貴方もたぶんアイツの言葉遊びに振り回されているだけじゃないですか?」

 

「そんな訳あるか!心理定規が俺達に嘘をつくメリットがない!」

 

 

 

潮時だ、激昂しているコイツとはこれ以上会話をしても無意味だろう。

 

そう判断した七惟は深くため息をつく、結局七惟が気になっている点は全くもって解決されずに有耶無耶なままだ。

 

……直接心理定規に会って話すのが一番早いが、それも暗部との関係を一切断ってしまった自分ではかなり難しい。

 

最悪絹旗に期待するしかないが、彼女にはなるべく早く暗部の仕事から足を洗って欲しいためそんなこと頼めそうにもない。

 

……結局自分で探すしかない、か。

 

 

 

「……話は平行線だな。オリジナル、お前のツレの転移能力者呼べ」

 

「ジャッジメントに引き渡すつもり?」

 

「しかないな。此奴もこうなっちまったら情報を一切吐き出しゃしねーよ。殺すつもりで拷問やれば話は別かもしれねぇがそんなことしたくもないしな」

 

「でも……!」

 

「でもでもだってでも、言っても無駄だろ。此奴の仲間がどれだけいるかは分からないがバックについてんのは垣根の下部組織の連中、それさえ分かれば妹達の安全は大方大丈夫だ」

 

「どういうことよ」

 

「垣根の下部組織は全員レベル3以下の連中で、火器の扱いや暗殺業務に慣れてる奴らだ。だけどな、妹達は全員軍人みたいな戦闘訓練を受けてるんだ、危険喚起さえやっとけばよっぽど身を守れる。それに此奴らはそんな大勢じゃねぇ、そうだろ絹旗?」

 

「えぇ、まぁ……スクール側についていた組織はほとんどグループに超殲滅させられて少年院送りにされてます。残っていたとしても、精々数十人居れば超できすぎなくらいの規模の殲滅作戦でしたし」

 

「そういうことだ、オリジナル」

 

「……分かったわよ、取り敢えず当面の危険は無さそうだからいいわ」

 

 

 

シコリを若干残しつつも言いたいことを彼女はそのまま呑み込み形態をとりだし、ジャッジメントに連絡を取る。

 

一先ずは一件落着と言ったところか、目先の危険は回避出来ただろうし大丈夫だろう。

 

残るは……心理定規を問い詰める、それくらいか。

 

 

 

「超七惟」

 

「なんだ?」

 

「次に仕事でドレスに会ったら連絡入れましょうか?」

 

 

 

七惟の身体から出るもやもやを感じ取ったのか、絹旗がこちらを見つめてくる。

 

こちらを気遣うその行動に、有り難いと感じその思いをしっかりと受け止めつつもそれは絹旗自身のことを考えると断ったほうがいい。

 

 

 

「お前に少しでもはやく暗部から足を洗って自立して欲しいと思ってる俺がそんなこと頼める訳ねぇだろ」

 

「それは……」

 

「まぁありがとな、言ってくれるだけで十分だ」

 

「何だか七惟に素直にお礼を言われると……超困っちゃいます」

 

「何が?」

 

「な、何でもありません!超何もありませんから!ソイツのことは戦闘狂の常盤台に任せて私達は部屋に戻りましょう!」

 

「お、おい手を引っ張んな手を!オリジナル、そういう訳で頼んだ!」

 

「え、ちょっと私一人でコイツ見張れっていうの!」

 

「転移能力者はどうせすぐ来るだろ!」

 

「まだ私はOK出して……」

 

 

 

美琴の言葉を最後まで聞くことなくその場からさっていく七惟と絹旗。

 

心なしか絹旗の顔が赤く見えるような気がするのは気のせいなのだろうか。

 

結局その夜は部屋に戻ると二人とも疲れ切っていたせいかそのまま今後のことを相談することなく熟睡してしまった。

 

翌朝美咲香達一同に寝坊したことを突っ込まれることも知らずに。

 

 

 

 

 







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