とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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修正しての再投稿となります。


 


学生の本分を全うせよ!-ⅴ

 

 

 

 

「ふあー、取り敢えずお昼になったし私達も休憩しようかー。お兄さんたちも出かけたみたいだし」

 

「そうですね、午後からは佐天さんが苦手な数学をみっちりしないといけませんから私達は近場のコンビニで済ませましょう」

 

「えぇ!?せっかくのお休みだよ初春!遠出したい!」

 

「佐天さん、今日何のために七惟さんの家に来たのか忘れたんですか?」

 

「うぐ、そ、それは……まぁ勉強のためだけどさ」

 

「ですよね。七惟さん、どうですか国語のほうは?」

 

「……そうですね、少しは理解出来るようになったんですが、まだ分からない点は多々ありますと現状を報告します」

 

「七惟さんのほうは順調みたいですし、あとは佐天さんが赤点必死の数学を1時から夕方までやりましょう!」

 

「えええぇ、な、ならせめて息抜きのためにも……美味しいものを」

 

「ダメです」

 

 

 

笑顔で言う初春の言葉には何だかもの凄い圧力があった。

 

美咲香達三人はトイレ掃除が終わって出かけていった七惟と絹旗と同じように外で昼を取ろうと考えていたのだが初春からの許可が下りず、三人は近場のコンビニに向かう。

 

普段ならばお財布事情が厳しい七惟一家は絶対にコンビニは使用しない、使用するとしてもおにぎりを買う時くらいだ。

 

しかし今日に限っては兄から『外食するだろ』ということで手元には1000円の現金が手渡されている、これを如何に有効活用するかが肝だ。

 

美咲香が住むお世辞にも綺麗とは言い難い古アパートを出て徒歩3分、目の前には美咲香が何時も利用するコンビニが出てきた。

 

 

 

「あー、今日はコンビニご飯かー。コンビニにするくらいだったら私が作ったほうが断然栄養がつくものを出せるのに~」

 

「佐天さんの家事スキルは何時見ても凄いですよね、正直羨ましいですよ」

 

「あんなの数学に比べたら簡単だって!要は練習よ練習!」

 

「それ数学にも言えると思いますよ」

 

「うぐっ……今日は何時になく初春が手厳しいよお」

 

「はいはい……」

 

 

 

雑談を挟みつつ三人は店内へ、御昼どきということもあり店内は結構混んでいる。

早速三人はお弁当ブースの商品棚に向かい各々好きな商品を手に取っていく。

 

美咲香としてはなるべく安価なもの……となるとおにぎりしかないのだが如何せん最近は育ちざかりなのか食欲が増すばかり。

 

おにぎりを4個程買い、ついでに野菜ジュースを一つ。

 

おにぎりの具のチョイスは何時も買っている梅に高菜、それに今回は1000円もあるので少し贅沢をして焼肉と明太子を買った。

 

美咲香はこう見えて結構自分の味覚には正直に生きている、普段なら150円の焼肉おにぎりなんて手を出さないが今日くらいはいいだろう。

 

 

 

「あれ、美咲香さん……デザート買わないんですか?」

 

「デザート?」

 

「はい、ほら佐天さんプリン買ってますし私もモンブラン買いましたよ。美咲香さんもどうですか?」

 

「……」

 

 

 

話しかけてきた初春の手には確かにモンブラン税別\220-が握られている。

 

そして別に\400-税別のパスタ、\150-のジュース。

 

合計にして\770-税別、……無理だ。

 

幾らなんでもお昼ご飯1回に600円以上の買い物は……七惟家のお財布事情を考えるとそう簡単には買うとは言えない。

 

 

 

「いえ、私は大丈夫です」

 

「そうですか?」

 

「はい、私と兄の財布事情はあまり芳しくないので贅沢は敵なのですと単刀直入に切り出します」

 

「はえッ!?そ、それは……その、変なこと勧めちゃってごめんなさい」

 

「いえ、大丈夫ですと笑顔を見せてお伝えします」

 

「あはは、顔がちょっと引きつってる……」

 

 

 

財布事情が芳しくないのは事実だが、此処最近は数か月前に比べるとだいぶマシになったと思える。

 

前はもっとこうひもじい思いをしていたような気がする……主に七惟が。

 

会計を済ませて3人は外へ出る、各々好きなものを買い午後の戦いに備える。

 

 

 

「お兄さんたちは食事何処で取ってるんだろうねー」

 

 

 

佐天がふと漏らした一言。

 

そういえば七惟は外に出かけていったが、何処へいったのだろうか。

 

自分がこんなおにぎり生活を送っている傍らで外食三昧をされていたらどうしよう、ジト目で見るくらいじゃ済まないかもしれない。

 

 

 

「そんな贅沢なものは食べられないはずです、精々ワンコインランチが今の兄では精一杯のはずですと断言します」

 

「七惟さんの御兄さんの評価低いなぁ……あはは」

 

「いえ、兄のど貧民ぶりを私程熟知している人間はいないので。家賃光熱費衣食住に関係するすべての支払いを滞納していると聴いたときは驚きました。カード決済も使えないので現金しか私達の支払い手段はありません」

 

「れ、レベル5って確かかなり奨学金とか貰ってるって聴いてたんだけど、そこまで生活に困窮しちゃうってのはなんか凄いね……実家が貧乏で仕送りとかないのかな?」

 

「それも、あります。逆に私たちの奨学金を仕送りするレベルです。あとこないだの入院費用も保険に入っていなかったのでかなりの金額に……」

 

「が、頑張ってください七惟さん」

 

 

嘘、である。

 

本当は美咲香を助け出す時に発生した損害を補填する為に全ての貯金を使い切ってしまい、暗部からの請求が無くなった今もその時支払えず滞納していた諸々の費用が大きくかさみ苦しんでいるのだ。

 

 

「ところでレベル5のお兄さんってさ」

 

「はい」

 

「実際どうなの?女の子には結構人気あったり!?」

 

「さ、佐天さん!なななな、いきなり何を言い出すんですか!」

 

 

 

顔をぐいっと近づけて目を輝かせて訪ねてくる佐天、実際彼女はオールレンジという異名を持つ美咲香の兄に興味深々なのだ。

 

なんせ彼女は学園都市の七不思議とか都市伝説や摩訶不思議な噂が大好きな女の子。

 

美咲香の兄オールレンジも、もちろん都市伝説の一人として刻まれておりその正体はほとんどの学生が見たことが無いし顔も知られていない、彼の力に掛かれば空中散歩も夢じゃないとか何だとか。

 

そんな話題性満点のレベル5について興味が飽きないのは当然だろう。

 

そうなってくるとはやはりレベル5の色恋沙汰だって気になる、佐天自身は自分がまだそういう感情を持っていないので分からないしレベル5の美琴もそういうのには疎いし噂もない。

 

そこで高校生でレベル5の七惟理無、というわけだ。

 

 

 

「いえ……そんなことはないと思いますが、と率直な感想を述べます」

 

「え、そうなの?」

 

「はい、失礼ながら私の兄は重度のコミュ障でしてまともに会話のキャッチボールが出来るようになったのはつい最近です。友達もいないと聴いていました」

 

「えぇ……なんだかイメージとだいぶ違うなあ、そんなこと無かったような気がする」

 

「確かに最近はかなり変わったのは事実ですと近況を報告しますが……先ほど外出した人、あの方と一緒に居るのはよく見かけます」

 

「あ、さっきお兄さんと一緒に掃除してた人?」

 

「はい」

 

「確かに仲は凄い良さそうだったもんなぁ……」

 

「あと最近ではもう一人高校生くらいの方もよく見かけます」

 

「やっぱりもててるじゃん!」

 

「そうなんでしょうか?唯一緒にいるだけでは?」

 

「そうなんです!だよね初春!」

 

「んな、なんでそんな話をふるんですか!」

 

「だってレベル5の恋愛事情とか凄い気になるよ!」

 

 

 

兄は女性から人気があるのか……何だか意外だ。

 

意外でもない、か。

 

そういう好きとか恋愛とかは美咲香はまだほとんど分からない、というか理解したくてもその感情が分からないためこういう色恋の話は雲を掴んだように要領を得ないふわふわとしたものとなってしまうが……。

 

そういう彼だからこそ、自分は兄として慕ってこうやって同居しているのかもしれない。

 

ああいう七惟理無だからこそ、家族として一緒に過ごして、苗字も使わせて貰って……今迄では想像出来なかった道を歩んでいけるのだろう。

 

全てはきっと彼のおかげだ。

 

そう思うと一緒に住み始めてからは欠点が多く見えた兄だったが、やはり自慢の兄なのだなと美咲香は再認識しほんの僅かだが、表情が自然と緩む。

 

 

 

 

「ご、ごほん。そんなことより!さぁてお家が見えてきました、しっかりエネルギーを補給して午後もみっちり頑張りましょう!」

 

「あ、露骨な話題逸らし!」

 

「さ、て、ん、さん!今日の目的を忘れないように!」

 

「あ、あはは……。お手やわらかに頼むよ初春~」

 

「はい、よろしくお願いします佐天さん、初春さん」

 

 

 

その微笑みに佐天と初春は気付かなかったが、三人とも元気よく秋晴れの空を歩いていくのであった。

 

 

 


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