とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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浜面が若干ゲスいことに…。

いやしかし高校生だし。


 

 


アイテム+αは思春期-ⅰ

 

清々しい秋晴れだ、空が遠くに見えて奥行があり、周りに散らばる薄い雲達も鮮やかに空のキャンパスを彩っていて何だかこの景色を見ているだけで落ち着いてくる。

 

そんな空を硝子越に見つめながらこのようなことを考えているのは滝壺理后、現在入院中の少女である、

 

彼女は暗部組織に所属していた際に体晶という薬を使って能力を増幅させてきたが、その薬は決して彼女の身体にとって良いモノではなく徐々にその体を蝕み、滝壺は暗部抗争の際に意識を失い倒れてしまった。

 

今は病院内を歩くまで回復したが、少し前までは立つことすらままならない程弱っていた。

 

そんな彼女は今も病床に伏しており、病室のベットに腰掛けて外の景色を眺めていた。

 

 

 

「おーす、滝壺。頼まれたもの持ってきたぞ」

 

「ありがとう、はまづら。いつも助かってる」

 

 

 

そしてその病室に頻繁にやってきているのが今病室に入ってきた浜面仕上だ。

 

彼との付き合いはまだまだ日が浅い、はっきり言って1~2か月くらいのようなのだが共に視線を潜り抜けてきたし、自分は彼を垣根提督から守り、彼は自分を麦野沈利から守ってくれた。

 

要するに互いに命の恩人、ということなのだ。

 

故に二人の関係は出会ってから経過した月日を考慮すると非常に深い関係だ、故に浜面は頻繁に病室を訪れてお見舞いに来てくれる。

 

正直なところこんな狭い空間の中、一人で過ごすなんて経験を彼女は今までしたことが無かった為こうやって話相手になってくれたり困った時に助けてくれる浜面の存在はとてもありがたい。

 

もちろん話相手になってくれるのは浜面だけではない、七惟や妹の美咲香、絹旗もよくお見舞いに来てくれる。

 

彼ら話相手が居なければ彼女はぼーっと外の景色を眺めるか治療、リハビリくらいしかやることがないのだから。

 

 

 

「ほらよ、アイスティー」

 

「ありがとう、いつもごめん」

 

「礼を言われる筋合いはあっても謝れる謂れはないし気にスンナって」

 

「それでも、仕事の合間の大事な休みの日に来てくれて感謝してる」

 

「ははは」

 

 

 

浜面はアイテムの構成員だ、元がつくが。

 

自分もそう、アイテムの元構成員。

 

あの日、自分と浜面が互いの命の恩人になった日にアイテムという暗部組織は空中分解を起こしてそのまま形を保つことなく崩壊した。

 

リーダーである麦野は死亡、フレンダは行方不明、自分は入院、無事だったのが浜面と絹旗の二人だ。

 

臨時構成員としてメンバーから出向していた七惟も自分と同じように重傷を負い、右腕を失って入院していた。

 

そんな大事件から幾分か時間も経ってきて七惟は退院し通学しているし、絹旗は前と比べたら激減しているものの暗部の仕事を少しだけ受注し、浜面は普通に働きながら生計を立てている。

 

自分だけがあの時から立ち直れていない、そして彼らから置いてけぼりにされているような気がしてならないかった。

 

だがそんな滝壺の不安定な気持ちを察して彼女の助けとなってくれたのはそこに居る浜面を始めとした七惟、絹旗の3人だった。

 

頻繁に病室に顔を出してくれる御蔭でこの無機質にも感じられる病室の中で自身の精神を安定させてくれる。

 

周りの病室の方々は親族がよく顔を出していて、自分にはそういった肉親がいない。

 

だから彼らの繋がりだけが唯一孤独を癒してくれるのだ。

 

 

 

「今日は予定通り七惟と絹旗が昼から面会に来るってさ」

 

「うん、皆何時もありがとう。また沢山お話聴かせてくれる?」

 

「あぁ、任せろって!俺ら昨日も七惟の家に集まってさ。んで寝ぼけた絹旗がトイレでコーヒー牛乳零してやがって大笑いしたらアイツ切れてな。何故か俺も掃除を手伝わせられて大変だったぞ」

 

「へぇ……そんなことがあったんだ」

 

 

 

お見舞いに来てくれた皆はこうやって日常に何が起こっているのかをお話ししてくれる。

 

能力のせいかもしれないが会話の中身を頭の中でイメージすることが得意な滝壺は話の中で皆の表情や出来事を想像し、共有する。

 

こうすることによって滝壺は皆の輪の中にいることを実感して、心安らぐのだ。

 

そうでもしなければ、この病室に一人閉じ込められて隔離されているようで、毎日が退屈でしょうがないし、独りぼっちだ。

 

浜面は饒舌に喋り続ける、聞き上手な滝壺は相槌を打ちつつその話の中身を想像する。

 

 

 

「あぁ、絹旗が俺のせいだーって喚いてさ。そしたら七惟の奴が絹旗の頭にチョップ食らわせて黙らせて、今度昼飯おごるから手伝ってくれってさー。まぁ流石にど貧乏なアイツからそんなお礼を受け取る訳にはいかないから断ったけど」

 

「相変わらずなーないは金欠なんだ」

 

「そう、あいつよくあんな感じで美咲香ちゃんと一緒に過ごせるよな。あいつと一緒にいると偶に金銭感覚がおかしくなる、主に貧しいほうに」

 

「なーないは手料理も出来るはずだから案外ちゃんとしてる」

 

「主夫になれそうだぜ」

 

「うん、きっとそれも似合ってる」

 

 

 

七惟が貧乏なのは今年に入ってからずっとだ。

 

主に一緒に住んでいる美咲香……妹達の一人が原因なのだが、彼はそれを全く嫌そうにしていないし逆に原因となった彼女と一緒に過ごしまるで家族のように接していると聴く。

 

滝壺自身はまだ彼女に会ったことはないのだが、きっとその子は七惟からすれば目に入れても痛くないように思っているのだろう。

 

本人は絶対に否定すると思うが。

 

 

 

「それでまぁ昨日はアイツらと戯れてたからさ、お土産もあんだぜ。ほらこれ」

 

「あ……からあげ?」

 

「そうそう、これは『これが超噂となっている中津からあげです!』って絹旗が昨日買ってきててさ」

 

 

 

浜面の超似ていない絹旗の真似を見ながら苦笑する滝壺、そして彼が手持ちのバックから取り出した袋からは香ばしい香りの臭いがする。

 

 

 

「確かに旨かったから俺もさっき絹旗から教えて貰った惣菜屋で買ってきたんだ。旨いぜ、昼時だしあいつら来るまで食べよう」

 

「うん、ありがとう。頂きます」

 

 

 

絹旗も何だかんだ言って女の子、美味しいものには目が無い。

 

甘いものもあの子は好きなはずだがこうやってがっつり食べる系のほうが大好きだ、よく食べたほうが成長するんです!が確か彼女の口癖だったと思う。

 

そしてそれにつられて一緒に食べる自分、フレンダ……そして麦野。

 

何だかあの頃の記憶が遠い昔に感じられる、時間的にはまだそんなに経っていないはずなのに。

 

 

 

「ん?どうした」

 

「ううん、なんでもない。食べよう、はまづら」

 

 

 

口の中で頬張るからあげ、さくさくとしていて甘くて辛い。

 

ゆっくりとした時間の流れ、なんだかアイテム崩壊当日のファミレスでランチを取った日を思い出す。

 

あの日はまだ皆いた、麦野も、フレンダも。

 

あの時とは比べ物にならないほど今は穏やかな生活を送っている、この生活に血なまぐさい点なんて一切ない。

 

だからどうしても考えてしまう、何故こんなことになってしまったのかと、悲劇を回避する術は何か無かったのかと。

 

入院してから頭の中の大きな部分を占めるのはフレンダと、麦野のことばかりだ。

 

麦野にはあの夜滝壺は殺されかけた、そしてフレンダには裏切られたと絹旗から聴いている。

 

崩壊を防ごうと全力で垣根に立ち向かった絹旗、麦野から守ってくれた浜面、身内を殺され一方通行に挑んでいった七惟。

 

脳裏に一方通行にずたぼろにされた七惟、麦野に暴力の限りを尽くされた浜面、第2位にいたぶられるのを覚悟した絹旗の小さな背中、それぞれの姿が過る。

 

何か、自分も出来なったのだろうか?

 

何も出来ていないのかもしれない……。

 

 

 

「どうした?気分が悪いのか?」

 

「ごめん、大丈夫。美味しいよはまづら。お話の続きお願い出来る?」

 

「おうとも!それでな」

 

 

 

深く考えてドツボにはまるのは入院してからの悪い癖だ。

 

このことを一度七惟に話したことがあった。

 

皆命がけで動いたのに自分は助けられてばかりで人の役に立てなかった、フレンダの異変に気付いていればとか、もっと自分の体が頑丈で麦野の命令に従えればとか。

 

それらを全て七惟は一蹴した、自分を見つけてくれた、道端の石ころのように転がっていた自分を、助けてくれた。

 

そして再び元アイテムのメンツがこうして病室に集ったのは、偏に皆滝壺の身を案じていたから。

 

組織一つが、滝壺を中心にして動いていて、滝壺のお陰でまた纏まることが出来ていると。

 

その言葉を思い出すたびに暖かな気持ちになる、胸にその思いをしっかりとしまう。

 

今日はそんなアイテムの皆がそろってお見舞いに来てくれる日なのだ、気持ちを落ち込ませる必要なんてない。

 

 

 

「最近はアイツの家に皆で集まる頻度も増えてきてさ。結構大きな声で騒いでる気がするからお隣さんから苦情こないかひやひやしてるところもあるんだぜ」

 

「確かになーないの自宅が急に騒がしくなってきたら近隣の人が心配しそうだね」

 

「そうそう、あいつ多分ずっとあの部屋で一人だっただろうしな。しかしあの部屋で美咲香ちゃんと二人きりで生活とか感心するぜ」

 

「二人はどうやって寝てるんだろう」

 

「あの家にベッドはないから多分雑魚寝じゃねぇの?俺は隣に人がいると寝苦しい質だけど意外にアイツそういうの気にしないんだなあ」

 

 

 

七惟と、一緒の部屋で雑魚寝。

 

なんだかその響きだけ聴くと顔の中心に熱が集まるのを感じハッとする。

 

何を考えているんだ自分は、二人は兄妹として一緒にいるのだ、だから全く変なところはない、極めて健全であり普通だ。

 

 

 

「しかし一つ屋根の下で一緒に寝るってある意味凄くないか滝壺。あいつだって男だろうに」

 

「な、何が言いたいのはまづら」

 

「いやほらさ……その、いくら兄妹やってるって言ってもそれは戸籍上だろ?実際は血が繋がってる訳じゃないしな。美咲香ちゃんの外見ってあの超電磁砲そっくりだしさ」

 

「……」

 

「まぁ、あれだたきつぼ。七惟だって男だし……」

 

「はまづら、いやらしいこと考えてる」

 

「は、はぁ!?い、いやそんなことない!気のせいだ!」

 

「だって」

 

 

 

いや、いやいやいや。

 

七惟と美咲香は兄妹だ。

 

いくらなんでも、いくらなんでも二人が一つ屋根の下で暮らしているからと言って浜面や……自分が考えているような事態にはならないはず!

 

頭の中で七惟と超電磁砲の顔をした美咲香が二人で肩を寄せ合っているイメージが勝手に浮かび上がってきて幻視する。

 

絶対にそんなことはない!二人がそんな関係になるなんて、あの七惟が、あの七惟が!

 

そもそも超電磁砲(美咲香)は実年齢は0歳だ、そんな幼女に手を出すなんて考えられない。

 

滝壺の頭の中はオリジナルとなった超電磁砲と七惟美咲香の区別がつかなくなってきてぐるぐると二人の顔が回り続ける。

 

いやそもそも二人がそういう仲に進展していったんだったら絹旗が気付くはず!

 

そんな話はない!だからきっと何もない、今のところは!

 

病室に気まずい雰囲気が流れる、この後は件の七惟と絹旗がやってくるというのに。

 

いったいどんな顔をして待っていればいいのだろう?

 

助けを求めるように浜面に視線を向けると明後日の方角を見て呆けている。

 

……。

 

 

 

「はまづら!」

 

「は、はい!」

 

「何考えてるの!」

 

「わ、悪かったって!」

 

 

 

 

 


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