とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Ⅰ章 少年の小さな世界
学生の街-1


 

 

 

 

闇オークション会場に着いた七惟を待っていたのは、いつも通り柄の悪い連中から普通の学生、さらには小さな女の子までと様々であった。

 

下品な笑みを浮かべてメモリースティックを見つめるモノも居れば、身体を震わせながら何とかこの場に踏みとどまっているモノも居る。

 

それぞれ色々な思惑があり此処にいるのだろう、だが自分には関係ないか。

 

七惟はメモリースティックをオークションにかけると、早速一人目が『5千!』と手を上げる。

 

それに負けんとばかりに他のモノが今度は『六千!』と声を張り上げる。

 

こうやってメモリースティックの値段は自動的に上がっていき、七惟はそれを何も考えずに傍観しているだけで巨額の金が手に入るのだ。

 

普段のようにぼーっとこの風景を見つめていた七惟だが、今日は先ほど会ったアクセラレータのことを考えていた。

 

……アイツと会ってから、もう1年も経つのか。

 

七惟がアクセラレータと出会ったのは、とある実験がきっかけだった。

 

 

『レベル6計画』

 

 

学園都市最強のレベル5、アクセラレータを最強の存在から絶対の存在にするために行われた最初の実験だった。

 

当初レベル5の第7位―――――現在は第8位だが―――――七惟は最初のシミュレーションに実戦投入されたのだ。

 

ツリーダイアグラムは学園都市第3位のレールガンを128回殺すことでアクセラレータのレベル6へのシフトは完了すると計算した。

 

しかし実際問題それは無理なため、レールガンのクローンであるレディオノイズを2万人殺すことでレベル6へのシフトが完了する計画が取られようとしてる直前。

 

レディオノイズを2万体も作るには、莫大な予算が必要でこれもかなり現実味を帯びていない―――――なら、他のレベル5は?

 

こういう流れでその最初の被検体となったのがレベル5の最下位、七惟理無であった。

 

七惟を担当していた科学者が、第7位のクローンならばもっと効率よく一方通行をレベル6にシフトすることが出来ると言い放ったことがきっかけである。

 

そういうのならば当然まずはその実力を示せ、という展開になる訳だ。

 

そこで七惟とアクセラレータは死闘を繰り広げる、当然七惟は生きるために、アクセラレータはその胸に秘めた思いを成就させるために。

 

結果研究所周辺の施設は吹き飛び、七惟がアクセラレータに半殺しにされるもこれ以上の戦闘は学園都市そのものに影響を与えかねないということで中断された。

 

この生死をかけた闘いから二人の奇妙な関係が始まる。

 

互いに本気でぶつかればこの学園都市がどうなってしまうのか把握しているだけに、それ以降二人が拳を交えることは決してなかった。

 

しかし…………

 

「1万人も殺すと気が狂うか」

 

アクセラレータは結局ツリーダイアグラムがはじき出した計算結果の下、欠陥クローンを殺し続けている。

 

確かその数はもう1万は超えている、1日に10人以上纏めて殺すことなどザラだったためこの1年かなりのハイペースで死体を積み上げてきた。

 

アイツがレベル6になったら―――――真っ先に殺されるのは自分かも、な。

 

七惟はまるで他人事のように、自分の命の危機など何処吹く風と言ったところだ。

 

そうれもそうだ、七惟はツリーダイアグラムの計算結果を信じていない。

 

人類の英知が詰まっているのか知らないが、レベル6と言うのは『神の領域』なのだ。

 

クローンを2万人殺すくらいで神になれるのなら、戦前の独裁者や某国の指導者はとっくに神になっているだろうに。

 

「3万!」

 

最後のメモリースティックが3万円で売れた。

 

1本1千円程度のモノがその30倍で売れるとは、やはり麻薬中毒者たちの気持ちは分からなかった。

 

闇オークションに詰めかけた者たちはそれぞれの表情を浮かべ闇へと消え去る。

 

近くに居た小さな子供は顔を顰めながら去っていく…………おそらく来週も来るのだろう、この中身欲しさに。

 

七惟も身支度を済ませてバイクにまたがり、エンジンをかけると不意に後ろから呼びとめる声がした。

 

 

 

「ちょっとお待ちなさいな、そこの黒スケ」

 

 

 

七惟は最初はメモリースティックを買えなかった客の一部が強奪しに来たのかと思ったが、すぐさまその考えを改める。

 

「貴方にはお聴きしたいことが山ほどありますの。ジャッジメント支部までエスコートいたしますわ?」

 

振り返るとそこには左腕に緑と白の腕章をつけたピンク色の髪の子に、そしてちょっと離れた所には茶髪の女の子が立っていた。

 

二人は長点上機と良い勝負であるエリートお嬢様学校、常盤台の制服に身を包んでいた。

 

しかし、黒スケか……・実に的を射ている。

 

「だんまりですの?」

 

こちらは全身真っ黒のジャージに銀色ヘルメットだ、まだ顔を見られていない。

 

となるとやはりこの場合このまま逃走して逃げ切るのが吉だろう、何処のジャッジメントかは知らないが軽くあしらってやるか……。

 

七惟は二人の言葉を無視し、バイクのアクセルを握るが―――――。

 

目の前に突然ピンク色の髪の子が現れた。

 

「なっ!?」

 

七惟は身の危険を感じ咄嗟にしゃがむ、すると先ほどまで彼の頭があった場所に風を裂くような蹴りが。

 

一瞬で移動した?となるとこの女の能力テレポートの類か。

 

「余所見はいけませんわねえ、首が飛びますわよ?」

 

なるほど、流石にこの時間帯にこんな場所をうろついているからにはそれなりの実力を伴ったジャッジメントというわけか。

 

七惟とてここで捕まるつもりは毛頭なく、茶髪がどんな力を持っているのか分からないがこのテレポーター、まさか対峙している黒スケが自身の天敵だとは思うまい。

 

七惟は構わず再びアクセルを握り、今度は躊躇なくそれをフルスロットルまで入れる。

 

バイクは猛然と加速し、幹線道路に飛び出すと我が物顔で走り回る。

すると七惟の予想通り、テレポーターはこちらの先に移動して待ち構えておりにやりとした表情だ。

 

まあ、直線的な動きしか出来ないバイクなどあの女からすれば仕留めるなど簡単な作業なのだろう。

 

彼女が手に何かをにぎっている、おそらくそれをバイクのタイヤに仕込みパンクさせるといったところか。

 

「大けがしても私は責任は取りませんわ?」

 

七惟は彼女が鉄の棒を転移させる直前に能力を発動させる。

 

するとどうしたことか、彼女がバイクのタイヤに転移させるつもりであった鉄の棒はバイクのタイヤを避けるかのように左右に転移したのだ。

 

「そ、そんな!?」

 

上手くいった、ジャッジメントの女は自分の能力が通用しなかったことに戸惑っている。

 

テレポートは高度な演算が必要なためあの動揺した精神状態では自分を追うために連続したテレポートは不可能だ。

 

七惟はそのままバイクを時速100kmまで上げると、闇の彼方へと消えて行った。

 

 

 

 

 


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