とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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日常生活-2

 

 

 

 

 

ミサカを病院に送り届けた七惟は一人またセブンスミストへとやって来ていた。

 

理由は唯一つ、ミサカに何かアクセサリーを贈るためだ。

 

何故アクセサリー?と言うと、あのままではミサカ19090号を他の個体と見分けることなが出来ないからだ。

 

コミュニケーションを取れば彼女と判断出来るが、遠くて見かけただけでは自分の知っているミサカなのかどうか判断出来ないのは如何ともしがたい。

 

なので出来れば目立つ髪飾りを、というわけでまたこうして足を運んだのだ。

 

更なる出費に財布が悲鳴を上げそうだったが、どうせ元から1億の借金を背負っているのだ。

 

出費が1万2万増えたところで何か変わるものか。

 

日も暮れかかっており、この時間帯になれば先ほどのように自分の知り合いと会うことはあるまい。

 

「あれ、七惟。こんなとこで一人で何やってるんだ?」

 

「理無に会うのは久しぶりかも」

 

しかし早速七惟のそも思惑は脆くも崩れ去った。

 

声をかけてきたのは監視対象の一人であるサボテン頭の上条当麻、そして彼と同居している謎のシスターインデックス。

 

こんな場所で一人で買い物など、普段の七惟ならば絶対にやるはずがない……故に恥ずかしさで死んでしまいそうだ。

 

「……別に。ちょっと野暮用があっただけだ」

 

「へぇ、その割には熱心にアクセサリー見てたよな」

 

「もしかしてクールビューティーにプレゼントでもするの?」

 

おいおい、そこまで的確に当ててしまうのかこの正体不明のシスターは。

 

「まあ、そんなもんだ。あのままじゃ遠くからじゃ見分けがつかねえ」

 

知られても困るようなことではないので七惟はさらっと受け答える。

 

「そういうお前らは?」

 

「あぁ、インデックスの寝巻を買おうと思ってな。流石に着替えがないともう洗濯するのも骨が折れるんだ」

 

「って今までその修道服一着で生活してきたのかコイツは……」

 

「む、何その眼!もしかして私をそこはかとなく馬鹿にしてる!?」

 

「いや、よくそれで今まで生活出来たもんだなと感心してんだよ」

 

「それを馬鹿にしてるって言うんだよ!」

 

ギャーギャー喚くインデックスを余所目に七惟は上条に語りかける。

 

「おい上条、お前のその一級フラグ建築士的な能力からしたらどういうのがミサカが喜ぶか分かるか?」

 

「いや待てなんだその能力」

 

「俺はやっぱり髪飾りにしたいとこなんだが、一発で見分けがつく」

 

「聞いてないっていうのはわざとか!?」

 

七惟と上条は一人でむくれるインデックスを放置し何かミサカに会うモノはないか、と探し始める。

 

しかし七惟はこれまでの生活で女性に何らかのプレゼントを贈ったことはない、当然上条もそのフラグ体質な割にはそういうことと無縁だったので女性が喜ぶものが分からない。

 

「待てよ……ミサカは普通の女子と違えんだ、こうやって悩むのが馬鹿らしくねえか」

 

「確かにそうかもしれないな」

 

ならばもう、いっそのこと七惟の偏見極まりない選別でミサカに会いそうで一発で見分けがつく目立つ目印のような髪飾りを選ぶことにした。

 

そのほうが七惟としても他人の力を借りて渡すよりは贈り甲斐があるような気がした。

 

七惟が店員から大雑把に全部の商品の説明を受けて、いざ選ぼうと腕を伸ばすと。

 

 

 

「あれ……七惟。こんなとこで何やってんの?」

 

「……オリジナルか」

 

 

 

七惟に声をかけたのは御坂美琴だった、今日はえらく知り合いに会う確率が高い、比較的交流がありまだあっていない七惟の知り合いはあとどれ程いたか。

 

「その呼び方どうにかなんないの?私には御坂美琴っていう名前がちゃんとあるのよ」

 

「考えとく」

 

「全く……って、アンタもいたの!?」

 

美琴の声が急に慌てふためいたものへと変貌する。

 

「ん?御坂か、お前もこういうアクセサリーが並ぶ店に来るんだな」

 

目線の先にはむくれていたインデックスを宥めている上条の姿が。

 

「わ、私がいちゃ何か悪いわけ!?」

 

「いや別に悪いってわけじゃ……ただ、お前って何身につけても似合いそうだからこういうの気にしなさそうに思ってたんだが」

 

「……!」

 

美琴は七惟が分かるくらいに顔を真っ赤にして固まり、黙りこんでしまった。

 

褒められて嬉しいのか、そういうのに無頓着で女らしくないと馬鹿にされて怒っているのか、いやそもそも上条に会えて嬉しいのか……。

 

全部だろう、という結論を七惟は下し3人を無視してアクセサリー探しに没頭する。

 

「御坂はどうして此処に来たんだ?」

 

「私は……後輩の友達がジャッジメントに入って半年だから、記念に何か贈り物したいなって!」

 

「へぇ、面倒見がいいんだな御坂は」

 

「い、意外?」

 

「いや、あれだけ後輩に強烈に慕われてたしなんだか分かる気がするよ」

 

「そ、そうかな?やっぱり……そういうほうがいいのかな」

 

「……?おい、さっきから顔真っ赤だけど大丈夫か?」

 

「大丈夫よ!ちょっと残暑にやられただけだし!」

 

御坂と上条の会話が珍しくおかしくない、ちゃんとした方向で弾んでいることに七惟は軽く驚きつつ作業を進める。

 

七惟の頭に会った上条と御坂の会話パターンは誰かの命がかかった真剣な話か、美琴が一方的に因縁つけて怒り始めるか、二人でぎゃあぎゃあと騒ぐかのどれかしかないと思っていたからだ。

 

「むー……!」

 

そして二人の話が盛り上がれば盛り上がる程蚊帳の外になるのはインデックスと七惟な訳であって。

 

七惟は御坂・上条と話せないことはどうということではないのだが、このインデックスという少女は上条当麻が他の女性と仲良くやっているのが気に食わないらしい。

 

まあ俗に言う軽い嫉妬というものである、そしてその対象である上条はそういうものを全く意識していないので余計に性質が悪い。

 

「ねえ当麻!私の服はどうなったの!」

 

「あ、悪いインデックス。でも俺と選ぶよりも七惟と選んだほうがいい、さっきから七惟が手にとってるアクセサリーどれもいいのばっかだし、センスあるぞ」

 

時々こうやって上条当麻は全く空気が読めていないことを簡単にやってのける。

 

しかも俺が選ぶってなんだよ……面倒なこと丸投げしやがって。

 

この展開はおそらく御坂からすれば願ったりかなったりなのだろうが、当の二人はそんな提案願い下げである。

 

「……当麻は私と一緒に服を探すよりも短髪とお喋りしてたほうがいいってわけだね」

 

「い、インデックス?その背後に見える黒いオーラは……?」

 

「私の服を買うよりも、そんなことは理無に押し付けて自分は楽しくお喋りしたいってわけだよね?」

 

何気に一般男性ならば傷つきそうな台詞を容赦なく吐くインデックス、七惟がそういう他人の言動を気にする人間だったらどうするつもりだ。

 

「べ、別に私は……コイツと喋りたいだなんて」

 

美琴が顔を赤くしながらもじもじとか細い声で言葉を漏らす。

 

「そ、そうなのか御坂。だよな、俺が居たらお前の後輩へのプレゼント買いが進まねえもんな。インデックス、待てって!」

 

上条はエスカレーターへとズンズン進んでいくインデックスの背中を追ってアクセサリー売り場から走り去っていった。

 

その場に残されたのは当然七惟と美琴なわけであって。

 

「どうして残ったのがアンタなのよ、みてぇな顔でこっち見るんじゃねえ気色悪い」

 

「な!?別に私はそんなこと―――!」

 

「そうかよ、それで?追わなくていいのか?」

 

「どうして私がアイツを追わないといけないのよ、話をぶった切るような奴との会話なんてこっちから願い下げよ!」

 

口ではそう言っているものの、エスカレーターでインデックスとじゃれ合っている上条の背中を名残惜しそうな目で見ているのだから説得力がない。

 

恋愛にさして興味がない七惟ですら分かる程美琴とインデックスが上条に向ける感情は露骨というか何と言うか……。

 

「もたもたしてるとあのシスターに上条を奪われちまうかもな」

 

七惟はいつも通り、相手のことなど全く考えずに思ったことを口にしただけなのだが……。

 

「……そんなの、私だってわかんないわよ」

 

思いもかけない美琴の重い心の告白に何も言えなくなってしまった。

 

しかし、インデックスも一人でいくあたり上手く上条の心理を突いているなと感心する。

 

彼女は怒って一人で歩いていけば、必ず上条当麻が自分を追い掛けてくれると無意識で理解しているし、今までの経緯を見てその考えは間違っていない。

 

美琴にはそういった強引さというか、ライバルとなった相手のことなどお構いなしに自分だけを見て欲しいというインデックスとは違って少し弱腰だ。

 

そういうところがきっと彼女の弱さでもあり、また良いところでもあるんだろう。

 

上条がクラスの女子の三分の二とインデックスに美琴、あとはミサカ10032号をひっくるめていったい誰を選ぶかは知らないが、誰を選んでも彼に与えられるのは修羅の道だ、それだけは七惟は確信していた。

 

 

 

 

 


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