とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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刺客-3

 

 

 

 

 

「……」

 

「あ、七惟じゃないですか。超疲れた顔してますが何かあったんですか」

 

家に帰った七惟を待っていたのはリビングでお菓子を頬張りながらテレビを見て、くつろぎまくっている感を周囲に撒き散らしていた絹旗だった。

 

確か鍵をかけたはずだが、と七惟は自身の記憶を辿るがコイツらにそんな常識が通じないことを思い出し、諦めの表情を滲ませる。

 

あの後結局七惟は滝壺と一緒に下校したのだが、特に二人とも喋ることなく各々家へと帰宅したのだ。

 

二人の空間を支配する妙な空気に七惟は疲れ果ててしまった。

 

「転入生が滝壺さんで超驚いたとか?」

 

「お前らの策にハマったようでそれを認めるのは嫌だがな」

 

「その顔だと嬉しくなかったみたいですね、麦野のほうが超良かったですか」

 

「んなことたぁ微塵も思ってねぇから安心しろ」

 

絡んでくる絹旗を押しのけて七惟はデスクへと向かいコンピューターを立ちあげ、今日のメールを全てチェックする。

 

そんな七惟を余所見しながら絹旗の意識はもうテレビへと戻っており、こちらのことなどまるで空気扱い。

 

いったいこの家の所有者は誰なのだと疑いたくなるような風景だ、そもそも違う暗部組織に属している二人がこんなふうに背中を向け合ってそれぞれのやりたいことに集中しているのは異常な状態だ。

 

もしもこれがアイテムとスクールの面子ならば、3分後には死体が出来あがっているだろう。

 

七惟と絹旗でそんなことが起こらないのはちゃんとした理由もある、絹旗がどれだけ窒素装甲を操って七惟を攻撃しようが絶対に彼女の攻撃が届くことは無い、不意を突こうにも常に神経が張っている七惟の前で気付かれずに攻撃など不可能だ。

 

対して七惟は彼女が無駄だと分かっている攻撃などしないくらい頭が良いということを念頭にこのような態度を取っている。

 

さらにこの数日間どれだけ攻撃のチャンスがあったにも関わらず、仕掛けてこなかった彼女にある程度気を許しているというのもあるかもしれない。

 

それはもしもこの相手が麦野だったりしたならば大変な事態を巻き起こすであろうが、絹旗最愛という人間を知っての行動なのだ。

 

彼女は不意打ちをするような人間ではないし、多少なりとも交流のある人間を殺すような程染まってはいないと七惟は考えている。

 

「……掃討作戦、ねぇ」

 

七惟の目に留まったのは比較的報酬が高い暗部の仕事だった。

 

彼はその両肩に一〇〇〇〇〇〇〇〇の借金を背負っている、言い方はかっこいいがやはりみっともないし情けない。

 

「へぇー、仕事探しですか。でもそんなサイトで見ることが出来る報酬なんて私達のに比べれば超低いですよ」

 

「はン、命の危険を晒してまで早急に金が欲しいってわけでもねぇからな」

 

「それ、超やせ我慢に聞こえます。というかこの仕事他のに比べたら幾分か物騒な内容ですけどいいんですか」

 

掃討作戦と名されているこの仕事の内容はこういうものだ。

 

学園都市外部の近郊地帯で所属不明の勢力が数名建物内でうろついており、何やら空き巣まがいのことをやっているらしい。

 

目的は不明だが、学園都市に害を与える者である可能性も否めないためこの勢力の無効化、もしくはその実態を把握せよとのことだ。

 

えらく選択肢が両極端だが、学園都市としてもただの雑魚相手に無駄ないざこざや、外部で後を付けられるような事態の発生を招くためにも後者があるのだろう。

 

報酬は50万、結標の仕事の調度半額分で出来高のような制度もないが、これが一番報酬が高く尚且つ短時間でケリがつけられそうだ。

 

七惟は応募ボタンをクリックし、この仕事の請負人となった。

 

「あ、やっぱりこれにするんですね。背に腹は代えられないってことですか」

 

「どうとでも受け取れ。つうかお前付いてくんだろ?」

 

「そりゃあ超当たり前というか超当然ですね、久しぶりに七惟の暗部での働きを見てみたいですし」

 

「そうかぃ、好きにしやがれ」

 

この仕事が行われるのは三日後、それまでに一度くらい家の生活用品の補充するため買い出しに出かけたほうがいいかもしれない。

 

そう言えば、食料品が切れかかっていたような気がするが……。

 

七惟の食生活の基本はインスタント食品のオンパレードだ、レトルトカレーにレトルトハヤシライス、レンジで温める惣菜からカップ麺カップうどん。

 

一日の食費が1000円を超すコトなどまずない彼は、非常に栄養のバランスが悪い。

 

そのため週に一度は大豆のみで食事を終えるという習慣を無理やり根付かせ、それ以来は幾分かマシになったが、彼の体内にはいったいどれだけの添加物が蓄積されているのだろう。

 

料理が全く出来ないというわけではない、ある程度人並みはこなすことが出来るのだがやはり面倒なものは面倒なのだ。

 

台所の下の引き出しを開け、食材を確かめようとした身を乗り出したところで彼の動きが止まる。

 

「……絹旗」

 

「超なんですかー?」

 

「……お前俺ん家の食料、どうした」

 

「あ、そこにあったカップ麺なら昨日今日で全部頂きました。いやー、まさか七惟が私のために朝ごはん、お昼ごはんを用意してくれているなんて超驚きましたよ」

 

あはは、と邪気の無い笑みを浮かべる絹旗だがその真意はおそらく「そんな目の付くところに置いてる七惟が超まぬけなんですよ」とかだろう。

 

怒鳴り散らかしてもどうせこの少女相手には埒が明かないので、七惟は大きくため息をつくと財布を取り玄関へと向かう。

 

「あれ、何処に行くんですか」

 

「お前が食っちまった分の補充に決まってんだろ」

 

「そうですか、超ご苦労さまです!」

 

「……付いてこねぇのか?」

 

絹旗は身体はこちらに向いているがまだテレビの前から動いていない、七惟の監視を麦野から命じられているのだから此処は当然付いてくるものだと思ったが。

 

「七惟は私に超付いてきて欲しいとか思ってたりするんですかね」

 

「……別に」

 

付いてくるのが当然だと思っていたから、何だか付いてこないとなると調子が狂ってしまう。

 

それに、普段見ないコイツを知る良い機会だと七惟は思っていた。

 

だいたい家にいる間は互いにパソコン、テレビの前から一歩も動かず会話らしい会話もない、絹旗は夜の9時頃になると帰っていくし七惟もそういうものだと思っていた。

 

しかしあれだけ長い時間一つ屋根の下で、理由がどんなものであれ過ごしているのだから、もう少し互いを知っても悪くないのではないか。

 

超超うるさいだけの少女と思ってはいるが、もしかしたら意外な一面があるのかもしれない。

 

信じてはいないが、疑ってみるのは悪くはないだろう。

 

「まぁ、お前と買い物なんざこの期を逃せば無いだろうしな。気分転換には調度いいと思ったんだよ。それにどうせお前も食うんだから、自分が食うモンは自分で選んだほうがいいだろが」

 

「もしかして七惟おごってくれるんですか!流石です七惟、私は超見直しました!伊達に第3位のクローンに入れ込んでないんですね」

 

「入れ込む……ねぇ、まぁそう思いたいんならそう思ってろ」

 

このように絹旗はことあるごとにミサカ19090号のことを引き合いに出しては、やれ気に入っているとか、やれ付き合っているとか喚いてくる。

 

自分とミサカはそんな関係ではないと頭ごなしに言っても通じないだろう、七惟にとって彼女は特別な存在であるのは間違いないが、恋愛感情ではないと思う。

 

きっとこの感情は親族に対して向けるものと同じで、ミサカはまるで妹のような存在なのだ。

 

まぁ身内0人の七惟に親族関係が分かるのか?と突っ込んでしまえば元も子もないのだが。

 

「で?行くのか行かねぇのか」

 

「超行きますよ、フレンダの奴に超自慢してやります」

 

「なんでそこでフレンダが出てくんだか……」

 

絹旗はすぐさま廊下を駆けぬけドアの前で靴をはき始める、七惟もそんな絹旗を見てまんざらでもない表情をしながら出かける準備を始めた。

 

 

 

 

 


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