とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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犬猿の仲-1

 

 

 

 

 

七惟と上条の二人が路頭で迷っていた最中、天使のように現れて救ってくれた女性の名前はオルソラ・アクィナス。

 

聞けば元はイタリアの教会のシスターだったが、今は改宗してイギリスの教会のシスターをやっているらしい。

 

改宗に合わせて住居もイタリアからイギリスに移すため、今はその引っ越しの準備のため偶々イタリアに戻ってきたとのことだ。

 

もし彼女が引っ越しをしていなければ、自分達は下手をすればあのまま旅行期間が終わるまで迷子をしていたかもしれない……全く、海外とは恐ろしいところだ。

 

さて、そこで当然浮かんでくる疑問がどうして上条がそんなシスターと知り合いなのか?ということだが、彼は『日本に布教活動に来た際仲良くなった』とのことだった。

 

そう言えば上条の家にはあの焔の巨人を操る神父や、身の丈ほどありそうな刀を持っていた女性も出入りしていたし、何しろシスターと数カ月同居していた程の人物なのだ。

 

そういった宗教関連と何かしらの親交があっても不思議ではない、大覇星祭初日に会ったあの五和という天草式十字凄教の少女ともつながりがあったのだから。

 

まぁ七惟とて馬鹿ではない、必ず何か『裏』があると感じていたがそれ以上は突っ込まなかった。

 

これは触れてはいけない上条の秘密なのだろう。

 

彼女の情報に寄れば既に仲間達が荷物を纏めており、その途中でインデックスを発見し拾っておいてくれたらしい。

 

全く、迷子になったと思ったらちゃっかり美味しいポジションにいるあのシスターには呆れるばかりだ。

 

「そちらの方は、貴方様のご友人でよろしかったのですよね?」

 

「あぁ、七惟理無て言ってな。ある意味俺の命の恩人だ」

 

今まで全く話を振られてこなかっただけに、七惟はその受け答えに少々戸惑ったが

 

「七惟理無、よろしく頼む」

 

なんとか自然に言葉を発することが出来た。

 

と言うよりも、上条が女性と喋っている時は七惟は黙っておくという鉄の掟がすでに出来上がっているあたり、七惟自身が上条のフラグ乱立を助けているというのに本人は気付いていない。

 

「今は何処に向かってんだ?」

 

「えぇ、私の家でございますよ。そこでイタリアの料理でも振舞いましょう」

 

「マジか!?ありがとうオルソラ!」

 

はしゃぐ上条とは対照的に、沈黙を守る七惟。

 

友人0から卒業した今でも七惟はまだ対人コミュニケーションが苦手なのだ。

 

女性で外国人ともなればその苦手っぷりは本領発揮どころか限界突破をしており、あり得ない程の無口になってしまう。

 

無口で無愛想な七惟を見て、初対面の相手は不躾で愛想がない輩だ、と思うだろう。

 

当然彼女もそう思うはずだが、今回は上条がフォローしてくれてその最悪な第一印象だけは避けることが出来た。

 

上条とオルソラの会話が弾む傍らで、景色に目を向けながら七惟はひたすら無言で歩いた。

 

上条もはじめの内は偶に話を振ってきたが、七惟がコミュ力不足というの知っているため、顔を顰めているのを見てからは振らなくなった。

 

七惟としてはその気遣いが嬉しいが、相変わらずまだコミュニケーション力の乏しい自分に苛々していた。

 

喧嘩腰に怒鳴ったり、一方的にあしらうのは初対面の相手でも得意なのだが、こうも友好的に手を差し伸べてくる相手はその手をどうやって取ればいいのか分からないのだ。

 

こればっかりは、時間をかけて解消していくしかない。

 

 

 

 

どれくらい歩いただろうか、オルソラの足が止まった。

 

 

 

「こちらでございます」

 

オルソラが刺した方向にあったのは、日本人が思い描く如何にもなイタリア風のアパートメントだった。

 

こうも自分の想像とばっちり噛み合うとは、メディアの作るイメージもまんざらではないのかもしれないと感心する。

 

此処は港街のようで、此処からは地中海も拝むことが出来観光客が来たら泣いて喜ぶ間違い無しのスポットだ。

 

階段を上がり、オルソラの番号を教えて貰い家の中に入る、すると……。

 

「あ!とうまだとうまとうまー!」

 

勢いよく迷子になっていたはずのシスターが飛び出してきた。

 

玄関先まで手にお菓子を持ってやってくるあたり、自分達とそのお菓子はどちらが大事なのか。

 

そして上条に気付いてはいるが七惟に気付いているのか、と突っ込むところ満載なのだが七惟は断念する。

 

「あ、りむも聞いてよ!このジェラード、こんなに美味しいのに安売りのお徳用なんだって!んまー!」

 

自分の存在はジェラード報告のオマケ程度しかないのかい。

 

「あのなインデックス!こっちはお前のこと心配して探し回ってたのに、お前ときたらこんな場所でスイーツ食ってんじゃねえよ!」

 

上条の剣幕もどこ吹く風である、インデックスは無心でジェラードにがっついていて話を聞いていない。

 

そんな彼女を相手に上条も性懲りもなくお説教を続けているあたり、まだこれが数分続くであろうと判断した七惟は、横で淑やかな笑みを浮かべていたオルソラに声をかける。

 

「……えぇと、オルソラ、さん。俺はちょっと周囲を観光してくる、何かあったら上条に携帯に電話しろって言っといてくれ」

えぇ、お伝えしておきます」

 

こんな頼み方でも笑顔で受け答えをしてくれるシスターに少しばかり感動を覚えながら、七惟はその場を後にした。

 

何せ初めて来たイタリアなのだ、あのまま上条とインデックスに絡んでいては少しもこの旅行を満喫できそうにも無い。

 

拠点となるオルソラの家の位置もしっかりと頭に叩き込んで置いたし、今から自由にこの街を探索してみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降り、大覇星祭で疲れた羽を癒そうと気を緩めたその矢先だった。

 

自分に向けられた強烈な視線、そしてその中に込められていた殺気を感じ取った。

 

「はッ……一人になるのを待ってたのか?御苦労なこった」

 

「…………」

 

静かな住宅街に、七惟の低い声が響き渡る。

 

いったい相手が何処からこちらを見ているのかは分からないが、近くにいるのは間違いないだろう。

 

七惟の能力は美琴のようにレーダー機能はなく、こちらが目視しなければ対象を攻撃することなど出来ないし、奇襲に非常に弱い一面を持つ。

 

ごくり、と唾を飲み込み額には汗が滲む。

 

上条達がこちらの異変に気付いて戻ってきてくれる可能性は皆無だ、一人で切り抜けるしかないが……。

 

キン、と何かが鉄にぶつかるような音がした。

 

七惟は反射的にそちらのほうに振り返るが、それは単純に考えて罠だった。

 

一瞬音のほうに気を奪われた七惟の死角から、何者かが蹴りを叩きこんだ。

 

「がふッ」

 

思わず蹴られた脇腹を押さえ、倒れそうになる身体を踏ん張って何とか立たせるも、次の瞬間には槍を頭に向けられていた。

 

正面に立って槍を構えていたのは少女で、その顔には見覚えがある。

 

「まさかこんなところまで貴方が追ってくるとは驚きです」

 

「……てめぇ、確かあの時の」

 

大覇星祭初日、学園都市近郊の神奈川県方面の住宅地の教会で、不穏分子として仕事のターゲットとなっていた少女だった。

 

今はピンクのキャミソールに動きやすそうなデニムのパンツだ、おそらく七惟と同じで休暇中だったのだろう。

 

「私としても、こんなのどかな風景が広がるアパートメント地帯で騒ぎを起こすつもりはありません」

 

「はン、ソイツは魅力的なお話だな」

 

「学園都市の刺客がイタリアに何の用ですか」

 

「あぁ?それはてめぇと同じだよ、バカンスってところか?」

 

「バカンス?そんな嘘には騙されません」

 

「ならそのアパートの310号室に行ってみやがれ、お前が悶え過ぎそうなくらい大好きな上条当麻もいるかもしれねぇぞ……?」

 

「……ッ!?」

 

『上条当麻』というワードに彼女が一瞬反応したが、暗部に片足突っ込んでいるような七惟がそれを見逃すわけがない。

 

少女の腹に握っていた拳をねじ込ませて、怯んだところで持っている槍を蹴りで叩き落とし奪い取ると、態勢を崩した少女に逆にその槍を突きつけた。

 

「そんなにあのサボテンが好きか」

 

「……!」

 

少女はほんのりの頬を赤くした、七惟とて思春期の人間だ、女性からこうも好感をもたれる上条が羨ましくないわけがなく、ストレスを全て込めて盛大なため息をついた。

 

それと同時に張り詰めていた場の空気が一気に緩和されていく、しかし少女の表情は硬いままだ、追い詰められた状態で気を許す人間なんていないだろう。

 

しかしまぁ、どこぞの雷娘といい上条のことが出た瞬間スキだらけになるのは上条フラグ軍団の習性か何かか?

 

「俺はお前を攻撃する理由なんざねぇよ、だが一応身の安全のためにこの槍は……」

 

「そ、そんな言葉を信用するとでも思っているんですか」

 

「はッ……何百回でも疑ってろ」

 

七惟は海軍用の長い槍を海の中へと転移させ、少女の攻撃手段を奪う。

 

「俺はさっき言った通りイタリアの観光に来た、上条当麻と一緒にな」

 

「その証拠はあるんですか」

 

「武器も何も持ってねぇ男が、暗部組織の仕事をやってるように見えるか?」

 

「日本の時は、貴方は丸腰でした!そんな話には……」

 

「そうかい、なら好きなように俺に攻撃しろ。ぶちのめされてズタズタにされても文句言うんじゃねぇぞ」

 

七惟の言葉に押し黙る五和、日本であれだけの実力差を見せつけられ、奇襲も失敗した今では流石に抵抗はしないようだ。

 

自分が七惟を倒すには不意打ちしかないと分かっているはず、それが防がれたのだからもしまた襲われるとしたら、次のご対面の時くらいか。

 

「んじゃあな……五和、だったっけか」

 

五和から攻撃の意思が無くなったのを確認して七惟は背を向けるが。

 

「ま、待ってください!」

 

「……んだよ?」

 

五和が呼び止める、まだ文句があるのか。

 

「本当にあの人がそこにいるんですか?」

 

「あぁ……?まぁな、シスターと一緒にいんぞ。早く会いに行きゃいいだろ」

 

七惟がそう言って振り返った時には、もう五和はアパートの階段を駆け上がっていた。

 

恋する乙女とは彼女ような人のことを言うのだろう、そういう恋焦がれるとは無縁な生活を送ってきた七惟には上条が羨ましい限りだ。

 

やっぱ男は正義のヒーローがいいのか……俺には絶対無理だぞソレ……。

 

 

 

 

 


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