とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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もはや投稿してから何年も経ちますが一部変更しました。



 


学生の街-4

 

 

 

 

麦野達と出会ってから三日、仕事が無くなった七惟は当然ながら暇人と化し時間を持て余す。

 

 

夏休みはまだまだ折り返し地点に差し掛かったばかりと言ったところか、これからはさてどうやって過ごしていくか……。

 

 

七惟は先日出会った麦野のように暗部にどっぷり浸かっているわけではないが、多少なりとも踏みこんでいるのは確かだ。

 

上条当麻を監視せよ、との命令も当然彼が所属している組織からの命令ではある。

 

七惟も始めの一カ月は大人しく上条の動向を探り、それを報告書に纏めて組織のほうに送っていたが、それで何かが変わったのかと聞かれれば答えはノーだ。

 

翌月は面倒になってきて適当に報告書を纏めて送ったのだが、それでも何ら組織のほうから応答はない。

 

それからと言うもの、彼は報告書を90%捏造して毎回送っていたが、それくらい適当なのだ。

 

七惟の所属する下位の暗部組織など。

 

彼は監視命令以外の命令は特には受けていない、よってやる仕事と言えばネットで『便利屋』のように一歩間違えれば犯罪に染まるような仕事を引き受けている。

 

別に金に困っているわけではないが、そうしなければこのような夏休みは時間が余って余って仕方がないのだ。

 

そしてその余った時間は七惟に余計な考える時間を与え、精神衛生上よろしくない。

 

七惟はパソコンに向かって掲示板を周り、前回引き受けた仕事のように何かすることはないかと探してはいたのだが見つからなかった。

 

 

 

「……ダメだ、外出るか」

 

 

 

結局何も情報は得られなかった、仕方なくいつものようにバイクに跨りツーリングに出かける。

 

と言っても、学園都市の外に出るためにはかなりの規制を通過しなければならず手続きも面倒だ。

 

こうなると行くところは必然的に定まってくる、つまり……。

 

 

 

「……金、ホントに吸っちまうんだなコイツ」

 

 

 

あの公園だった。

 

 

 

「まあ、おあいこだろこれで」

 

 

 

七惟は先日同様に、能力を発動して缶ジュースを一本取り出すが……。

 

 

 

「あッ!アンタ!」

 

「……あ?」

 

 

 

声のしたほうを振りかえると、常盤台の制服を纏った少女がそこに突っ立っていた。

 

何処かで見たことがあるような、はて……。

 

 

 

「よくもまあ、また常盤台の通学路になんて来たものねえ……!」

 

「……誰だお前?」

 

「はあ!?こないだ会ったばっかなのにもう忘れたの!?」

 

 

 

初対面の相手にこんなにも怒鳴られるとは……いや、どうやら初対面ではないらしいのだが。

 

少女のつむじからつま先までを万遍なく見渡すと、スカートで視線が止まる。

 

 

 

「ッ!あの時の短パン娘か!?」

 

「そこで思い出すな!」

 

 

 

少女は七惟の言動に憤慨してあからさまに怒りだす。

 

七惟の記憶では彼女は面倒な相手だという認識しかないので、当然彼女を避ける。

 

 

 

「俺は忙しいんだよ、じゃあな」

 

「アンタ、ちょっと失礼過ぎるんじゃない?人をあんだけコケにしておいて、ただで済むと思ってんの?」

 

「るさい、俺はこういう性格なんだ。心底嫌になっただろ?もう関わってくんじゃねえよ」

 

 

 

七惟は自分の性格の悪さを自覚している。

 

たぶん一方通行や麦野と良い勝負だろう、全く学園都市の最高戦力と謳われるレベル5には自分を含めて碌な奴が居ない。

 

少女に背を向けてその場から去っていく七惟だったが……こないだと同様、やはり彼女はただでは逃がしてくれなかった。

 

 

 

「そうね、私はアンタが大嫌いよ……だから、今生の別れを告げて消し炭になれ!」

 

 

 

背後から只ならぬ威圧感と殺気を感じた七惟が振り返ると、そこには全身に電気を帯びて光っている物体が。

 

 

 

「んな!?」

 

「もう二度と私の前に出てくんな!」

 

 

 

光っているのは、あの少女であった。

 

発光した少女は全身のバネをフル稼働させて、光の槍を七惟目掛けて全力で投げつける。

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

七惟は演算を行い能力を発動させ、光の槍の位置をずらした。

 

すると槍は何も無い空間を薙いで行き、大木に突き刺さるとその大木を燃やすどころか文字通り一瞬で灰にしてしまった。

 

おいおい、……これは洒落になんねえぞ。

 

 

 

「何しやがる!」

 

「アンタこそ何したのよ!当てるつもりだったのに!」

 

「ふざけんな!死んでたぞアレ当たったら!」

 

「わけわかんない能力持ってるならそう簡単には死なないでしょ!」

 

「そういう問題じゃねえ!とにかくもうこれで気が済んだだろ!?じゃあな!」

 

 

 

七惟はなるべく少女と距離を取ろうとダッシュでその場から離れるも、やはり彼女は七惟よりも速いスピードで追いかけてくる。

 

 

 

「しつけえぞ!大概にしろ!」

 

「ふん!電気加速すればアンタみたいな優男には負けないんだから!」

 

 

 

電気加速……?

 

さっきの光の槍や、全身の発光などかなり高レベルな技術を使いこなしている。

 

あの短パン娘はおそらくレベル4の電気使いだ、しかし大木を焼き尽くすことが可能な電気を吐きだすことが出来るレベル4が居たとは。

 

 

 

「ちぃッ……高速で動く物体は……!」

 

 

 

互いにかなりの速さで動いている、当然ながらターゲットのロックオンは必然的に難しくなる。

 

 

 

「大人しく消し炭になれ!」

 

 

 

少女は尚も執拗に追いかけてくる、このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。

 

こんなことになるのならこの公園に来るんじゃなかったと激しい後悔をするももう遅い、少女はついに七惟を追い越し目の前に立ちはだかった。

 

 

 

「ふん……もう逃げられないわよ!」

 

「……!」

 

 

 

次の瞬間七惟は相手と自分両者が立ち止まったことを確認すると、瞬時に能力を発動させ少女と自分の距離を1kmになるよう操作した。

 

少女はその直後七惟の目の前から消え去り、その容姿も、どなり声も全く聞こえなくなった。

 

 

 

「ようやくか」

 

 

七惟は全身の力を抜きリラックスする。

 

こういうのを肩の荷が下りるというのだろう、つっかえていたものが抜けおちるのは何とも気持ちがいい。

 

 

 

「ただ……」

 

 

 

ただ、少女がおそらく今後自分の目の前に現れないだろうということは何故か『物足りない』と思ってしまった。

 

 

 

「んな訳あるかっての……」

 

 

 

まさか、そんなわけがあるか。

 

湧きあがってきた感情を否定し、七惟は気だる気に駐輪場へと歩き出す。

 

そう言えば、あれだけのやり取りをしたのに名前も全く聞いていなかったなあと思っていた矢先だった。

 

何かが凄まじい速度で自分の横を通り過ぎる、そして外れたその物体は地面と衝突すると爆発した。

 

 

 

「……まさか!?」

 

 

 

反射的に首を回す、やはりというか予想通りというか名前も知らない電撃少女がそこには居た。

 

般若の形相よろしく、その年でそんなに皺を寄せたら将来が大変だろうに……。

 

 

 

「こないだは突然だったから全然分かんなかったけど、同じ手が2度も通用すると思ってんの!?」

 

「どうして俺の位置が……」

 

「私のレーダー、舐めて貰っちゃ困るわね!」

 

 

 

レーダー……?電磁レーダーか!?

 

つまり、どれだけ離れていようと彼女からは逃げられないということか。

 

だがしかし、七惟とてそれで諦めて大人しく電撃を食らうくらいならば死ぬまで逃げたほうがマシだ。

 

 

 

「〜ッ!諦めろ!マジで!」

 

「あ!待てって言ってんでしょー!」

 

 

 

こうした二人の鬼ごっこが、それから数日幾度も学園都市では見られたらしい。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

「いてえ……身体のふしぶしが」

 

 

 

七惟は目覚めると猛烈な筋肉痛に襲われていた。

 

あの短パン娘と鬼ごっこを初めて早2日、身体中が七惟の代わりに悲鳴を上げていた。

 

 

 

「ッ痛!」

 

 

 

今日のところ出かけるのはよしたほうがいい、家で本でも読みながら休まなければ布団から起き上がることもままならない。

 

あの少女はいったい何が楽しくて自分を追いかけているんだろうか、こんな気味の悪い能力の持ち主というのに。

 

 

 

「……仕方ねえ、窓全開にしてと」

 

 

 

家にとどまることを決めた七惟だったが、それでもクーラーは付けない。

 

付けるくらいならばそれこそ全身筋肉痛の身体に鞭を打って少女と鬼ごっこしたほうがいい。

 

 

 

「課題でもやるか」

 

 

 

七惟はやることも無く、家に閉じこもらなければならないということで気を紛らわすため上条と同じく課題に着手する。

 

見ると中学時代に教わったものばかりでまるで3年前に戻った気分だ。

 

まあ……底辺学校のカリキュラムなんて、こんなものなのだろう。

 

 

 

「やっちまうか」

 

 

 

埃を被った参考書を取りだし、課題に着手する七惟。

 

七惟も何だかんだでレベル5のはしくれである、一度やり始めたらその集中力は並み以上だ。

 

昼から初めて夕方、時間帯は5時になっておりこれで三分の一が終わったくらいか。

 

 

 

「えらく簡単だな、中学のほうがまだ難しかったぞ」

 

 

 

七惟は中学は一応長点上機の下位組織である学校に通っていたため、頭の良さは間違いない。

 

そのせいで中途半端なプライドが当初はあったのは言うまでもない、今となってはそんな陳腐なものはかけらも無いが。

 

ただ、長点上機に入れなかった当時は生きていることを否定されているかのような気分だった。

 

元々生きているのか死んでいるのかもわからないような奴が何を言っているのかと言った感じなのだが。

 

小腹もすき、シップのおかげでだいぶ筋肉痛もマシになってきたので買い物に出かけるか。

 

 

 

「ったく……あの短パン、どうしてくれんだか。さて……」

 

 

 

マシにはなったがやはり歩き始めはしんどいもの、キーケースまで歩くことすら億劫だ。

 

しかし食べなければこの空腹は収まらない、七惟は机に腰掛けたまま玄関付近のキーケースから鍵を可視距離移動させようとするが……。

 

 

 

「あ……?」

 

 

 

ぼとり、と鍵は七惟の手元まで飛んでくることなくその場に零れ落ちた。

 

演算ミスか……?もしくは地震でも起きて物体が定位置から移動したか?

 

まあ取るに足らないことだ、と仕方なく立ち上がり落とした鍵を取りに行くが……。

 

 

 

「……まぁ別に今すぐ買い物行かなくてもいいか」

 

 

 

何故か買い出しに行く気力を失ってしまった。

 

先ほどまではこの自己主張してくる小腹を治めるためにと動いたのに、今はもうスーパーのタイムセールまで我慢すればいいかという気分だ。

 

……調子が狂う。

 

 

 

「なんなんだよ………………あぁ?」

 

 

 

踵を返そうとしたその瞬間、視界の隅に先ほど落下したバイクのキーが入る。

 

不発に終わった能力、突然の空腹のおさまり、気分の転換。

 

何かが、おかしい。

 

不自然だ。

 

 

 

「……取り敢えず拾うか」

 

 

鍵を拾い、注視するも全く鍵に異変はない。

 

そりゃあそうかと納得しようとしたが、何時もの自分なら間違いなく納得しないことに気付く。

 

あからさまに可笑しい。

 

何かの力が働いているとしか思えない。

 

そもそも能力の不発は何かしらの妨害が入ったからではないか……?

 

気になって周囲を見渡しても此処は自室、先ほどから何も変わったモノはない。

 

じゃあ外は?……何かの事象がAIM拡散力場に何らかの影響を与えているのか?

 

探ってみると、明らかに通常では有りえない力場になっている、そしてその源は外からだ。

 

らしくない自身の思考に戸惑いながらも全てを気のせいか、とは流せず外の様子を探ろうとドアノブに手をかけた。

 

 

 

「熱い……?」

 

 

 

ドアから異常と感じる程の熱波が押し寄せてくる、これだけ暑ければ部屋内部にその熱が届いてきてもおかしくはないのだがドアから半歩下がったところではその熱を感じない。

 

いったいどんな原理が働いているのかはわからないが、外の様子を見たほうがいいのは確かだ。

 

意を決して七惟が勢いよくドアをぶちあけると、そこにはこの世のものとは思えない、炎を纏った巨人が聳え立っていた。

 

 

 

「七惟!?何やってんだ早く逃げろ、死ぬぞ!」

 

 

 

声を掛けられてはっとする。

 

声の主はクラスメートの上条で、対峙しているのは炎を纏った巨人だった。

 

 

 

「なんだコイツは!?」

 

 

 

七惟が後ずさると何かにぶつかり反射的にそれを見やると、白い修道服を纏った少女が背中から大量の血を流して倒れていた。

 

隣には赤髪にピアスをして、眼の下にバーコードのような痣がある男がこちらを見下ろしている。

 

この巨人、最初は発火能力者が生みだした人形かと思ったが、ソイツはまるで自らの意思で動くかのように上条を狙い攻撃している。

 

確かレベル5に発火能力者の者はいない、可能性があるのならばナンバーセブンの削板とかいう頭のネジが数本緩んでいるのではと思わせる男だけだが、彼が一般人を攻撃してくるとは思えない。

 

 

 

「おや、人払いをしたというのに……どういった手違いが」

 

 

 

七惟でも、上条でも、巨人のものでもない声が背後から聞こえてくる。

 

 

 

「悪いがキミにも消えてもらわなければならないようだ」

 

 

 

巨人が上条への攻撃を一旦止め、七惟へ右の拳を繰り出す。

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

七惟はその場から動かない、容赦なく襲いかかる炎の拳だったが軌道が途中で不自然に逸れて拳はコンクリートの廊下を抉る。

 

 

 

「クソッ……熱は防げねえぞやっぱ」

 

 

 

七惟は顔を顰めて焼き切れたズボンのベルトを見やる。

 

彼の能力は直接的な攻撃は当然防げるのだが、熱エネルギーは防ぐことが出来ない。

 

状況が全く把握出来なかった七惟だが、一つだけわかったことがあった。

 

それは自分の命も危険にさらされているということだった。

 

 

 

「七惟!大丈夫か!?」

 

「ッ……てめえに心配されるほど俺は弱かねえんだよ」

 

 

 

無能力者に気を使われたことにいら立つが今はそれどころではない、この得体の知れない化け物を片付けなければ命に関わる。

 

しかし自分も含めて、これだけの轟音を立て熱を生み出せば誰かが気付くだろうに何故誰も気づかなかった?

 

 

 

「さあて、消えてもらおうか!」

 

 

 

巨人が七惟と上条に向かって飛びかかる、上条は右手を翳してその炎を無効化するもまるで炎が衰える様子はない。

 

異能な力全てを無効化する『幻想殺し』が効かない……?

 

 

 

「コイツの炎、消える手前で復活してんだ!」

 

「んなこと見ればわかるっての」

 

 

 

目の前には炎を纏った巨人。

 

 

 

「ふう、もうこれ以上は時間の無駄だね。お遊びはお終いだ」

 

 

 

背後には手から炎を生み出す赤髪の男。

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

上条が苦虫を噛み殺したかのような表情を浮かべる。

 

確かにこのままでは二人共々あの焔で消し炭に……そこで七惟ははっとした。

 

この炎の巨人がどういった原理で動いているのかは理解出来そうにもないが、奴の力を無効化することならば出来る。

 

そう……あくまで『幾何学的な』事象では、あるが――――――。

 

 

 

「おい、上条」

 

「なんだ!?」

 

「あの巨人と酸素の関係を希薄にすんぞ……あとは分かるな!どけ!」

 

「お、おい!七惟!」

 

 

 

七惟は上条を押しのけて炎の巨人と対峙する、やはりと言ったところか凄まじい熱だ。

 

上条の幻想殺しがなければ直接的には防ぎようがないだろう、しかし何も無理をして自分から手を出すことはない。

 

炎が燃えるには当然酸素が必要だ、酸素がなければ炎は燃えることなく鎮火する。

それがどれだけ高熱を帯びていようが関係ない、マグマなどの類ではなく炎である限り……な!

 

七惟は演算を開始し、巨人と周囲を取り巻く大気の関係を弄りまくる。

 

すると…………。

 

 

 

「イノケンティウス!?」

 

 

 

先ほどまで澄まし顔だった赤髪の男の表情が豹変する。

 

イノケンティウスと呼ばれた巨人はみるみるその形状を保てなくなり、小さくなっていく。

 

最後には耳を劈くような雄たけびと共に、消えて行った。

その直後に七惟の背後で鈍い音がしたかと思うと、目の前が一瞬ホワイトアウトする。

 

 

 

「……上条?」

 

 

 

彼の視力が戻ってきた時には、上条も血まみれの少女も、赤髪の男も、そしてあの焔の巨人も居なくなっていた……。

 

 

 

 

 


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