とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
結標と別れた七惟はその後何事も無くいつも通り自宅へと向かっていた。
数分歩いたところでようやく遠目から自宅が確認した時に、異変は起きる。
七惟が自宅を遠くから見た時、何故か自宅の電気がついていたのだ。
家を出たのは朝で、消灯した覚えはある。、
電気をつけて空き巣稼業にいそしむ馬鹿はいないはずだ、となると空き巣以外の誰かが今自宅には居て、リラックスしてテレビでも見ているのか。
となれば考えられる人物は数人しか当てはまらない、隣に住んでいる上条はこんな常識外れなことはするはずもないし、家の鍵も開けられないだろう。
そうすると自然に該当する人物は絞られていくわけで。
「あー、超だるいです待ってるだけなんて……早く家主は帰ってこないですかね」
「……」
七惟宅に我が物顔で居座る世間知らずな奴は絹旗最愛だった。
予想出来なかったわけではない、予想通り過ぎて全身の力が抜けるのを感じる、どうして自分の周りに居る奴らはこうもわけのわからん奴らばかりなのか……。
帰宅した七惟に絹旗が気付き声をかける。
「超七惟じゃないですか、イタリアから帰ってきたなら連絡の一つくらい超入れて欲しいです」
「おいコラ。もう監視終わったんじゃねぇのかよ」
「まぁまぁそんな超細かいことを気にしないでください。今日は七惟にとっておきの情報を持ってきてあげましたから」
「お前のとっておきなんざ俺に百害あって一利なしもいいとこだろ。さっさと荷物まとめて俺の部屋から出て行け、光速よりも早く」
絹旗は七惟の言葉を右から左に受け流し、ポーチの中身をがさごそと漁る。
取りだしたのは一枚の折りたたんであった紙切れであった、七惟は訝しげにそれを見つめる。
「……見るからに、まともなモノじゃないな」
「まさか、私がそんな超危険な物運んでくるわけないじゃないですか」
「その口が言うかその口が……」
「はい、どうぞ。予想はついてるかもしれませんけどね」
「……」
絹旗の表情は変わらないが、声色は先ほどのおちゃらけたものから変わり硬く重いものへと変化した。
すなわちこの紙を開き内容を確認した瞬間から何かが始まるのだろう。
絹旗は七惟の予想が間違っていないと言っている、そして先ほど結標から受けた忠告……これらが意味することはたった一つしかない。
『アンタにちょっと見せたいモノがあるんだけど、第19学区防災センターに来てくれない?私は準備で忙しいから、伝令は絹旗に任せてる。このご時世に手紙なんてモノ出される時点でちょっとは察しがつくかしら?それじゃあ待ってるわ』
予想通り差出人は麦野であった。
書かれている内容は少し意味不明だが、『このご時世に手紙』で察しがつかないほど七惟は平和ボケはしていないつもりだ。
つまり今から七惟の借金の元凶である19学区の防災センターとは名ばかりの研究施設に赴き、そこで麦野と会って七惟にとってアンフェアな何かをする……。
『何か』
それが何なのかは分からないがおそらく唯では済まないだろう、少なくとも麦野と一戦交える程度の覚悟は必要かもしれない。
わざわざ指定しているのがあの馬鹿広い場所なのだ、あそこならば麦野の能力も思う存分発揮出来る分性質が悪い。
しかし断ることが出来ないのは七惟には分かっていた。
七惟がイタリアで休暇を過ごしている間、アイテムはおそらく七惟を引きこむためにあれやこれやの策を巡らしていのだろう。
そして万全の準備を持って今日この日を迎えた、もし此処で拒んでも絹旗がこのまま大人しく帰ってくれるとは思えないし、彼女を気絶させて送り返したとしてもアイテムの下位組織の人間達が七惟の家に大挙して押し寄せるかもしれない。
もしかしたら隣人の上条を人質にとったり、インデックスを兵糧攻めにしたり、ミサカを人質に取るなどの強硬手段に出ることも考えられる。
いずれにせよこちらの精神に多大なダメージを与えて揺さぶってくるのは間違いないだろう。
諦めて、麦野の呼びかけに応じるしかない。
…………アイテムに入るかどうかは別問題だが。
「すぐに行けってのか?」
「む、流石七惟です。超察しがいいですね」
「そこまでボケてねぇんだ残念ながら」
「バイクに乗っていくんですよね、私も後ろに超乗らせて貰いますよ」
「……」
七惟は半ヘルを絹旗に押し付け、自分はフルフェイスを被る。
そう言えば半ヘルを貸したことがあるのはミサカ以来だ、そしてあのバイクに自分以外の誰かが乗るのも……
だが今はそんな思い出に浸っている場合ではない、思い出に浸る時間があるならば自身の身の安全を考えたほうがいい。
「お前は何も聞いてねぇのか絹旗、流石に向こう行っていきなり麦野のメルトビームくらっちゃ話すのも話せねぇぞ」
「超残念ながら私は何も。これは麦野と上の判断のようですからね」
「お前は何も知らないとでも?」
「全く、とは言いませんがあまり。それに口止めもされていますし」
麦野とアイテムに伝令を送る上層部の人間が今回の黒幕。
となると自分が所属しているカリーグは既に全滅させられたか、もしくは圧力で黙らされているのか……。
どちらにせよ今回の件がばれればカリーグの上位組織が黙っていないだろうし、その粛清は七惟に向けられるかアイテムに向けられるか分かったものではない。
何をするにも命懸け、か……。
「行きますよ超七惟。さっさと終わらせて私は七惟の家でテレビが見たいんですから」
「今から予測不能な事態が起こるかもしれねぇってのにお前は……」
「超大丈夫ですよ、七惟が思っているような事態にはきっとならないと思います」
「……だといいがな」
自分の心の中にあるもやもやを感じながらも、七惟は身体を奮い立たせた。
二人は家を飛び出し、夜の闇へとバイクを走らせて消えていく。
心なしか七惟のスロットルを回す力が弱かった。