とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Unfair-3

 

 

 

 

 

第19学区防災センター。

 

一方通行、御坂美琴、御坂19090号と戦った場所であり七惟にとっては借金の元凶ともなった場所だ。

 

再びこの場所に足を踏み入れるとは考えたこともなかっただけに、何だか感慨深いものがある。

 

「中で麦野が超待ってます」

 

「催促すんじゃねぇ」

 

「これが私の仕事なんで」

 

絹旗が七惟の背を押し無理やり防災センターの門をくぐり抜けさせる。

 

「おい……こちらも心の準備ってもんがな」

 

「何を言っているんですか、らしくないですね七惟」

 

らしくないも何も今から第4位とドンパチやるかもしれないと考えて、心の準備なんざ要らんという奴は一方通行と垣根くらいだろう。

 

少なくとも自分は第7位の原石、第5位の心理掌握に勝てそうにもないし第3位の超電磁砲には実際負けているのだ。

 

意識していなくても身体が硬くなってしまうのは当然だと思うのだが。

 

「ほら!超早くしてください!」

 

「ッ」

 

結局絹旗の押しに負けていやいや門をくぐるはめとなった。

 

中はやはり荒れ果てた地面が広がるばかりで、廃墟となかった研究所や七惟の能力によって破壊されたコンクリートの壁の残骸が目に付く。

 

そんな殺伐とした大地でこちらに手を振りながら見つめているのは麦野沈利、崩れた瓦礫の一角に腰を掛け、こちらが気付いたことを確認すると立ち上がった。

 

麦野がゆっくりと近づいてくる、自然と身体に力も入る。

 

「ようこそ七惟。待ってたわよ?」

 

まず声をかけたのは麦野だった。

 

明らかに歓迎されている雰囲気ではないというのに、ようこそとは恐れ入る。

 

「俺はお前に待っててもらう筋合いはねぇよ。つうかお前一人か」

 

「まぁね、今のところは。それよりもイタリアでバカンスを満喫したなら、気分も一新したでしょ?」

 

「おかげさまでな」

 

「ならアイテムに入るっていうのも考え直してくれたかしら」

 

やはりか。

 

予め予想出来ただけに驚きもしないが、対策も何も出来ていない。

 

ここは自分の考えを貫き通すのがいいはずだ、少なくとも今の自分は麦野と共に仕事をやるなどといった馬鹿みたいな未来はイメージ出来そうにもない。

 

「まさか。俺はアイテムに入るつもりはねぇよ、元よりお前と一緒に働く自分をイメージ出来ねぇからな」

 

「そぅ、でも私はアンタをアイテムに入れたいの。カリーグ?だったかしら、アンタが今所属してるの」

 

「まぁな」

 

「あんなちっぽけな下位組織、使い捨てにされるだけよ?余程私と一緒にアイテムで頑張ったほうがいいと思うけど」

 

「あんなちっぽけだからいいんだよ、これ以上でかくなるとそれこそ『殺し』が絡んでくるからな」

 

殺しが出来ない七惟はこれ以上組織のランクが上がったりすればいずれ何処かで支障が出る。

 

殺しが出来ない奴は使えない、それが暗部のルールだったはずだ。

 

麦野だってそれを知っているはず、それなのに何故自分をこうも味方にしようと突っかかってくるのか……。

 

残骸を運んできた時からずっと疑問に思っていたことだったが、やはり答えは見えてこない。

 

それに麦野は自分がアイテムに入ったらどうするつもりだ?

 

フレンダはともかく、麦野とはかなり凄惨な殺し合いをした記憶がある、あれだけのことを互いにやっておいて全てを水に流そうというのか?

 

そんなことは一方通行と仲良しになることと同じくらい不可能なことだ。

 

「どうしても入りたくは無いってわけか……」

 

これだけ拒否の意思を見せても麦野の顔に落胆の色は滲まない、あの黒い笑みを顔に貼り付かせたままだ。

 

何かよからぬことを企んでいるはずだ、さてどういった外道なやり方でこちらを攻めてくるか。

 

「絹旗から話は聞いてると思うけど?」

 

「話……?」

 

麦野の言葉に目を細めて答える。

 

 

 

 

 

「滝壺のことよーん」

 

 

 

 

 

「…………あの天然脱力系がどうかしたのか」

 

「とぼけちゃってどうしちゃったのかしら?もしもアンタが『No』と言ったならばアンタのお気に入りの滝壺ちゃんはドカーン!っといっちゃうんだけどねー。はずみで腕の1本や2本がもげちゃうかも」

 

滝壺が……ドカン……!?

 

その言葉に七惟は目を見開くも、状況を整理しようと何とか平静を装う。

 

「滝壺が……ドカン、ねぇ。初めて聞いたぞんなこと。なぁ、絹旗?」

 

七惟は後ろで待機していた絹旗を見やると、彼女は七惟と視線を合わすことなく俯き沈黙を守る。

 

「もしかして絹旗言ってなかったのかしら?まぁいいわ、どの道知られるタイミングが遅くなるか早くなるか変わるだけだものね」

 

「は……えげつない条件だなおい」

 

「さてどうするのかしら?まぁ私も大事な仲間の滝壺をドカーンなんてしたくないのよねー。でもアンタが拒否しちゃうんじゃ、しょうがないかな?」

 

「……」

 

滝壺を人質か。

 

今までの麦野沈利という人間性から分析するに、これは脅しなどではなく本気だ、自分が首を横に振ったら本当に滝壺はドカーン、といってしまうのだろう。

 

この場に居るのは麦野と絹旗、おそらくフレンダと滝壺は隠れてタイミングを見計らっているはずだ。

 

七惟は自分に与えられた選択肢と状況を再度整理してみる。

 

麦野は七惟にアイテムに入れと言っている、入らなければ滝壺の腕を能力で破壊すると脅迫してきた、これは冗談ではなく本気だ。

 

滝壺の能力は両腕が無くても別に発動出来るし、無くなったところで精度が落ちるわけでもない。

 

そして自分と滝壺が大覇星祭で共闘してある程度の仲になっているのも考慮してこのような作戦に出たのだろう。

 

自分以外を傷つけるのは全く厭わない、相手が嫌がることを全力を持って躊躇なく実行する女、それが麦野沈利だ。

 

後方に居る絹旗は未だに俯いたまま沈黙を守っている。

 

何を考えているのか知らないが、自分に滝壺のことを言わなかったのはそのことを知られたくなかったからだろう、何故そんなことをしたのかは考えたくも無い。

 

姿の見えないフレンダは滝壺を拘束しているはずだ、そして自分が断れば麦野の能力でまずは腕の1本……そして2本と。

 

「答えは?私もそこまで気が長いほうじゃないから気を付けたほうがいいわね」

 

与えられた選択肢は……。

 

まず絹旗と麦野の両方をぶっ飛ばし、隠れているフレンダから滝壺を奪い取る。

 

しかしこれは現実的ではない、第一麦野に勝てると自信がないし、それに絹旗というレベル4も加われば勝てる可能性はぐっと落ちてしまう。

 

もう一つはアイテムに入る、つまり麦野の軍門に下る。

 

そうなればカリーグからの報復攻撃は間違いなく来るだろう、そしてアイテムに入った自分は『殺し』をしなければならない仕事にいずれ巡り合ってしまう。

 

最後は滝壺を見捨てて自分だけのうのうと暮らすというモノだが、こんなものは始めから却下だ。

 

二つに一つ……自分自身の安全を取るか、それとも滝壺の安全を取るか。

 

不穏な動きを見せれば唯では済むまい、この場はなるべく麦野の機嫌をとっておいたほうがいい。

 

「まだかしら?そろそろ滝壺が五体満足じゃ居られないかもね」

 

与えられた時間は、もう30秒もない。

 

「あと10秒上げるわ、9……8……7……」

 

滝壺は……滝壺理后は、七惟理無にとってどんな人間だ?

 

「6……5……」

 

今まで自分が相手をしてきた人間とは違う、特別な人間のはずだ、大覇星祭を楽しめたのは彼女と一緒に『陣取り』を全力で取り組んだからだ。

 

「4……3……」

 

そんな彼女が腕を無くして苦しんでいる姿を見たいのか?此処で麦野達と戦って彼女が無事で居られるという保証があるのか?

 

「2……1……」

 

自分はまだ身を守る術を持っているが彼女はどうだ?持っていないだろう。

 

いや、そもそも滝壺を危険に晒すという選択肢事態がどうなんだ……?

 

「……0。返事は?」

 

決まっている。

 

最優先は滝壺理后、そこから生まれる苦しみは七惟理無が背負うべきだ。

 

 

 

 

 

「…………わかった」

 

 

 

 

 

「何が分かったのかしら?」

 

 

 

 

 

「そっち側に入ってやるよ」

 

 

 

 

 

滝壺の腕が無くなり苦しむ姿を見るくらいならば、自分が苦しんだほうがまだマシだ。

 

 

 

 

 

 

 


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