とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Labyrinth of Nightmare-3

 

 

 

 

 

七惟理無の目の前には、一人の東洋出身の女がいる。

 

そいつは神の右席と名乗り、奇声を上げながら剣を振り上げ、七惟に容赦なく叩きつけてきた。

 

剣は両刃で不気味に揺れている、違和感を覚えた七惟は自分と剣の間にそこらへんに転がっていた鉄柵を転移させる。

 

本来ならば鉄柵相手に振り下ろせば、剣は刃毀れしてしまうため、使用者はその軌道を逸らす。

 

七惟も同様にそれを狙ってやったのが、女は構うことなく勢いよくそのまま剣を振り下ろした。

 

すると鉄柵は剣に触れた瞬間まるでトマトのようにさくっと綺麗に分断されてしまい、凶刃は何の迷いも無く自分に向かってきたのだ。

 

揺れる刃は始めからおかしいとは思っていたが、いったいどんな力でその形状を維持、理解不能なキレ味を再現しているのか見当もつかない。

 

七惟は身体を逸らして剣の軌道を避ける。

 

「えー!?誕生日プレゼントは要らないの!?女の子からのプレゼントは受け取るモノなんだぞー!」

 

「馬鹿みてぇなこと言ってんじゃねぇ」

 

距離操作で女を引きよせて槍をその土手っぱらに突き刺すが、切っ先は黒い渦に飲み込まれる。

 

「くッ…………」

 

「だーかーらー!む、だ、な、の!」

 

黒い渦に飲み込まれた槍はいくら引いても取れそうにも無い、女の第二波が飛んで来る前に七惟は手を離し再び距離を取る。

 

直接攻撃はあの渦に飲み込まれて効かないらしい、ならば……!

 

周囲にあった電灯を根元から能力でへし折り最高速度で七惟はそれを女に向かって投げつける。

 

「へー!すっごーい!でーもー!」

 

女の目の前に再び電灯と同じ大きさの黒い渦が現れ、有無を言わさず電灯は呑みこまれる、そして――――。

 

「後方ちゅーい!電灯が通りまーす!」

 

「なにッ!?」

 

振り向けば先ほど飛ばした電柱が背後から凄まじいスピードで飛んで来る、絶対等速の電柱の破壊力は凄まじく七惟の骨など簡単に粉々にしてしまう。

 

間一髪で電柱を避けると、揺れる刃が七惟に迫る。

 

それも何とか時間距離操作で交わすが。

 

「……ッ!?」

 

何故か数瞬後には能力が効かなくなったようにスピードが戻る。

 

がむしゃらに動き刃は避けたが、振り下ろした腕を横に振り柄の部分で七惟の肩を思い切りたたきつけた、避ける術がなかった七惟はもろにその衝撃を受けてしまう。

 

「がぁ!?」

 

数メートル地面を転がり、ホームの柵で何とか止まる。

 

時間距離操作が……効かない、のか。

 

「へぇー!キミも時間操作関係のスキルを持ってるんだねー、でもアタシの力はそんなちんけなもんじゃないんだよぉー!」

 

口に鉄の味が滲む、溜まったものを吐き出し、悪態をつきながら立ち上がった。

 

「はッ……さも自分は特別だと言いたげだな、てめぇ」

 

まだ身体の何処かに異常が出たわけではない、戦える。

 

この女の力が全く分からない、あの黒い渦もそうだが一瞬時間距離操作が効いたようですぐに解除されたというのはどういうことだ。

 

距離操作が全く効かないというわけではないのでベクトルを操る術ではない、いったいこの女の術式は……。

 

とにかく上条と合流したほうがいい、魔術戦に関して七惟はド素人過ぎる。

 

「あーあ!もっと面白いことはしてく、れ、な、い、のー!?なら大人しくこの剣の錆になってくれない!?なんちゃってー!」

 

女は再び剣を振るう、大ぶりだが第二波第三波を考えて振っていることを頭に入れておかなければ致命傷になりかねない。

 

七惟は女の背後に落ちていた槍を可視距離移動でこちらに引き寄せる、二人は直線状に立っているため槍は女の急所、背面に突き刺さる筈だが……。

 

やはりこれもダメだ、槍は女の身体を絶対等速状態で突き抜けてはこない。

 

「同じことばっかだなぁ!つまんないわぁ!」

 

刃を交わしたその先に、今度は横から自分の槍が飛来する。

 

絶対等速状態の槍が七惟の頭目掛けて飛んで来る、七惟は槍を頭上に転移させ、逆計算で絶対等速を殺すと、槍を握りしめ女の突き出された切っ先を防ぐ。

 

結標や七惟と能力が似ている、しかしあの黒い渦はなんだ……?奴の身体周辺に生まれるようだが。

 

「対して私はこんなこともできちゃったりー!」

 

女は剣を握っているのとは別の手を目の前に発生させた黒い渦に突っ込む、すると七惟の目と鼻の先から突如女の手が現れ思い切り顔面を殴りつけられる。

 

「ンだとッ……!?」

 

「あっはっはー!さー、らー、にー、ねぇー!」

 

今度は足の周辺に渦を発生させそこに右足を突っ込むと、態勢を崩した七惟の脇腹付近に突如として現れ、蹴りが叩きこまれた。

 

「ぐ……うッ」

 

まだ女の攻撃は止みそうにも無い、これ以上続けられては……!

 

七惟は女を自分の周囲から最大限離す演算式を組み立て、何とか次の攻撃に移る前に視界から消し去ろうとする。

 

実際その演算式は完璧で、七惟の目の前から数秒の間女は消えた。

しかし――――。

 

「わったっしっの渦はそんなんじゃ止められないわぁ!」

 

女は再び七惟の前に黒い渦を出現させてそこから現れる、これもダメか……!

 

となるとこの女から七惟が逃げ切る術はない、実力で退けない限り地の果てまでも追ってくるだろう。

 

コイツの能力の正体……空間移動系なのは間違いないが、あの黒い渦は原理が不明過ぎる。

 

何処でも出現するあの黒い渦は演算も必要ないようだし、突っ込んだモノを任意の場所に転移させるというのは触れる必要も座標をくみ取ることもない。

 

「ッ!」

 

七惟は今度は周囲にある複数のベンチを四方八方から女目掛けて投げつけるが、それらは今度は目に見えて遅くなったかと思うと、ベンチだけではなく七惟自身のスピードも間違いなく落ちている。

 

そしてその影響は七惟だけではなく女にも及んでいるようで、彼女が釣りあげる口端が目に刻まれるようだ。

 

この女の時間操作……七惟のように対象一つではなく、もしや空間全体に影響している!?

 

再び時間の流れるスピードが元に戻ったかと思うと、やはり黒い渦にベンチ達は吸い込まれて逆に四方から七惟を容赦なく襲う。

 

死角からも繰り出されるベンチ、目の前には剣を構えて迫りくる女。

 

必死の思いでベンチを避けて剣を槍で受け止めるも、黒い渦に女が右足を突っ込む。

 

すると今度は七惟の頭上からその足が落ちてきた、脳天を思い切り踏みつけられた七惟は舌は噛み千切らなかったが、脳がシェイクされ視界が霞む。

 

その隙をついて女は渦に剣を握っている右手を入れ、気付いた七惟がぎりぎりで回避行動を取るも、肩辺りに現れたその剣は七惟の肩の表層を抉りとり出血した。

 

「へぇー!今のを避けられるなんて思わなかったぁ!この『台座のルム』と此処までやりあえる人と会うのはひーさーびーさーだぁー!」

 

「『台座のルム』……」

 

息も絶え絶え、このままではやられるのも時間の問題となってきた。

 

そもそも一方通行ですら歯が立たなかった相手かもしれないのだ、そんな化物相手に第八位如きが勝てるのか……。

 

「ここで自己しょうかーい!アタシは神の右席、『台座のルム』!カマエルの性質をもっちゃったりしっちゃってるえらーい少女なんだぞー!」

 

その年齢で少女はないだろうと思う余裕さえ七惟は失いつつある。

 

カマエル……分からない、十字教の重要な人物なのだろうが魔術や宗教に疎い七惟がそんなことを知っている訳がなかった。

 

確か『エル』はヘブライ語で『神』という意味だ、『カマ』が何を意味するか分からないが『神』同等の何かをコイツらは持っている。

 

「そうかぃ、敵にそんな情報与えちまっていいのかよ」

 

「これは此処まで頑張って辿りついたキミへのクリスマスプレゼーンツ!でも残念ながらお正月のお年玉はないぜぇー!」

 

この時期にクリスマスとお正月とはどういうことだと突っ込む暇もなくルムは攻撃を仕掛ける。

 

刃が揺れる剣が深々と地面に食い込む、美琴の砂鉄剣のような恐怖のキレ味を誇る凶器を思う存分振り回し、七惟に反撃の余地を与えさせない。

 

そもそも反撃も何も、七惟の攻撃は全てルムの黒い渦に飲み込まれてしまうためこのままではルムにかすり傷一つ付けられないだろう。

 

時間距離操作も空間の時間を掌握しているルムには効果がない、同じ能力者として考えてみても七惟の能力の完全に上を行っている。

 

やはり此処は殺す覚悟で転移攻撃を行わなければ……自分がやられる。

 

その考え方に、今まで『死』に対して異常な程恐怖を抱いていた脳がブレーキをかける、それでいいのかと。

 

自分は『死』が大嫌いだ、自分が死ぬのは当然だが、誰かが目の前で死ぬのだって嫌いだ、自分が直接手を下して殺してしまうのはもっと嫌いだ。

 

ミサカ10010号が死んだ時だって、直接見はしなかったがその後まるで鬱のようになってしまったのはまだつい最近のこと。

 

だがやらなければ、自分がやられる。

 

もし自分が死ぬことと、目の前の女が死ぬこと。

 

最悪のシナリオはどちらだ?

 

そんなのは決まっている、少なくとも他国に侵略してドンパチやっているような女と比べて、まだ自分のほうがまともだ。

 

まともなほうが、生き残っていいに決まっている。

 

相手が『死』の恐怖を振りかざすならば、それに対抗すべくこちらも『死』という最大の暴力を持って、相手と対峙するしかない。

 

そうする以外に、道は無い。

 

遂に七惟は女の腸目掛けて転がっていた金属片を転移させることを決心した。

 

自分が生き残るためにはこの女を殺すしかない。

 

そうしなければ女は止まらない、自分が死ぬまで追いかけて来るに決まっている。

 

丸1年ぶりに七惟は対人体用の転移演算を行った。

 

手が一瞬震えた、本当に殺して良いのかと理性が最後の警告を発していた。

 

しかしそれでも彼の本能は止まらない、生きる本能が理性を完全に凌駕し女の心臓目掛けて金属片を転移させた。

 

完璧だった、間違いなく女の左心房あたりに金属片は転移し、胸部から身体は破裂し真っ赤な風船の残骸が周囲に飛び散る光景が目に浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目に浮かんだだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移させたはずの場所に黒い渦が発生し金属片は女の身体で発現することなく地面に落ちた。

 

空いた口が塞がらない、というレベルではない。

 

堪らず七惟は数歩下がる、これも……効かない。

 

自身のトラウマを克服し、殺しを出来ないレベル5として生きてきたここ1年のジンクスを打ち破っての攻撃、一方通行の時と同様に手加減など一切していない、出来る筈も無い。

 

なのに、効かない、効果が無い。

 

女は目の前でケタケタと笑っている、対して今自分はいったいどんな表情でこの女を見ているのだろうか……。

 

もしかしたら、心の底では分かっていたのかもしれない。

 

この女には、転移攻撃は効かないと。

 

だから、転移攻撃を出来たのではないか……?

 

「ふふーん!ざ、ん、ね、ん、で、し、た!」

 

女は左手を渦に突っ込んで、今度はその手で七惟の右手を掴むと凄まじい筋力で七惟を線路に放り投げる。

 

鉄のレールが七惟の背中を強打し溜めこんでいた空気全てが押し出される、圧迫された肺が悲鳴を上げた。

 

このままでは……。

 

「終わりー!キューピー三分クッキングならぬ三分殺でしたー!」

 

ルムがホームから七惟が倒れているレール目掛けて剣を突き出しダイブしてくる。

 

とにかく今はそんな馬鹿みたいなことに思いふけっている場合ではない、死ぬ思いで身体を動かしルムの着地点を転移でずらすが、着地した反動を想わせぬ動きでルムは追撃の手を休めることはない。

 

闘いにおける全ての要素でこのルムという女は七惟の遥か上を行っている、とてもじゃないが勝てそうにも無い。

 

せめて……せめてあの黒い渦さえどうにかなれば……!

 

それさえどうにかなれば……!

 

「じゃあーねーん!アデュー!」

 

「ぐッ!」

 

諦めて堪るものかと言わんばかりの形相で、七惟はルムを鉄筋コンクリートの中に転移させる。

 

一般人ならば当然死あるのみだがやはりこの女は普通ではなかった、転移させて3秒後には再び黒い渦と共に現れて綺麗で残酷な笑みを浮かべるばかり。

 

「い、い、か、げ、ん、死んじゃって楽になっちゃえーい!」

 

ずしりと身体に重りをつけられたように全身が重くなる、空間を掌握した時間操作だ。

 

おそらく女は何処に黒い渦を発生させれば最も効率よく七惟を殺せるか探っているはずだ、思考だけは通常のスピードで行われるためこの時間は互いにとって戦略を巡らす時間となる。

 

七惟も今度は可視距離移動の演算式を組み立てる、弾丸は当然ルム本人。

 

もうこれが最後の手段だ、これが効かなければ……。

 

「そぉれ!」

 

ルムの掛け声と共に七惟の周辺360度全てに渦が発生する、これでは何処からルムの剣が飛び出してくるか分かったものではないがそれよりも先に七惟が攻撃する。

 

可視距離移動砲の弾丸となったルムは時速300kmでホームの壁を突き抜け、高層ビルの窓ガラスを突き破り鉄筋コンクリートに埋め込まれるのが目視出来た。

 

しかし、その度に黒い渦が発生し彼女の体は無傷だった、そして七惟が休む間もなく再び目の前に現れる。

 

美琴のようにフェイントや緩急をつけて七惟の能力から逃れることすらしていない、真正面からこちらの攻撃を受けて未だにピンピンしているルムに絶望の色を隠しえない。

 

「あっははは―!戦えない能力者は必要ない!とか叫んじゃったりしっちゃってさぁー!」

 

万策尽きた、もはや七惟がルムを倒す方法はない。

 

最後の残されたのは幾何学的距離操作だがこの状況では何の役にも立たない、そもそも能力や術式が不明過ぎて干渉しようにも何に干渉すれば妨害出来るのかすら分からないのだから。

 

「ッ……ハハ……ハ」

 

最後に残す言葉はどうしようもない嘆きの言葉。

 

自分の無力さを噛みしめながら振り下ろされる刃を見つめる。

 

脳裏に流れる過去の記憶は此処数カ月の綺麗なモノばかりだった、上条と宿題をやった記憶からミサカ19090号をバイクに乗せた記憶など様々な映像が浮かんでは消えていき……。

 

 

 

『死』が近づいてくる。

 

 

 

人間にとって一番の恐怖が、すぐ隣まで、目の前まで、2メートル先にソイツはいる。

 

 

 

吐き気がした、だがその吐き気すら愛おしくなってきた。

 

 

 

生きていると実感する五感の痛みが、気持ち良くなってきた。

 

 

 

だが。

 

 

 

「いつ……わ?」

 

 

 

その時だった、何かを握っている感覚が、自分に安らぎを与えていると実感したところで、脳の何処かで燻っていた感情の暴走が和らいだのは。

 

 

 

視線を目の前の『死』から手に移すと、そこには今も眩しい程輝いている切っ先を持った槍が握られている。

 

 

 

五和の槍。

 

五和は仲間。

 

苦しい時も、悲しい時も、一緒に居るのが仲間。

 

今も彼女はこうやって、『武器』となって自分と一緒に居てくれている。

 

絶命する瞬間も、一緒に居てくれている。

 

そのことを自覚し、ふと思う。

 

……悪くは、ないのかもしれない。

 

心臓の鼓動は驚くほど静かで、頭の中は先ほどと違ってクリアに晴れて、身体全体の力が抜けて行く。

 

「それじゃあ月に代わってお仕置きよー!似てるかしらー!?」

 

ルムの声が頭に響く、後自分の命は何秒か……。

 

五和の顔が脳裏の浮かんだ、あれだけイタリアで馬鹿騒ぎしたのに、まだもっと彼女と騒ぎたいと思っている自分がいる。

 

 

 

 

 

今思えば、精神拷問を行った相手とあそこまで打ち解け会話をし、仲間だなんて……おかしすぎる。

 

上条も良い奴だが、五和は良い奴じゃなくて馬鹿だな。

 

月のマークのピアスとか……美味そうに酒造パスタ食べるとか……どういうことだ。

 

結局月のピアスを買ったが、それは三毛猫の耳につけられてるんだぞ。

 

『絶対に似合います!』って、胸張って言ってたくせに……ざまぁねぇな。

 

俺が勧めた酒造パスタのほうが絶対受けは良かった……だろ。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

 

『死』

 

 

 

 

 

か。

 

 

 

 

 

 

「『界』に干渉、ね。……ッ圧迫されてる」

 

しかし七惟が覚悟を決めて目を瞑ったものの何時まで経ってもルムの剣は振り下ろされない。

 

目を開けて見やると、ルムはぎらついていた目を今度は血走ったモノへと変えて遠くの空を見つめている。

 

やがてその目は学園都市の理事長が居ると噂される窓の無いビルのほうへと視線を移された。

 

するとルムは突然吐血した、それで倒れることはなく逆に強く目を見開き、そのねっとりとざわついた視線を七惟へと向けた。

 

「残念ながら貴方は延命しちゃう、み、た、いー!優先順位がアタシらにもあるからねー!再会!」

 

そう言ってルムは黒い渦の中に身を投げいれこの場から消え去った、取り残された七惟は状況を判断出来ずにその場に立ち尽くす。

 

何の脈絡も無いルムの行動に、七惟は暫し呆然としていた。

 

ゆっくりと頭を整理すると、自分が助かったというのは間違いない、しかし殺す絶対的なチャンスだったはずだ、後数秒もあればこちらを殺せたはず……なのにそのチャンスを棒に振ってまで急ぐ必要があるのか、それとも自分なんざ簡単に殺せるという余裕の表れなのか、殺すのは実はついでだったとでも言うのか。

 

分からないことだらけだが、ルムが見た方向の空はこの世のものとは思えない程巨大な雷光のような羽がゆらゆらと揺れている。

 

……あそこに、あそこに上条も居る筈だ。

 

あの男はどんな時でも必ず事件の中心に居る男だ、自分から安全地帯へと逃げ込むような下手れではない。

 

そして自分もそうだ、このまま引き下がってなるものか・・!

 

ルムを倒す手段なんざ見つかりそうもない、だがそこで上条が、あの馬鹿タレが更なる危険に晒されているというのならば。

 

目の前で死ぬ姿を見るとか、後で死体を見てしまうくらいならば、自分が突っ込んで足掻いてやる。

 

めちゃくちゃに突っ込んで、最後まで暴れてやる。

 

七惟は意を決して光の方向へと走り始めた。

 

 

 

 

 


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