とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Draw in another world ! -1

 

 

 

台座のルムが去ったのち、七惟は彼女が向かった方向へと走る。

 

視線の先には白く煌めく雷光が数十本束ねたモジュールが浮かび上がっており、それは幻想的な光を発していた。

 

羽が大きく揺らげば、プラズマが発生しオレンジ色の光を周囲に撒き散らす。

 

近づく者全てに『死』をもたらす印象ばかり与えてくる存在はまるで……。

 

「天使の羽…………みてぇだな」

 

天へと向かって伸びるその光は、ゲームに出てくる天使のようにも思えた。

 

だがそれは、ゲームやアニメに出てくるように神聖で人々に光を与えるモノではなく、天に向かって反逆を企て堕ちた堕天使にも見える。

 

脳裏に過るのは先ほど戦ったルムのこと、七惟単体ではどう転んでもアレに勝てそうにもないが上条が加われば勝つ可能性はぐんと上がる。

 

大半の機能が麻痺してしまった現状も、現れた天使らしい物体のことも魔術に詳しい上条ならば何か知っているはずだ。

 

道中で大勢のアンチスキルや一般人が倒れているのが分かる、外傷は何処にも見当たらず駅員と同じように有無を言わさず昏睡させられている。

 

ルムは『仲間の天罰術式』と言っていたが、自分がそれの影響下に居ないのは不幸中の幸いというところ。

 

石造りの歩道を痛む足で踏みつけ、血が止めなく流れる右肩を抑えながら七惟は夜の街を駆けぬけて行く。

 

このままだと辿りつくよりも先に出血多量で意識が飛んでしまう可能性が出てきた、それだけは避けなければならないが……。

 

 

 

 

 

「七惟!?」

 

 

 

 

 

足がもたつきふらつき始めたところで自分を呼ぶ声がした、そしてその声の主は予想通り上条当麻。

 

やはりコイツは事件の中心に居た、逃げてこそこそやるなんて性に合わないしそんな上条など七惟も見たくは無い。

 

事件が発生して数時間が経ったが、ようやく二人は橋の上で合流することが出来た。

 

携帯も死んでしまったこの状況で二人が出会えたのは奇跡に近い。

 

「お前大丈夫か!?魔術師の奴にやられたのか!?」

 

上条は七惟に駆け寄り労わるも、その気遣いなど今は不要だ。

 

それよりもやらなければならないことが山積みなのだ。

 

「さぁな……でもお前が相手してたのとは違う奴だ。『神の右席』とか言ってたな」

 

「神の右席……!」

 

「台座のルム……とにかくわけのわかんねぇ野郎だ、俺の力じゃどうにもならねぇ。お前も神の右席の一員に襲われてたらしいが」

 

「あ、ああ。でも現れたあの天使……いや、俺の大事な友達を先に始末するって橋の奥のほうに行っちまった!」

 

友達……ねぇ。

 

橋を渡り切った先のほうに誰かが居るのは何とか肉眼で確認出来た、ソイツは自分の背中から背丈の何十倍もありそうな何重もの雷光の羽を天に向かって伸ばし、頭には天使の輪のようなものを浮かべている。

 

全く……魔術師だけではなく、あんなのとも交流があるコイツは一体何者だよ。

 

まぁそんな化物にすら分け隔てなく付き合える上条だからこそ、七惟も一緒にいれるのかもしれない。

 

「俺はアイツを助けないといけないんだ!」

 

必死の形相を浮かべる上条からして、言っていることは本当だろう。

 

あの天使紛いの存在は上条の知り合いで、友達、おそらく今回の事件の鍵を握ると七惟は考える。

 

「お前も手を貸してくれ、風斬を元に戻す手段があるはずだ!」

 

「……元に戻す、か」

 

どうやってアレを上条の友人だった頃の姿に戻すかなんて、七惟には検討もつかないし不可能にも思える。

 

何より、この切羽詰まった状況で……自分の命が狙われている状況で友人の安否を気遣うとは、何処までおせっかいなんだか。

 

七惟は上条のような綺麗で純粋な真っ直ぐな人間にはなれない、そのことは自分が良く分かっている。

 

今この惨劇の中でも、如何にして自分、上条が生き残るのかの計算しか行っていない、第三者である風斬という少女のことは考えていない。

 

しかし七惟とて、もうこれだけたくさんのコミュニケーションを積んできたのだ。

心の何処か奥底で、出来ればその『友達』とやらもどうにかしなければならないのは分かっている。

 

具体的にはどうするのか何て、助けるのか利用するのかすら分からないが、現状を放っておくことが出来ないことくらいは分かる。

 

だからこそ七惟は上条に確認を取る、あれは本当にお前の友達なのか、そしてアレはお前のことを友達と思っているのかと。

 

「お前はそうだとして……アレはお前のことを友達だと思ってんのか?人間の思考が出来る存在だとはとてもじゃねぇが思えねぇぞ」

 

「風斬はインデックスの最初の友達なんだ!」

 

すると上条は疑いの言葉を口にした七惟の鼻っ面にむんずと割り込む。

 

「夏休みには俺のことを命懸けで魔術師の攻撃から守ってくれたんだぞ!お前まで風斬を否定すんのか!?」

 

理由が分からない魔術師達の攻撃で無差別に人々を傷つけられたことが相当頭に来ていたのか、普段怒りを撒き散らさない上条が感情を露わにしている。

 

上条は七惟の襟元を掴むとぐっと引きよせ怯むような目力でこちらを睨む。

 

「……馬鹿言え、俺が知りたいのはあの堕天使がてめぇを攻撃対象にしねぇのかってことだよ。お前がいくら友達だ友達だと叫んだところでその声は届くのか?冷静になって考えてみろ、元はお前の友達だったかもしれないがな、今の状態は少なくともお前が知っている友達じゃねぇはずだ」

 

「それでも俺は守るんだ!俺が攻撃されようが構わねぇんだ!アイツが傷つくくらいなら俺が傷ついたほうがマシだ!」

 

「…………へぇ」

 

七惟が滝壺を人質に取られた時と同じようなことを考えている上条に、自分自身此奴にかなり感化されてしまっていると感じる。

 

こうなったらもう止められない、それに上条と同じような選択肢を取った自分にそれを止める権利もない。

 

全く……どこぞのオリジナル同様、カメを見習ったらどうだ。

ため息をつき上条の手を乱暴に振りほどく、どの道最初から取る行動は決まっていたのだろう。

 

二人が合流したその瞬間から。

 

「ったく……あのやべぇのが収まったらその友達とやらの面しっかり拝んでやるからな」

 

「……七惟」

 

「二人で考えりゃ少しはマシだろ、お前がアレのことを知ってるってんなら光明が見えて……」

 

七惟が最後まで言い終わる前に、身体がずしりと重くなったかのような、空間全体が重力で押しつぶされているような感覚に襲われる。

 

 

 

 

 

コイツは……自分が美琴の小さなクローンといた時と同じ現象だ!

 

 

 

 

 

「とーもーだーちぃー?あ、れ、が、ねぇ!?あーんなこの世の醜いモノ全てを束ねても適いそうにない穢れた存在が友人だなんて上条君は聖人君子ですかぁ!?それとも聖徳太子ですかねぇ!?」

 

 

 

 

 

「……てめぇ!神の右席か!?」

 

上条が怒りの声を上げる、七惟と上条の前に黒い渦が現れその中から出てきたのはやはり台座のルムだ。

 

「だいせいかーい!クイズ番組はお好きですかぁ!?正解者へのプレゼントはお月見用の人肉団子がいいよねぇ!?」

 

手には刃が揺れる剣、ぎょろついた目は上条達を見つめずにあの天使に向けられている。

 

「ヴェントの本命はアレには効かないかー。ま、あ、……あんな妖怪崩れに効くわけないかー!」

 

「修正しやがれこの野郎!」

 

上条は我を忘れて怒りに身を任す、幻想殺しの力のおかげなのか空間を掌握した時間操作の中でも上条は自在に動くことが出来た。

 

それを見たルムは一瞬不審な目を向けるが、すぐさまニタリとした笑みを張りつけ上条の拳を剣で受け止めた。

 

これではダメだ、上条はあの堕天使が気になってまるで戦闘に集中していない。

 

いつも以上に動きはがさつだし、相手の能力を見もせずに突っ込むタブーを犯してしまっている。

 

このままでは無駄死にも有り得る、さっさと堕天使の元へ行ってインデックスか誰かと打開策を練った方がまだマシだ。

 

案の定上条は突き出されたルムの剣の柄で鳩尾をくらい、右足で蹴り飛ばされ七惟のところまで転がってくる。

 

「上条……」

 

「ぐ……な、なんだよ」

 

「お前、友達が待ってんだろ?さっさと行ってやれ」

 

「え……七惟?」

 

「あの風斬とかいう奴が待ってんのはお前だ、そしてアイツを助けられるのもお前なんだろ結局、違うか?」

 

「お前……」

 

上条は七惟の意図が理解出来ないのかすぐには動かなかった、しかし数秒後には意を決して立ち上がる。

 

「大丈夫なのか、お前さっき自分じゃアイツには勝てないって」

 

「はン……そうだな、5分くらいは足止めしといてやるよ。それ以上は俺の命もお前の友達の命も補償しかねるがな」

 

「七惟!」

 

玉砕覚悟で戦おうとしているのかと勘違いした上条が肩を掴む。

 

「お前そんなやり方!」

 

「俺を誰だと思ってやがる?学園都市が誇るオールレンジだ。そう簡単にはくたばらねぇから……さっさと行きやがれ!」

 

「お、おい!」

 

「さっきの約束忘れんじゃねぇぞ」

 

これ以上この場に上条が居ても事態は好転しない、二人で戦えばルムに勝てるかもしれないが戦闘に集中出来ない上条ではむしろ足手まといになってしまう。

 

それに友人の安全を第一に考える彼の性格を考慮したならば此処で七惟と一緒に居るのは得策ではないのだ。

 

七惟も、天使のことも気にしていては自身の身の安全が疎かになるに決まっている。

 

それで上条が死んでしまったら、元も子もないのだから。

 

「わかった……お前、死ぬんじゃねぇぞ」

 

「……じゃあな」

 

上条は七惟に背を向けて橋の奥へと走って行く、あの先にはおそらく上条を待っている少女と、インデックス……そして神の右席がいあるはずだ。

 

そして自分はこの場所を守らなければならない、この目の前にいる強大な敵から……。

 

「お涙ちょーだい!なドラマ展開は終わりかしらーん!?さっさとキミをミンチにしちゃってあの醜い子をこの世界から消し去ってあげないとねー!」

 

「……わざわざ待っててくれて御苦労さん。好きなだけほざいてろ」

 

「せっかく延命させてあげたのにキミもおバカだなぁ!そんなボロボロな状態で張る虚勢は見ていて惨めなのー!」

 

学園都市最強の距離操作能力者にて序列は8位の『全距離操作』七惟理無と、ローマ正教の秘密組織にその身を置き、闇の闇の、そのまた先の最果てを見てきた『神の右席台座』ルム、相容れない力を持つ者同士が再び刃を交えることとなった。

 

科学と魔術、二つの世界が回り回り、最後には何が生まれるのだろう?

 

 

 

 

 


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