とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
学園都市有数のお嬢様学校として名高い常盤台中学の寮の一室。
そこで一人の少女がパソコンと睨めっこをしていた。
「あー、もう!アイツらの能力のこと全然載ってないわ!」
とうとう根を上げてしまったのは短パン娘、もとい学園都市第3位の御坂美琴であった。
彼女は今、自分をガキ扱いした二人の少年の能力をネットで検索していた。
しかし、どの情報にも彼ら二人の能力は載ってもいない。
特に髪がツンツンのウニ頭のほうは万事休すだ、かすりもしない。
「あっちは……」
あっち、とはあの自動販売機で出会った黒髪で黒の瞳を宿した不良少年のことだ。
あの少年のほうは逆に情報がたくさんあった。
というのも、美琴自身が遭遇した事象があまりに多すぎたためそれを片っ端から検索サイトで調べ上げて行くと処理しきれない量の情報となった。
美琴が経験したのはテレポートのような『空間移動』そして不自然に電流の軌道が逸れる『屈折現象』さらには美琴の電磁加速同様に足が早くなる『身体強化』。
これら全てが出来るのならば、相手は当然多重能力者となってくるのだがそれはまずあり得ない。
しかし現実問題であの少年は目の前でこれらをやってのけたのだ、となれば能力は一つと決まっているはず……。
「お姉さま?どうしたんですの?」
テレポートで現れた黒子が美琴に声をかけた。
「黒子?火事の件は?」
「現場に何の証拠も残ってはいませんでしたわ……あったのは紙きれだけですの。それよりも何か考え事をなさっていたのでは?」
「ええ……ちょっとね。黒子コレ見て」
美琴はそう言って自分を短パン娘呼ばわりする少年に関する能力データを黒子に見せる。
「これを一人の殿方が?」
「そ、コレってどう想う?」
「……空間移動と身体強化は完全に別物ですのよ?」
「万事休すか……」
美琴ががっくりと肩を落とす、結局二人とも有力情報無しと。
此処数日バイク男のほうは毎日追いかけていただけに、徒労感も一際大きかった。
「……もしかすると、距離操作系の能力かもしれませんわ」
静まり返った部屋で黒子がポツリとこぼした。
「お姉さま、レベルアッパーを売りさばいていたあの黒スケのことは覚えで?」
「ああ、アイツね。覚えてるわよ、黒子の鉄の棒が不自然に逸れたって……」
「そうですの、あれはおそらく距離を操作する能力者ですわ。この能力はお姉さまが感じた『屈折』の現象とよく似ていると言われていますの」
「そういうもんなの?」
「ええ、本来ならあり得ない場所からモノが飛んできたり現れたりするのは同じですわ。あと距離を操るのですから当然テレポーターのような空間移動現象も起きますわ」
つまり黒子のテレポートに+αを加えたような能力者か、そこまでは理解出来たが……。
「じゃあさ、最後の身体強化は?」
「それなんですの……そこだけは、私も」
「そっか」
「でも、もしかしたら……」
「もしかしたら?」
含みのある言い方に美琴を若干声を上ずらせる。
もしかしたら、この後輩は知っているのかもしれない。
「距離操作系統の頂点に立つレベル5……『オールレンジ』ならば、それも可能かもしれませんわ」
「オールレンジ……?」
「距離は『二点間の距離』だけを言うのではありませんわ、『時間距離』と『幾何学的距離』が存在しますの」
黒子はパソコンに向かい、コンピュータを立ち上げると手際よくキーボードを打ちこんでいく。
バンクの情報にアクセスした黒子は、表示された画面の一部を指さす。
「この方ですわ、残念ながら『NO IMAGE』となってますの……」
「レベル5……学園都市の第8位!?」
「時間距離と幾何学的距離、この二つの距離のうちどちらかを操ることが出来るのはレベル4以上の僅か数名の『距離操作能力者』(ディスタンス)……そして、両方操ることが出来るのがその頂点に立つレベル5、『七惟理無』ですわ」
七惟理無、全く聞いたことのない名前だ。
「その方でしたら本来距離操作では出来ないようなこともやってしまうかもしれませんの、それこそ身体強化のような……」
美琴に熱心に話しかける黒子だったが、本人にもう彼女の声が届いていなかった。
学園都市第8位、8人しかいないレベル5の末端に属している男。
それ以外のことは能力や名前も全く知らないが、此処までくるとその線のことしか考えられない。
あのバイク男は、七惟理無……。
しかしこのパソコンの画面を見る限りの情報では彼が一体どれだけの力を秘めているのか分からない。
また写真がないため美琴が会った『ディスタンス』が七惟理無なのかも定かではない。
ただ、同じレベル5の直感だというのだろうか、美琴には確信があった。
あのバイク男は間違いなくレベル5のオールレンジ『七惟理無』だ……!