とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版 作:スズメバチ(2代目)
炎の巨人が七惟と上条を襲った事件の翌日、七惟は同じように襲われたクラスメートのことが気になり彼の部屋を訪ねるも一向に出てくる気配がない。
携帯に電話してみても、留守番サービスにすぐさま接続されてしまい連絡の取りようも無く、あのシスターと上条の安否すら分からなかった。
結局奴らはなんだったんだ?
七惟の中に残ったのは処理しきれないもやもやとした疑問ばかりであった。
炎を扱う発火能力者のような男と巨人、血まみれのシスター、そして上条……全く関連性がなく、裏の組織からも何ら情報は伝わってこない。
相変わらず監視を続けよ、とのことだったが監視する対象が行方不明だというのに。
おそらく暗に探せ、と言っているのだろうがこの高層ビルが立ち並ぶ学園都市で無名の一般人を探すなど馬鹿げている。
しかし七惟は上条の監視以外特にすることもないため、不満をもらしながらも結局は与えられた任務を遂行していくのだった。
※
七惟が上条を探し始めて1時間、一向に彼の情報は入ってこないし見つかる気配もない。
だいたい、土台無理な話のだ。
たった一人で広大な学園都市を、しかも230万人も居るというのに。
もし七惟がジャッジメントや自治組織の類に入っていればその権限で都市の監視カメラの映像を見ることも出来るが、当然彼はそんな自己満足組織にも組織のコンピュータに新入する程の技能も持ち合わせてはいなかった。
「くそったれが……」
やっても意味のない無駄なことに時間を費やすくらいならばツーリングに出かけて暇潰しを行ったほうがまだよかった。
七惟は休憩を取るために、いつもの公園へと赴き木陰に腰を下ろす。
今日はバイクも持ってきていないため、あの短パン娘から追われたら厄介だが、こないだ相当な目にあわせてやったので当分は追ってこないだろう。
もしかしたら二度と追ってこないかもしれない。
それはそれで何だか気抜けしてしまうのだが……。
「……まぁ、追ってこられねぇに超したことはねぇな」
あんな奴と追いかけっこをするのは人生に数度でいい、こうも連日続くとなると流石に疲れる。
暗部でしか味わえないような非日常を、日常で感じることが出来るというのは七惟にとってよろしくないイベントである。
「んなことより上条だ。さっさと見つけねぇと上がうるさい……」
七惟は気を取り直して携帯端末を弄り、組織のほうへ上条の目撃情報を探るがやはり良い答えは返ってこない。
全く、あの組織は最初こそ口うるさく監視監視と言っていた癖に今ではこの有様だ。
もしやもう監視する意味もないが、七惟に充てる仕事がないため無意味な監視を継続させているのではあるまいな。
その割には居なくなったら居なくなったでぎゃーぎゃーと騒ぎだす、とても厄介な連中だ。
実際七惟の組織にとって上条を監視するという任務がどれほどの利益を生み出しているのか気になった七惟は電話で上層部に掛け合おうとする。
しかし、そこで目の前を煌めく光の物体が通り過ぎ地面に深々と食い込む光景を見て携帯を静かに畳んだ。
まさか……。
「見つけたわよ!」
「またお前かよ」
ピントが合ってなかったため遠目では分からなかったが、やってきたのはあの短パン娘であった。
しかしまぁ、もう挨拶することもなくいきなり攻撃とは恐れ入る。
「今日と言う今日は逃げられないわよ!」
「なあ、一つ訊いていいか?」
「何よ?」
あからさまに嫌そうな顔をする少女。
「お前は何が楽しくて俺にそんなちょっかいを出してくんだよ」
「そりゃあ、あれだけ人を馬鹿にした奴の哀れな末路を見届けて、アンタの言葉を訂正させないと気が済まないのよ!」
制裁するのは私だけどね!と語尾を荒らげる。
「湖に落とされて溺れ死にそうになった奴がよく言うな」
先日、七惟はあまりにしつこいのでこの少女を能力を使って湖へと落下させ、下手をしたら溺死に発展してしまうようなことをしたのだ。
制裁を与えるどころか自分が死にそうなっているというのに、この少女は恐れることを知らないらしい。
「ふん!私は泳ぎが得意だしあんなのどうってことなかったわよ!」
ビリビリし始める少女はまるで七惟のことなど恐れていない、むしろ挑戦的である。
「それにそう言うならアンタは消し炭になりそうなことだって何度もあったじゃない」
……言われてみれば、今考えれば自分も相当な目に合っているのは間違いない。
最近この少女と追いかけっこをして慣れてしまったせいなのか、そういった危機を感じ取る部分が麻痺しているのかもしれない。
「だから私はアンタが悔い改めるまで逃がしゃしないわ!」
七惟を恐れず、何処までも挑戦的で好戦的、でも何処ぞのヒステリックやもやし野郎とは違って嫌悪感は覚えない。
……こんなタイプの人間は初めてだ。
初めて出会うタイプの人間―――――最初は不快だったこのコミュニケーションも、彼女とならば不快ではない。
むしろ、面白いと言ってもいい。
わけのわからない少女の動向や発現に七惟も非常に興味を持ち始める。
この少女はどうやら自分を灰にしたくて仕方がないらしい、ならば……。
今にも電撃を飛ばしてきそうな剣幕の少女を前に、こういう輩とは一度ぶつかるしかないとの結論を下した七惟は立ちあがる。
「……うるせえし電撃飛ばしてくるし餓鬼くせえし水平線、それに加えて一種の戦闘狂だなお前」
「アンタ……ホントに死にたいようねえ……!」
「……やるか」
「へ……?」
「互いに一発喰らわせないと気が済まないみたいだしな。こっちだってあんだけ追いかけまわされちゃ堪んねえんだよ」
七惟の言いたい事を感じ取ったのか、少女は口端を釣りあげて挑戦的な笑みを浮かべる。
「へえ……勝負ってことね?」
「ああ、一発入れたほうが勝ちってことだ」
「いつやる?私のほうは何時でも構わないわよ」
「今日の夕刻、18時だ。場所は19学区の防災センター跡地。此処ならどれだけドンパチやろうが構やしねえ」
「面白いわね、乗ったわ!」
こうして二人は遂に正面から激突することとなった。