とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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学園都市には超能力者の能力を纏めている『裏』の図書館がある。

もちろん公開できる範囲、私利私欲が渦巻く学園都市では全ての情報を見ることが出来ないのは当然だが絹旗最愛はそこでとある男のことを調べていた。

彼女が目を通しているのは、学園都市第7位オールレンジのこと。

もちろん名前は伏せられているし、大半の能力のことは此処に記されてはいないが、その記されていることだけであの男がどれだけ規格外なのかは分かった。

【学園都市第7位『全距離操作能力者』の出力に関して】
①絶対等速状態で物体を移動させることが出来る。
移動させる物体の全長に関してはほとんど制限がない、重量に関しては上限がある模様。
②空間転移能力者同様、物体を転移させることが出来る。
転移させる物体の全長に関してはほとんど制限がない、重量に関しては上限がある模様。

③演算式の複雑さは、転移能力>可視移動となる。
物体の全長が大きければ大きいほど、重ければ重い程演算式は複雑になり能力発動までの時間は長くなる。

※その他の距離操作に関しては……



「絹旗、帰るわよー」

「あ、はい。分かりました」

絹旗は手に取っていた報告書を棚に戻し、その場を後にした。

彼女が『その他の距離操作』に関しての項目を読んでいれば、きっと未来は変わっていただろう。

良いほうなのか、悪いほうなのかは分からないが。







少年と戦った少女のお話-ⅱ

 

 

 

 

最後に会ったのは何時だっただろう?

 

もう遠い昔のようにも感じられるのに、つい昨日まで彼と一緒に下らない馬鹿話をしていたような気もする。

 

まるで走馬灯のように七惟と一緒に居た時間の記憶が浮かんでは消えて行く。

 

全距離操作と、七惟理無とこんなことになるなんて望んでなかったの―――――。

 

 

 

「第3位……原子崩しか」

 

 

 

七惟はまず絹旗ではなく、自分の攻撃を防いだ麦野に視線を向けた。

 

 

 

「あら、私のことを知ってるならそれなりの覚悟は出来てんでしょうね?」

 

「そしてそこに居るのは無能力者」

 

 

 

みしり、と自分が無視されたことに苛立った麦野が拳を握りしめるような音が響いた。

 

だが七惟はそんなことにはお構い無しと言った表情で周辺を見渡し、自分を見つける。

 

 

 

「へぇ……そういやそうか」

 

「……何ですか?」

 

 

 

無意識に言葉が漏れた。

 

今の彼の言葉にどれだけの意味が込められているのかは分からないが、その眼は間違いなくこちらを殺処分する気が満々だと伺える。

 

絹旗だって当然見知った顔だ、しかしあれだけ長い時間を一緒に過ごしてきた男を殺すなんて気が進まない。

 

まぁ七惟はそんな絹旗の葛藤にはお構いなしにこちらを攻撃してくるだろう。

 

そういう男だ、七惟理無という男は。

 

 

 

「ねぇ、アンタ。私を無視して生きて帰れると思ってんのかしらねぇ……?」

 

「はッ、噂通りヒステリックだな原子崩し。俺の仕事の内容は言うまでもねぇだろ」

 

「へー、そう、アンタそういう態度取るんだ……。ぶち殺し確定ね」

 

「わりぃが癇癪玉にぶち殺される程弱くねぇ」

 

「後で吠え面かくんじゃねぇぞおおおぉぉぉ!」

 

 

 

麦野の声が響き渡り、それが戦闘開始の烽火となる。

 

麦野の右目が光り、容赦ない原子崩しが七惟に向かって放たれるも、その光はやはり不自然にそれて七惟に当たることはない。

 

だがその行程は先ほど投げたフレンダの毒ナイフで分かっている、だから絹旗とフレンダはすぐさま行動に出る。

 

移動しながらも絹旗は奥歯を噛みしめ、彼女の頭に色んなモノが流れ込みは消えて、徐々に蝕んでいく。

 

 

 

「どうしてッ」

 

 

 

考えなかったと言えば嘘になる。

 

七惟だって暗部組織に属する人間だ、そしてレベル5ともなれば戦場の切り札として立つことなんて容易に考えられる。

 

自分と初めて出会った時だってそうだったし、その後も彼は組織の一番槍として何時も戦場に立ってきた。

 

そんな男と、戦場で再び出会わない訳があるだろうか。

 

 

 

「絹旗、左右から仕掛ける訳!」

 

「超分かってます!」

 

 

 

左右から仕掛ける。

 

相手の死角から攻めるのは常套手段、今までは通用してきた方法。

 

しかし……。

 

 

 

「また!?」

 

「フレンダ!」

 

 

 

フレンダが小規模の電動ミサイルを七惟に向けて発射しても、弾道が不自然に逸れて七惟に当たることはない。

 

その現象も、原理も、七惟の能力を知っている絹旗ならば理解出来る。

 

 

 

「フレンダ、麦野!コイツは距離操作の頂点に居るレベル5です!飛び道具はまず当たりません!」

 

「れ、レベル5!?」

 

 

 

フレンダが驚愕し、麦野はやはり、とまるで餌を見つけた獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。

 

自分だって闘いたくはない、だが相手はあのレベル5、近場で彼の実力を見てきた絹旗は嫌と言うほどわかる。

 

ほんの少しでも戦闘から意識が逸れた状態でコイツの目の前に立てば、あっという間に四肢を引き裂かれ八つ裂きにされてしまうということくらい。

 

 

 

「チッ……絹旗の野郎」

 

 

 

小声で七惟が自分の名前を呼んだ。

 

名前で呼ばれて七惟に向かって怒鳴り散らかしたい気持ちが湧きあがる、どうして闘わなければならないのかといったもやもやで頭がくらくらしてくる。

 

 

 

「フレンダ、三連式の電動ミサイルです!コイツは距離操作で操るターゲットは一つのみ、その点は普通の距離操作能力者と変わりありません!」

 

 

 

此処は戦場だ、どうせ何時かこうやって殺し合いをすることになっていた、それが今か後か、たったそれだけの話。

 

手を抜いて勝てる相手だとは思えない、殺すつもりでいかなければ、こちらがやられる。

 

 

 

「分かった訳!」

 

「はッ……小細工に頼ってんな金髪」

 

「小細工じゃない訳、これが人類の英知な訳よ!」

 

 

 

三連式の小型電動ミサイルが発射される、当たれば人体を吹き飛ばす程度の威力は持っている代物だ。

 

七惟はフレンダのミサイルが発射されるや否や、屋根裏から飛び降り倉庫に身体を隠す。

 

 

 

「馬鹿かてめぇは!逃がす訳ねぇだろオールレンジィ!」

 

 

 

ミサイルが倉庫の壁に直撃すると同時に、その奥に潜むオールレンジを溶解させようと麦野が躊躇なく原子崩しを発動する。

 

大きな爆音と共に、A-K倉庫が跡形も無く吹き飛び、火の子が舞い上がった。

 

 

 

「やった訳?」

 

「まさか…アイツがあんな超簡単にくたばるとは思えないです」

 

 

 

気を張り詰め、周囲を散策する。

 

あの男の能力は全距離操作……距離操作能力者の頂点に立つ。

 

分かっているのは二点間距離操作が扱えるくらいで、それ以外は絹旗は全く知らない。

 

何せ一緒に仕事をしている間ですら、互いの名前を別れる前に名乗るような関係だったのだ。

 

全くの信頼関係を築いていないため、能力の詳細なんて教える訳がない。

 

 

 

「……あの男、逃げた?」

 

「結局、腰抜けだった訳……?」

 

 

 

そんな訳があるか。

 

自分の知っている七惟はそんな奴じゃない、何がなんでも仕事を成功させるような男で、その一連の流れには一切の躊躇いだって感じさせない。

 

冷徹さでは、麦野と肩を並べるような男なのだ。

 

黒煙を吹き続ける倉庫ステーション、不意に何かと何かがぶつかるような甲高い金属音が鳴り響く。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

次の瞬間、フレンダの身体が凄まじい勢いで何処へと吹き飛ばされて行く。

 

 

 

「なッ!?」

 

「これはどういう訳えええぇぇぇ!?」

 

 

 

数秒もしない内にフレンダは別の倉庫へと身体ごと突っ込み、地響きと共に上から落ちてきた看板の下敷きとなる。

 

 

 

「フレンダ!?」

 

「取り乱すな絹旗!あれくらいじゃあの馬鹿は死なないよ!」

 

 

 

取り乱すも何も、この状況で落ち着いて居られる訳がない。

 

今のは間違いなく七惟はフレンダを殺しに来ていた、もしフレンダが七惟の能力に対して何らかの防備を張っていなければ、100%彼女はひしゃげたミンチのようになって死んでいる。

 

フレンダの生死の確認に意識が移る前に、絹旗はあの男の力を再度熟考する。

 

全距離操作、それは巷でよく見るレベル3やレベル4の距離操作能力者とはまるで違う力を誇る。

 

下手をすれば、自分もフレンダのように超高速で飛ばされて……窒素装甲で守れる範疇を超えたスピードで飛ばされて。

 

本当に、本当に七惟に殺されてしまう……。

 

 

 

「外人で能力開発を受けたんなら、その死体は高く売れるだろうなぁ……?」

 

 

 

威圧のこもった低い声。

 

 

 

「次は、分かってるな?」

 

 

 

物陰から現れた七惟に絹旗は身体が震えた。

 

やはり、この男の力はレベル4なんかが考えられる力の範囲を遥かに凌駕してしまっている。

 

住む場所が、違う。

 

 

 

「分かってる?次はアンタがそうなんの?」

 

「口が減らねぇクソ女だなてめぇは」

 

「ふん、学園都市の第7位ねぇ……悪いけど、第3位に勝てると思ってんの?」

 

「さぁな、俺が言われてんのはてめぇらを再起不能に叩きのめした後、ブツを破壊するだけだ。勝てるとかどうこうは関係ねぇよ、ただ、やるだけだからな」

 

「澄ました顔で言ってんじゃねぇぞこの小物が!」

 

 

 

麦野は背面から原子崩しをロケット噴射のように使い、身体を高速で移動させる。

 

その動きを見て先ほどまで余裕の表情だった七惟の顔が若干曇った。

 

 

 

「はッ、すぐさまそう出るか」

 

「ったり前だこのボケが!私にてめぇのチンケな能力が効くと思ってんのか!てめぇの能力は裏のバンクじゃ全部割れてんだよ!」

 

 

 

麦野は距離操作能力者の弱点を完全に突いた。

 

距離操作能力者は不規則に動く物体や、高速で移動する物体の座標を捉えることが苦手であり、麦野のような動きをしてくる敵に対して非常に弱い。

 

 

 

「あはははは!潰して逆にてめぇをミンチにしてやるよ!」

 

 

 

それはレベル5の全距離操作でも同じことだ。

 

 

 

「ッ、悪いが、んな死体になる趣味はねぇ!」

 

 

 

七惟が距離操作で麦野との間に障壁を移動させる。

 

暑さ何十ミリもある鋼鉄の壁だが、原子崩しを持つ麦野の前でそんな壁は薄っぺらい紙切れと同じだ、あっという間にその壁は粉砕され、その衝撃で七惟の身体は投げ出される。

 

流石七惟よりも上位に位置するレベル5の麦野だ、同じレベル5が相手でも全く引けを取らず、戦局を有利に進めている……が。

 

 

 

「このッ……」

 

「ほーらほらほら!口先だけの小物かてめぇは!」

 

「口先だけの小物はてめぇだ、第3位」

 

 

 

麦野が七惟の目の前に降り立つ直前、麦野の足元のアスファルトが一気にめくれあがり上空へと舞い上がる。

 

 

 

「小細工だねぇ、オールレンジ!」

 

「言っとけ、てめぇみたいな火力馬鹿と一緒にすんなよ!」

 

 

 

原子崩しの背面噴射で全身を前に押し出し、アスファルトの一撃を回避する麦野。

 

七惟はまだ攻撃の手を休めない、今度は物流ステーションの倉庫を丸ごと剥ぎ取り、舞い上がったアスファルトに躊躇なく激突させる。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

絹旗が思わず耳を塞ぐ程の膨大な爆発音が周囲に響き渡り、砕かれたアスファルトとバラバラに粉砕された倉庫の残骸が周囲に飛び散り、まだ空中で身体の制御が取りづらい麦野を容赦なく攻撃する。

 

距離操作能力者の弱点である『単体のみのロックオン』、これを余りある出力で完全にあの男はカバーしていた。

 

麦野は懐から原子崩しを乱反射させるパネルを取り出し、アスファルトの礫に対応する。

 

雨のように降り注ぐ原子崩し、もちろん射程圏内に七惟も入っているがあの男は先ほどの原子崩しの威力から貫かれない鋼鉄の強度を理解したようで、倉庫ステーションを囲む鉄の壁を何重も目の前に転移させ防戦する。

 

麦野は大半の礫を破壊したが、地面に着地する際自分に向かってくるアスファルトの破片に気付かず、その一つが腹部に直撃した。

 

地面に無防備に放り出される麦野、しかしうずくまることはなくすぐに立ち上がり駆け回る。

 

そう……この男の恐ろしさはもちろん重量も全長も関係なくなんでも吹き飛ばしていくその天井知らずな可視距離移動砲の出力だが、もう一つは重量も全長も関係なく何でも手当り次第に『転移』させてしまうことである。

 

転移能力者と違うのは連射出来ないということだが、それでも体内に異物を放り込むのは奴の十八番。

 

少しでも立ち止まりスキを与えれば、座標をくみ取られきっと麦野の身体は風船爆弾のようにはじけ飛んでしまうだろう。

 

 

 

「距離操作能力者は防御が得意……ねぇ、私の前でどこまで通用すんのか見せてみろ!」

 

 

 

走りながら一切息を切らさず、原子崩しを発動させる。

 

周囲に原子崩しの光の球を浮遊させる麦野、七惟はまだ鋼鉄の壁の背後。

 

先ほどの壁の厚さから、今度は麦野が逆にどれだけの出力があれば自分が原子崩しを発動させる間に七惟が転移させてくる数枚の鋼鉄の壁を貫くか逆算している。

 

これが学園都市レベル5の戦い、相手の策を次から次へと見抜き、破壊し、徹底的に潰しにかかる。

 

絹旗のような大能力者が割り込む余地など一切ない、学園最高レベルの破壊活動。

 

これがレベル5の強さ、恐ろしさだと言わんばかりの光景だった。

 

麦野は浮遊していた原子崩しを七惟に向けてレーザー上に発射し、更に光った右目からも原子崩しを撃ち幾重もの光を集束させる。

 

その光は七惟が用意した分厚い鉄の壁を貫通し大穴を開ける、だが七惟も唯ぼーっと突っ立ていた訳ではないようで壁から飛び出すと、今度は麦野の背後から目に止まらぬ速さで鋼鉄の壁を移動させる。

 

意識が前にいって背後がお留守になっている麦野を文字通り前と後ろの壁でサンドしてやろうということか。

 

 

 

「馬鹿が!私が賭けたのは……此処!」

 

 

 

麦野は鋼鉄の壁に挟まれる直前、自身の真下に原子崩しを撃ちこみ、地面を崩壊させた。

 

七惟もそのことは予想していなかったのか、対応が取れず慌ててその場から離れようとするも追撃の一撃が彼の足元に直撃した。

 

どうやら直前で麦野との距離を弄り着弾点をずらしたようだが、それでもその爆風の煽りを受けて七惟の身体は絹旗の前まで転がってきた。

 

 

 

「絹旗ぁ!やれ!」

 

 

 

麦野の容赦ない言葉が耳に刺さる。

 

全身を強打した七惟は意識を失ってはいないものの、すぐには動ける様子ではない。

 

……どうする?どうすればいい?

 

これまで予想しない事態が起き続け疲弊していた彼女は突如として迫った二択を選ぶことが出来なかった。

 

此処で、この男を自分に殺すことは出来ない―――――。

 

そんなことを考えた絹旗は、当然スキだらけだった。

 

 

 

「使わせて貰うぞ絹旗!」

 

 

 

そこにつけ込まれた。

 

七惟は倒れたまま右手をぬっと伸ばし、絹旗の足首を握る。

 

 

 

「な、何をするんですか超七―――」

 

 

 

そこで、彼女の言葉は途切れる。

 

七惟が触れた左足の足首から、形容し難い感覚が体中に広がって行き、自分の外側の壁ではなく内側の壁が崩れて行くような寒気が身体を支配する。

 

立ち上がった七惟と目が合う、その目がまるでフレンダの目にも見え、七惟の輪郭がぼやけ有り得ない人物の顔と重なる。

 

 

 

「絹旗!あの馬鹿、精神操作の網にかかったか!」

 

 

 

遠くで叫ぶ麦野の声もほとんど聞こえない、ただただ絹旗は自分の前に居る男に対して今まで以上に親しみを感じてしまうばかりであった。

 

絹旗は知る由もないが、これは七惟の距離操作の内の一つ、精神距離操作である。

 

心理定規とほぼ同じように、相手と自分の心の距離を調節し、相対する人物の認識を塗り替える。

 

それがつい先ほどまで命のやり取りをしていた相手だろうと、まるでずっと一緒にいた仲間のように思えてしまうような心の距離を再現するのだ。

 

 

 

「絹旗、攻撃する相手は俺じゃねぇ、分かってるな?」

 

 

 

意味もなく頭に響く男の声。

 

身体の髄にまで浸透していくようだ。

 

 

 

「な、何を……言うん、です……?」

 

「仲間に攻撃を仕掛けてくる、あのレベル5は敵だ……攻撃を防げ」

 

「う、うぅ……麦野が?」

 

 

 

朦朧とする頭の中で彼女は混乱するばかりだが、七惟の声だけははっきりと聞こえ、何をするべきかは分かった。

 

それは、こちらせに向かって原子崩しを放とうとしている女から、七惟を守らなければならないということだ。

 

距離操作に操られた彼女の脳は、なんの躊躇いもなくその答えを弾き出したのである。

 

 

 

「む、麦野!超止めてください!」

 

「ッ……絹旗ァ!いくら操られていようが私の邪魔するんだったら電子炉にぶち込むぞ!」

 

「はッ……戯れてな!」

 

 

 

七惟を守るように麦野に立ちはだかる絹旗。

 

七惟は、フレンダと同じ仲間――――仲間なのに、どうして麦野は攻撃するんだ!

 

 

 

「どうしちゃったんですか麦野!彼は私の超仲間なんですよ!」

 

「あぁ!?おふざけも大概にしな絹旗!」

 

 

 

二人のやり取りをしている間に、七惟がA-R倉庫へと入って行くのを麦野は確認する。

 

おそらく自分の撃破は難しいと考えた七惟は、ブツの破壊を最優先にと考えたのだろう。

 

 

 

「麦野、やめてください!」

 

 

 

麦野の前には、相変わらず距離操作で心の距離を操られてしまった女が必死に敵をかばっている。

 

三人で挑んだことが仇となったか、と舌打ちをするもそこで諦めるような麦野ではない。

 

邪魔をするならば、どんな奴だろうと今まで通り敵は排除するのみだ。

 

 

 

「絹旗、あと5秒でそこからどかなかった……後は分かるね?」

 

「む、麦野!」

 

「5…4…3…」

 

「今日の麦野は超おかしいです!どうしちゃったんですか!」

 

 

 

おかしいのはお前のほうだ、と言わんばかりに麦野目力が強くなるが、その理由を操られてしまった彼女は考えることすら出来ない。

 

 

 

「2……1……」

 

「麦野!」

 

「この馬鹿!」

 

 

 

麦野の右目が光り始め、電子の波を打ち出す必殺の一撃が放たれた。

 

当然威力は抑えている、窒素装甲を持つ絹旗が意識を手放すか手放さないか程度の威力。

 

此処でレベル4の彼女を失ってしまうのは大きい、それだけは避けなければならないと麦野は判断したのだ。

 

 

 

「あぅ!?」

 

 

 

衝撃で吹き飛ばされて行く絹旗、その身体がA-R倉庫に直撃し動かなくなったのを確認してから麦野は七惟を追う。

 

身体全体に電撃のような痛みが走った絹旗は、倉庫の残骸に押しつぶされたまま意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 


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