とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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常盤台の『超電磁砲』-3

 

 

 

七惟は一足先に勝負の場所となった第19学区の防災センター跡地へと赴いていた。

 

ここは使われなくなってからもう1年以上経っているため誰も出入りしている様子はないものの、スキルアウトの類が偶にここを塒としているようだ。

 

まあ、此処は正面の門以外は全て鉄筋コンクリートの壁で覆われているため隠れるにはうってつけというわけなのだろう。

 

ただの防災センターだというのに、何故?という疑問が出てくるのは当然だがそれにはちゃんとした理由があった。

 

「しっかし……相変わらずなんもねえな此処は」

 

七惟はこの場所とは無関係ではない、此処が使われなくなった理由は七惟と学園都市第1位の一方通行のせいなのだ。

 

1年前この場所で二人は命をかけた死闘を繰り広げ、防災センターとは名ばかりの『屋外実践研究所』で実験を行っていた。

 

此処は学園都市の頂点に立つ長点上機学園がある学区の隣に位置する学区で、能力開発施設が他の学区に比べて多い。

 

その中の一つだったというわけだ、この『防災センター』は。

 

七惟と一方通行が対戦したことにより、建物は半壊し機械は全損、復旧にもメドが立たずに結局放棄された不毛の土地。

 

それが、この『屋外実践研究所』だ。

 

門をくぐり抜け、中を見ると見事に一面荒れ果てた大地が広がっていた。

 

鉄筋コンクリートの壁には、今でも七惟と一方通行がやりあった時の傷が深々と刻まれている。

 

しかし今の一方通行を見ると、よくもまあ1年前は半殺しで済んだものだと七惟は自分の悪運の強さに関心する。

 

「へえー、確かに何にもないわね……周りは壁で覆われてるし、どれだけ暴れても問題なさそう」

 

七位が感慨にふけっていると、対戦相手がやってきた。

 

「……早かったな」

 

「ふん、アンタをぎったんぎったんに出来ると思ったら身体か疼いて仕方なかったからね!」

 

「そうかい」

 

短パン娘は顔をにやつかせながら近づいてくる、七惟もそれに応えるように鼻で笑って見せる。

 

「アンタのこと、調べさせてもらったわ」

 

「へえ……」

 

「学園都市第8位、距離操作系の頂点に立つオールレンジ、七惟理無なんでしょ?」

 

七惟としては能力の片鱗しか見せていないつもりだったが、少ない情報で個人特定までしてしまうとは……。

 

対して七惟は全く少女のことは分からない、手元にある情報はせいぜいレベル4のエレクトロマスターくらいだ。

 

「よく分かったな、バンクには写真は載ってなかったてのに」

 

「私はね、与えられたハードルは必ず乗り越える性格なのよ。だから分かんないことがあったら死ぬまで追求し続ける」

 

「いい性格してんな」

 

「それはどうも」

 

対峙し合う二人の間に緊張が走る、いよいよ始まる。

 

「今更泣いて謝っても、遅いわよ」

 

「はん、その台詞そっくりそのまま返してやるよ。どっからでもきやがれ」

 

「…………そういうこっちを小馬鹿にしたようなでかい態度がむかつくのよ!」

 

少女は七惟をきっと一睨みすると、早速電撃を放ってきた。

 

七惟は今まで同様走って逃げ回ることはせずに、その場から一歩も動かない。

 

直撃するかと思われた電撃だったが、七惟の手前で不自然に逸れ、電撃は地面に激突し爆発した。

 

「やっぱ単発は効かないか……!」

 

 

七惟の能力はバンクに載っている通り『距離操作』能力であり、その頂点に立つ七惟は『オールレンジ』、つまり『二点間距離』『時間距離』『幾何学的距離』全てを扱うことが可能なのだ。

 

少女が放った電撃の『位置』と、七惟自身の『立ち位置』を確認し対象の『位置』をずらすことで距離を弄くることが出来る。

 

この能力は自分の『位置』を移動させることは出来ないが、防御面においては一方通行には流石に負けるが学園都市でトップレベルだ。

 

「じゃあどうやって攻撃すんだ?」

 

「こうやって攻撃すんのよ!」

 

少女は右手を地面に翳して、何やら黒い物体を吸い上げる。

 

そしてその黒い物体はやがて剣のような形を成し、あっという間に黒い黒刀が出来あがった。

 

「剣……?」

 

「剣かどうかは、体験してみることね!」

 

少女が剣を振り上げると、剣の状態だったその獲物は瞬く間に細長い鞭のような形状に変化した。

 

そして少女は勢いよく、左右にフットワークを刻みながら七惟に近づいてくる。

 

コイツ……弱点に気付いてやがる!?

 

七惟は予想だにしなかった展開に狼狽しながらも、迫りくる電撃少女の一撃に身を備えた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

こちらの動きに一瞬眉を顰めた七惟を見て美琴は確信する、やはり自分の推測は間違っていなかったと。

 

勝負が決まってすぐに少女、御坂美琴は寮に戻り最後の準備に取り掛かった。

 

相手の能力の情報収集、及びその長所と短所、弱点について今まで纏めてきたことを頭に叩き込んだ。

 

『距離操作』能力、それは自分の位置を原点として相手の位置・距離を弄くり回す能力。

 

距離操作系事態の能力は珍しくはなく学園都市でも比較的多い分類になる。

 

距離操作において発現するパターンは2パターンだ。

 

一つは目に見える形で対象を移動させ距離を弄る『可視移動』。

 

そしてもう一つは、美琴が体験した目に見えない形での『転移』だ。

 

可視移動は時速120kmで対象を能力者の定めた距離まで移動させる。

 

転移の能力はテレポートと同じで、そこに存在する物体を押しのけて転移した物体が現れる仕組みだ。

 

よってどうあがいても能力者には近づけないため遠距離から攻撃するしかないのだが、飛び道具の発射位置さえも弄り回すため当たることがない。

 

一件このように防御面においては完全無欠に見える能力だが、美琴は光明を見つけることが出来た。

 

距離を操作するためには非常に高度な演算が必要であり、物体の動きが早ければ早いほどそれは困難となる。

 

そして、弾丸や電撃など直線的で距離を把握しやすいモノに対しては穴はないが、鞭のように左右に大きくぶれる物体には弱い。

 

つまり、距離感を掴みにくい物体の距離を操作することが出来ないのだ、それは左右にフットワークを刻んで人間が行うフェイントも同じ。

 

直線的な動きには強いが、予想出来ない不規則な動きには弱い。

それは『オールレンジ』と呼ばれる少年でも同じはずだ。

 

美琴の予想は見事に当たり、七惟は今までのように自分の距離を操作することが出来ない。

 

「案外あっけなく勝負がつきそうね!」

 

攻撃の射程圏内に入り、美琴は鞭状になった砂鉄剣を振るう。

 

―――が、次の瞬間鞭の動きが目に見えて遅くなる。

 

これはいったい……!?

 

「そうやって『弱点』を『弱点』にしねえから『オールレンジ』って言われてんだよ?」

 

「……アンタ一体何を!」

 

七惟はすました顔で美琴を見やる、その事実がさらに美琴をヒートアップさせる。

 

毎回毎回、こいつのやることは癪に障ってムカつく!

 

「距離ってのはなあ、二点間の距離だけを言うんじゃねえってぇことだ!」

 

七惟は動きの止まった御坂の距離を弄り、二人の間に10M程の距離が生まれる。

 

美琴とは離されまいと追いすがるが、七惟は背後の鉄筋コンクリートを一瞥する。

 

「距離操作能力は『攻撃が出来ない』って思われがちだがな、レベル4以上になるとそんなこたねぇんだよ」

 

七惟の背後には老朽化してぼろぼろになった鉄筋コンクリート、その一部が剥がれ落ちたかと思うとそれは想像を絶するスピードで美琴に飛んできた。

 

美琴は砂鉄の鞭で叩き落とすも、100kgは超すであろう鉄筋コンクリートを高速で飛ばす能力に驚きたじろく。

 

これが距離操作系の『可視距離移動砲』……威力は確かに凄まじい。

 

「これくらいのスピードでモノをぶっ飛ばすなんざ、俺にとっちゃ容易いんだよ」

 

「……へえ、距離の操作は2パターンあって、どちらか片方しか使えないってバンクには載ってたけど」

 

「レベル4まではな。俺は例外だ」

 

やはり腐ってもレベル5というわけか。

 

レベル5最下位で自分との序列は5位も離れているというのに、その力はまるで自分と引けを取らない。

 

レベル5と対戦するのは初めてだが―――――今までにない興奮を、この闘いは美琴に与えていた。

 

「それじゃあ、こんなのはどうかしら!」

 

美琴は砂鉄の鞭の形状を解除し、それを上空へと舞い上がらせる。

 

「チッ―――!」

 

こちらの攻撃の意図を感じ取ったのか、七惟はすぐさま背後にある鉄筋を剥ぎ取り美琴目掛けて連射する。

 

それら全てをいなしながらも美琴は冷静に先ほどの事象のことを分析していた。

 

鞭のスピードが目に見えて遅くなった現象、あれは十中八九『時間距離』の操作に違いない。

 

到達する『時間距離』を遅らせることで、対象の動きを鈍化させることが出来る―――――。

 

数ある距離操作の中でもトップレベルの技術で、扱えるものは10人いるかいないか。

 

しかし、それも対象が鞭のように一つと決まっているからだ、この舞い上がった砂鉄の粉塵にその技は通用しない――――!

 

美琴は磁場を操作し、舞い上がった砂鉄達を七惟に向かって放射する。

 

距離操作能力はテレポートと違い自分を移動させることは出来ないし、二点間の距離を操作出来るがあのような大量の粉塵は操作出来ない!

 

「くそったれ!」

 

悪態をつきながら七惟は回避行動に移るが遅い。

 

「そこ!」

 

一斉に放射された砂鉄達は、粒となって一つ一つは小さいものの振動しているため当たればかなりのダメージを受けるはず。

 

追い詰められたように見えた七惟であったが、鉄筋コンクリートを自分の上に転移させて砂鉄の雨をやり過ごし、そのまま落下してくる鉄筋の壁を美琴に向かって発射した。

 

「……ッやるわね!」

 

「今のはかなりやばかったぞ……」

 

その後、互いに一進一退の攻防を見せるもまるで進展する気配はなく、無駄に時間と体力だけが浪費されていく。

 

戦闘を開始して5分、両者息が上がり始める。

 

今のところ美琴は七惟の防御を貫ける武器はない。

 

超電磁砲をまだ奥の手として取っているが、あれは射出する時に必ず美琴が止まっているため、打ちだされたコインを弄らなくても投擲者である美琴の位置を弄れば何の脅威にもならないことは明白だった。

 

それは七惟も同じで、元々距離操作能力は攻撃力に欠けており、それはレベル5の七惟でも逃れられない宿命のようだ。

 

確かに他のディスタンスと比べればあの可視距離移動砲は恐ろしいの一言だが、それも美琴の電撃の壁の前では脅威にはならない。

 

 

 

 

 

互いに相手を倒す一本はない……いや、ある。

 

あの男がどれだけ優れていようが、オールレンジと呼ばれようが距離操作能力者である限り絶対に克服出来ない弱点が。

 

そこを突けば、必ず勝てる……!

 

美琴は気を改め再び七惟と対峙する、その胸に必勝の思いを掲げて。

 

 

 

 

 


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