とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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更新が2か月以上ストップしてしまいました、ごめんなさい!

最低月1での更新目標んがががが。






少女が描く嘘のキャンパス-ⅱ

 

 

 

 

 

地上まで七惟と付添の金魚のフンがお見送りをしてくれた絹旗と滝壺は、出口で七惟と別れの挨拶…………ではなく、会話のドッチボールをしていた。

 

 

 

「お疲れ様でした、それじゃあ私たちは超帰ります」

 

「あぁ、帰れ帰れ。光速よりも早くな」

 

「む、その言い方はなんですか超七惟」

 

「お前らがいると普段の三倍面倒事が起こるから帰ってほしいに決まってんだろ」

 

「超失礼です、私がいると普段の三倍いいことが超起こると思いますけど」

 

「保存食が全部無くなる事とかな」

 

「あの時は超助かりました、七惟の家の過剰在庫も超処理出来ましたし、互いにいいことしかなかったですね」

 

「…………俺は反省しない小学生にはお仕置きが必要だと思うぞ」

 

「誰が小学生ですか!」

 

 

 

当人たちはそのドッチボールを何時も通り楽しんでいる、がしかし。

 

今日は何時ものようにはいかないのである、何故なら絹旗の隣には金魚のフンがいるのだから。

 

「オールレンジ、最近貴方の訓練を受けていません。もしこの後時間があるのなら、教えてください」

 

 

 

…………。

 

また湧いてきたか。

 

 

 

「なーない、せっかくだし途中まで一緒に行こう。私たち第7学区と同じ方向だから」

 

「私は貴方には聞いていません、オールレンジに聞いているんです」

 

「それはさっきの私のマネですか、ちょっと貴方調子に超乗りすぎじゃありません?」

 

 

 

売り言葉に買い言葉、絹旗とメンバーの女の関係はいつの間にか犬猿の仲よろしく、修復不可能なレベルにまで達していた。

 

表情を一切変えずにこちらが腹が立つことを言っているのはアレか?七惟のマネか?それが余計に絹旗の琴線を刺激するのだ。

 

自分は最初会った時から此奴のことは気に入らなかったが、それを考慮してもあまりにも此奴の態度は鼻につく。

 

 

 

「俺はまたあの穴倉に戻るつもりはねぇぞ。それにお前を此処から出すなってあの糞野郎に言われてんだよ、何処で訓練するつもりだ?」

 

「地上ロビーで問題ありません、十分なスペースがありますし、距離操作の出力訓練なら出来ます」

 

「そりゃあそうだが」

 

「それならお願いします」

 

 

 

いつの間にかアイテム二人を置いて話がトントン拍子で進んでしまっている、慌てて絹旗は間に割って入った。

 

 

 

「七惟、そんな奴に放っておいていきましょう。今からアイテムのほうで七惟にやってもらいたい仕事があるんです」

 

 

 

とにかく絹旗は七惟をこの女から離したい一心である。

 

何故だかわからないが、此奴と七惟が一緒にいると本当に精神衛生上よろしくない。

 

どれくらいよろしくないのかと言われれば、スーパーから帰ってきて袋を開けてみると入れていた卵1パックが全て割れてしまったというくらいである。

 

しかし絹旗がもっと気分が優れないこと、見ていて心に注射針を刺されたようなチクチクとした痛みを与えてくる人はすぐ隣に居た。

 

 

 

「なーない、どうするの?」

 

「お前も何かあんのか滝壺」

 

「ううん、ただなーないが一緒に来てくれるなら嬉しいだけだから」

 

「…………そうかよ」

 

 

 

この滝壺理后の存在である。

 

滝壺と七惟の関係は、もうだいぶ前からわかっていた。

 

昔の自分のポジションに居るのは滝壺で、七惟と一番喋れて楽しい事が出来るのは彼女なのだ。

 

スクールのスナイパーを襲撃したときにそれを痛烈に感じたのを今でも昨日のことのようによく覚えている。

 

大覇星祭では七惟と滝壺はコンビを組みんでからというもの、二人の距離は急速に縮まっていった。

 

今だってそうだ、時折七惟は自分やこの女には決して見せないであろう表情を滝壺に向けることがある。

 

それは仕方がないことで、七惟と滝壺が仲良くしているのはアイテムの方針としては悪いことではない。

 

だけど絹旗個人としては気分がいいものでは決してない、何だか心にチクリとした痛みを時折自分に与えてくる。

 

 

 

「オールレンジ」

 

 

 

滝壺の言葉に流れようとした七惟に感づいたのか、女はすっと無表情で七惟の横に寄り添う。

 

それを見た自分の顔に自然と皺が寄るのを絹旗は自覚した。

 

 

 

「…………わぁったよ、うっとおしぃ。おい滝壺に絹旗、俺はこの馬鹿の面倒見るから先帰ってろ」

 

「そっか、わかった」

 

 

 

…………面白くない。

 

ちょっと、いじってやる。

 

「七惟はそんなにその豊満な女のことが気になるんですか……全く、此処は大人の私たちが超我慢してあげましょう」

 

「何を我慢すんだよ、んでお前を何処からどう見たら大人だ」

 

「この将来有望な体のラインが超見えないんですか?まぁ七惟はスケベですから見た目で判断してこの美しいラインが見えないのは超仕方がないですけど」

 

「おい滝壺、さっさとこの小学生を連れて帰れ」

 

「中学生です!」

 

 

 

逆に七惟にあしらわれてしまった、世の中上手くいかないものである。

 

七惟の捻くれた捨て台詞も聞いたところだし、自分の精神状況も考えてここいらでお暇しようと考えた矢先だった。

 

 

 

「なーない、じゃあ今度一緒にお出かけしよう」

 

 

 

滝壺が何の脈絡もなく唐突にこんなことを言い出したのは。

 

 

 

「お出かけ……?」

 

「そう、お出かけ。アイテムに新しくはまづらも来たから、親睦を深めるためにも皆でB級映画を見に行こうって絹旗が」

 

「滝壺さんアレ超本気にしてたんですか……はぁ」

 

 

 

そう、アイテムには現在新入りの浜面と臨時構成員である七惟が来て組織としては新しくなっている。

 

また初めての男性メンバーということもあって滝壺はどうやらもっと彼らに自分たちとの交流を深めて欲しいと考えているとのことだった。

 

サロンで滝壺からそんな話を聞いた絹旗は真面目に考えずに適当に相槌をうって話を合わせただけだったのだが、その時自分が提案した案が彼女に採用されるとは思いもしなかった。

 

まぁ絹旗としては仲直りしてから七惟に対して募る話もあるところだし、、そういったことで時間が確保出来るというのであればそこは正直言って嬉しい。

 

結局は七惟が首を縦に振ってくれるのかどうかは分からないが。

 

 

 

「……それでもお前やあの下っ端のストレス解消につながるならいいんじゃねぇのか。そんな時間があるとしたら」

 

 

 

意外にも彼からはやれ「面倒」だのやれ「意味がない」だのとの言った文句は聞こえてこず、反論もないまま同意したのだった。

 

 

 

「ちょ、超意外です……!コミュ障の七惟がその場の空気を読んで発言するだなんて!」

 

「おい絹旗、てめぇ俺をどんな風に見てやがんだ」

 

「友達0人の引きこもりですが」

 

「前半は否定しねぇが後半はちげぇ」

 

「あ、半分当たってましたか。流石私ですね、七惟みたいなぼっちのことなんて超お見通しです」

 

 

そう、この感じ。

 

さっきも今もそうだったけれど、七惟との関係が進展してからは昔みたいに楽しく会話が出来ている。

 

周囲からしてみればあまり二人が良い間柄には見えないかもしれない、だが当の本人達からすればこれが普通であり、そして何よりも楽しい。

 

あの時からずっと、ずっとそうだ。

 

七惟と仲直りしてから、彼のバイクの後ろに乗って病院まで行ったあの日から絹旗は何故か自然と眼で七惟を追ってしまっている。

 

ちょっと会話をするだけで楽しい、心が躍る。

 

今迄七惟と喋っていた時も楽しいという感覚はもちろんあったのだが、それとはちょっと違う。

 

 

 

「それじゃあなーない、日時はまた連絡するから」

 

「あぁ。つうかお前もついてくんのか絹旗」

 

「超当然です、七惟がお出かけと目して滝壺さんに変なことしないか見張っていないといけませんからね」

 

「俺は子供のお守りは得意じゃねぇ、家で大人しくしとけ」

 

「超七惟、貴方は私のことを何歳だと思ってるんですかね」

 

「……見た目は6歳、中身も6歳か?」

 

「よし超わかりました、歯を食いしばって下さい」

 

「ひっついてくんな、うっとおしい」

 

 

 

こうやって偶に自分を『子供だ』とあしらってくるのにも腹が立つが、このやり取りも絹旗からしたら懐かしい。

 

あの時素直になれて本当に良かった、そう絹旗は感じるのだった。

 

 

 

「オールレンジ、時間が惜しいです。早く行きましょう」

 

 

 

絹旗や七惟、滝壺が会話を楽しんでいるのに横槍を入れて再度出てきたのはあの女、七惟の手を握りこの場から離れようとする。

 

余程七惟の気を惹きたいのか、それともこちらのことが気に食わないのかのどちらかは知らないが、余りにも態度が目についてしょうがない。

 

いい加減制裁してやろうかと思い拳を握りしめたその時、偶然にも絹旗とその少女の視線が重なった。

 

 

 

「……」

 

「…………」

 

 

 

視線が重なったのは僅かたった数秒、すぐにも少女の視線は七惟に戻る。

 

だがその数秒があれば暗部で経験を積んできた絹旗にとっては何かを感じるには十分だった。

 

絹旗が感じた『何か』、七惟や滝壺が気付いているかは分からないその『何か』。

 

 

 

「またね、なーない。帰ろうきぬはた」

 

「あ、はい。超了解です。それじゃ七惟」

 

「スクールには気を付けろよ」

 

「わかってるよなーない」

 

 

 

絹旗が少女を見つめているうちに話は終わったらしく、七惟と少女はアジトに戻り滝壺が電車の時間を調べ帰る段取りをしている。

 

 

 

「……顔に、色がない」

 

 

「何か言ったきぬはた?」

 

「いえ、超何でもありません。それじゃあ滝壺さん、行きましょう」

 

 

 

気のせいか……?

 

それともさっきのあの表情はあまりにも彼女に腹が立った自分が勝手に作り上げた幻想だったのだろうか?

 

既に七惟と少女はアジトの中に入ってしまってその姿は確認出来ない、もう一度あの少女の顔を見ることも適いそうになかった。

 

腑に落ちないが、このままこのアジトの前でぼーっと突っ立っているのもよくないだろう、絹旗は後ろ髪をひかれる思いでその場を去ったのだった。

 

 

 

 

 


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