とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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少女が見た幻想-ⅰ

 

 

 

 

残暑厳しい先日とは一転、若干の肌寒さを感じるようなとある日。

 

七惟は曇り空から望む太陽をぼーっと見つめ、ぽつりとつぶやく。

 

 

 

「……まさか本当に行くハメになるとは」

 

「なーない、どうかした?」

 

 

 

彼の隣には私服姿の滝壺、そしてその横に浜面、フレンダ、そして……メンバーの構成員である名無しの少女。

 

そう、今日は以前滝壺が七惟に提案した交流会の日。

 

アイテムに新しく加入した男子二人と既存構成員の女子3名による親睦会が行われ、今此処にいるメンツで絹旗お勧めのB級映画を見に行くイベントの日なのであった。

 

予定外なのはメンバー側から名無しの少女が参加しているということ。

 

このことに関してどうやら納得がいっていない人物が居るらしい、そいつは明らかに不貞腐れており態度の変化は一目瞭然である。

 

 

 

「……何でもねぇ、それよりあのむくれた奴はどうすんだ?」

 

 

 

七惟の視線の先には一人むすっとした表情で佇んでいる少女が居る。

 

 

 

「何ですか?私の顔に何か超ついてます?」

 

「不味いもんでも食ったくらいのしかめっ面だからな」

 

「超失礼な、絶世の美女と言われる私に」

 

「誰が言ったか是非教えてくれ」

 

 

 

その不貞腐れており、おそらく人生で最大のぷんむくれ顔を炸裂させているのは絹旗最愛。

 

今回全員で視聴予定のB級映画を設定した人物である。

 

 

 

「だいたい私はそこの金魚のフンが来るなんて超聞いてないんですよ、チケットも人数分しか購入してませんし。来るなら来るともうちょっと早く連絡をしてもらっても超良かったと思います」

 

「俺は別に見なくていいから、お前らだけで見てくりゃいいだろ」

 

「超七惟、貴方はもしかして今世紀最大の超おバカさんですか?今回何のために滝壺さんがこの場を超セッティングしたと思ってるんです?」

 

「うるせぇ」

 

「はぁ……フレンダ、ちょっとこの超馬鹿にミサイル打ち込んじゃってください」

 

 

 

ふわりとしたニット帽が特徴的な金髪碧眼の少女、フレンダ・セイヴェルンはジト目でこちらを見つめながら首を横に振る。

 

 

 

「そんなのお断りな訳よ、私はあのアホ浜面を持てなすことに意味を見いだせないから一秒でも早く帰りたい訳」

 

「そもそも何で来たんだお前」

 

 

 

七惟がフレンダに疑問を投げかける。

 

今回は滝壺が暗部組織とは関係ない立ち位置でセッティングした交流会、もちろん強制的な参加は義務付けられていない。

 

現に麦野は不参加なのだ、フレンダにも無理やり来いとは誰も言っていない。

 

ちなみに名無しの少女の参加が決定したのは今朝である、七惟がアジトから集合場所に向かおうとしたその時に声を掛けられ、何故か強引に着いてきた。

 

まだ七惟は彼女に対して疑問の念を捨て切れていない、今回自分についてきたのは彼女がメンバーでまだ少女に靡いていない自分を何とかしようと着いてきているのではないかとも考えている。

 

もう既に査楽はもちろん、馬場もかなり少女に対して心を許してしまっている、付け入るスキはありすぎて困るくらいだ。

 

もし彼女が何かを考えているのであれば……そう、内部から破壊する工作員だったりスパイだったりするのであれば、博士までの道のりで障害となるのは自分だけとなる。

 

あのマッドな男に忠誠を尽くすつもりは毛頭ないが、自身に危険が迫る可能性も秘めているため気を許すわけにはいかない。

 

 

 

「私が来たのは気まぐれって訳よ、何か普段と違うことをしようとしていたから気になった訳。つまらなかった帰るわよ」

 

「そこは滝壺のメンツを立てるために踏ん張れよ、お前は我慢がきかねぇ小学生か」

 

「……私はこうやって自分をガキ扱いするアンタも大嫌いな訳よ……!」

 

 

 

先ほどから全方位に向けて無意識で喧嘩を吹っかけている七惟に気付いたのか、浜面が慌てて割って入る。

 

 

 

「ま、まぁとにかくまずは映画会場に向かおうぜ、せっかく絹旗がチケットを取ってくれたんだし」

 

「浜面のいう事に賛同するのは超悔しいですが、そうしますか」

 

「お、おう。それにチケットは当日分もあるだろうしさ」

 

「はまづらの言う通り、あんまりここで時間を使っちゃうと映画も始まっちゃう」

 

 

 

珍しく、というか恐らく初めてアイテムの女性陣が浜面の意見に首を縦に振り、4人は映画館に向けて歩き出す。

 

明日は隕石でも降り注ぐでのはないかという幻覚が一瞬脳裏に過ると同時に、仕事で生まれる苛々が無ければ此奴ら(主にフレンダ・絹旗と浜面)は仲良く出来るのかもしれないと思う七惟であった。

 

七惟が歩を進めると今迄一言も発していない名無しの少女も無言でついてきた。

 

 

 

「お前、退屈じゃねぇのか」

 

「そんなことはありません、オールレンジの考え過ぎです」

 

「……」

 

 

 

話しかけても何時ぞやのセリフをまるで機械のように繰り返す少女、あの時よりも声の抑揚が無くなっているような気がした。

 

この数日間、彼女の存在は不気味さを増すばかりであるのに査楽や馬場との仲もその気持悪さに比例して良くなっていく。

 

自分だけがおかしいのだろうか、それとも少女や査楽、馬場のほうがおかしいのだろうか?

 

あれ以来ずっと考えているこの難問にはまだまだ答えが出そうになかった。

 

 

 

「そうかよ。……ま、何時もあの穴倉じゃつまんねぇだろうし今日はしっかりと楽しめ」

 

「はい、わかりました」

 

 

 

一応名目上は上司である七惟の雑用をこなすということで来ているので、こういった受け答えはしっかりしてくれるらしい。

 

今回外に出るあたって、せっかくだからアジトでは見られないこの名無しの少女の新しい一面を発見するのも悪くない暇つぶしだ。

 

……もちろん、彼女の本心を探ることも忘れずに。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

七惟たち一向はあれから無事目的地である映画館に到着した。

 

道中浜面をおもちゃにしていたことで絹旗達は退屈しなかったようだ、まぁ見た感じ浜面も何時ものやつれた感じが見えないため少しは楽しんでいるのかもしれない。

 

おそらく何時もプレッシャーを発している麦野が居ないことが良いリフレッシュになっているのだろう、此処に奴が居ればおそらく浜面も最初の絹旗と同じくらいに不機嫌な顔をしていたに違いない。

 

 

 

「きぬはた、此処だよね?」

 

「超そうです。えっと上映開始が11時なので……あと20分ないくらいですかね。それじゃあ席を取りに行きますか」

 

「それじゃ私と絹旗と滝壺が先に行ってるから。七惟、アンタはその女のチケット

とポップコーン買っといて。浜面は私達のドリンク、種類はお任せするから不味いの買って来たらお仕置きね」

 

「わぁったようっとおしい」

 

 

 

絹旗、滝壺、フレンダの3名は先に入場していく。

 

今回主賓であるはずの浜面をパシリに使うとは流石フレンダである、まぁそんな細かいことを気にしていてはアイテムの女性陣の相手など到底不可能なので何時ものことだと受け流すのが最良の選択だ。

 

 

 

「オールレンジ、そんなことをする必要はありません。私が代わりに買ってきます」

 

「馬鹿、お前はチケットがねぇから入場出来ねーんだよ、俺と浜面で買うからちょっと待ってろ。行くぞ浜面」

 

「ホントここの女子は人使いが……つか男使いが荒いな」

 

 

 

男二人はぶーぶー文句も垂れずに言われたことを淡々と遂行するのみ、こういう時に少しでも文句を垂れようものならばその100倍面倒くさいことになるのを彼らは既に知っているのである。

 

 

 

「しかしこの映画館えらく人少ないな、客もそうだが従業員も……」

 

 

 

ジュースを購入しながら周りを見渡す浜面が言葉を漏らす。

 

 

 

「あぁ……そうか。浜面、お前は知らねぇのか」

 

「な、何をだよ」

 

「何でもねぇよ。唯あんまり映画の内容には期待すんなよ」

 

「あ、あぁ」

 

 

 

しかし浜面はまだ自分に対してはかなり固くなっている気がする、やはりレベル5ということで麦野と同じくくりで見られているのか。

 

まぁそれも致し方ないのかもしれない、スキルアウトに対して自分が過去やってきたことを思い返すと過去何処かで浜面に会っていたこともあるだろうし、その時恐ろしい奴だと思われていたとしても不思議じゃない。

 

こういうときの壁というのだろうか、コミュニケーションを取るに当たって弊害となるモノの除去の仕方などコミュ障の七惟が知る訳がない、人を怒らせるのは得意なのだが。

 

 

 

「ポップコーンは……5人分でいいか」

 

「お前の分はいいのか?」

 

「要らねえ、どうせ俺の分買ってもフレンダが食い散らかす」

 

「……何かお前も大変なんだな」

 

「俺からすりゃ四六時中携帯電話によって麦野に縛られてるお前のほうが不幸に見える」

 

「…………」

 

「相変わらず無言で肯定すんだな」

 

 

 

二人はポップコーンとジュースを購入し、シアターへと向かう。

 

 

 

「お前の分のチケットだ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

もちろん名無しの少女にチケットを渡すのは忘れない、七惟からすればこの少女は色々な意味で厄介者に違いはないのだが、それでも無碍には出来ない。

 

しかしまぁ、この二人のやり取りはどうもあの事件があってからぎくしゃくしておりどうもスムーズに進まない。

 

 

 

「なぁ、七惟……お前ら仲悪いのか?」

 

 

 

どちらかと言えばそういったのに敏感な浜面がそんな七惟と少女を交互に見やる。

仲が悪い、か。

 

もしかするとそう見えるのかもしれない、まぁ七惟自身が気を許しておらず常に相手のことを分析するような視線を向けているのだから周りからすれば不自然か。

 

 

 

「別にそんなんじゃねぇよ。コイツは俺の部下みてぇなもんだ、だからコイツが固くなってんだろ」

 

「そ、そうか?」

 

「あぁ。気にすんじゃねぇよ、それに早く行かねぇとまーたアイツらがごたごた言うからさっさと行くぞ」

 

 

 

七惟がそう言って歩を進めると、何時も通り少女が七惟の横に付き従う従者のようにすっと隣を歩く。

 

そんな二人のやり取りに益々頭の上にクエスチョンマークを浮かべる浜面。

 

しかしそんな彼の疑問も数分後に見る映画のインパクトの前では霞んでしまうのであった。

 

 

 

 

 

 







何時も御清覧頂きありがとうございます!


ようやくここまできました、此処から先は話からはにじふぁん時代に投稿していなかった話になります。


ココまでおそらく1年9か月くらいかかってるんですが、距離操作シリーズもにじふぁん時代から数えるとだいたい4年くらい連載していることになります。


4年経っても完結していないとは、自分の更新の亀さに情けない限りです。


何とか失踪せず最後まで頑張っていきたいと思いますので、これからもスズメバチの作品をよろしくお願いします。



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